人買いになるためにはどうすればいいんだ?
人買いはある村で十歳くらいの男の子に声を掛けられた。
「人買いになるためにはどうすればいいんだ?」と。
そんなもの知らねぇと人買いは思ったがそれを口にはしなかった。
自分は奴隷として人買いに買われて下を切られて魔法で奴隷として縛られていて、ただただ搾取される側だからだ。
人買いはその子供を相手にせずこの村で買い付ける子供を受け取って支払いを済ませてさっさと村から離れていった。
その村の子供は人買いの間で有名になった。
人買いになりたいと村に来る女衒や人買いに、どうやったら人買いになれるのかとしつこく聞いて回っているそうだ。
どこかの人買いが「何故人買いになりたいんだ」と聞いたそうだ。
買われるより買う方がいいからだと答えたそうだ。
その子供も今年、人買いに買われて人買いに絡んでくることはなくなった。
別の村で同じように「人買いになるにはどうしたらいい?」と聞く子供がいたらしい。
「なんだ、お前も売られそうなのか?」と聞いたら「友達が売られたから」と答えたそうだ。
人買いなんてなりたくてなった奴などいないだろう。
脛に傷持つものばかりで、嫌のものばかりを見ることになる。
「人買いに何ぞなるもんじゃねぇ。碌な死に方をしない奴ばかりだ」
その子供は一度聞いただけでそれっきり人買いになりたいとは言わなかったそうだ。
親に叱られたのか、現実を知ったのか。
ある日、両親が盗賊に殺されて三歳の子供だけが生き残ったそうだ。
面倒が見られないと村の総意なのだと言ってその子供を俺に売ると言った。
俺はこの男がこの子の両親を殺したと直ぐに解った。
「そういう子供は教会に預けるものだろうがっ!!」
「この村には教会はないんだ」
「隣町に教会があるだろうが!!」
「そこまで連れて行く奴がいない。買うのか買わないのかどっちなんだ!」
村長らしき男が聞いてくるので、俺は渋々その子供を買った。
「この子の親の名前は何ていうんだ?」
「マックとリーベだ。そんな事を聞いてどうするんだ?」
「この村に復讐させるために聞いたんだよ。この村が銀貨一枚のためにお前の親を殺してお前を売ったってな」
村長らしき男は真っ赤になって怒っていたが、俺はこの子を育ててみようと思った。
俺はこの子を銀貨一枚で自分の子にした。
この子供は自分の立場が解っているのか、泣きもせず長い移動にもじっと耐えていた。
買った子供達は荷馬車で休ませるが、この子供は俺が泊まる宿へ連れて入り、抱いて眠った。
一年が経ち二年が経ち、俺はこの子供に村での出来事を何度も何度も話して聞かせた。
更に歳を重ねてその子供は立派な青年に育った。
その頃には俺の飼い主が死んで俺の奴隷印が消えていた。
ただ他にすることもなかったので人買いを続けていた。
面白いように儲かった。
だが、ちっとも嬉しくなかった。
俺の子供は俺の仕事を手伝いながら色んな村を回り、子供や犯罪者を一緒に買って回っていた。
子供が十五歳になり、俺の子供が売られた村へと連れて行ってやった。
「ここがお前の両親を殺してお前を銀貨一枚で売った村だ。あぁ今、丁度こっちに向かってくる男、あの男がお前を売った男だ」
目の前に現れた村長らしき男は俺にまた同じことを言って子供を買えと言ってきた。
「お前は一体何人殺して何人の子供を売ってきたんだ?」
この男は昔と同じように真っ赤になって怒った。
「買うのか買わないのかどっちなんだっ!!」
俺の子供が「買わねぇよ」と言って村長らしき男を一撃で意識を刈り取った。
「この男を売るよ」と言った。
俺は俺の子供に満足した。
俺の子供は村長らしき男の家へ行き、妻と子供を俺に売ると言った。
俺は快く子供達は一人に付き銀貨一枚で、妻は銅貨五枚で買ってやった。
子供が五人いたので銀貨五枚と銅貨五枚を渡すと、そっくりそのまま俺に世話になったお返しだと言って差し出してきた。
俺はそれを受け取って「これはお前がこの村の村長になった祝だ」と言って受け取った銀貨五枚銅貨五枚を俺の子供に渡した。
俺は買い取った人間には足枷をすると決めているが、村長らしき男と妻と子供には首に枷を掛けた。
そして直ぐに魔法で奴隷印を刻みつけた。
荷馬車に繋いで「お前の夫が村人を殺していたのを知っていただろう?手伝っていたやつはどいつだ?」と聞き、手伝っていた男とその家族全員を俺の子供から買い取った。
銀貨一枚にもならない人間もいたが、合計して銀貨八枚になった。
新たに買った人間にも同じように他に手伝ったやつはいないのか?と聞いて回って、間違いなく俺が買った奴らで終わりだと確信した。
村人がワラワラと出てきて俺が買った人間に石を投げつけるのを、嗤って見ていた。
俺の子供に馬鹿な大人になるなと言い聞かせ、子供と別れた。
村で買い取った女は酷い扱いをすることで有名な女衒に売り渡した。
男の子供は扱いが酷いと言われているところへ売り、まだ若い男は男娼として売った。
売っても銀貨一枚にもならない奴らは死ぬまで鉱山を掘り続けなければならない所へ送った。
一年後、俺は俺の子供がどうしているか見るために村へと向かった。
俺の子供は額に汗を流しながら畑を耕していた。
へっぴり腰なのが可愛い奴だと思った。
俺の子供は俺に気がついて走り寄ってきて「父さん」と俺を呼んだ。
俺はその日、人買いをやめて俺の子供と一緒にこの村で死ぬことを選んだ。
俺もへっぴり腰で鍬を振るっている。
俺の子供に隣の町から嫁が来た。
美人ではないが働き者の愛嬌のある子だ。
一年もすると孫ができて俺は俺の子供と俺の孫を死ぬまで大事にするんだと思った。




