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61話 最強魔法の激突

 空中で繰り広げられるアレイスターとエールの激しい肉弾戦が続く。どちらも魔法による遠距離攻撃を得手としているにも関わらず、接近戦に終始するのは奇妙と言える。


 エールが仕掛けるならともかく、アレイスターもそれを拒まない。理由はひとつ。アレイスターも最大の魔法を放つために魔力を溜める時間を稼いでいるのだ。


 この勝負、先に最強の魔法を発動できた者が勝つ。姉の力を覚醒させたエールが勝つか、あるいは姿を怪物に変えてまで勝利に執着するアレイスターが勝つか。結果はすぐに分かるだろう。


「おおおおおおお!!」


 裂帛の気合を込めてアレイスターが突進する。槍のように変形した二本の角が雷の速さで襲いかかる。ライジングチャージ。結晶形態となったアレイスターが得意とする攻撃方法だが一度攻撃を食らったエールはもう対抗策を編み出していた。


 ライジングチャージは速度こそエールより速いものの、それは直進に限る。悪く言えば小回りが利かず、方向転換もできない。いくら速くとも技の起こりさえ見切ってしまえば曲線的軌道を描きつつ逃げるだけで回避できる。むしろ、この技の発動自体が大きな「隙」となる。


 急激な方向転換を連続で行いながら突進を回避したエールはアレイスターの頭上を取った。そこから急降下して踵落としを脳天に叩きこむ。三次元の戦闘ならカノンの経験値を持つエールの方が上だ。


「ぐうっ!!?」


 地面に向かって叩き落されるが飛翔魔法を駆使して急停止し、頭上へとライジングチャージで突進する。エールにもそんなことは読めていた。すれすれで回避するとアレイスターは遥か上空へと舞い上がる。


「俺の勝ちだ! たった今、必要分の魔力が溜まった……!」

「やっぱり……考えることは同じなんですね……!」


 お互いに決め手を欠いていた。勝つには最強の魔法をぶつける以外にない。そう考えていた。これは窮地だ。エールの魔力の充填はまだ完了されていない。後十数秒。それだけの時を稼げればどうにか威力対決に持ち込むことはできる。


「同じか。そうか、そうだな。忠告しておくがこの魔法に防御は無意味だぞ。俺の雷魔法、『クリムゾン・オールデリート』は対防御魔法用に編み出した貫通魔法! ひとたび発動すればディーヴァなど簡単に消滅させられる!」


 アレイスターが右手を上空へ掲げる。紅の電撃が奔ったかと思うと球形を為して一気に膨れ上がっていく。これがアレイスターの最強魔法。カノンの経験値に頼らずとも分かる。当たれば命はないだろう。


 避けることは簡単だ。エタニティモードの機動力と速度ならそれはできる。だがこの位置ではエールが避けたら下のディーヴァに当たる。そんなことはできない。それが分かっていてアレイスターはエールの頭上を取ったのだ。


「絶望しろ、下の人間と一緒に吹き飛――――……」


 敗北を覚悟した時、下から一筋の光が飛来しアレイスターを襲った。電磁バリアを自動的に展開することで防がれてしまったものの、それが何なのかエールにはすぐに分かった。ハイペリオンバスターだ。エールの使っていた魔導砲で最も威力のある魔法である。


「もしかして……セレナっ!?」


 間違いない。ハイペリオンバスターが発射された地点を見ると、そこには魔導砲を構えるセレナの姿があった。戻ってくる。セレナはそう言っていた。セレナがそう言ったのだから、何があろうと必ず駆けつけエールを助けてくれる。そういう人間だ。


「味な真似を……よくも俺の邪魔をしてくれたな!」


 アレイスターは憤怒を露にしたが、エールは涙が出そうになった。ハイペリオンバスターでアレイスターを倒すことはできない。だが防御に集中した十秒程度の時間が助けになった。これでエールの魔力充填も完了したのである。


「ありがとうセレナ……! この戦い、必ず勝ってみせる!!」

「舐めるな、俺の魔法が負けるはずはない……このまま消え去れ!」


 巨大な紅の電撃球が落ちてくる。エールはそれに、いや、その背後にいるアレイスターへと狙いを定め、魔導砲のトリガーを引く。放つのは熾天使のカノンが誇る最大最強の魔法。全てを浄化する奇跡の一撃。


「これが……お姉ちゃんから受け継いだ……! マーシフルストリームだぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!!!」


 魔導砲の筒先から撃ち出された膨大な光の奔流が『クリムゾン・オールデリート』を飲み込む。光は天空へと伸びていき、アレイスターをも捉えた。電磁バリアを展開しても耐えられない。一瞬でバリアが砕け散り光の中に消えていく。


「こ……こんな馬鹿なことが……俺の魔法が……この俺が! 負けるなんて…………」


 異形の怪物へと姿を変えたアレイスターの身体が光の粒となって砕け散り、元の姿へと戻る。さらにマーシフルストリームの光はその身体に憑りついたラフィーネの精神を消し去った。


 放出された浄化の光が途切れるとアレイスターは真っ逆さまに下へと落ちる。エールは慌てて光の翼を羽ばたかせてアレイスターを受け止めると地面に着地した。


 腕の中のアレイスターは憑き物が落ちたように穏やかな顔で眠っている。勝ったのだ。手も足も出なかった相手に。無論、自分だけの勝利ではない。カノンの力が、セレナの助けが。様々な要素が合わさって手に入った薄氷の勝利である。


「良かった……アレイスターさんが死ななくて」


 まずはそれを喜びたい。本来ならラフィーネに操られた彼を殺さねば、ディーヴァへの襲撃は終わらなかっただろう。アレイスターを殺さず、洗脳の原因である、植えつけられたラフィーネの精神だけを消し去れた。これはカノンの力でなくては出来ないことだった。


 エタニティモードを解除すると、どっと疲れが押し寄せてくるのを感じた。貫かれた左肩の痛みも蘇ってくる。だが今はなぜかそれが心地良いとすら思えてしまう。アレイスターを地面に降ろすと、エールも大の字になって寝転んだ。直後、セレナが走ってくるのが見える。


「エール……! 大丈夫!? 酷い怪我してる……!」

「セレナ……ありがとう。助けてくれて……」

「いいんだよ、そんなこと! 街に魔物が現れて、来るのが遅くなっちゃってさ……本当にごめん」


 セレナが目に涙を浮かべてエールを抱き寄せる。心配されても仕方ないことではある。薄氷の勝利だと自認する通り、一歩間違えればエールは死んでいたかもしれない。


「エール、おんぶしてあげる。すぐメーティスさんのところまで連れて行ってあげるからね」

「あ……待ってセレナ……アレイスターさんを置いてはいけないよ……」

「それもそうか……でも私だけじゃあ二人とも連れていけないなぁ……」

「……俺のことなら気にするな。ここに置いて行かれても死にはせん」

「……うわ、喋った!?」


 死人が喋った、みたいな調子で驚くセレナを見てアレイスターは眉を寄せた。


「俺は元々死んでない。救われてしまったんだ。そこのエールに……な」

「そうなんですか……あは。すみません、私、二人が戦ってるところをじっくり見てなかったもんで」

「まぁいい。ともかく、俺のことは気にするな。どうせシュタインかマーリンが回収に来る」

「もう来たわ。せっかく街も騒ぎから落ち着いてたのに魔物をばら撒きやがって。面倒なことするんじゃないわよ」


 転移魔法で七賢者のマーリンが姿を現わす。後ろには治癒師のメーティスも一緒だ。


「アレイスターにもエールにも、まだ死んでもらっちゃ困る。アレイスター、まんまと洗脳されて無様を晒したんだから、相当へこんでるでしょうけど、今は屈辱に耐えなさい。アンタはラフィーネの動向を知るための貴重な情報源なんだからね」

「……分かっている。もっとも、大した情報は持っていないがな」

「そう。まぁそれはこっちで判断するわ。エールとセレナも城に戻るわよ。来なさい」


 マーリンの宣言と共に転移魔法が発動し、一同は城へと戻った。

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