【Chapter4】それぞれの正義
"壁ドン”で過去に戻り、歴史を変えられると知ったタカミチ。ヒナを救うべく早速過去に戻り、「四万十卍会」の抗争を止めるべく、仲違いしてしまった「パーちん」と「オデンスキー」の説得に当たる。しかしタカミチが思っていた以上にこの問題は根が深かった。
ゆうたからの内容を理解した後、壁ドンでタイムリープを敢行したタカミチ。
予定通り10年前に戻ってきたのである。
しかし彼には悠長にしている時間はあまりない。
状況を把握したタカミチは、この自然豊かな故郷の全てを守るべく、早速指定してくれた鮎宮寺堅、通称アユケンの事務所へ向かった。
た:意気揚々と体張ってくるなんて言ったけど、大丈夫かな…
ああ言ったけど相手は「組織」なんだよな…
アジトは奥行きの見えない建物だし…この先強面の大人が大勢いるんだろ。
抗争はじめるくらいなんだから。
・・・・・・・・
アジトの手前、部下らしき人間がタカミチに詰め寄る。
部下:誰だお前は
た:あの…で…鮎宮寺さんにお話があるのでお伺いさせて…いただきました。
部下:あぁん!アユケンさんと話できるんは限られた方だけだ。
お前みたいなガキを相手にしてくれると思ってんのか?
た;は、はい。
でも、どうしても話がしたいのです。
部下:最近変な組織も嗅ぎまわってるって聞いてるからな…もしその手の輩だったらただじゃ済まねぇぞ!
た:は…はい…断じて!その…スパイとか殺し屋とか…超能力者とかじゃないです!
部下:信用できるか!まぁ合言葉が分かってんなら通してやる。そんなに会いたいんなら分かってるよな。
た:は…はい…え…と…
ゆうたからのアドバイスを思い出すタカミチ。
ゆ:鮎宮寺さんはその年の品評会で優勝した鮎の“長さ”を合言葉にしているという事。あと必ずその答えをギャル語で回答しないといけないということ。
た:ゆうたがああいってたんだから間違いない!
えー…えーと。
『20cmで、よろ!』
洞窟のような場所だったので、エコーがかかった。
部下:・・・よし。良いだろう。通れ。
た:は、はぁ…(本当にこんな合言葉で良いのか?!)
あの、失礼します。
合言葉に間違いがなかったのが理由なのか、タカミチはすんなり奥まで通してもらえたのだった。しかし彼の勝負はここからはじまる。
鮎宮寺堅(以下“鮎”):おう。身内だな…入れ!
なんだ、まだ年端も行かないガキじゃねぇか…なんの用だ。
まぁあの組織の匂いはしねぇようだな。
た:どっ…どうも。お初におめにかかります。
たかみちと言います。
正真正銘地元町民です。…これ、住民票。
(頭に鮎のタトゥー…。ほ…本物だ。この人がアユケンさん…)
鮎:たかみちだぁ?じゃあタカミッチだな。…んで、何だ。
た:その…パーチンさんの事なんですが。
鮎:なんでお前がパーチンの名前知ってんだ?
ナニモンだよ。まあ今あいつは取り込み中なんだよ。気ぃ立ってるから話さねぇ方が良い。
た:どこかにいらっしゃるんですか?
鮎:盟友だったオデンのやつがチーム抜けてよ。
わけのわからんやつと手を組むなんて言い出しやがって…で、落とし前付けに仲間集めて行ってるんだよ。
た:(しまった!少し遅かったか)そのオデンさんとパーチンさんの仲が悪くなったらマズイんすよ。四万十町全てがダメになってしまうくらい…その、まずくなるんです。
鮎:うちのチーム内の争いでなんでこの町ごとダメになるっていうのが分かるんだよ。
そうなる証拠はあんのか?
た:証拠…は…ないんスけど…その、ケンカはダメっすよ。
周辺の地域…ホラ、中土佐町や黒潮町などうちらの回りも見てます。近隣からの地域の印象が悪くなりますよ。
鮎:…分かってないな。
男同士のけじめはそいつらで取らすのが筋ってもんだろ。
横槍入れようたって対立が始まってしまえばもう止められねぇんだよ。
た:で、でも、それが原因で周りの人を巻き込んだら…その大きな抗争に発展したら、お互い許しあえなくなって取り返しがつかないくらい関係が悪くなりますよ。周りも巻き込んだ抗争…いや、戦争に発展しないようになんとか…
鮎:うるせえよ。なんで未来が戦争になるなんて決めつけやがるんだ。
そっちの空論の上で俺たちの喧嘩口出しするんじゃねぇよ。
それにお前は何の根拠でしゃべってんだ。
根拠もないのに駄目だとか言われてすんなり受け止められるか?なぁ?
た:それは…
鮎:勝手なネガティブイメージ持たれたら何もできんだろう!
これはうちらの面子の問題だ。
団体のメンツってのをを理解できんガキは話にならんわ。
帰れ!おい、こいつをつまみ出せ!
「つまみ出せ」この言葉にタカミチは焦る。
たかみちは慌てて土下座した。
もう感情で訴えるしか無い…いきなりの交渉で早くも追い詰められてしまった。
た:(土下座して)お願いします。アユケンさんに仲介を!
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しかし無理やりつまみ出されてしまったたたかみち。
勿論諦めきれない彼は、今度は単独でパーチンの下へ急いだ。
トップの頭が固いなら争いのトリガーである彼に直接直談判するしかない…と。
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た:ここが一番隊隊長・林田さん…パーチンさんのアジトか。
山の中の要塞って聞いてたけど、コレゆうたが教えてくれなかったら誰も見つけられるような場所じゃないぞ。
クーデターとか恐れてのこんな場所アジトにしてんのか??
いや、まぁそんなことよりも、アユケンさんとの話がダメになった今、もうヘマは出来ん。
取り返しがつかなくなる前に止めないと。
…腹くくるぞ!
た:ごめんください。林田さんのお宅ですよね。
パ:合言葉だ!
た:あ、そうでしたね。
パ:お礼?
た:「あざざます」
パ:よし、入れ。
た:(まったく…この町の合言葉はどうなってるんだ…)
前回の反省を踏まえ、言葉を選びながらもオデンスキーとの仲直りを持ちかけるタカミチ。
しかし…
・・・・・・・・・・・
パーちん(以下“パ”): ほう…それで、四万十町の未来の為に俺があのオデンに頭を下げろと…歩み寄りをこっちが見せろと…。
でもそれがなんで四万十町の、町の衰退につながるんだ。
あいつは俺の面子をつぶしたんだ。
四万十町から海への航路をつぶすような裏切りをしでかしたんだ。
四万十卍会を抜けると言い出したのはあいつだ。
…なのに、俺に譲歩せよ…つまり謝れと…
た:い…いえ、そんなきついことは…
パ:でも現に俺の面子を潰してでもやめろというのを遠回しに言ってないか?
お前がオデンスキーに近づいたわけのわからん団体の一味じゃないってのは信じてやる。
ただ、お前の言う未来の通りになると何を持って断言できる。
根拠もない未来の姿を語ったうえで、俺の方から折れろなんてお前は何様だ。
た:い…いや、ただケンカはよくないって…地域の人もそう
パ:これは一番隊隊長としてのケジメだ。
四卍会のメンバーでもないやつがしゃしゃり出てきていい案件じゃねぇ。
そもそも、もし争いをやめたとして、また向こうがわけのわからんメンバーと組んでケンカつっかけてきたらどうするんだ。
黙って耐えろってんのか?
ふざけんな!
歯向かうやつがいるから叩き潰すだけだ。
それの何が悪い!
なめられんだろ!
た:でもそれが拡大していくと、そ…そのとんでもない規模の争いになるかもしれないから…
パ:まあそうなる前に一気に攻め滅ぼしてやるよ。
オデンとこの戦力はうちの10分の1にも満たねぇんだ。
一週間くらいですぐに制圧してやる予定だ。
…っていうかすぐ勝てるような輩になんで俺がのほうが歩み寄らねぇといけないんだ。
裏切者はどうなるか分からせてやらねぇとますます付けあがるだろうが!
た:怒りが収まらないのは分かります。でもそこで突っ走ってしまうのは…
パ:うるせぇ!四卍会の主要メンバーでもないやつが根拠もねぇ理屈をタテに仕切るんじゃねぇ。
黙って聞いてたらよ。
未来がどうとか憶測ばっかりでモノ言いやがって。
そうだろう。
初戦は憶測の話だ。
お前の話は根拠がない。
それくらい話しててわかるだろうが。
た:確かに根拠は無いですけど、お願いします。
未来の四万十町はあなたにかかっているんです。
タカミチは再度土下座をする。
もう腹をくくった男たちに入り込むスキが見当たらないのだ。
ぱ:まだ食い下がるかおめぇ。
ここまで分かりやすく言ってやってんのによぉ。
ま、そんなに俺にお願い聞いてほしいって言うのなら…そうだな、ここで俺の足でも舐めるっていうのなら考えてやってもいいぞ。
た:足…を…そんな…
パ:嫌だってんならそこまでだ、もう話は終わってんだから部下に頼んで無理やりお前を追い出すまでだ。どうするよ。
た:でも…それとこれとは関係が
パ:んなこと聞いてねえよ。やんの、やんねえの?
パーちんは足を投げ出す。
タカミチの覚悟をとうているように感じた。
た:(くっ……でも、これで争いが防げるのなら…ヒナの命が助かるのなら…しかたねえ…)
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足元に口を近づけるたかみち----
しかし、なめようとする寸前でパーちんに蹴り飛ばされるのだった
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パ:失せろ!クソガキが。
た:痛ってえ!言った通りしようとしてるのに、なんで蹴り上げるんですか。
パ:お前のそれはお願いでもなんでもねぇよ。
もっと薄汚い犬のような依存と、豚の様な欲望でしかない。
ただただ感情で訴えるだけの見にくい野郎だ。
出ていけ。
た:そ、そんな…
パ:なりふり構わないのはいいが、考えが足りないんだよ。
お願いしたらホントに聞いてくれると思ってんのか?
土下座で頼んだら何とかなるとか…つまらん奴だ。もう二度と面みせんじゃねぇよ。
た:待ってくれよ。それでも抗争をなんとかしないと!
あなたたち二人が揉めたら周りにどんだけ迷惑がかけるか分かってないだろ!
あなたたちを、二人を慕ってついてきた皆だってもめちゃうんだよ!
二人だけの問題じゃないんスよ!
パ:頭わりぃ野郎だ!
失せろって言っただろ!
二度も言わすな!
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またも無理やりつまみ出されたたかみち。社会人を経験していない彼にとって、もう感情で訴えるしか方法はなかった。
彼は交渉の本質というものが分からない。トップが頭が固いのなら直接直談判すればなんとか折れてくれるのではないかという淡い期待でしか立ち会えなかった。
それでもヒナを救いたいという想いから、四万十町から西に位置する「西土佐」。
もう一人のキーパーソン「オデンスキー」の下へ走る。彼にはもうこのチャンスにかけるしかなかった。
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た:(パーチンとこは山ン中の隠れアジトみたいだったけど、こっちは抗争に備えてスゴイ準備してるな…
本当に全面戦争になってしまったら、こんな武器使うんだろうか…
そしたらもう覆しようも……
…いや!
やっぱり駄目だよな。
止めないと…。
過去でも現代でも、俺が変わらないと、何も変えれない。逃げねえ!
た:あの…すいません。アユケンさんがらみのもんです。
安全な場所に避難していると思っていたオデンスキーさんは、アジトの最前線で迎えてくれたのである。
仲間とおでんをつつきながら何やら会議中だった。
オデンスキー(以下“オ”):中立のモンか…入れ。
た:(今度は組織が小さいからそう警戒はされなかったけど…どうする?
根拠は無い…にしても感情で訴えてもジリ貧になっていくだけだ…どう切り出せばこの人の牙城を崩せる?…)
その…忙しいと思いますので、結論だけ言います。
パーチンすっごい怒ってます。
今だけは、NATTOとかいうメンバーに入るのはやめてもらう事ってできないですか?
オ:まぁお前以外にも、地域のメンバーからそういう事言われたよ。
最悪色んな人を巻き込んだ争いになるかもってな。
た:俺もそう思います。でもなんで迎え撃つような準備をしてるんスか?
オ:抗争はあらゆる人々から安全の保障を奪うのだ。
パーチンが力づくで奪おうとするならみんなで防ぐのみ。来ると分かったならもう止められないんだよ。
た:だからって抗争以外に必要な道は必ず…
オ:ある…といえるかな?
今現実的に必要なのは逃げるための乗り物ではなく武器だ。
俺たちは自由の為に戦う。
もう地域のみんなとも想いは共有した。
た:だからってもし抗争がはじまったら取り返しがつかない事になるかもしれないんですよ。
オ:それはパーチン側の方だろう。
俺たちは攻めてくる相手を迎え撃ってるだけだ。
世間からの眼は確実にパーチン側を非難する。世論を味方に囲うための時間持ちこたえることができれば俺たちの勝利も見えてくる。
た:じゃあ、抗争するなら長引くってハナッから考えて…
オ:もちろん。そのための準備をしているからな。
パーチンの譲渡なしには、俺たちは引けない。
引くわけにはいかない。
た:抗争はもう止められないと…
オ:……そうだな。俺も回りを巻き込むかもしれない可能性を考えて、避けたいってのはないでもない…。
が、この通り回りが協力してくれないんだ。
遠回しな支援だけで。
おそらく争いが争いを生み、拡大することに対する懸念だろう。
そこは分かるし、非難したりはせんよ。
だから「俺たちの自由の為に俺たちで迎え撃つ」しかないとね。
タカミチは次第に言葉を失ってく。
た:もう…どうする事も出来ないと。
オ:残念だがな。
こちらはもうとうに腹くくってるんだ。
わかったならお引き取り願いたい。
できることなら手ぶらで来るのではなく武器を提供願いたいよ。
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タカミチは完全に言葉を失った。
これは個人の問題ではない。
戦争は一度転がり始めると歯止めが効かなくなる魔物のようなものであると。
しかし、このままではヒナは死んでしまう。
ヒナを助けたい。
その希望を探すのがこんなにも難しい事を痛感した。
その後、タカミチは同時期に周辺の地域にも相談を持ちかけてみた。
しかし、近隣の地域「中土佐町」や「黒潮町」では海が荒れていて漁業の問題が噴出していてそれどころではないという返答であった。
八方塞がりなこの現状を一体どうすれば良いのか?
交渉を重ねるたびに彼には希望が見いだせなくなっていた。
近未来の日本と世界情勢に関して少しでも沢山の方に感心を持ってもらいたいと思い制作しました。はじめは舞台脚本として2022年に執筆。ウクライナ侵攻が始まった年です。その時の情勢を若い世代にわかりやすく伝えるために、当時大人気だった「東京リベンジャーズ」のオマージュを入れつつ、決して重たくないコミカルな作品に仕上げています。
衝撃のラストまで全7部構成です。楽しみながら世界情勢に関して感心を持ってもらえたら幸いです。
引続き、この作品のいきさつを見てみたい方は、是非ブログへ遊びに来て下さい。
http://shu-darvish.com/2024/06/14/revengers/