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23話 竜鱗を貫く切り札

 テオドラとの戦いは熾烈を極めていた。

 サイズの違いから単純な殴る、蹴るだけでも必殺の威力を持つのに、それが炎を吐くといった魔法を織り交ぜながら攻撃を仕掛けてくる。エールは魔導砲で支援に徹し、スパーダはエリーゼのアシストを受けつつテオドラを引っ掻き回す。


 剣も魔導砲も固い竜鱗にはまるで通じないが、テオドラの攻撃を捌くことはできている。その様子を眺めていたアスクレピオスは二人を過小評価していたと認めざるを得なくなった。決定打は与えられていないが、よく戦っている。


「……エール、君は銃士だろう。なぜあの魔法を使わない?」


 ゆえに、アスクレピオスはエールが持つ切り札を使わないことに疑問を抱いた。

 荷電粒子砲を放つ必殺の魔法、ハイペリオンバスターのことだ。

 あれならたとえ竜でも相応の手傷を負わせられるはずである。

 なにせその威力の触れ込みは『竜鱗をも貫くほど』なのだ。


「使いたいんですけど……私は魔力が少ないから。ハイペリオンバスターは一発しか撃てないんです。もしもの時のために、使わないようにしてて……」


 もし回避が困難で強力な攻撃が来た時、相殺できるように。

 一発しか撃てない以上はエールも使うのを渋る癖があるのだ。


「……そうだったのか。ならばすぐ準備を始めるべきだ。私が守る」

「え……いいんですか……!?」

「私でもそれくらいなら出来る。全力をぶつけるがいい……君があの竜鱗を貫け」

「……はいっ!」


 エールは魔導砲に魔力を送り、充填を開始した。

 充填中に他の魔法を撃つことはできないので、完全に無防備となる。

 その時間は数十秒程度に過ぎないが、戦闘中においては致命的な隙だ。

 現に、テオドラからはまるで狙ってくださいと言わんばかりに映った。


「はっ、何をする気か知らんが纏めてあの世へ送ってやろう!」


 テオドラは上体を逸らして大きく息を吸い込んだ。

 ドラゴンブレスの予備動作だ。この後、広範囲を火炎が襲う。

 だがエールは避けるそぶりを見せない。守ると言ったアスクレピオスを信じて。


「そうはさせない!」


 前衛を務めるスパーダも、ドラゴンブレスを黙って見過ごすわけではない。

 エリーゼの風魔法で空を飛び、テオドラの顔の高さまで一気に上昇する。

 すべてのドラゴンが備えている竜鱗は、非常に硬い守りとなっている。

 だが生物の構造上、鱗で守られていない箇所がある。それは『目』だ。


 ドラゴンブレスは予備動作が大きい。タイミングさえ掴めばその隙に目を攻撃できる。スパーダは巧みにサーベルを振り回し、左目を狙って剣を一閃する。


「……っ!!」


 だがテオドラは反射的に左目を瞑って目を防御していた。

 サーベルは瞼を浅く裂いただけで、目を潰すことはできていない。


「甘いね。仲間が焼け死ぬのをそこで見ていろ!」


 スパーダは巻き込まれないように即座にテオドラから離れる。

 ドラゴンブレスの強力な炎がエールとアスクレピオスに襲いかかった。

 その瞬間、アスクレピオスは炎へ向かって片手を翳す。


 放たれたのは強烈な『光』だった。

 光は炎を消し去り、結果として炎を真っ二つに裂いてしまう。

 魔法は魔法で相殺できる。が、これはそんな単純な現象ではない。

 このドラゴンブレスはそこらの魔法では相殺できない威力のはずだからだ。


「何だその魔法は……!?」

「その問いには答えられない。手品師が種を明かさないように、魔法使いも自身の魔法を秘匿するものだからだ」


 どれだけ炎を吐き続けても、アスクレピオスの『光』を突破できない。

 魔力の無駄と判断したテオドラはドラゴンブレスを止めて接近戦に切り替えた。

 鉄塊すら豆腐みたいに細切れにする竜の爪が二人に迫る。


「はわわっ、優しい上昇気流!」


 スパーダの腰袋に隠れていたエリーゼが一瞬、顔を出して魔法を発動する。

 テオドラの爪が命中するより速く、風の魔法が二人を空高くへと運んだ。


「ありがとう、エリーゼ! 後は任せて!」


 アスクレピオス、スパーダ、エリーゼに助けられ、充填が完了する。

 必ず当ててみせる。空中だろうと何だろうと、皆の援護を無駄にはしない。

 風の魔法はちょうどエールをテオドラの真上に運んでいた。

 魔導砲の筒先をガコンと真下に向ける。


「これが逆転の切り札! ハイペリオンバスターだぁぁぁぁぁっ!!!!」


 さながら天から降り注ぐ鉄槌。

 荷電粒子砲の閃光がテオドラの巨体に直撃した。

 その凄まじい威力と衝撃に近くのスパーダも巻き込まれるところだった。


「はぁ、はぁ……効いた……?」


 ハイペリオンバスターを浴びたテオドラはぐったりと地面に倒れていた。

 ところどころ、竜鱗が黒焦げになっているが、死んではいないだろう。

 魔物は死ねば光の粒となって消える。その現象がないということは、生きているということだ。


 もっとも、たった一撃で死ぬとはエールも思っていなかった。

 いくら竜鱗をも貫く威力があるとは言え、それだけで倒せるほど竜は弱くない。

 一発当てれば少しは消耗するだろうという予想のもとに発射した。

 なにより今回は倒すことが勝利条件ではないのだ。


「まだだ……誇り高き竜は、こんな程度じゃ倒れない……!」


 ゆっくりと巨体を持ち上げ、立ち上がろうとするテオドラ。

 そのしぶとさに腰袋の中のエリーゼは「すごーい……」と感嘆していた。


「もう止めませんか……? 私たちは子供を返したいだけなんです」

「馬鹿なことを言うね小娘……止めるわけないだろう。人間が私たちに何をしてきた? 住処に忍び込んでは子供を攫う。そんなクズ共を許すと思うか?」


 エールには返す言葉が見つからなかった。しばしの静寂が訪れる。

 沈黙を破ったのは、遅れてやってきたセレナだった。

 腕には竜の子供をしっかりと抱えている。


「お待たせ! ぴぃちゃん、あの人がお母さんでいいんだよね!」

「ぴぃ! ぴぃ~っ!」


 セレナの腕の中にいる竜の子供はすっかり喜んでいる。

 しかも何だか仲良くなっている。エールはまずそのことに驚いた。

 竜の子供はセレナの腕から飛び出し、翼で飛んでテオドラの顔にへばりつく。


「クラウディウス! 生きていて良かった……お前まで死んでいたら私は……」

「ぴぃ! ぴぃ!」


 魔物の親子が再会できたことを、エールはまず喜ぶことにした。

 戦いはまだ終わっていない。だがその光景こそエールが見たかったものなのだ。


「ぴぃ! ぴぃ! ぴぃ!」

「……そうなのかい。だがまた同じような連中は現れるよ」

「ぴぃ! ぴぃぴぃ! ぴぃ~っ!」


 竜の子供、クラウディウスが何かを一生懸命話している。

 テオドラはそれを静かに聞き、やがてゆっくりと頷いた。


「……分かったよ。お前がそう言うのなら」

「ぴぃ!」

「待って。ぴぃちゃん、何の話してるの?」


 セレナの問いに答えたのは、なぜかエリーゼだった。


「う~ん……竜の子供はこう言ってるよ。『お母さん、戦いは止めて。悪いのが人間なら、救ってくれたのも人間だよ。人間を十把一絡げに考えるのは止めて、もう家に帰ろうよ』だって」

「ああ……そういえばエリーゼは魔物の言葉が分かるんだったね……」

「そうだよー……魔物の言葉はなんとなーく……全部分かるかなー……」


 知能が高ければ人間と同じ言葉を話すので、意識することはないが魔物には魔物の言語がある。翻訳する機会は滅多にないが、エリーゼにはそんな特技があり、相棒のスパーダも知っているのだ。


「……命拾いしたね。今日はこの子に免じて退いておく。感謝するがいい」


 それだけ言い放つとテオドラは翼を広げて上空へと一気に飛び上がった。

 頭にクラウディウスを乗せて、魔導列車を襲った危機は去ったのだ。


「なんか……丸く収まったってことでいいの? 私は戦ってないけど」

「うん……セレナのおかげだよ。戦い続けてたら……やっぱり負けてたと思う」


 テオドラとの戦いを知らないセレナは、いまいち実感が無いようだった。

 ともあれエールたちは竜と戦ってなお無事に生き残ることができたのである。

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