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46話 妖精の住処にて

 花畑を抜けた先には雑木林が広がっていて、マーリンたちはしばらく自然の風景の中を進んだ。スパーダはふと、アスクレピオスもアレイスターも転移魔法を使って移動していたことを思い出した。


 同じ七賢者である彼女も使えそうな気もするがなぜそうしないのか、少し疑問に感じた。だが何か理由があるのだろう。迂闊に聞いたら藪をつついて蛇を出す予感もしたので、聞かずに黙った。


「思ったより遠いですねー。あの。転移魔法で一気に移動しないんですか?」


 こういう時、無神経に質問をしたりするのはだいたいセレナだ。歩き疲れたのだろう。冒険者であるスパーダは長時間の移動も慣れているがセレナはそうではない。銃士の訓練は厳しいと聞くが、仕事は外の見張りとか市民の取り締まりだとか、天蓋都市内で完結しており体力を使うことも少なかったはずだ。


「私が転移魔法を使えないとでも思ったの? 使えるに決まってるでしょ。ディーヴァに住んでる妖精はデリケートなのよ。魔法で急に森や住処に出たり入ったりなんかしたら、騒がしいから止めろって嫌われちゃうわよ」

「ちが……そんなつもりで言ったんじゃないですけど……すんません……」

「妖精には妖精の気持ちとかルールがあるんだから。私はそれを尊重してんのよね。仕事だし」


 想像通りだった。触れてはいけない部分だったらしい。スパーダはセレナの肩を叩いて「あまり気にしない方が良いよ」と慰めた。セレナがぎゅっと抱き着いてきたので無言で抱擁される。マーリンはそれを無視して先へ進んでいった。


「着いたわ。ここが妖精の集落、シャムロックよ。そのうち誰か案内に来るからちょっと待ってて」


 スパーダは妖精の住む場所と聞いて漠然と自然の中にいるイメージだったが、なるほどその通りだ。妖精の集落には実に多様な種類の家がある。小さな丘に幾つもの穴を掘って作られたもの。木のうろに扉や窓をつけたもの。あるいは木の上に家を置いた、ツリーハウスもある。


 そのどれもが妖精サイズなので、まるでミニチュアの人形の世界に迷い込んだような印象を受ける。ここから先は集落、と区別するかのようにシャムロックは三つ葉型の小さな柵で囲まれ、入り口の看板はこれまた三つ葉模様になっている。


「……本当は人間と同じ城下町で暮らしてくれた方がいいんだけどね。妖精たちも自分の大きさに合った家が欲しいって要望が後を絶たなかったらしいのよ。それでこんな風になってるわけ。下手に触り回って家を壊したりしないでよ?」


 今まさに、セレナが物珍しそうに集落の家のひとつを触ろうとしていた。慌てて伸ばした手をぴゃっと背中に回して知らんぷりをしたのをスパーダは見逃さなかった。寝ていたエリーゼが目を覚ましたのか、腰袋から出てきてスパーダの肩にちょこんと座る。


「なんだかー……昔、ここにいた気がするー……思い出の風景に似てるのー……」

「実際にいたのだからそれは当然の感想ね。それにしてもこの子、随分ぼーっとしてるわね……よくディーヴァまで来れたもんだわ」

「エリーゼは確かに寝てばかりですけど、いざという時は活躍してくれますよ」

「うんー……私はスパーダの相棒だから……頑張ってきたよー……」

「ふーん……まぁ仲間がそう言うならそうなんでしょうね……」


 スパーダとエリーゼは二人で冒険者の仕事をこなしてきた。戦いにおいてはエリーゼの助けでなんとかなったことも数多くある。マーリンはあまり信じて無さそうな反応をしているが、スパーダは誰よりも知っている。エリーゼが優れた妖精だということを。


「いらっしゃいませー。マーリン様、今日は何の御用で……はわぁ!」


 マーリンの言葉通り、案内人らしき妖精が羽根をぱたぱたさせながらやって来ると、エリーゼを見て仰天した。スパーダは勘でエリーゼと同じ風の妖精ではないか、と思った。見た目や雰囲気にどことなくエリーゼの面影を感じる。ただし案内人の妖精は男性らしく、立派なカイゼル髭を生やしていた。


「あ……おー……お父さんー……?」


 なぜ疑問形なのか不明だが、エリーゼも案内人の妖精を見て驚いた。会うのは実に数年ぶりになるだろう。


「そうだよ……! エリーゼ、よく覚えていてくれたね! イリフィ! エリーゼが帰って来たぞ!」


 案内人の妖精こそエリーゼの父、風の妖精ロンバルドだったのだ。ロンバルドの大声でシャムロックにエリーゼの帰還が知れ渡る。風の妖精や花の妖精、炎の精霊や土の精霊、水の精霊。様々な精霊がわらわらと家から飛び出して群がってきた。


「凄いわね……妖精たちが全員で歓迎してくれるなんてはじめて見たわ」

「ああ……そうですね……マーリン様は嫌われてるのでみんな会いたがらなくて……いえ、何でもありません」


 ロンバルドは小声でうっかり口走った後、自分の口を手で押さえた。妖精の管理を担当しているマーリンでもこんな光景は見たことが無いらしい。妖精たちはエリーゼとスパーダを取り囲んでざわざわ、わいわい、騒ぎながらエリーゼの無事を喜んでいる。


「エリーゼ、無事で良かった! 私の気配を感じてくれたのね! うんと念じた甲斐があったわ!」

「あ……お母さんー……ただいまー……私、本当に帰って来れたんだねー……」


 妖精たちにもみくちゃにされながらエリーゼは母親のイリフィと再会の抱擁を交わした。エリーゼ本人も今まで故郷に帰って来たという感覚が無いまま、いつも通り腰袋で寝ていたのだが、母親の顔を見たことでようやく実感を得られたようだ。エリーゼはいつの間にか笑いながら泣いていた。嬉し泣きだ。父のロンバルドも、母のイリフィも涙を流していた。


 スパーダはその様子を近くで見守りながら確かな喜びを感じていた。密売人の調査という冒険者ギルドの依頼で出会って以来、エリーゼとは何をするにしても一緒だった。楽しいことも。苦しいことも。いつも二人で分かち合ってきた。魔物に家族を奪われ一人で生きることを余儀なくされたスパーダにとって、エリーゼという相棒は掛け替えのない存在だった。


 そのエリーゼの目的がようやく果たされた。これを喜ばずにいられるだろうか。だが、スパーダの抱いた感情はそれだけではない。一抹の寂しさも伴っていた。エリーゼが故郷に帰ってこれた以上、スパーダは一人で生きていくことになる。別れの時が訪れたのだ。


「そうだー……お母さんとお父さんにも紹介するねー……スパーダだよ。私と一緒にここまで冒険してきた、相棒なんだー……」

「おお。そうでしたか。申し遅れました、私はロンバルド。風の妖精です。エリーゼがお世話になりました」

「私はイリフィです。エリーゼをここまで連れてきてくれてありがとうございました。ずっと心配してたんです」


 スパーダは自分の名前を名乗ると、なぜか妖精たちに囲まれてお祭り騒ぎになった。どうやら気に入られてしまったらしい。シャムロックの外に生えている木を背中に座らされて、旅の話を聞かせてくれないかと頼まれた。


 最後に思い出話をするのも悪くないと思って、エリーゼと共にこなした冒険者の仕事のあれこれを語った。マーリンはやや離れた位置から感心したようにその姿を眺めていたのである。

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