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17話 新しい仲間

 イエティの自己崩壊による決着は、勝利したとはとても言えない、しこりが残る結末だった。なぜそんなことになったのか、エールとセレナには理解できなかったからだ。朽ち果てた身体があった場所には例の『欠片』が残されているだけ。


「あの『欠片』をさぁ……どこかに持っていって調べれば何か分かるんじゃないかなぁ」


 そう言いつつセレナは偶然持っていたポーションの小瓶を取り出した。

 開けて中身の液体を捨てると『欠片』を入れてしっかりと栓をする。


「どこで聞けばいいのか分からないけど、チャンスがあったら教えてもらおうよ」

「……そうだね。魔物に拾われるとさっきみたいに強くなって危ないもん……」


 小瓶の中の『欠片』はダイヤのような綺麗な煌めきを有したままである。

 危険なアイテムであるのは承知の上でセレナはそれがどうしても気になった。


 なぜ、こんなものがあるのか。これはどこで手に入るものなのか。

 自分たちの知らないところで何かの歯車が動いている。そんな気がしてならない。


 一度目ならば無視もできたが、もう三回もこの『欠片』を持つ魔物と戦ったのだ。セレナが疑問を抱くのは当然のことと言えるだろう。

 やがて戦いを見守っていたスパーダがやって来てエールとセレナに頭を下げた。


「何よ急に。別に頭を下げられるほどのことはしてないよ」


 セレナはぶっきらぼうに言ったが、スパーダはそれを否定した。


「君たちには二度、助けられた。けど……なんでこの村に? 何か用でも?」

「カノンさんとの話を教えてもらいたくて。ダッシュさんに連れてきてもらったんだよ」

「ダッシュさんが……?」


 うわさをすれば何とやら。のそのそと近づいてくる影がひとつ。

 ダッシュである。光の柱が見えて、不審に思い危険を承知で来たらしい。

 イエティが弾いたハイペリオンバスターが光の柱のように見えたのだろう。


「心配して来てみたが魔物は無事倒せたみたいだな。安心したぜ」


 冒険者たちは村人の生き残りや魔物の残党がいないか確認したがった。

 しかしスパーダを含む冒険者たちは武器もなく戦える状態ではない。


 そこでエールとセレナがもののついでに引き受ける、と提案した。

 ダッシュは少々呆れたような顔でこう言った。


「別にいいけどお前ら、お人好しにも程があるぞ。金も貰ってないってのに」

「私は別に……エールが何でも引き受けちゃうから癖になってんのかなー」

「えぇっ! それって私のせいなの?」


 スパーダはトレンチコートをぎゅ、と握り締めて問いかけた。


「なんで……そこまでするんだい? 報酬もないのに。なんでそこまで……」


 エールは俯きがちになって、照れくさそうに答えた。


「分からないけど……私はお姉ちゃんの真似をしてるだけだよ。こういう時、お姉ちゃんならきっと困ってる人を助けてあげるって。優しくしてあげるはずだって、そう思うんだ……」


 幼い頃からエールは姉の背を追いかけるように生きてきた。

 何をするにしてもまずカノンの真似をした。まるで自然のことみたいに、他者に手を差し伸べられる人。それがエールの自慢の姉。『熾天使のカノン』の在り方なのだ。


「……君たちは、僕の知ってる銃士とは……違うんだな」


 エールとセレナの人柄に触れて、スパーダは自分が色眼鏡をかけていたことに気づいた。銃士だからどうとか、そんなのは勝手な決めつけだった。彼女たちはこんなにも優しい人間なのに。なのに、幼稚な嫌がらせをしてしまった。自分の愚かさを恥じるしかなかった。


「……カノンさんは、海を見に行くと言っていたよ。ウェンディゴの海は綺麗だから一度は見に行くべきだって……僕に勧めてくれた」


 エールは目を見開いた。海。それが姉の目指した次の目的地なのだ。

 話から推察するに、きっと向かった先は天蓋都市ウェンディゴに違いない。

 ウェンディゴはこの国で最大の港町なのだ。すると船に乗ったのだろうか。


「……あの。スパーダさん、教えてくれてありがとうございます。お姉ちゃんは海を目指したんですね……!」

「こちらこそごめん……君たちにはすまないことをした。でも僕が知ってる情報はそれだけなんだ。そこから先までは分からない」

「ふぅん。海かぁ……『最果ての楽園』ってどこにあるんだろ。他の国なの? なんか全然分からないね」


 セレナの何でもない呟きに、スパーダは驚いた。


「えっ。何? 私変なこと言ったかな?」

「カノンさんは『最果ての楽園』を目指していたのか! それは知らなかった」

「そ、そうだけど……それがどうかしたの。確かに荒唐無稽な話だけどさぁ……」

「いや……違うんだ。そうだけどそうじゃなくて……僕もなんだ」


 エールの肩でうつらうつらしていたエリーゼが、ぱちくりと目を覚ました。


「私たちも~……『最果ての楽園』を目指してるの。私の故郷なの~……」

「えぇっ!!? そうなの!?」


 びっくりしたエールは肩のエリーゼを掴んで問い質した。

 もしかしたらこの風の妖精が楽園の場所を知っているかもしれないのだ。


「教えてエリーゼ、『最果ての楽園』はどこにあるの!?」

「私も知らないよ~……だから探してるの。スパーダも手伝ってくれるけど中々分からないの……」


 エリーゼは生まれた時たしかに『最果ての楽園』にいたらしい。

 風の中を漂っていると、楽園に大嵐が吹き荒れてエリーゼはその風に巻き込まれた。海の上をずっとふわふわしているうち、気がついたらこの国に流れ着いていたという。


 そして不幸にも密売を行う商人に捕まってしまい、売られかけたところをスパーダに助けられる。以後、エリーゼとスパーダは仲間となって冒険者稼業を続けていたそうだ。


「そうだったんだ……でも場所は分からないんだね」

「エールごめんねー……私も小さい頃のことだからよく覚えてないのー……」

「ううん。いいの。ありがとう……」


 エリーゼの話が聞けただけでも、ひとつの収穫だとエールは考えていた。

 海の上をずっと流されてこの国に着いたということは、少なくともこの国に楽園は存在しない。他国を目指すとなると、向かうべき場所はやはりウェンディゴということになる。


 ウェンディゴには海外と貿易している船もたくさんあるからだ。

 姉であるカノンの次の目的地とも一致している。やはりカノンは正しく楽園を目指しているのだ。頭の中でどうやってウェンディゴへ行くか考えていると、エリーゼがこう提案した。


「ねー……エールが良かったら、私たちを仲間にして。だめかなー……?」


 たしかに目的地は同じだ。だが自分が勝手に承諾してしまっていいのだろうか。

 エールは黙ってセレナとスパーダの顔色を窺った。二人がどんな返事をするか、分からない。特にセレナはスパーダを嫌な奴だと思っている。


「私は構わないよ。冒険者がいてくれると旅も安心だし、嬉しいぐらいだよ」


 エールの悪い想像は現実のものとならなかった。ほっと胸を撫でおろす。

 根に持つタイプでないから、スパーダが謝った時点で過去のことは水に流してくれたのだろう。


「僕を仲間にしてくれるなら……足は引っ張らない。精一杯頑張るよ」

「ありがとうスパーダ。一緒に『最果ての楽園』を目指そう!」


 エールはスパーダと握手を交わす。

 こうして新たな仲間が二人も加わったのだった。

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