兄を売られた弟は
孤児院の院長をしている私は銀貨6枚のお金を握りしめてこれでなんとか残された子供たちが食事にありつけるとホッとしていた。
国が孤児の面倒を見るなんて建前を打ち出しているが、孤児院に支払ってくれるお金など雀の涙にも足りないほどなのに各地から孤児が送られてくる。
あまりの貧しさにシスターたちも逃げ出す始末で、孤児達にとっても劣悪な環境だとしか言えなかった。
食べる物にも事欠き、孤児も私もすっかりやせ細ってしまっていた。
そんな時、人買いが孤児院を訪ねてきて見目のいい子供たちを銀貨一枚で買い取ってくれると言い、本当に子供たちを買い取ってくれた。
それに一度知ってしまうと私は人買いを進んで招き入れるようになり、たくさんの子供を売ってそのお金の一部を子供たちの食事にして、大半のお金を着服するようになった。
私だけが肥え太り、孤児たちは前よりかまし程度にはなった。
売られていった子供たちのことは気にかけないようにしていたら、それが当たり前になっていった。
そんな生活が何年も続いたある年、人買いがまたやってきて大きな子供を買ってくれた。
いつもは小さい子供しか買わないのにどうして大きな子を買うのか気にかかったが、買ってくれるのなら問題はなく十二人の子供が買われていった。私は金貨一枚と銀貨二枚を手に入れた。
ホクホクした気分で院長室で貯まったお金を数えていると兄を売られた弟だと思われる孤児が「兄ちゃんを返せ!!」と棒を振り回して殴りかかってきた。
私は棒を取り上げて、言うことを聞かない子を入れる懺悔室へ叩き入れ、そのままその子供のことを忘れてしまった。
思い出したのは十日は経っていて、その孤児は異臭を放つ死骸となっていた。
石造りの部屋だったので病気が蔓延するのも怖かったので、油を撒いて火にかけた。
冷めた頃孤児たちに掃除するように命令してすっかりそのことを忘れてしまった。
翌年も、その翌年も子供を売って私腹を肥やし、孤児院から成長して旅立っていく子は一人も居なくなった。
国はそれでも孤児院のことは気にも掛けなかったのでその翌年も、またその翌年も子供を売った。
ある日、一人の男が孤児の子供を引き取りに来たと言て院長室を訪ねてきたが、そんな子供など居るはずもなくその男を追い出した。
その男は孤児院で子供を知らないか訪ねて回っていたが、どうでもいいことなので放っておいた。
その日の夜中、昼に訪ねてきた男にナイフを突きつけられ「弟を懺悔室に入れただろう?」と脅されて懺悔室に入れられた。
私には思い当たることなどなかった。
懺悔室で何か液体をかけられ匂いで油だと解った。
マッチが擦られる音がして私は慌てて「話せばわかる。やめろ!!」と泣き叫んだ。
それでも男は懺悔室に火のついたマッチが投げ入れられた。
消そうと近寄ると私の体に火がついた。
私は出してくれと叫んだが、男は「俺の弟も出してくれと三日泣き続けた。そしてこうやって火をつけたんだろう?」と言われたが何のことか解らないままだった。
私は呼吸ができなくなってそのまま死んだのだろう。
院長室を訪ねた男は棒を振り回して懺悔室に入れられて死んでしまった子どもの兄だった。
兄は院長に銀貨一枚で売られ、戦場に売られた。
五年生き残れたら自由だという言葉を信じて必死で戦って戦って生き延びた。
五年経つ前に戦争が終わって自由を与えられたが、与えられたのは本当に自由だけでその日から食べるものに事欠くようになってしまった。
山で獣を倒して食べて売って、それを毎日毎日繰り返してお金を貯め、弟に会うために必死で生きてきた。
それなのに弟は俺が売られて一週間も経たずに院長に殺されていた。
遺体を埋葬するでもなく火をつけて燃やしてなかったことにした。
孤児達が骨を埋めたと言うところを掘り返したら弟の遺骨が出てきた。
俺は骨を抱きしめて「ごめんな。ごめんな」と涙が枯れるまで泣き続けた。
弟の敵を討った後、孤児院長が居なくなると子供たちが生きていけないことに気がついて、男は院長に成り代わることにした。
その翌年人買いがやってきたので男は子供を売った。
その売り先がちゃんとした仕事を与えてくれる人買いだと確認を取って、その仕事につきたいと思った子供だけを売った。
今は前院長の金があるから孤児院は困らないが、いずれまた運営していけなくなることは目に見えていた。
ちゃんとしたところに売られた子供たちは働く先で孤児院の現状を訴え孤児を助けてくれと願い出た。
その声が大きくなったのは弟を殺された男が寿命で死んで何十年も経ってからだった。
 




