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病気の兄のために自分を売った少女

この話の娼館はテレビの時代劇のイメージで、日本式の吉原遊郭になっています。

 二〜三軒の見世(みせ(店))が集まっていて、国のあちらこちらに見世が散らばっている感じです。

この世界はドレスを着る世界ですが、見世のみ和風な感じでイメージしていただければと思います。


十歳以下で買われた子は

禿(買われてからお披露目まで) → 新造出し(お披露目) → 振袖新造(十五〜六歳・お客は取らない) → 突き出し(十七歳〜・客を取る) → 花魁(ごく少数の人しかなれない)


十歳以上で買われた子は (この話の少女)

留袖新造(十〜十六歳・お客を取ることがある) → 突き出し(十七歳〜・客を取る) ・・・→ 花魁(留袖新造からはほとんどなれない)


振袖新造は客を取りません。

留袖新造は付いたお姉さん次第で客を取らなければならない時があります。

(お客に望まれたり、生活費が無くて身売りするしか無くなるため)


現実の吉原の設定とは違います。

小さな頃から買われた子(教育が足りている)と大きくなって買われた子(教育が足りていない)の違いを出したかったので・・・。

似て非なるものなのでご容赦を。


前書きが長くてすいません。



 兄ちゃんが病気なった。

 薬を飲むと治る病気。

 でも薬を飲まなければ百%死んでしまう。

 けれどその薬は銀貨一枚必要だった。

 貧しい農家の家では買えない値段だった。


 銀貨一枚が欲しい。

 薬が欲しい。

 苦しむ兄ちゃんの横で元気づけることしか出来ない自分が情けなかった。


 兄ちゃんはいろんなことを我慢して私を優先してくれる優しい人。

 一つのお芋を半分にして大きい方を私にくれたし、私をいじめる隣の子からいつも守ってくれる。

 兄ちゃんは私の凄く凄く格好いい王子様だった。


 その兄ちゃんが苦しんでいるのに私にできることがない。

 そのことが辛くて苦しい。 

 そんな時、女衒が子供を買いに町にやってきた。

「私はいくらになる?」

「自分で自分を売るのか?」

「兄ちゃんの薬が欲しいんだ」

「あぁ、・・・今流行っている病気になったのか?」


 私は頷いて「兄ちゃんを助けたいんだ」と女衒に伝える。

「自分を売る気があるんだな?」

 私はまた頷く。

「薬屋はどこだ?」

「こっち・・・」


 女衒は薬を買ってくれて、私の目の前で兄ちゃんに飲ませてくれた。

 薬の効果は凄くて、すぐに兄ちゃんの呼吸が穏やかになって、ただ眠っているだけに見えるようになった。

「これで本当に治るのかな?」

「多分な」


「ありがとう」

「礼なんぞいい。お前はこれから辛い日々を送ることになるんだ。きっと後悔する日が来るぞ」

 私は首を横に振った。

「兄ちゃんさえ元気ならそれでいいんだ」 


「行くぞ」

「はい。・・・兄ちゃん、元気になってね」

 兄ちゃんの額に一つキスを落として、私は女衒の後に付いて家を出た。

 隣のおばさんがこちらを見ていたので、父さん達に女衒に自分で身売りしたとを伝えて欲しいと頼んだ。

 おばさんは「馬鹿なことを」と言っていたけど、伝えてくれるだろう。


 女衒の馬車には沢山の女の子が乗っていた。

 乗り込むと足枷がつけられ、その時初めてずっしりとした重みを感じたような気がした。




 十一歳で自分を女衒に売り飛ばした子として「その覚悟良し!!」と()手婆(てばば)に気に入られて厳しい教育を受けた。

 平民ではありえない読み書き計算を教えられ、歴史を学ばされ美しい所作に男に気に入られる仕草まで教え込まれた。

 本来はもっと小さな子供の頃から仕込むものらしい。


「出遅れているのだから他の子よりもっと頑張らなければならんぞ!!」

 厳しい教育の合間に遣り手婆は一夜買われる女の心の持ちようも教えてくれた。

「一夜の旦那様がどんな醜男だろうが、どんなに年寄りだろうが愛さなければならん。心を尽くし、技量で満足させねばならん!」


 女衒が言っていた通り、辛い日々だった。

 文字や計算なんか今まで覚えようと考えたこともなかった。

 禿の小さな子達ができることが私には出来なくて、何度も枕を濡らした。


 辛い時は兄ちゃんの呼吸が楽になっていく姿を思い出してやはり自分を売ったことは間違いではないと自分に言い聞かせて頑張った。




 私は自分を売った年齢が遅かったので禿になれず、当然振袖新造にもなれずに、見世(みせ店)に来た日から留袖新造という扱いになった。

 付いたお姉さんが渋い人で、あまり世話をしてくれる人ではなかったため|突き出し前の、十三歳で初めての旦那様を迎えることになった。

 遣り手婆に「花魁の道はちょっと遠のいたな」と残念がられた。

 

 

 緊張して私を買ってくれた人を待ちます。

 お姉さんが若い頃に着ていた衣装を身につけ、美しく飾り立てられた自分を見た時は少し心が(はや)りましたが、この格好をしている理由に逸った心が(しぼ)みました。




 花を散らされる部屋で身じろぎも出来ずにじっと待っていると、後悔とこれで良かったのだという嘘の思いが交互に訪れます。

「兄ちゃん・・・怖いよ」

 一度「怖い」と口に出すと逃げ出したい衝動との戦いになってしまいました。


 私は今夜を乗り切らなければならない。

 今では私の身請けの値段は金貨百枚を越えている。

 たった銀貨一枚で自分を売ったのに、どうしてそんな値段になるのか理解できなかった。

 今の私にそんな大金を払ってくれる人はいない。


 旦那様に気に入られるように頑張って可愛がってもらって何度も買ってもらえるようにならなければならない。

 そうでないと、食べることもできなくなる。

 もう既に食べることが出来ないから客を取るんだ。

 違う、旦那様だ。


『一夜の旦那様がどんな醜男だろうが、どんなに年寄りだろうが愛さなければならん。心を尽くし、技量で満足させねばならん!』


 その技量さえ今はないのだ。

 だから心から尽くさなければならない。

 今から来る旦那様は私が愛している人。愛している人なんだ。



 ドアが開いて現れた方は四十半ばの、お姉さんの部屋に時々案内したことがある見目のいい旦那様だった。

 私にも時々お菓子や小遣いをくれた人だ・・・。

 この人なら・・・愛せる・・・?

 遣り手婆が私が傷つかないよう、嫌がらないようにと、いい旦那様を選んでくれたと聞いていました。

 


「よろしくお願いします」

「そんなに緊張しなくていいよ」

 私への気遣いが見えてこの人で良かったとほんの少し思えた。


 向かい合って、少しの会話とお酒を飲みましたが、私の緊張は高まるばかりです。

 固くなっているのを笑われて「おいで」と呼ばれて旦那様の隣に腰を下ろそうとしたら片膝の上に座らせられました。


「旦那様・・・」

「怖い?」

「はい」


 旦那様の膝の上で帯が解かれ、私の心臓は止まりそうなほど早鐘を打っています。

 残念なことに私の体は薄く、胸の膨らみもまだ小さくて旦那様を満足させられるのか心配になりました。


 旦那様の手をジッと見ていると顎をつかまれ旦那様の方を見るよう上向かされました。

「目を閉じなさい」

 言われたとおりに目を閉じると唇にそっと触れるものがあり、それが口づけなのだと気が付きました。

 触れるだけで離れていき私は目を開けて指で唇を押さえました。


 旦那様は優しい笑顔で私の衣装をはだけさせ、私を抱き上げてベッドへと連れて行きました。

 怖い。愛してる。怖い。愛してる。怖い怖い怖い・・・。


 体はカタカタと震え始めてしまいました。

 深い口付けを受け、されるがまま受け入れていると舌を吸い出され旦那様の口の中へと誘われました。

 おずおずとそれに答えている間に旦那様の手と唇が私の体の上を彷徨(さまよ)い、私を十分に潤わせて旦那様が私の中に入ってこられました。


 にいちゃん・・・。

 ぽろりと涙が一筋流れました。


 嵐のような時間が過ぎ去り、腕枕をしていただいて背後から抱きしめられ、旦那様の手は私の体の上を彷徨い続けます。

 嵐のような時間もこの穏やかな時間も気持ちよくて、私が私ではなくなったと感じて、旦那様の手が本当に気持ちよくて、うっとりとしました。


 また大きくなられた旦那様に「もう一度しないのですか?」と聞くと「辛くないか?」と聞かれ「愛してくださいませ」と答えた。



 それからは生活に困るようになると、初めての旦那様が私を一夜の妻にしてくださるようになりました。

 買ってくださる日には色々なお土産も持ってきてくださったりして私を喜ばせてくれました。


 旦那様はお姉さんを買わなくなり、私を買ってくださるようになりました。

 お姉さんの下に通わなくなり、お姉さんの当たりがキツくなりました。


 十七歳になり『突き出し』となり初めての旦那様以外の方に一夜の妻となることになりました。

 けれど最初の夜は初めての旦那様が買ってくださいました。

 うっとりするような気持ちいい時間です。

 旦那様には十三歳の頃から男を喜ばす方法を色々教えていただきました。


 二日目、初めての旦那様以外の方に買われることになりました。

 まだ十九歳の初めて夜だそうです。

 緊張しているこの若い旦那様に、私が初めての時にはこんな感じだったのだろうかと懐かしく思いました。


 初めての旦那様以外愛せなかったらどうしようかと心配していましたが、この若い旦那様のことは愛せそうです。

 ほんの少しのお酒で緊張が緩んだようで、私から旦那様の手を取ってベッドへと(いざな)いました。

 口づけをしてもいいか尋ね、私から口づけました。


 初めは触れるだけの口づけを。次は少し深く口づけて、その間に私は帯を溶きます。

 十三歳の頃に比べたら胸の膨らみも大きくなりました。

 薄い体は変わりませんが、男性が好む体に育ったと思っています。


 旦那様の手をとり、胸の膨らみに触れてもらいます。

 旦那様は初めは恐る恐る触れていたのに、口づけが深くなり私の体の色々な場所に口づけ、触れ「見せて欲しい」と頼まれて明かりに照らされ、足を開きました。


 初めての旦那様とは全く違う嵐が訪れ、やはりうっとりするほど気持ちのいい時間でした。

 若い旦那様は私を時間で買われたので、慌ただしく帰っていかれました。

 帰り際に「ありがとう」と言われたのが印象的でした。



 二日目の二人目の旦那様は六十代の旦那様でした。

「最近はあまり立たないんだ」

 そう言って私が感じている姿を見て満足されていましたが、それでは旦那様を満足させたとは言えないと思って、私は今まで教えられた手練手管を使って頑張りました。

 旦那様は雄々しく起立したものを私の中に収めて吐き出し満足して朝、帰っていかれました。


 部屋を片付けて与えられた小さな自室で床につきます。

 二人の旦那様に愛されて、愛しました。

 十代の旦那様も六十代の旦那様にも愛されることも愛することも嫌ではありませんでした。


 たまたまいい人に当たったからそう思うだけかもしれません。

 これから遊女として辛い思いをすることもあるかもしれません。


 でも、兄ちゃんは今も元気で(くわ)を振り上げていると思います。

 もしかしたらお嫁さんをもらっているかもしれません。

 兄ちゃんが幸せなら私もすごく幸せです。


 今日も旦那様を愛したいと思います。

この話の少女が付いたお姉さんがあまり世話(お金を出して生活の面倒を見てくれる)をしてくれない人という設定なので、本来なら十七歳(突き出し)で初めてのお客を取るのですが、それよりも早く、初めてのお客を取ることになってしまいます。


くらいの『私都合』の世界です。

花魁にはちょっとやそっとではなれないのは、この世界でも同じです。


いつか花魁道中のような話も書けたらなとは思っているのですが、形にならないままです。



この物語は異世界であり、瀬崎遊の脳内世界で、地球の日本とは一切関係ありません。www

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― 新着の感想 ―
[一言] 2話の女の子が引っ込み禿みたいだなと思っていましたが、なるほどこういう世界なのですね。この子はどこまでいけるのだろう。
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