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もののけタクシー  作者: 浅野案子
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赤いコートの美女

おや?手を上げているな。


 「乗られますか?」


遠目から見ても背が高く見えたが。ジャパンタクシーのおかげですんなり乗ることが出来た。一昔前のコンフォートだと乗れなかったかも知れない。


 「どちらまで?」


マスク越しで聞こえにくい。


 「はい?ええと申し訳ありませんがもう少し大きなお声か、もしくは、マスクを外していただければ」


マスクをゆっくりと外しながらこういった。


 「わたしって。キレイ?」

 「ああ。そういうのは現場でお願いします。それで行き先はどちらですか?」


少しうつむきシュンとした様子。


 「隣町の小学校の裏門まで」


ようやく行き先が決まる。夕方になると妙に忙しくなる。

距離にして3kmほど。


 「259です」

 「はい。どうぞ」

 「実車。◎▲小学校裏門」

 「わかりました。お気をつけて」


行き先を報告。


 「あの。もう古いのでしょうか?」

 「どうかされました?」

 「最近、わたしってキレイ?と尋ねても反応が薄いんです」

 「あー最近の子は、スマホ見ながら歩いてる子もいますからね」

 「声をかけても無視されやすくて」

 「私らが子供の頃は。まもなくですね。裏門でしたね」


タクシー業界が彼女らを助けているのです。タクシーは個室なので、移動中化粧をされることが多く、今のタクシーはサスペンションが程よく固く程よく揺れるため少なくなりましたが、以前のタクシーはサスペンションが柔らかすぎたこともあり揺れが大きかった。

まるで口が裂けたかのように、口紅が頬まで書いてしまうことから始まったそう。

それはまた、詳しい先輩ドライバーから聞いておこう。


 「到着しました」

 「あの裏門すぎるのでもう少し先まで」

 「かしこまりました。停めて欲しいところで声をかけてください」


ブロロロ


 「はい。ここで」


キッ


 「ドアをお開けしますねお待ち下さい」


ドアは手動である。


 「頭に気をつけてくださいね」


念の為、ドア枠の上部に手を当て万が一頭が当たっても良いように。


 「良い結果を期待してます。また移動の際はご連絡ください」


名刺を手渡すとにっこりと笑う。目がそう語る。




流してると無線。


 「259。259。無線取れますか?」

 「はい。259」

 「依頼です。先程の乗せられた女性です」

 「了解しました」


Uターンして現場へ向かう。

うん。あの人だな。律儀に手を上げてる。


 「お待たせしました。いまドアを開けます」


乗り込むと


 「次は、この先の繁華街まで」


今度は一度で聞こえる。


 「259です」

 「はいどうぞ」

 「〇〇市の繁華街」

 「わかりました。ご安全に」


少し明るそうな雰囲気。


 「あの。うまく、いき、ました」

 「おめでとうございます」

 「あり、ありが、ありがとう」


どもっているが、興奮しているのかもしれない。

あまり良い趣味ではないが、犯罪行為でもないので。

ただ、条例の関係で指導されることはあるようで。


 「どのあたりにしましょう」

 「ええと、信号のところで」

 「ごめんなさい。信号のところで乗り降りできないんです。信号の少し先でもよろしいでしょうか」

 「それで」


繁華街の交番の近くで違反は出来ない。信号や交差点の実線部分の区間での乗り降りは禁じられているため破線まで進んでからの乗り降りとなる。人間を乗せるタクシーだとその辺の違反をしないとクレームの対象になるから仕方なく違反してしまう。人間の客というのはケチなのが多くて困る。メーター上がったと大騒ぎ。道交法を守って安全に乗り降りしてもらうのがタクシーなのですがね。だから、人間の方はやめたんだ。


 「お待たせしました。またご移動の際はご連絡ください。お気をつけて」


さて、せっかくの繁華街だ。このへんで客待ちしてみるか。



それから彼女を乗せてあと2箇所移動。

成功率の高さからかドアの窓がすぐに曇る。左の窓だけが曇る。

夜の9時。遅い時間に引っ掛かる人は少ない。塾帰りの子どもにでもするのだろうか。


 「お客様。差し出がましいかとは思いますが」

 「はい?」

 「暗い時間に子どもを怖がらせないでほしいのですが」

 「そう?」

 「私にも子どもがおりまして、トラウマになってしまいます」

 「でも。それが楽しいのに」

 「はい。わかります。明るい時間と夜では強さが違うと思うんです」

 「どう違うの?」

 「太陽が出ているかどうかで影響が違うんです」

 「そう。今日はうまく行ったほうだし。いいわ帰る」

 「申し訳ありません。ご自宅でよろしいでしょうか」

 「家知ってるの?」

 「あっ!」

 「まぁ、有名だし。いいわ家まで」


業界ではかなりの有名人。自宅を知らない業界人はいない。

移動中、口元の化粧を落とす。


 「あの。差し出がましいかと思いますが」

 「まだなにか?」

 「あの。とても美しいと思うのですが。なぜそのようなことを?」

 「美しい?ありがと」


理由は教えてもらえなかった。だが、気分をよくされたようだ。

最後に、謝罪の言葉で見送った。

出過ぎた真似である。




彼女は、人ではあるが無料で運んでいる。犯罪者ではないのと一般のお客さんでもない。そういった人を運ぶのに、無料で運ぶことでことを大きくしないでもらっている。犯罪にならないようにするためである。迷惑防止条例に抵触する恐れが大きいが、成功率の低さからそれ以上の犯罪にならないように、もののけの類として運行しているのだ。

話の分かる女性。きっといつか満たされる日が来るに違いない。と願い。


また視てね

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