41話 試される実力
ゴーレムの動きはそう素早くない。むしろ鈍重で緩慢とすら言える。
距離を詰められるまでに余裕で魔導砲を発射できる猶予がある。
エールは一番近い距離のゴーレムを狙ってプラズマ弾を発射。
「これなら……! 命中コースだよっ!」
「ほう。稚拙ながら雷魔法だな。しかしその程度でゴーレムは倒せん」
撃破を確信したエールのプラズマ弾はゴーレムに命中することは無かった。
ゴーレムが手をかざすと光の障壁が現れ、プラズマ弾は防がれてしまう。
防御魔法だ。エールが再び魔導砲を発射するより速くゴーレムが距離を詰める。
「ピピピ。排除シマス。排除シマス」
巨大な握り締めて拳を作り、エール目掛けて一気に振り下ろす。
咄嗟に後ろへ跳躍して逃げたことで拳は空を切った。
攻撃が空振りに終わったこの隙を逃すエールではない。
ゴーレムの懐に潜り込み、零距離で魔導砲からプラズマ弾を吐き出す。
防御魔法で防がれるのなら、防御魔法の更に内側から攻撃すればいい。
敵に肉薄するのは危険を伴うがこれならゴーレムにも通用する。
光の粒となって消滅するゴーレムに構わず、後続のゴーレムが接近してくる。
エールの動きで対ゴーレムの戦い方が分かったセレナとスパーダも臨戦態勢に。
探し求めていた『最果ての楽園』に到着して感動の間もなく戦わされる。
困惑していないと言えば嘘になるが、実力を示せと言われた以上やるしかない。
エールたちもある程度の場数は踏んできた。それなりに戦える自信がある。
「あんまり見くびらないでよね! 私たち結構やる方だからね!」
セレナが2丁の魔導銃を素早く構えてゴーレムに発砲する。
ゴーレムはすかさず防御魔法を発動、障壁を形成して身を守った。
間髪を入れずにスパーダが懐に潜り込んで膝関節を切り裂く。
「ピピピ。両膝ニダメージ。行動不能。行動不能」
ゴーレムの防御魔法は1方向かつ1つしか展開できないらしい。
ならば誰かが囮の攻撃を放って防御魔法を使わせ、その隙に本命の攻撃を当てる。これを繰り返していけば確実にゴーレムを倒すことができる。
「ゴーレムの能力を見抜き、即座に戦術を組み立てるか。素人ではないらしいな」
順調にゴーレムを倒していく三人を見てアレイスターはぽつりと呟いた。エールたちが10体いるゴーレムを全て倒した時、一定の実力があると流石に認めねばならなくなった。
「これでいいですか。私たち……自分の身くらい守れますっ。この先にお姉ちゃんがいるのなら……もう通してください!」
「そこそこ戦えるのは認めてやる。だが……それは常人レベルでの話だ。俺が見たいのは遥か高みの力。お前は本当にカノンの妹なのか? 姉妹とは思えないほど力量に開きがあるぞ」
アレイスターがカノンの戦いを見たか、直接戦ったのならそう思うのも当然だ。
カノンは今や外の世界で最強の名を欲しいがままにしている伝説的な冒険者。
片やエールと言えば凡庸としか言えないような成績の銃士でしかない。
「とは言えゴーレムを倒せたのも事実。ここからは俺が実力を測ってやろう」
「随分偉そうな物言いじゃない。こっちは殺さないように手加減するのが大変なんですけど?」
両手に魔導銃を構え、セレナはその銃口をアレイスターに向ける。
もちろん撃ち出す魔法は非殺傷の『麻痺弾』に変えてある。
「何か勘違いしているな。本気で来なければ……死ぬのはお前たちの方だぞ」
ぴりぴりと肌を刺すような殺気。エールの本能が告げている。気を抜けば一瞬でやられる。アレイスターが現れた時のように再び暗雲が雷鳴を轟かせ始めた。何か来る。セレナが構えた魔導銃を躊躇なく発射する。彼女もまた本能的な部分で危険を察知したのだ。何かやられる前にやるしかない。
放たれた2発の麻痺弾は正確にアレイスターを捉えていたが、その寸前で麻痺弾は防がれてしまう。防御魔法だ。それも彼の全身の球状に包むタイプの電磁バリア。如何なる攻撃もアレイスターには届かない。
「今度はこちらから行くぞ。マーダーライトニング……!」
アレイスターが手を前方へかざすと空の暗雲から雷が落ちる。
一瞬の出来事だった。激しい轟音と共に一条の光がセレナの身体に激突する。
地面をも割る威力の落雷はセレナを戦闘不能に追い込むのに十分だった。
エールもスパーダも彼の雷魔法にまるで反応できなかった。
もし雷が落ちていたのがエールだったら間違いなくやられていただろう。
「セレナ……!」
エールは反射的にセレナの下へ駆け出そうとするのを必死で抑えた。
アレイスターに実力を認めさせるどころか、このままでは確実に全滅する。
カノンに会うためにもこんなところで足踏みしている場合じゃない。
焦る気持ちがエールの攻撃を短絡的にさせた。魔導砲を『麻痺弾』に切り替えて無暗に砲撃するが、全て電磁バリアに防がれてしまう。アレイスターは冷たい瞳でただエールたちを見つめている。
「それで終わりか。なら次はお前だ」
空を見上げると雷雲がまた不穏な音を鳴らし始める。
駄目だ。雷の落ちるタイミングが分からない。かと言ってがむしゃらに動いたところでアレイスターは確実に雷を当ててくるだろう。彼はそんな低次元な魔法の使い手ではない。
「エール、後ろに飛んでっ!」
エリーゼの声に反応した身体が思考より速く足を動かした。
真後ろに跳躍した直後、自分がいたところに落雷が命中し地面を抉る。
危なかった。エリーゼが教えてくれなければ今頃は雷の餌食になっていた。
「妖精に助けられたな。天候を読んで俺の雷魔法が発動する瞬間を察知したか。風の妖精なら出来ても不思議では無い」
「誰か知らないけどー……私の仲間に酷いことしないでー……!」
エリーゼが頭上高くに手を伸ばす。魔力を空へ放出するとアレイスターの黒い雷雲が千切れて拡散する。空から雲が消え去り段々と晴れていく。エリーゼが風魔法で天候を操ったのだ。これで雷は落とせない。
「風魔法による気象制御か……だがその程度で俺の魔法は妨害出来んぞ」
だがこと魔法においてアレイスターの能力はエリーゼを遥かに上回っていた。
青空を取り戻したはずの空が再び黒々とした暗雲に包まれていく。
その音を聴く者全てが畏怖するような雷鳴が轟き始める。
「十分だよエリーゼ……必殺の一撃を見せつけてやる!!」
エリーゼの行動は1分に満たない僅かな時間だったが、良い時間稼ぎになった。
魔力を充填して『ハイペリオンバスター』の準備を整えるには十分だ。
構えた魔導砲の筒先には荷電粒子の光が煌々と灯っている。
「ほう。面白い。それがお前の切り札か。受けてやるから攻撃してみろ」
エールは微かに眉を寄せた。なんだ、アレイスターのこの自信は。
『ハイペリオンバスター』は竜にだって通用する強力な攻撃魔法だ。
はっきり言って対人用の魔法ではない。オーバーキルもいいところである。
アレイスターも魔法の使い手ならこの魔法の威力は肌で理解できるはずだ。
エールは威嚇のつもりで発射の準備を整えたが、彼の反応は予想外だった。
防げるとでも言いたいのか。だが勝つにはもうこれしかない。
「どうなっても知らないんだからね……! 食らえぇぇぇぇーっ!!」
膨大な光が魔導砲から放たれ、一直線にアレイスターへと向かっていく。
『ハイペリオンバスター』は彼が纏う電磁バリアと激突した。
拮抗している。竜鱗をも貫くはずの荷電粒子砲が衝突して拡散する。
「つぇい!!」
アレイスターの叫びと共に『ハイペリオンバスター』は後方へ弾き飛ばされた。
一発限りの切り札が防がれてしまった今、魔力も尽きた。もう何もできない。
「まぁまぁの魔法だったぞ。では、そろそろこの島からご退場願おうか」
敗北を悟ったエールは目を瞑りその場に崩れ落ちた。
折角ここまで辿り着いたのに姉のカノンと会うことができない。
あともう少し。ほんの少し手を伸ばせば届く距離にいるのに。遥か遠い。
「……アレイスター、もう止めろ。彼女たちは敵ではない。客人だ」
エールが全てを諦めかけた時、陽炎の如くある人物が現れた。
塵ひとつない不自然なほど清潔な白のローブ。顔の右半分を覆う仮面。
忘れるわけがない。彼の名はアスクレピオス。かつて魔導列車で出会った医師である。




