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43話 姫様との謁見

 自己紹介。エールは人見知りをする性格だ。果たして上手く言えるかどうか。

 案の定、偉い人の前で自己紹介をするという状況下でカチンコチンに固まっている。エールはアスクレピオスの後ろに隠れたままフリーズしていた。


 完全に『待ち』の姿勢だ。セレナかスパーダが先に自己紹介すればいいのにと思っている。それでもセレナとスパーダが何も言わなかったのは、エールがこの旅のリーダーという認識があったためだ。楽園を探すと手紙に残し行方不明なった姉を探す。セレナもスパーダも想いはそれぞれ異なるが、それに乗っかった形だ。


 だから最初に話を始めるならリーダーのエールだろうと思い黙っていた。これはもういよいよアスクレピオスの後ろに隠れてなどいられない。自己紹介を達成するには名前以外にも出身地、職業、挨拶くらいは言わねばなるまい。


 だが完全に固まっていたエールは最早、言葉を失っている状態。でも早く言わねば。沈黙の時間はわずかであったが、エールの体感は永遠の時を彷徨ったかのようだった。口を動かし、どうにか言葉を紡ぐ。


「え、エール・ミストルテインと言います。出身はフェルネ王国のウィンターベルで、銃士の仕事をしてました。その……お姉ちゃんを探してここまで来たんです。お姉ちゃんは冒険者で……名前はカノンって言うんですけど……とにかく、よ、よろしくお願いします」


 これで良かったのか。要領を得ないながらもなんとか言えた自分を褒めてあげたい。しかし姉の名を口にした途端、アスクレピオスが怪訝な反応を示したのは気のせいか。最後に深々と頭を下げると、セレナとスパーダもそれぞれ名乗りを上げた。


「私はセレナ・スターリングでっす。エールとは幼馴染なんです! よろしくお願いしまーす!」

「スパーダです。こっちは相棒のエリーゼ。楽園の姫様にお会い出来て光栄です」


 エールに倣い、二人もそれぞれお辞儀をして自己紹介が済んだ。

 いや。済んでいない。七賢者の目線が一人の男に集約されていた。

 まだバルカロールが残っている。この島までエールたちを運んだ功労者だ。


「ああ。俺か。無作法お許しあれ。俺はバルカロール、しがない船長だ。ずっと『最果ての楽園』を探して世界中の海を冒険してきた。今日はその夢が叶って本当に驚いてるし、感動してる。まぁひとつよろしく頼む」


 バルカロールのフランクな自己紹介にシュタインが食いついた。


「この楽園をずっと探しておられたのですか。それはさぞ大変だったでしょう。この島を見つける方法は限られています。何せこの島は移動できるうえに、今は魔法で外から見えない状態になっていますからね。いわゆるステルスというやつです」


 ただの島ではないと感じていたが、まさか『最果ての楽園』の正体が移動する島とまでは予想していなかった。しかし自在に動ける島なら現在に至るまで発見できなかったことに説明がつく。加えて魔法で見えなくなっていたのならば、接近するまで島があることすら分からなかったのも頷ける。

 船で島に接近した時、急に現れたように見えたのはステルスの有効圏の内側に入ったためだろう。


「皆様はこの島に住まう妖精の気配を辿ってここまでいらっしゃったようですね。それは我々の想定していないイレギュラーな方法ではありましたが……聞けばそちらの妖精エリーゼは元々この島の住民だったとのこと。そうだね、マーリン?」


 シュタインが視線を隣に立っていた女性に向ける。亜麻色の髪を三つ編みで結んだ20代くらいの女性だ。緑色のローブにとんがり帽子を被り、杖まで持っている。七賢者の中で一番魔法使いらしい装いをしている。マーリンは面倒そうに溜息を吐いて、ゆっくりと返事をした。


「ええ。風の妖精ロンバルドとイリフィの娘。妖精は自然発生的に誕生することが多いから両親がいるのってレアケースなんだけど。確かにアンタは昔、このディーヴァにいた。管理記録にも残ってる。悪かったわね……今まで何も出来なくて」


 エールはエリーゼが楽園からいなくなってしまった話を思い出す。楽園で風の中を漂っていると大嵐に巻き込まれて外へ放り出されてしまった。そのような経緯だったはずだ。誰のせいでもなく、悪いのは嵐という自然災害であろう。


「マーリンはディーヴァの自然環境と妖精の管理担当です。ですがエリーゼ、彼女を責めないであげてください。君を探さなかったことは七賢者のリーダーとして私が深く謝罪します。ディーヴァの法で島の人間が外に出ることは、特例を除いて禁じられているのです。だから探せなかった……両親はずっと心配していました」

「いいよー……シュタインさん、気にしないでー……だって私は無事に帰ってこれたから」

「マーリン、後でエリーゼを案内してあげてくれないか。きっと両親が待っているはずだ」

「はいはい……仕事だからね。雑用でも何でもやりますよ」


 マーリンは面倒そうにしているが、エリーゼに向ける視線は優しかった。


「ありがとー……マーリンさん……嬉しくなったら何だか眠くなってきちゃった……」


 大きく欠伸をしたエリーゼは、ふわふわと不規則な軌道を描いてスパーダの腰袋に戻っていった。誰が相手だろうとどんな状況下だろうとマイペースを貫くのがエリーゼという妖精なのだ。


「というわけで、我らにとって皆様は行方不明だった島の民を連れてきてくれた恩人。なんと感謝すればよいか……可能な限りご恩を返せればと考えています」

「あのー……シュタインさん。私たちはイレギュラーな方法で来たって言ってましたけど、この島を見つける正しい手順とかあるんですか」


 セレナが挙手をしながらシュタインに質問すると、彼は微笑を浮かべて答えた。


「ええ。この島に住めるのは、残念ですが選ばれた人間だけです。この島を見つけ出すこと。それこそが一種の試練であり、その試練を潜り抜けた者がこの島に住む権利を得る。ただ全くのノーヒントではありません。世界中に散りばめられたディーヴァに関する伝承から『これ』を見つけられた者に島の居場所が分かる仕組みを、初代の七賢者たちは考案しました」


 シュタインが懐から取り出したのは奇妙な形をしているコンパスだった。

 彼の手の中でコンパスの針は何処を指すわけでもなく緩やかに回転している。


「普通のコンパス……じゃないですよね。特別なものなんですか」

「その通りです。我々は『道標(みちしるべ)の羅針盤』と呼んでいます。もっとも針が指すのは北ではありません。このディーヴァの位置を示すように作られています」

「……世界に点在する魔物が巣食う迷宮に、この羅針盤は隠されている。カノンもそこで見つけたと言っていたぞ」


 アレイスターがぶっきらぼうな声で補足すると視線をエールたちから逸らした。

 まだエールたちを認めていないという態度で。エールは聞きたいことが幾つかあったが、ちょうど姉の話になったこともあって、我慢できずに姉の居場所を尋ねることにした。


 本当ならこの島に迫っている『危険』の話や、簡単に島の外へ出られないはずの七賢者アスクレピオスと魔導列車で出会った理由なども聞きたかった。だが姉のカノンの話になった途端、全て忘れてしまいもう頭の中が姉のことでいっぱいになっていた。


「あの……私のお姉ちゃん……この島に来ているそうなんですけど、何処にいるかご存知ですか?」

「おお、そうでしたね。その話はアレイスターからも聞いています。細かな説明はまた後にするとして、今からお会いになりますか? カノン様なら島のどこかにいるはずなので」


 シュタインの視線がマーリンに注がれると、彼女は眉根を寄せた。


「……それも私の仕事なの? 私の担当って便利屋なわけ?」


 マーリンは明らかに不満そうだったが、シュタインの有無を言わせない微笑に敗北してエールたちを連れて城の外へ出かける運びとなる。同じ七賢者といえどリーダーとその他には覆しようのない上下関係があるということをエールはなんとなく理解した。

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