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58話 ディーヴァ再襲撃

 エールが目覚めてから更に4日が過ぎた。ラフィーネがディーヴァを襲撃してから一週間経過したことになる。その間、ディーヴァはステルス状態で北極圏から離脱した。同じ座標に居続けると、転移魔法で魔物や操った七賢者を送り込んでくる可能性があるからだ。今はまだ迎撃態勢が整っているとは言えない。


 また4日というわずかな時間ではあったが、エールもブリュンヒルドをそこそこ扱えるようになってきた。止まっている的への命中率は7割といったところか。もう少し精度を上げたいところだが、別の問題も浮上している。エールの魔力量だ。エールの魔力はブリュンヒルドで使える強力な魔法を撃つには少なすぎるのだ。


 今、まともに使えるのはプラズマ弾と普通の浄化弾の二種類のみ。他はハイペリオンバスター並みの魔力を要求するので、一発撃っただけで魔力切れになる。もっともその二種類も威力自体は前より上がっているので、普通の敵相手なら問題はない。


 カノンから受け継いだ力に関しては分からないことだらけだ。事実としてカノンから何か力を受け取っているのは確認できた。だがそれをどうやって引き出せるのか。方法がまったく判明していない。


 エールも色々と試してみたが何の変化もなかった。結局は今できることをやるしかなく、できるのは魔導砲の特訓くらいである。今日もエールはブリュンヒルドで砲撃訓練をしている。


「しかし、とんでもねぇことになったな。こうなったら俺も戦うしかないか!?」


 エールの特訓風景をセレナと眺めながら、バルカロールは勝手にやる気を漲らせていた。誰も頼んでないのに。


「バルカロールさんって喧嘩弱いんじゃなかったんですか……無理しない方がいいですよ」

「セレナ、俺を甘く見るな。世界中の海を渡った俺はな、いざという時の必殺技を体得してるんだよ!」

「……と、言いますと?」

「東の海のシン国を訪れた時に教えてもらったんだ。見てろ秘伝の拳法を! アチョォォォォ~~~~ッ」


 バルカロールは両腕をゆらりと奇妙な挙動で動かしながら、片足を持ち上げる。セレナの目にはなんというか、胡散臭い動きにしか見えなかった。片足を無駄に上げているところなど、引っかけたら転んでしまいそうで心配になる。実際に足で引っかけたら盛大にひっくり返った。


「いてて……容赦無さすぎだろ! 俺は弱いんだからもっと手心を加えてくれ!」

「実戦で通用しないってレベルじゃないですね……バルカロールさん、ここは危ないし先に帰ってもいいんですよ」

「そういうわけにもいかん。俺は船長だ。お前たちを無事に連れて帰るのも仕事なんでな、どんだけ危なくても付き合うさ」


 妙に義理堅い。バルカロールは気が良くて、船長でありながらムードメーカーでもある面白い人物だ。仲間の船乗りにも慕われている。しかしこうと決めたら簡単に意見を曲げない頑固なところもあり、セレナやエールたちと一緒にいると言ったら一緒にいる。どれだけ危険でもそれを曲げることはないだろう。


「セレナ、バルカロールさん、そろそろお昼ご飯食べに行こうよ。えへへ……私、お腹空いちゃった」


 エールの特訓も休憩に入ったらしい。エールはブリュンヒルドを持ったまま、セレナたちの方へ歩こうとして、その歩みを止めて空を見上げた。セレナとバルカロールもつられて空を見る。快晴だった空が急激に曇りだしたのだ。暗雲が垂れ込め、今にも雨が降り出しそうだった。


 この現象には見覚えがある。ディーヴァに来た時、七賢者のアレイスターが現れた時と全く同じだ。そのアレイスターはと言えばラフィーネに洗脳されて敵と化している。


 となれば、これはディーヴァへの再襲撃が始まったと考えるべきだ。予想は的中していた。一筋の雷が落ちたかと思うと上空にアレイスターが姿を現したのだ。


「セレナ、バルカロールさんを連れて城へ戻って! 私はアレイスターさんと戦う! 時間稼ぎくらいはできると思うから……!」

「何言ってるの、私も戦うよ! 魔導銃持ってるし……」

「駄目だよ、セレナ。魔導銃なんてあの人には通じない。魔導砲を持ってきて! 城に置いてあるよ!」

「……分かった。私が戻るまで無茶しないでよ。すぐ戻ってくるからっ!」


 そうは言ったものの、その魔導砲を使っても勝てなかったのがアレイスターだ。ブリュンヒルドの能力を全て引き出すことすら出来ていないのに、勝ち目などあるだろうか。それでも希望はある。味方には同じ七賢者のシュタインとマーリンがいるのだ。二人と力を合わせれば、なんとか制圧できると思いたい。


 アレイスターはまだこちらに気がついていない。先制攻撃のチャンスだ。エールはブリュンヒルドを空に向け、狙いを定める。使う魔法は浄化弾だ。光魔法である浄化弾は悪しき力を払う効果がある。命中すればラフィーネの洗脳を解くことが可能だ。


「……行けっ!」


 放たれた浄化弾の軌道は正確だった。アレイスターめがけて飛んでいくものの、自動で展開された防御魔法によって防がれてしまう。電磁バリアだ。アレイスターがこちらを見た。冷たい真紅の眼でエールを見つけると、エールの目の前に着地する。


「カノンの妹か。なぜお前がカノンの武器を持っている。カノンは生きているのか?」

「……お姉ちゃんは病気で死にました。もう、この世にはいません。この答えで満足ですか……!?」

「そうだったか。ならば辻褄が合うな。ラフィーネ様との戦いも、俺と戦った時も、全力ではなかったのか」


 アレイスターは呟くように言った。


「あいつは、俺たちに勝ち逃げして逝ったんだな。ずるい奴だ」


 その顔はどこか寂し気だった。洗脳されていても、いなくても、カノンに勝つというのはアレイスターにとって重要なことだったのだろう。ディーヴァの防衛担当であるアレイスターは戦闘力に自信をもっており、プライドがあったのだ。そのプライドを簡単にへし折ってしまったカノンは彼にとって越えるべき壁に違いなかった。だから洗脳されていながらも思うところがあったのだろう。


「俺はラフィーネ様に島の生き残りを始末しろと命令されている。だが、忠誠を誓い配下になるなら、話は別だ。確認しておこう。お前にその気はあるのか?」

「……ありません。私はお姉ちゃんの代わりに、ラフィーネと戦うって決めました。アレイスターさん! 貴方を洗脳から解き放つためにも……戦います!」


 エールがどういう返事をするか、アレイスターには分かり切っていた。カノンの形見とも言える魔導砲、ブリュンヒルド。それをわざわざ使うことにしたからには、何らかの覚悟が込められているはずだ。


「ならば遠慮はいらんな。安心しろ、お前をカノンと同じところへ送ってやる……!」


 魔導砲の筒先をアレイスターに向けたまま、エールは横へ全力疾走した。エールの目的は時間稼ぎ。一人では勝てない相手だ。それにアレイスターの電磁バリアはハイペリオンバスターすら防ぐ。今のままでは勝ち目がない。


 しかしアレイスターの戦法は一度見ている。まず気をつけるべきなのは落雷で攻撃する魔法、マーダーライトニングだ。攻撃のタイミングが掴みづらい上に、落雷であるが故に速い。魔法を発動されてから避けるのでは間に合わないため、相手が狙いを定めにくくなるように動くしかない。そのため全力疾走して動き回る。


「無駄だ。その程度の小細工で避けられるほど甘い魔法ではないぞ……!」


 エールが浄化弾を発射した瞬間、アレイスターもマーダーライトニングを発動した。全力の一撃だ。前回戦った時はセレナに使用し、一撃で戦闘不能に追い込んだが、それは死なないように手加減した一撃である。今回は確実に殺す気だ。エールの浄化弾は電磁バリアで防御した。


 空の暗雲から放たれたマーダーライトニングは大気を震わせ、轟音とともに地面を大きく抉り取る。命中を確信していたアレイスターはその表情を怪訝なものに変える。避けられていた。発動のタイミングを読み切ったとでも言わんばかりに、エールのやや前方に雷は落ちている。


「……あり得ん。どんな手品を使った? どうやって避けたんだ……!?」


 アレイスターの十八番であるマーダーライトニングを避けるなど、以前戦った時のエールには絶対に無理だった。違う。目の前のこの敵は、本人すら気づいていないが最早かつてと同じではない。簡単には倒せない相手なのだ。

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