魔が差して我が子の値段を聞いてしまった。
父親はこの人買いが女衒であると知っていた。
ちょっと見た目が可愛い子だから高く売れるかも知れないと思って「この子をいくらで買ってくれる?」と売る気もないのに、魔が差して聞いてしまった。
女衒はもったいぶって私の子を頭の先から足の先まで何度も視線を這わせて「銀貨一枚だな」と言った。
それが高い値段が付いたのか、安い値段なのかは解らなかった。
「銀貨一枚なら売れないわ」
そう言って断ったけれど、その日からこの子は銀貨一枚という目でしか我が子を見れなくなってしまった。
とても大切な子だったのに・・・。
翌年、去年とは違う女衒が来てまた同じように「この子はいくらで買ってくれる?」と聞いた。
答えは去年の女衒と同じで銀貨一枚だった。
父親は気がついた時には銀貨一枚を握りしめてしまっていた。
家に帰ると母親は娘がいなくてどうしたのか聞いたら銀貨一枚を見せられて、母親は狂ったように我が子の名を呼び続けた。
必死に街道を銀貨一枚を握りしめて追い掛けて、女衒に追いついた。
「父親が勝手に売っただけで我が子を売る気なんかなかったんだ。銀貨一枚を帰すから我が子を返して!!」
膝をついて頼んだら「じゃぁ、銀貨二枚で返してやる」と言われた。
「これでも格安で売ると言っているんだぜ?この子なら金貨二枚以上で売れるだろう。それを銀貨二枚で返してやるってう言ってるんだから安い買い物だろう?」
母親は銀貨一枚しか持っていなくて、我が子を買い戻すことはできなかった。
母親は家に帰ると夫に「あの子は金貨二枚以上で売れるんだって。高くて買い戻せなかったよ」と伝えると、夫は買い叩かれたと地団駄を踏んでいた。
母親は銀貨一枚を懐にしまい、泣きながら料理の続きをするような風を装って包丁を握りしめて夫を背中から刺した。
何度も何度も夫が死んでいると解っても、娘の名を呼びながら体力の続く限り刺し続けた。