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78話 ラフィーネの弟子

 シュタインが空中に浮かぶと、周囲に大小様々な石礫が出現していく。彼が得意とするのは土魔法。土砂や石、金属などを生み出し操ることができる。マーリンもまた杖を構えて木の槍を生み出した。いつでも攻撃できるように。マーリンが得意なのは植物魔法なのだ。


「マーリン、アスクレピオスは光魔法が得意でしたね」

「そうよ。でも気をつけて。私たちにも把握できてない魔法を使ってくる」


 エールとセレナも魔導砲を向け、スパーダは剣を抜いた。人数ではこちらが圧倒的に有利なのに、アスクレピオスは無言のまま突っ立っているだけだ。なにか攻撃や防御の準備をするというわけでもない。それが不気味だった。


「一斉攻撃でいくわ。でもそれで倒せるとは思わないで。奴の動きに注意を払うのよ」


 シュタインの石礫が弾丸の如く発射される。マーリンの太い木の槍が襲いかかる。セレナとエールのプラズマ弾が正確な狙いで放たれる。しかしそれらすべての攻撃は、命中するより前に砂のように崩壊して消え去った。後に残されたのは無傷のアスクレピオス一人である。


「な……!? 防御魔法……!? でもあんなの見たことない……」


 セレナは驚きながらもその答えを待つより早く、魔導砲から発射する魔法を誘導弾に切り替えて再度攻撃する。爆発する光の球体がアスクレピオスめがけて発射されるが、それらはやはり命中するより前にさらさらと粉のようになって消えてしまう。


「光魔法よ。光魔法は『浄化』のイメージがあるけど、消滅とか、魔法の無効化とかもできるの」

「じゃあさっきの攻撃も消滅しちゃったってことですか……!」

「そういうことね。アスクレピオスが攻撃してくるわ。私が遮蔽物を作るから上手く防御しなさい」


 アスクレピオスが手をかざすと周囲に光の球体がしゃぼん玉のように現れ、矢と化して襲いかかってきた。セイクリッドプファイル。触れたものを消滅させる高位の光魔法だ。それよりコンマ1秒先に、マーリンの魔法が発動した。鋼鉄の床を突き破って木々が生えてくる。こちらはディープフォレストと呼ばれる、森を生み出す地形操作の魔法である。


 セイクリッドプファイルは触れたものを消滅させる防御無視の攻撃魔法であるが、貫通能力は持たない。よって遮蔽物による防御は有効的な方法と言えるだろう。加えて木々が成長し森となることで、エールたちにとっては都合の良い隠れ蓑となる。


 セレナはスパーダと一緒に自分から見て左側へ回り込むように移動した。つまりアスクレピオスから見て右側だ。理由は単純で仮面をつけている側の方が視界が悪そうだと思ったのだ。ともかく木々に紛れながら、ハイペリオンバスターの充填を開始する。出し惜しみしていて倒せるような相手でないのは、セレナも理解しているつもりだ。


 一方、エールはエタニティモードを発動して光の翼を羽ばたかせ、空高くへと飛び上がった。シュタインの隣に移動すると、浄化弾をアスクレピオスに撃ちこむ。命中するより前に、浄化弾の光は消滅してちりぢりになって消える。


「……駄目ですね。周囲に結界のようなものが展開されてるせいで攻撃魔法が通用しない……!」

「ニルヴァーナコラプスという魔法ですね。触れれば消滅する光が彼の周囲を守っています。あれをなんとかしなければ、アスクレピオスには一切のダメージを与えられないでしょう」

「シュタインさん、その魔法を突破する方法はあるんでしょうか? 触れたら消滅しちゃうんじゃ、どんな魔法も通用しません」

「そうですね……一番楽な方法は、魔法を無効化することでしょうか。スパーダ様のアルギュロスを使えば解除はできます」


 あるいは質量の大きい攻撃も通用する可能性がある。質量が大きければ大きいほど、消滅には時間がかかる。残念なことに実体をもたない浄化の光弾を主体としているエールでは、その手の攻撃はできない。


「……ここは私の出番ですね。土魔法は質量攻撃にかけては得意分野です。試してみる価値はあると思いませんか?」


 シュタインが頭上の手を伸ばすと、複数の魔法陣が空中に浮かぶ。土魔法は地味な魔法だと一般的に思われているが、シュタインほどの使い手になれば大質量の隕石すら自在に生み出し、操ることができるのだ。


「ミーティアレイン……アスクレピオス、この質量と物量まで君の魔法で防ぎ切れるかな……!」


 展開したすべての魔法陣から隕石が射出され、アスクレピオスめがけて降り注ぐ。今まで微動だにしなかったアスクレピオスがこの時はじめて動いた。転移魔法を行使し、短距離転移を繰り返しながら隕石を回避する。


 隕石が落下するたびに制御室の鋼鉄の床が大きく抉れ、クレーターを生み出すが、すぐに何事もなかったかのように修復されていく。この制御室は頑丈なのはもちろんのことだが、魔法によって修復する機能も付与されているらしい。


「転移魔法が得意のようだね。知らなかったよ、アスクレピオス。でも私の魔力にはまだまだ余裕がある……このまま押し切らせてもらうとしようか……!」

「私もだ、シュタイン。君がそんなに野蛮な魔法を使うとは思わなかった。だがその魔法、一度発動してから再び発動するまでに『隙』があるようだな。つまり今この瞬間が反撃のチャンスだということだ」


 アスクレピオスの周囲にたくさんの光が浮かび上がる。またセイクリッドプファイルで攻撃する気だ。この魔法に関しては特性上、攻撃魔法をぶつけて相殺するという防御もできる。エールはシュタインを守ろうと魔導砲を向けるが、アスクレピオスに睨まれた瞬間、背後に光の十字架が現れてシュタインと共に空中で拘束されてしまう。


「これは……クロイツリストラクションか……! 視覚に捉えた者を光の十字架に縛りつける拘束魔法です。エール様、脱出出来そうですか?」

「だ、駄目です……! ちょっとやそっとの力じゃ外せそうにありません……!」

「力技では外せないか……術式を解析して解除するしかないですね。しかしそれには時間が……」


 その時、アスクレピオスめがけてハイペリオンバスターが飛んできた。ニルヴァーナコラプスに守られているアスクレピオスには、その荷電粒子の光が届く前に消滅して散ってしまい届かない。セレナの援護射撃だ。隙だらけとなったエールたちを守るために撃ったのだろう。


「優しい仲間だな。魔力探知でおおよその位置は分かっていたが。とはいえ隠れながら撃ってくるのでは拘束魔法で動きを封じられない……」


 別に厄介だとも何とも思っていないような、無感情で無機質な声。無論、セレナのハイペリオンバスターの発射と同時に接近しているスパーダの存在も把握している。この状況下で最も危険視すべきなのは彼女だ。いや、正確に言えば彼女の持つ剣である。


「接近はさせない。セイクリッドプファイル」


 無数の光の矢がスパーダに飛んでくる。木々を盾にしながら接近するが、最後までそれに頼ることはできない。さきほどのミーティアレインによってアスクレピオスの周囲は更地となっているからだ。正面から戦う他ない。スパーダは腹を括って木々から飛び出し、光の矢をアルギュロスの持つ無効化の力で防ぎながら距離を詰める。


 その接近に対して、アスクレピオスがとった手段は空中への退避。剣の届かない距離まで逃げれば問題ない。それでもスパーダは執念深く、エリーゼの力で空を飛んで剣を振った。アスクレピオスには届いていない。しかし、ニルヴァーナコラプスの光を斬り、その効果を無効にすることには成功した。


 無効化されたところでまた張り直せばいいだけの話なのだが、その僅かな時を見逃すマーリンではない。木の幹を魔法で削って作成した樹木の針が横合いから飛んできて、アスクレピオスのこめかみを貫いた。無敵の消滅バリアが効力を失う瞬間を、マーリンはずっと隠れ潜んで待っていたのである。


 術者の死亡によってエールとシュタインの拘束が解除される。勝った。手強い魔法の使い手だったが、一人も仲間が欠けることなく倒せた。少なくともエールはそう思ったのだが、玉座に座るラフィーネは余裕の笑みを浮かべたまま動かない。


「お前たち、まさか勝ったつもりか? アスクレピオスは私の唯一の弟子だぞ。この程度で勝負がつくわけないだろう」


 鋼鉄の床に倒れ、血溜まりを作っているアスクレピオスは死んでいるようにしか見えない。だがエールの隣にいたシュタインが「馬鹿な」と呟いた。


「死んでいるはずなのに魔力を練っている……? ありえない、何だこの状態は……!?」

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