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10話 森の破壊者

 魔導砲には発射できる魔法に幾つかのバリエーションがある。

 基本の魔法である『プラズマ弾』に先日披露した『火炎放射』もそのひとつ。

 今回使用するのは『誘導弾』である。魔力を探知して自動飛翔する光球を発射し、着弾時に爆発する。


 一見便利だが、知能が高く、魔法の心得がある魔物相手には通じずらい。

 魔力の塊を放ってデコイを作ってやればそれだけで防げるからだ。


 だが、アンダーワームにそんな芸当はできないので、今回は有効だと判断した。

 その説明を現役の銃士二人から聞いたポーラは魔導砲の性能の高さにただ驚くしかない。


 エールは魔導砲の筒先を上へと向けると、魔力探知を開始した。

 近くにいるエール、セレナ、ポーラの三人。少し離れたところに反応がひとつ。

 離れた位置の反応がアンダーワームで間違いないだろう。


 それめがけて、一発で倒すつもりで『誘導弾』を発射した。

 緑色の光球が天高くへと昇っていく。光は放物線を描きながら森の奥へと吸い込まれた。やがて遠くから爆発音が響き渡ったのを確認すると、ポーラが樹木に手を添える。


「……うん、ちゃんと命中したと思う」

「やったね……まさか倒せてないってことはないでしょ」


 エールとセレナは希望的観測で話していたが、樹木から手を離したポーラが首を横に振る。


「駄目だ。倒せていないようだね。まだ生きている……と森が言っている」

「そんなっ。威力は十分のはずなのに……!」


 手応えを感じていただけにエールは肩を落とす。


「アンダーワームってそんなに頑丈な魔物なんですか?」

「個体によっては弓矢も効かないが……爆発の魔法には耐えられないと思うね」

「ということは……何かトリックがあるわけですね。それが何か分からない」


 その時、セレナの頭を掠めたのはニコラ村を襲ったコボルドだった。

 コボルドの中にプラズマ弾が効かない異常に強い個体がいたのを思い出したのだ。そいつは胸にダイヤにも似た宝石の欠片を埋め込んでいた。


 だが、まさか。セレナはありえない、と心の中で否定する。

 同じものがアンダーワームにもあるなんて偶然にしては出来過ぎている。

 それに、前回戦ったときにそんなものは埋め込まれていなかった。


「それより、早くここを移動しよう。敵に居場所を悟られたかもしれない」

「賛成です。エール、行こう。しょげてても始まらないよ」

「うん……そうだよね」


 ポーラを先頭に木々を間を縫うように移動を始める。

 三人が異変に気づいたのは少し経ってからだった。

 高い視力を持ち、遠方まで見渡せるポーラが一番早くに反応した。


「アンダーワームが突っ込んでくる……! 速いぞ!?」


 白衣の男に埋め込まれた『欠片』の効力で以前より頑丈に。更に巨大に。

 森の木々を薙ぎ倒しながら、一直線に突撃してくる。避けなければ轢かれて死ぬ。


 だがエールとセレナの身体能力では回避も間に合わない。

 ポーラがすかさず二人を抱えて跳躍し、離れた樹上に逃げなければ危なかった。

 エルフは人間に比べて身体能力が高い傾向にあるのだ。


「た……助かったぁ。すっごい迫力だったねエール……」

「感心するのは後だ。もう一度突撃してくるぞ……!」


 大物なのか、どこか能天気な発言をするセレナに、ポーラが注意を飛ばす。

 アンダーワームは木々がひしめく森などお構いなしに、急旋回して方向転換。

 その頭部に埋まったダイヤに似た宝石の欠片を輝かせて、また突っ込んでくる。

 なんと奇妙な縁だろうか。セレナは自分たちに不運が重なったのだと思った。


「エール、あの頭の『欠片』を狙って! あれを壊せば弱体化するかも!」

「うん、分かった!」


 魔力はすでに充填されている。魔導砲を構えてプラズマ弾を発射。

 青白い光が尾を引いてアンダーワームに迫り、頭部にくっつく『欠片』に着弾する。が、効果なし。まるでバリアのような、魔力の膜がアンダーワームを覆っているのだ。


「駄目だよセレナっ! まるで効いてない!」

「ああーそういうことかっ。あれで誘導弾も防いだのかっ!!」


 エール、セレナ、ポーラの三人は他の木に飛び移って三方にバラけた。

 集まっていたら良い的だ。これなら誰を狙うかアンダーワームも迷うはず。

 アンダーワームがすかさず標的に決めたのは、前回自身を焼き殺そうとした敵。すなわちエールだ。ぐいっと急激に曲がりつつ怨敵めがけて急加速で迫っていく。


「あわわっ、ど、どうしよう!?」


 無闇に魔導砲を撃ったところでろくにダメージは与えられない。

 かといって逃げてもすぐ追いつかれるだろう。絶体絶命の窮地。

 その窮地がエールの思考をある意味、刺激した。無謀とも思える奇想天外な方法を思いついたのだ。


「いちかばちか……誘導弾っ!!」


 魔力量を調節して威力を減らしつつ、爆破の方向とタイミングをコントロール。

 魔導砲を下に向けて誘導弾を撃つとそれはエールの狙い通り、絶妙に爆発した。

 本来なら敵を殺傷するためだけにあるこの爆発をすべて推進力に変える。それがエールの無謀な策だった。


 結果として、エールは卓越した魔力制御と魔導砲の操作技術により、その作戦を成功させる。まるでカエルがジャンプするみたいに、はたまたボール球を上へ高く投げた時みたいに、アンダーワームの届かない空中へと浮上したのだ。


「エール!? なんて無茶なことをっ! でも凄いっ! さすが私のエール!」

「冗談だろう、一歩間違えれば爆死だぞ! というより……あれはどうやって着地するんだ!?」


 驚嘆して褒めるセレナと正気を疑うポーラ。

 空高くへ逃げられ標的を見失ったアンダーワームは突進を止めて急停止。

 そして思考。なんだかふわふわ飛ぶ面倒な奴より、確実に倒せる敵を仕留めることにしたのだろう。ゆっくりと反転してポーラとセレナに狙いを変える。


「魔力、充填開始っ!」


 森の木々より高い位置まで上昇したエールは残された切り札の準備を開始する。

 放つのは『欠片』を持ったコボルドを倒した荷電粒子砲『ハイペリオンバスター』だ。


 最早、アンダーワームを倒せる攻撃手段はそれだけしか残されていない。

 弓矢はもちろん、セレナの魔導銃では掠り傷ひとつ負わないだろう。


 充填が完了したのと同時に、エールの身体は徐々に降下を始めていた。

 アンダーワームはまだ大きなアクションを起こしていない。今なら狙える。


「どうする? 私が君を抱えれば逃げることはできるが……」

「大丈夫です。きっとエールがなんとかしてくれます」


 他人任せとも解釈できるが、それは強い信頼の表れなのだとポーラは理解した。

 現に、空から落ちてくる光は少しずつその輝きを増しているのだから。

 セレナは何の心配も無かった。やがて全てを終わらせる一撃が降り注ぐ。


「ほら、ポーラさん……来ましたよ!」

「行っけぇぇぇぇっ!! ハイペリオンバスタぁぁぁぁーーーーっ!!!!」


 放たれた荷電粒子の奔流がアンダーワームの身体を焼き尽くす。

 生半可なバリアなど容易く突破して、光の柱が芋虫型の身体に大穴を穿つ。

 逃げる暇など与えない。今度こそエールはアンダーワームを倒したのだ。


「うわわっ、うわ~っ!?」


 勝利したのも束の間、エールは木々の中へがさがさと落下していく。

 さいわい、何本もの枝がクッションの役割を果たしたことで尻餅をつくだけで済んだ。


「いてて……」

「エール、大丈夫!? 生きてて良かったぁ……!」

「えへへ……そんな簡単には死なないよ。お姉ちゃんに会うまではね……!」


 セレナが走ってやって来て、エールが生還した喜びを示すように抱擁する。二人で光の粒となって消えていくアンダーワームを見届けると、ようやく終わりを実感した。


「勝ったのは良いけど……森がめちゃくちゃですね……すみません、ポーラさん」

「エールが謝ることではないよ。あの魔物はとんだ森の破壊者だったね。まるで嵐が通り過ぎた後だ」


 見渡せば、倒れた木々ばかりの惨憺たる有様だ。

 森番であるポーラはきっと心を痛めているだろうと、エールは思うのだった。

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