6 アトリムグラス
【豆知識】
アトリムグラス・・・特別中性体。作者の世界観の一部であり、架空の存在。シリーズ化している。
「ベルク君?」
「あ、アキナでもいいですよ」
「ああ、アキナ・アイゼン・ベルク君なんだね、こっちだよ」
通されたのは控え室で、スタッフさんたちに挨拶をした。
モデルの仕事はこれで6回目。
いい緊張をしていると思う、と言うと、微笑してくれるスタッフさんが側にいた。
「君、可愛いね」
「お姉さんも可愛いですね」
「あら。お上手ね」
「お姉さんこそ」
ちらほら周りで小さな笑いが起きる。
母が買い出しから戻って来る間に、化粧が始まっていた。
母はスタッフさん全員分に、プレーンハンバーガーを1個ずつ買って来た。
ハンバーガーも大好きな僕は、仄かに風味香るその空間で仕事終わりを待ちわびた。
本番に入るとそれも忘れて、現場でローザと合流。
今日は『男性』のローザ。
緑色のドレスの僕に対して、学校の制服みたいな姿なローザ。
ネクタイが緑色だ。
周りは拓けた庭で、森林が茂っている。
そこでカメラマンから指示があって、色々な角度を撮った。
ただ満足いかない、と言って一旦の休憩。
ローザが「挨拶もできなくてごめんよ」と申し訳なそうに言う。
「ん?」
「僕は君に惚れている。アトリメデューナはそれ嘘つかない」
「それは聞いたことある」
「どう思う?」
「嬉しい」
「どういう意味?」
「僕も、君のことが好き」
「本当に?」
「うん。惹かれてる。恋をしてるって母に言った」
「君と結婚を前提にお付き合いしたい」
「それは・・・ダメ」
「どうして?」
「秘密」
「まだ、ってこと?」
「・・・ん?どういう意味?」
「まだ気持ちが固まってないってこと?」
「うん。そうなんだ・・・」
憧れで終わったほうがいいんだ、きっと。
そう思った僕の苦笑を見て、ローザが唇にキスをした。
「勝手にするなっ・・・!」
「こんなに好きなのに?アトリメデューナは運命の相手間違えない」
「・・・うーん・・・じゃあ、あっちの木陰に行こう?]
「まさか・・・するのっ?」
「何をっ?」
「違うの?」
「木陰で休みたいだけだよ。話すから。秘密を」
「分かった、分かった」
木陰に入って、幹にもたれると衣装が気になった。
汚したら大変。
なのにローザはその場で座った。
僕の腕をくんくんと軽くひっぱって、隣に座ってとうながす。
「大丈夫だから」
横に座ると、ローザは僕のふとももに頭を置いて寝ころんだ。
「・・・なんて破廉恥な・・・」
「もう、付き合いはじめでいいよね?」
「なんか怖いな」
「何が?」
「勝手にしないでよ?」
「分かんない・・・なんで?女に困ったことがない」
僕は少し苦笑する。
「僕は、厳密に言うと女性じゃない。アトリムグラスなんだよ」
「なんだって・・・!?」
「本当のこと」
数秒の沈黙があって、
ローザは片手で僕の風に舞った髪の毛の一部をつかんだ。
「君を愛す」
何度かしばたいて、微笑してしまった。
そして、いつの間にかシャッター音がした。
そこにいたのはカメラマンで、「オーケー、写真撮影、終了!」と声を通す。
僕はアトリムグラス。
性別変化を一度だけ選べる、中性体だ。