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65話 10000vs1の戦い

 ワイバーン。緑色に染まった鱗を持つ翼竜である。竜と言えば、竜のテオドラと戦った経験を持つエールであるが、テオドラに比べれば随分と小ぶりなサイズだ。背中に翼は無く、コウモリのように腕が発達して翼になっている。竜の特徴たるドラゴンブレスも使える。


 それがおよそ1万体。空中要塞から次々と飛び出し、一直線にツークフォーゲル号に向かってきている。飛行艦には大砲などが備えつけられているため、攻撃もできるし、防御魔法も備わっている。だが1万という数の暴力に耐えきれるかどうか、さすがに難しい。


「これだけの数。野生のワイバーンを支配下に置いた、というだけではありませんね。クローン技術を使って魔物を『製造』したといったところでしょう。証拠に敵はワイバーン一種しかいません。掟破りにも程があります」


 シュタインはこんな状況下でも冷静だった。解説は助かるが、それよりも打開策を考えて欲しいものだ。


「……私が出ます。できるだけワイバーンを多く倒して、多く引き付けてみます。その間に空中要塞に着陸してください」


 エールの提案に反対する者はいなかった。ワイバーン以上の飛行能力を持つのはこの中でエールだけだ。シュタイン、マーリンも飛翔魔法を使えるが、機動力はエールより遥かに劣る。エリーゼと一緒のスパーダもそうである。


「待て。それは俺の仕事だ。お前は体力を温存しろ。ここは護衛役の俺が……」

「いや、待つのは君だアレイスター。ここはエール様に任せよう」

「その方がいいわ。アンタ、顔色かなり悪いわよ。まだ待機してなさい」


 このように、飛行艦の護衛を本来担当するはずのアレイスターは戦いたがったが、シュタインとマーリンに言いくるめられて待機を命じられた。今のコンディションで任せるのは不安が残るためである。


 甲板に出たエールは飛行艦に接近してくる粉のように小さな一粒一粒を見つめる。右手の指輪に魔力を込めると、魔導砲ブリュンヒルドが右手に現れ、そのグリップを掴み取る。


 同時に、エールはカノンに願った。力を貸してくれと。その願いが叶うかのように、エールに背に一対の光の翼が出現した。エタニティモードを発動したのだ。魔力の高まりを感じながら前方に魔導砲を構え、魔力を充填していく。やがて魔法を発射する。


「いくよ……スターダストレインボウっ!!」


 魔導砲の筒先から膨大な数の光の矢が放たれた。これはロックオンした複数の敵を自動追尾する浄化弾を放つ魔法だ。主に多数の敵がいる時に使う魔法であり、まさに現在のような状況の時に効果を発揮する。


 ただし、今回はあまりにも数が多い。スターダストレインボウで追尾できる数を遥かに超えており、倒せてもせいぜい3分の1が限度だろう。浄化弾の命中を示す爆発を目視すると、光の翼を羽ばたかせて上空へと飛翔する。


「ツークフォーゲル号は防御魔法を展開してそのまま突っ込んで下さい! 私が援護します!」


 耳に装着した通信機に話しかけつつ、エールは再度魔力を充填。そして二発、新たに魔法を発射した。これも広範囲に攻撃する時に使える魔法。グランドクロスファイアだ。着弾箇所で十字に広がり、多数の敵を巻き込める。


 グランドクロスファイアの命中と、飛行艦にドラゴンブレスが多数命中したのは同時だった。防御魔法を展開していなければ撃墜されていただろう。ワイバーンがエールの魔法を恐れて大きく散開したので、二発のグランドクロスファイアは効果が薄かったようだ。おそらく1000体程度しか倒せていない。


 それでもワイバーンが飛行艦に接近するまでに半分近くは削れている。今、エールは飛行艦の上空を飛び回り、ワイバーンを飛行艦に特攻させないようセイントフェザーと浄化弾を連射して少しずつ数を削っているところだ。


「エール……すっご~い……あんな数の魔物を倒せるなんて~……」


 飛行艦内の座席から戦闘を見守るエリーゼは、そんな感嘆を漏らしていた。その戦いぶりを見ていると、セレナもスパーダもエールがまるでどこか遠くへ行ってしまったような感覚に陥る。と、言っても、話してみればやはりいつものエールなのだが。


「あんなにエールが頑張ってると、私も頑張らなきゃなって気になるね」

「そうだね……大袈裟に言うけど、この戦いは世界の命運がかかってるからね」

「大袈裟なんかじゃないよ、スパーダ。私たち、とんでもない戦いに参加しちゃってるよ……」


 エールの活躍によりワイバーンの襲撃を乗り切った飛行艦は、空中要塞への着陸準備を開始する。まだ2000程度の数が残っているので、迎撃し続ける必要はあるが、エールの張る弾幕によって残りのワイバーンたちの攻撃はすべて凌げている。


 軽い揺れとともに飛行艦が着陸すると、セレナ、スパーダ、エリーゼ、シュタイン、マーリン、アレイスターが空中要塞に降り立つ。映像で見るだけでは分からない、その冗談みたいなスケールの大きさにまず圧倒された。


 都市を丸々ひとつ浮かべたようなサイズをしている。主な材質は天蓋都市などに使われている金属のようだが、これは空中要塞の主な材料が天蓋都市であるためだろう。


「エール、お前は先に進め。飛行艦の護衛は元々俺の仕事だ」


 アレイスターがふわりと飛翔魔法を発動させ空に浮かぶと、空に暗雲が垂れこみ、幾つもの落雷がワイバーンを撃ち落とす。アレイスターの十八番である雷魔法、マーダーライトニングの威力は健在だ。しかし、やはり体調が優れないように思える。


「……分かりました。アレイスターさんも気をつけてください」

「ああ。死ぬなよ。生きて帰ってこい」

「……はい!」


 後は作戦通り、空中要塞の中に侵入して制圧するだけだ。シュタインとマーリンの二人とは別行動となる。エールたちは要塞下部の担当だが、どこから入ればいいのか分からない。


「困ったね。建物の中に入り口があるのかなぁ……」


 セレナが肩をすくめながら呟くとエールは魔導砲を真下へと向けた。


「……エール、何をするつもりなんだい?」

「魔導砲で穴を開けるよ。そこから侵入しよう……!」


 エールの大胆な提案にスパーダは少し驚いたが、それしか方法は無さそうだ。


「……行くよっ! フラッシュアークバスターッ!!」


 魔導砲の筒先に火が灯り、極細のレーザーが発射された。これはカノンの形見、魔導砲ブリュンヒルドに備わる魔法の中でも殺傷力を有する数少ない魔法だ。その効果は光魔法によるレーザー攻撃であり、防御魔法を受け付けない貫通魔法でもある。


 レーザーを用いてぐるっと円の形になるように鋼鉄の地面を切り抜くと、真下へと続く暗い穴が出現した。エールは魔導砲を指輪に収納し、セレナとスパーダを両脇に抱えてゆっくりと穴の中を下降し始める。


 ひとつ分かったことがある。少なくとも要塞の下部はかなりスカスカだ。急造のためなのか、無駄に広い空間ばかりが続いている。現在地がどこなのか、地図も何もないのでよく分からないのだが、とりあえず下降し続けて行き止まりになったらレーザーで無理矢理道を作って進むということを繰り返した。


「ここは……」


 やがてエールたちが行き着いたのは、要塞の内部とは思えないほど自然に満ち溢れた空間だった。天蓋都市にも自然を保護するためのエリアが存在していたが、それのようなものなのだろうか。空は鋼鉄の天井だが、牧歌的とすら言っていい。何やら心地の良い音楽さえ聴こえてくる。


「いや……この音楽、後ろから聴こえてくるっ!?」


 振り返ると、そこにはリュートを爪弾かせる青年が立っていた。服装からして吟遊詩人のようにも見える。いや。それ以上にどこか見覚えがある。はじめてディーヴァに到着した時、ルシアとの謁見で確かに会っているはずだ。この青年は七賢者の一人だ。


「ようこそ。ラフィーネ様の空中要塞ノーアトゥーンへ。僕は七賢者のオルフェウス。君たちを歓迎しよう」


 気配や殺気を一切感じなかった。音楽が鳴らされるその瞬間まで、気づくことが出来なかったのである。しかも背後を取ったにも関わらず敵であるエールたちに先制攻撃をしかけてこなかった。得体の知れない相手だ。

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