8 雨の日に現われた君
ぶかぶかのパーカーに、高そうなジーンズにスニーカー。
髪の毛は束ねてあって、ダテメガネをかけた『ローザ君』が突然、家を訪れた。
雨の中走ったらしく、濡れている。
「ごめん、急に。4日、休みが入った」
玄関先で母に挨拶をしている時に、ローザの性別変化が起こって女性化した。
「大丈夫よ、旦那から聞いていたから。うちの子は無性別なの」
「はい。聞いています」
あ。声も違う♡
曲で聞く『ディーヴァ』っぽい。
濡れた服の着替えを、母が用意した。
家には女物しかないけど、ローザは今、女の子。
母はボシュンの件もあって、洋裁が趣味。
いつか僕が「女の子」になったら着せるとか言って、フリーサイズの服がある。
ローザは軽くシャワーを浴びて、母が渡した服を着た。
内心ドキドキしている。
「下着、どうするの?」
「ん?僕、ノーパン派」
「あ、うん。そうなんだ・・・」
「ねぇ」
「うん?」
「僕・・・どちらの状態でも、君が好き」
「え、ありがとう。嬉しい」
「うん・・・あのね?」
「うん、なぁに?」
「なんとなく・・・で、いいんだけど・・・」
「うん?なに?」
「服を・・・脱ぎ合わないか?」
「なんで?」
「なんで、って・・・説明がムズカシイよ」
「・・・ん?」
「あのー・・・うーん・・・すぐに通じてもなぁ・・・」
「なに?」
「したい」
「服の脱ぎ合い?」
「そうなんだ」
しばらくの沈黙ののち、「え?」と顔を上げ、僕はローザの眼を見た。
期待と不安がいっぱいそうな、彼女の目。
「ええーーっ!?そういうことのお誘いっ?」
そこにコンコン、と部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「今、入っても大丈夫ー?」
「母さん?大丈夫だよー」
扉を開けた母さんが、ローザが持ってきたお菓子とジュースを運んで来てくれた。
「どこのお店のロールケーキなの?びっくりするほど美味しい」
「袋にお店のロゴが入ってますよ」
「そうなのねー」
そう言ってお盆に乗ったお菓子とジュースを置いた母が、ローザに言った。
「本気なら押し倒しても仕方ないけど、無理矢理だったら許しませんからね」
「え、あはい!嬉しいですっ」
「・・・え?」
「お母さんだって色々あって、今、アキナがいるんでしょうに」
瞳を輝かせたローザがこちらに勢いよく振り向く。
「なに、そのまぶしい瞳っ!?」