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もののけタクシー  作者: 浅野案子
4/5

深夜の少年

 「どちらまで?お兄ちゃんのとこまで」


小学3年か4年生くらいだろうか。背は一般的な140cmくらい。おかっぱ頭、青いセーター、薄緑の短パン、白ソックス。靴は。。マジックテープを外側から開くタイプ。

いつもより詳しい理由は、幼い子供が乗る場合身体的特徴を記憶して置かなければならないから自然と見てしまうんです。

お兄ちゃんのとことは。とにかく指差す方向へ走らせる。その間ずっと起きているのだが、時々コンビニで休憩して飲み物やお菓子を買い与える。指を指したまま起きているため疲れるだろうと。憑かれる方かもしれないが幼い子供と思うと。つい。


 「お兄ちゃんもう少し」


コンビニを出ると徐々に人の気配が減るのを実感する。

季節は、初夏。ウシガエルの鳴き声が響き渡る。大合唱である。

少年は、近づくにつれ声が明るくなっていく。


 「お兄ちゃん家あと少し」


もう少しからすでに25kmを過ぎた。田舎に住む人あるあるで、「ちょっと行ったところにイオンがあるから行くか?」と言う。距離を聞くと80km先だったりする。彼ら田舎に住む人にとってのちょっとは数百メートルではなく、数十キロを指すことがある。

あと少しということは数キロはあるだろうとたかをくくる。


 「あ。あそこ!2階が光ってる」


見えない。だが少年には見えているのだろう。しばらく走らせてると2階に灯りが点いているのが見える。たぶんあの家のことだろう。


 「お兄ちゃんにやっと会える」

 「お兄ちゃんはいくつなんですか?」

 「ボクと同い年」


同い年のお兄ちゃんか。双子の兄ってことかな。


 「お兄ちゃんまだ起きてるのかな」

 「うん。お兄ちゃんなにしてるのかな。ボクのこと覚えてるかな」


間近になってトーンダウン。淋しげな雰囲気が出てきた。

きっと、大好きなお兄ちゃんに会えることで現実味が増し緊張しているのだろう。


 「ここでいいです」

 「かしこまりました。ヘッドライトだけ点けてますのでお気をつけて。家に上がられましたら立ち去ります」

 「おじさん。ありがとう。ココア美味しかったです」


ヘッドライトは少年を映していたがスッと消えた。無事入れたのだろう。ヘッドライトを消してなんとなく2階の部屋を見ていると。点滅。点いたり消えたり。安定した点灯。


 「まぁいいか。あまり見ていても悪い。帰ろう」


最寄りのコンビニまでまだ距離はあるが、街灯の下で停車。少し体を伸ばしたい。長い距離で疲れた。

片付けで室内灯を点け後部座席を確認。買い与えたお菓子や飲み物は一切手を付けられずそのままの形で残っている。ココアの温かいペットボトルは冷え蓋を回すとカリカリカリと音がする。




後日、迎車にあの家に向かうことに。


 「こないだ乗ったところまで」


ハッキリとした場所を伝えてくれた。ミラーで見る少年は、前回と違い深く腰を掛け俯いている。なにかあったのだろうか。乗る前から元気がない。


 「おじさん。あのね」


ぼそ。ボソ。と話すので「どうされましたか」と尋ねると。


 「お兄ちゃんボクのこと覚えてなかったの」

 「あら」

 「お兄ちゃんだーって部屋に入ったらお兄ちゃんひっくり返っちゃった」

 「驚いたんですね」

 「電気が消えたり点いたりして怖いの」

 「ほう」

 「お兄ちゃんがリモコンで押してたみたいなんだけど」

 「最近はリモコンがありますね」

 「お兄ちゃんボクのことたまに思い出してくれてたのに。お兄ちゃんボクよりずっと背が高くて体もガッチリしてて。ボクのことを思い出せないみたいな感じで」

 「お兄さん成長されたんですね」

 「そうなの?」

 「人間は成長しますからね」

 「ボクはずっと変わらない。のかな」

 「どうでしょう。それもまた魅力的なんじゃないでしょうか」

 「お兄ちゃんとぬいぐるみの話しをしてもお布団被ってボクのこと見てくれないんだ」

 「差し支えなければ、お兄ちゃんとはいつ離れたのですか?」

 「んとね。お兄ちゃんがランドセル背負わなくなったくらいかな」


中学生だろうか。


 「ずっとボクと同じくらいだったんだよ。学校でイジメられて辛いって言うから『家にはボクがいるからね。何かあったらボクに話して』って言っていつも学校でのできごとを話してくれてたんだ」


中学まで背が伸びず体も幼い子供のようだったことからイジメられていたのかもしれない。


 「学校の宿題はいつも一緒にやってたんだよ。お兄ちゃん教えるのが上手なの。足し算引き算の意味が分かると面白くて。なんで足すのか。とか。お兄ちゃんすごく面白く教えてくれるんだ」

 「大好きなお兄さんなんですね」

 「うん。時々、お外晴れてるのに濡れて帰ってくることがあって。そういうことなのかもと思いながらもお話を聞いて一緒に泣いて一緒に怒って。そのひとつひとつがボクには楽しくて」

 「お優しいですね」

 「それで、お兄ちゃんが黒い制服というのを着るようになる前にボクとサヨナラしたの」

 「どうして」

 「お兄ちゃんお引越ししちゃって」


学区が同じということもあり義務教育は同じ学校に進む事が多い。お兄ちゃんさんは、小学生の頃のイジメ加害者と進学していたのかもしれない。通えなくなり転校してあの家なのかもしれない。走行距離は、101kmだった。県を跨ぐことはなかったが南から北へ走った。


 「お兄ちゃんすっかり大きくなってて。これが成長なんですね。ボクには分からなかったけど、成長したお兄ちゃん。ボクのこともすっかり覚えて無くて。怖かったみたい。ずっと『なんで子供が』って」

 「人は成長すると子供の頃の記憶を失っていくことがあるんですよ。それがたまたまかもしれません」

 「お兄ちゃん入院しちゃったから。ボク戻ることにしたの」

 「そうでしたか。残って戻られてもまた同じことになるなら。ああ。すみません余計なことを失礼しました」

 「ううん。ボクは新しいお兄ちゃんのところへ行くことになったの」

 「へぇどの方かお知り合いですか?」

 「ううん。新しいお兄ちゃんがお友達がほしいって言うから行くことになったの」

 「そうでしたか。新しいお兄ちゃんと仲良くなれると良いですね」

 「うん。次で、36人目なんだ。みんなボクと離れると覚えてないんだ。寂しいけど次のお兄ちゃんと一緒に居られる間楽しみたいと思うんだ」

 「そうでしたか。ベテランなのですね」


途中コンビニでトイレ休憩を挟み前と同様に、お菓子と温かいペットボトルのココアを手渡す。


 「おじさん。覚えててくれたの?ココア大好きなんだ」

 「ええ。私も大好きですよ。ホッとします」

 「ホットだけに!あははは」


少し元気が出たようだ。帰りの車中で少年は話してくれた。


 「お兄ちゃん。入院したってさっき言ったでしょ?」

 「はい」

 「家の人に、頼み込んで入院したみたいなんだ」

 「どうしてそれを?」

 「大きな声で、知らない子供がいる。見えてはいけないものが見えてるんだ。オレは壊れたんだ!って」

 「なんと。お辛いことで」

 「その次の日の朝、病院に行ってそのまま帰ってこなくて。お父さんとお母さんは帰ってきたけど」

 「お辛いですね」

 「うん。入院してお腹切るのかな」

 「うん?」

 「だって入院するんでしょ。お腹とか切るのかな。かわいそうだよお兄ちゃん」

 「あー」

 「手紙置いてきたんだ。戻ってきたら読んでくれるかな」

 「真心こめて書いているなら読んでくださいますよ」

 「だといいな。お腹大丈夫かな」


喋り疲れたのか横になって寝ている。靴は脱いで。礼儀正しいのがわかる。ただ、シートベルト着けれないのは困った。


 「お客様。着きましたよ」


深い眠りに入ってしまったようでなかなか起きれない。その旨を無線で伝えしばらく起きるまで待つ。

2時半ころだろうか。ムクっと起き上がる。


 「起きられましたか。到着しましたがここでよいでしょうか」

 「ええと。ここ明るいのでもう少し暗いとこがいい」

 「では、その先の駐車場で停めますね」


少し走らせ街灯と街灯の間の暗い位置で停車。


 「おじさんありがとう。次のお兄ちゃんと仲良くしてくるね」

 「ええ。またお会いできることを楽しみにしております」

 「その時は、もしかしたらおじいちゃんかもよ」

 「そうかもしれませんね。ははは」


暗闇に少年をひとり置いていくのは未だに慣れず。車幅灯だけ点けてハザードランプ点滅させ数十分。何も無さそうなのを確認してその場を去った。


4作品目は、イマジナリーフレンド。

かくいう私にも先日までいました。長い年月をイマジナリーフレンドとともにしてました。

最近サヨナラして、徐々に記憶がなくなっていきます。イマジナリーフレンドには名前がありませんが、二人っきりで名前は不要ですよね。「ねぇねぇ」とか「これさー」で話は通じます。


今回の少年は、私が見えていた少年の形そのもので、子供の頃から使っている子供部屋に長年住んでくれてました。悲しいことや辛いことは、この子に助けてもらってました。世の中のお兄ちゃんたちは、誰にも相談できず精神論で片付けられない年格好の近い少年に助けを求めているのかもしれません。イジメの相談は、恐らく今でも精神論で片付けようとされるでしょう。被害者がいつの時代も悪いようなので。


不定期連載ですが、また見かけたらお読みいただけると嬉しいです。

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