第四話 刺胞
俺たちは地下三階の訓練室でガイルと向き合っていた。
「えっとーここで僕たちはガイルさんと戦うんですよね」
ハインが質問する。
「あぁ、今魔血液を持ってきてもらっている」
魔血液?
一体それはなんなんだろう。
「やあみんな。初めまして!」
(誰だ?!)
後ろを振り向くと、訓練室に唐突に、メガネをかけ両手で木箱を持った男が入ってきたのが見える。
「あいつはケビン。ケビン・ベル。技術班だ」
そうガイルが答える
「どーも!解放戦線ここで技術班やらせてもらってるケビンだよ!」
そういってケビンはメガネを光らせ、俺たちを舐め回すように観察した。
「おぉ!そこの君!君はいい刺胞が出そうだ」
そういってアレリアの方を興奮気味に見ている。
アレリアはいきなり近づかれて、肩をビクッとさせた。
どうしてだろうか。
今まさに行われている彼の行動が最高に不愉快なのは。
「ケビン。さっさと持ってきたものを出せ」
「へいへい。わかったよ」
ガイルに言われて、ケビンはやれやれという感じで持ってきた箱の中をゴソゴソしだした。
それにしてもさっきから魔血液だの刺胞だのよくわからない単語が矢継ぎ早に交わされている。
「さっきからこの人たち何いってるのかさっぱりだよ」
ハインが横から耳打ちする。
「聞いてみればいいじゃない」
「あのメガネの人はともかくガイルさんにはちょっと聞きずらいんだけど...」
俺がそう低く喋るとガイルは眉をピクッとさせた。
(やべ、ゼッテー聞こえてるわこれ)
これからの訓練にさらなる不安要素を重ねる結果となってしまった。
そんなこんなでどうやらケビンの準備が完了したようだ
(注射器?)
一体なんだろう。
なんかヤバいもの入ってないかが心配だ。
「じゃあまずは最初に僕が使うから、三人はよく見ていてくれ」
そう言うとケビンは右手に持った注射器を左手にさし、中の赤い液体を流し込んだ。
すると。
ケビンの頭から一本のツノが生え右手の先が長いランスの先端のような形状に変化した。
およそ生物から生えてくるとは思えない外観だった。
なにせそれは金属光沢のようなものまで出ていたのだから。
ケビンはその右手を指して
「これこそが僕達の最大の武器「刺胞」さ」
と言った。
彼はまさに悪魔そのものだった。
あの故郷の里でハインの家の執事が肩から生やしていたのはもしや刺胞だったのだろうか。
いやほぼ確定だろう。
執事も頭にツノが生えていたしな。
「それじゃあ君達もこれを刺してごらん」
そしてケビンは机にあった三本の注射器を俺たちに配った。
(本当に大丈夫か?)
他の二人が刺したのを見たら刺そうと中々情けないことを考え横を向くと、躊躇なくアレリアが注射器をぶっ指していた。
なんと言う男気...
するとアレリアの手首から無数の鞭のようなものが現れた。
「おおおおお!みろガイル!僕の予想は大当たりじゃないか!」
ケビンが興奮気味にガイルに向かって叫ぶ。
当のガイルはウルセェといった表情だ。
「おお!こっちは鎧持ちか!」
ハイルは胸部に赤黒い板のようなものが出現していた。
「いやぁこれは粒ぞろいだねぇ〜」
そんな風に言われるとハードルが上がって仕方がない。
俺はそう心の中で不満を垂れながらも渋々注射器を刺した。
すると。
体に変化がない。
(は?!)
「でろ!この!でろ!」
力んでみるが何も起こらない。
ケビンがあれーという目でこっちを見ている。
(ちきしょう...!)
俺は全力を出して右手を振った。
すると。
ズゴん!!と音を立てて何かが発射された。
「あー投擲かぁ」
(えぇー...?)
すごく微妙なものを見た人の感想だ。
「その、投擲とかいうのはあんまり良くないんですか?」
俺はおそるおそる質問する。
「いや、悪くはないんだけど扱いが難しくてね。速度は出てるっぽいんだけど制御が難しいよね?それに一回能力を使うと装填に時間がかかるケースが多いんだ」
ケビンはそう説明する。
能力を使ってから約15秒といったところだろうか。
ようやく次の刺胞が俺の右肩の上に出現した。
この刺胞はどうやら剣のような形をしている。
「刺胞が有効なのは白兵戦なんだけど、連射が効かないと魔術の方に軍配があがるって感じなんだよね」
「マジすかぁ...」
ハインがドンマイといった具合に肩を叩いてくる。
アレリアを見ると申し訳なさそうに目をそらされた。
うぅ。
しかしケビンは俺のツノを見ると目の色を変えた。
「あ、ツノが正中線からずれてるね」
触ってみると、確かに俺のツノは左に寄っている。
「それは何か違いがあるんですか?」
「これは双角ってやつだよ。これはずれてるんじゃなくてツノが二本あるって事なんだ。今は一本しか生えてきてないけど、もしもう一本生やすことが出来たら大分能力も上振れるよ」
なるほど。
潜在能力はあるってことか。
「よかったわね、ノア」
アレリアが刺胞を振り回しながらそういってくる。
「俺はアレリアの方がよっぽど羨ましいぞ」
「ふふん、それはどうも」
随分と上機嫌だ。
「それじゃ早速訓練するか〜!」
ケビンがパンと手を叩く。
それまで座っていたガイルが立ち上がり、
「来い」
と一言だけ言った。
「あれ、ガイルさんは注射しないんですか」
「彼はね〜刺胞が出ないんだよ」
嘘だろ。
俺は戦力外としてもアレリアの鞭は特に強力そうだ。
打ち込めば体なんて微塵切りに出来そうな外観だぞ。
それなのに素手で俺たちと戦うっていうのか...?
「本当に大丈夫なんですか?」
ハインは一方的な試合を連想しているのかニヤニヤしている。
「構わん」
ガイルはそういうと構えをとった。
「じゃあ、行くわよ」
アレリアが合図する
俺たちは一斉にガイルに飛びかかった。




