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もののけタクシー  作者: 浅野案子
1/5

白いワンピースの彼女

どちらまで?はい。かしこまりました。シートベルト着用お願いします。


カチャ


今夜はラッキーだ。すぐに依頼が入った。

ネット予約のお客様。余裕を持って移動されたいのだろう。


 「お客様。お疲れでしたら眠ってもらって結構ですよ」


そう伝えるとシートに深く座りもたれ眠る。

清楚な女性という言葉が似合う白いワンピース。今の時代でもいるのだな。そう思いながら目的地へと走らせる。


シュルル


後部座席からなにか巻き取る音がする。

バックミラーを見ると先程まで眠られていたお客様が見えなくなった。

おや?どうしたのだろう。


 「お客様。具合悪くなりましたか?」


路肩に車を停め後部座席を見るとそこには。


 「シートが冷たく濡れている」


 「お客様。失礼ですが触りますよ。セクハラで訴えないでくださいね。すみません。暖房が強すぎましたね。窓をお開けします。すみません。お客様起きてください。お客様。お客様。ダメだ。えっと予約名は。っと。リムルさん!リムルさん!」


よくあるのだ。季節に関係なく白いワンピースの女性が墓場の近くから乗車される。一族なのかな。ほとんどがリムルで予約される。たぶん本名じゃないはず。どう見ても日本人顔の美しい女性。

アニメ化もされてるあのスライムから名前を取ってるのだろう。

このまま放置するわけにもいかない。無線で報告だけしよう。


 「259。259」

 「259どうかしましたか」

 「お客様が溶けてしまわれたので停車中です」

 「259報告ありがとうございます。理解しました。ご安全に」


この手の仕事をしてるとGPSが使えないため無線で報告する決まり。

無線が通じない距離は、スマホから連絡するがよほどのことがない限り無線が使える。

不思議なことに、1000km離れても無線が通じるんだ。

トンネルとか森の中だと通じないんだけどね。


タクシー業界で若いドライバーたちはリムルと呼んでいるとか。


「リムルにやられた!」


そう言うらしい。だが、リムルさんは君たちには見えないだけで悪いスライムじゃないよ。


冷たい空気を入れてしばらくするとリムルさんの体は形が整い固体となる。ただ、まだ眠ってるのだろう。ぷにぷにの状態の固体。この状態では走行できない。なぜならシートベルト着用ができないからだ。一度目を覚ましていただき人の形になってもらってからでなければ。


お疲れなんだな。激務なのだろう。名付けにがんばりすぎてよく溶けるのを漫画で見たけど、こちらのリムルさんもお仕事忙しいのだろう。


 「あの」


か細い声で話しかけられ振り返る。


 「起きられましたか。溶けてらっしゃったので失礼ながら停車しておりました。申し訳ありませんが、人の形に戻ってもらってもよろしいでしょうか。シートベルト着用を願います」


そう言われるとぷにぷにスライム状の固体から人の形に変化。

うん。やっぱり美しい。

いや、まだ眠いのか幼さ残る少女の形だ。

リムルさんを乗せるとその日の疲れ状態がわかって楽しいが、目的地まで時間がかかるから実は効率が悪い。


 「あの。コンビニ寄ってもらっても」

 「かしこまりました」


青と白でミルク缶のローソンを見つける。


 「あの」

 「心得ております。何を買ってまいりましょう」


リムルさまは、幽霊の類のお方なので支払いができず、代わりに購入するという。

リムルさまは、甘いものがお好きなようで、シュークリームとドーナツを購入。

ついでに、自分用の眠気覚ましのレッドブルを購入。


たぶんこう思われるだろう。

なぜ、溶けたまま目的地へ向かわないのか。と。

理由は簡単。実車中、後部座席に誰も乗っていないと同業者のタクシードライバーらから通報されてしまうからだ。

寝転んだままの運行はグレーゾーンなのだ。シートベルト着用義務化されてからは、横たわるのは危険だとして起こさなければならなくなった。急ブレーキで前の座席に身体をぶつけるなど危険だからだ。


まもなく目的地だ。ちらちらと後ろを見ているが座ったまま。申し訳ない気持ちだが許してもらおう。


 「お客様。リムルさま。到着しました。こちらでよろしいでしょうか?」

 「はい」


ガチャ


 「リムルさま。ご乗車お疲れ様でした。まだ外は暗いです。またのご利用お待ちしております」


手を振り見送っていただく。リムル一族の方々はとても気持ちの良いお方ばかり。心からまたのご利用お待ちしております。


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