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28.そして明日がやってくる。

 そして、思わぬところから助け舟が出てきた。


「いけません、旦那様」

「瀬戸!?」


瀬戸はリヒトの背後に立っていた。瀬戸はいつもと変わらない表情だが、雰囲気はあからさまに怒っていた。

 何故ここまでリヒトが怒っているのかつむぎには分からなかったが、リヒトには心当たりがあったらしい。非常に焦った様子である。

 瀬戸はリヒトを逃すまいとじっと睨むように見張っていた。


「術師の仕事で忙しいからと金城家の仕事をほったらかしにしているでしょう」

「そ、それは。ほら、本当に忙しかったから」

「ええ承知しております。ですから代理で仕事しておりました」

「さすが瀬戸だな!瀬戸に仕事任せておけば間違いない」

「あとは当主である旦那様のサインさえあれば終わります」

「え」

「簡単なお仕事ですよ?旦那様の部屋いっぱいにたまった決裁に目を通してサインするだけなのですから」

「え」

「安心してください。書類に不備は一切ございませんからすぐ終わります」


瀬戸の圧力が半端ない。瀬戸がこれほど怒るということは本当に溜まりに溜まっているのだろう。


「はははっ!さすが瀬戸だね」

「朱音さん、笑い事じゃないです」

「ちゃんとお休みあげるから、仕事頑張るんだな」

「それ休みじゃないですって」


リヒトは深くて重いため息をついた。つむぎはさすがにリヒトが可哀想に思えてきた。


「あ、あの!リヒト様。私にできることは手伝いますから」


きっとリヒトの味方はこの場にはつむぎしかいないだろう。優しいつむぎにリヒトは胸をきゅんとさせた。

 せっかくつむぎが心配してくれているのだからここは思いっきり甘えよう。リヒトはそう企んで、つむぎの髪に頬ずりした。


「うん」

「ですから……その……」

「うん?」


つむぎは少し背伸びして、リヒトの耳元で囁いた。


「早く終わったら、新婚旅行、行きましょう?」


緊張して少し声が震えてしまった。つむぎは恥ずかしくなって顔を真っ赤にして俯いた。


「ぐっ」

「リヒト様!?」


リヒトは急に倒れ込んだ。耳元で可愛く囁くだけでも可愛いのに、顔を赤くして照れながら言うのだからその威力は倍増だった。

 あまりに強烈なつむぎの可愛さにリヒトの心臓は持ちそうにもない。


「やっぱり俺の花嫁は可愛すぎる」


リヒトが小さく呟いた。しかしその声はつむぎには聞こえなかったようである。


「大丈夫ですか!?」


つむぎは心配そうにリヒトを支えた。そんなつむぎもいじらしくて、さらにリヒトを追い詰めていた。

 そんな新婚二人のやり取りを、朱音と瀬戸が見守っていた。


「瀬戸、君も苦労するね」

「ええ、全く」


リヒトが大変幸せそうで何よりである。なので、新婚旅行は当分先でも良いだろうと瀬戸は思った。だがきっとまた思い出したように新婚旅行に行きたいと言い出すに決まっている。ならば今のうちに出来るだけ仕事を詰め込んでしまおうと思うのであった。


「やはり運命じゃったな」

「おや。月下老じゃないですか。お久しぶりです」


いつの間にか瀬戸と朱音と並んで老人が立っていた。大変満足そうに微笑む老人と朱音は顔馴染みらしい。


「お嬢さんお嬢さん」


リヒトを支えるつむぎは聞き覚えのある声に目を丸くした。


「貴方は……!」


いつだって神出鬼没なご老人だ。つむぎに助言をくれる優しいおじいさんなのだが、つむぎは名前さえ知らない。


「つむぎ、知り合いだったの?」

「は、はい。金城家に嫁ぐ日に案内してくれて、そして今日も式町家に行く前にお会いしたんです。お礼を言いたかったんですけどなかなか会えなくて」


リヒトは目を丸くした。


「つむぎ、この方を知らないの?こちらは月下老人・ユエ。運命を司る神様のような存在のあやかしだよ」

「神、さま?」


つむぎは目を丸くした。空いた口が塞がらない。まさかそこまで凄い存在だとは思いもしなかった。

 恐る恐るおじいそんの方を見ると、おじいさんはとてもいい笑顔をしていた。


「うむ。こやつの言う通り。わしは月下老人のユエと言う。ちなみに今は若いアベックを作るのに夢中じゃ」

「は、はぁ」


明るすぎるユエにつむぎは何と返していいのか分からない。


「まあ気持ちは少し分かるな。でもこの方、ユエ様の言う運命は本物だから信頼していい」


朱音までもそう言った。その後ろで瀬戸も大きく頷いている。

 しかしあの時、道に迷ったつむぎを導いてくれた事に感謝する気持ちは、例え神様だろうと人間だろうと差など無い。

 つむぎはユエと向き合い深々と頭を下げた。


「ユエ様、あの時はありがとうございました」


ユエは嬉しそうに笑みをたたえた。そしてこっそりとつむぎに耳打ちした。


「言ったじゃろう。運命の人じゃと」


つむぎは目をパチクリとさせた。あの時は全く信じていなかった。リヒトとつむぎが結ばれる事なんて、絶対にあり得ないと思っていた。


 なのにユエの言う通りだった。


 あの時は嘘としか思えなかったけど、今なら自信を持って頷ける。

 リヒトこそ、つむぎの運命の人だ。


「はい」


つむぎは満面の笑みで頷いた。

 そんなつむぎ達に、朝の陽の光が差し込み始めた。暗かった夜が明け、空が次第に明るくなっていく。


「朝になってしまったね」


夜の暗さに慣れた目に朝日は少し眩しすぎて、目を窄めた。

 朝日を受けたリヒトの金髪がキラキラと輝いている。つむぎはそんなリヒトに見惚れてしまった。


 今なら信じられる。

 絶対リヒトと一緒にいられると。

 リヒトこそつむぎの運命の男性なのだと。


「ええ。朝ですね」


 式町家で見続けたものと同じ朝日が、今日も昇る。けれど朝日が照らすつむぎの生活は、あの時とは全く違うものだった。


 きっと明日も明後日もずっとずっと朝日は登る。


 そして明日も明後日もずっとずっとつむぎの隣にはリヒトがいてくれるのだ。





〈完〉

最後まで読んでいただきありがとうございました。

皆さまに少しでも楽しんでもらえて、そしてキュンキュンしてもらえていればいいなと思います♬


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