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第三話 初めての街

というわけで俺達が今頼りになるのはこの目の前にいる男ガイルのみという訳だ。

山道をひたすら進んでいくガイルだったが、よくよく考えてみると、見ず知らずの男に付いて行っている状況は中々に危険なのではなかろうか。


「なぁ、勢いで俺が言っちゃたのもあるけどさ...本当に解放戦線の人なのかな?」

「そうじゃなかったとしても、もう私たちが生き残る方法なんてほとんどないわよ。ランツェ人に捕まっても里に居たことがバレれば収容施設送り。」

「僕たちは三人だしワンチャンないかな?」


そう、ひそひそ話し合っているとガイルが振り向いた。

「解放戦線の構成員になるお前達にアドバイスだ、密語を交わす際は相手に聞こえないようにしろ」

(ひっ..!)


聞こえていたのかよ...

どの道ガイルに付いて行こうが行かまいがランツェ人に銃殺されるのがオチだ。

なら、まだ可能性のある方に黙ってかけたほうがいいだろう。


てゆうかこのガイルって人さっきからずっと黙ってるな...。

何か話題を振った方がいいだろうか。

ガイルがどれほどの情報を持っているのかを見極めるためにも何か質問してみるか。


「あの、公安ってのはなんなんですか?」

公安が近衛隊という、ランツェの指導者の私兵の一部であるのは知っているが、その存在理由はよくは知らなかった。


ガイルは俺の言を聞くとムッと眉を寄せた。

なんというか表情の起伏が怒の方向にしかなさそうだこの人。

まぁ辛うじて表情筋は生きていたようだ。


「公安はレーテ人を管理したり、俺たちレジスタンスを逮捕したりする組織だ。普通の警察と言うより軍隊に近い装備を持つが一応警察機関だ。」

つまり解放戦線は基本公安との戦いという訳か。


「だが今は近衛隊は前の指導者が死んだおかげで大分増長している。今ランツェは政府と軍と近衛隊の三つ巴だ」

なんというか随分と長く喋らせてしまった。

早めにお礼を言うのが最善か。


「あの、ありがとうございます、大体分かりました」

そういうとガイルはムスッとまた無表情になった。


うーむ。

なんというかコミュ障同士の会話というかなんというかとにかく気まずい。

もし本部に行ったらこの人が上司かもしれないしな。

ヨイショの仕方を学んでおくべきだった。









『ラゴアはベルデン島で重要指定遺産が豊富な都市の一つで街の中心部にあるラゴア城は特に観光に人気のスポットである』

〜シュバルツ・ホーネ著「ベルデン島の正しい歩き方」より〜









人々の雑踏が大きな街道の向こう側まで無限に続いているかのようだった。

朝日が建物のガラスに反射して街を彩っている。


「うわぁぁあ〜!」

初めての街を見てハインが驚きの声をあげている。


ここはベルデン半島で委任官庁があるルーテンベルクに次ぐ都市と言われているラゴアという所らしい。

「おいお前、あんまり騒ぐな。俺たちは街では極力目立たないようにするんだ」

ガイルがハインの頭を掴んで言った。


怒られたハインは涙目でお前じゃなくてハインです〜とか言っているが俺はそんなことには気がまわらなかった。

初めてきた街の景観に釘付けにされていたからだ。

とにかく里にいた頃には見もしなかった、とんでもない高さの建物が林のように立ち並んでいる光景に目を奪われざるを得なかった。


だが。

隣にいるアレリアを見て俺はそんな浮ついた感情も霧散した。

彼女は街の収容所にいたはずだ。

なら、ずっとランツェ人に酷使されてきた。


よくみると彼女の手は震えているように見えた。

俺はガイルとハインが歩き出したのを見て勇気を振り絞り、さりげなく手を引くようにして彼女の手を掴んだ。


「大丈夫か?」

「いい。大丈夫よ。道ぐらいわかるわ」


俺はそうかと言って手を離すことしかできなかった。











「ここだ」


結論から言うと、いや、ここホテルじゃん。

「ホテル・ボルネマン」って書いてるじゃん。

なんというか全くもって反政府組織っぽい佇まいではなかった。


「あの〜ここって本当に本部なんですか」

「そうだ」


まじかよ。

本当に大丈夫なのだろうか。


するとガイルは表の入口を通り過ぎ裏路地へと入って行く。

俺たちも遅れないよう付いていくと、そこにはただの壁しかなかった。


もしかして嵌められた?

だがその心配も杞憂に終わった。

ガイルがその手を壁に当てると何もなかったところにドアが現れ、そのまま彼はドアの奥の下り階段を下って行った。


「これは光学系の擬態術だ」

俺の疑問にガイルはすっと答えてくれる。

「もしかして魔術師がいるんですか?」

「いない」


じゃあどうやってあれは出来ているのだろう。

「あれは魔道具だ。ランツェの施設を襲撃した時の戦利品だ」


なるほど、そんなものもあるのか。

つくづくランツェ人の持つ魔術の有用性に驚かされる。

あの近衛隊員の男が使った衝撃波のような物は魔導器官に作用して生み出した物だったのだろうか。


階段を下り切ると、無機質なコンクリートの壁で覆われ、沢山の機械のようなものが並べられているかなり大きめな部屋へとたどり付いた。


「同志クラウディス。今戻りました」


なんと、ガイルが椅子に座っている男に敬語を使っている。

別におかしくもなんともないのだが、ずっとぶっきらぼうな喋り方だったので少し違和感を感じたのだ。

「よく戻った。ガイル」


腹に響くような声が部屋に浸透する。

ガイルは俺たちより一歩前に出てクラウディスと呼ばれた男に喋りかけた。

「報告します。ウンデの里は公安に襲撃され、住民は連行されました。また組織関係者が何人か銃殺された模様」

「長は?」

「狙撃され、絶命しました」


俺の脳に衝撃が走る。

死んだ?

右に目やると、拳を握りしめ、うつむくハインの姿があった。


失念していた。

俺が父さんを失ったことに錯乱してそこまで考えが及んでいなかった。

ハインも失っていたんだ。

なのに俺はハインに、大丈夫そうなふりをしていたハインに寄りかかっていた。


「ハイン...」

「大丈夫だ。必ず変える。それまでは倒れない」

でも、とハインは続ける

「倒れそうになったら、寄りかからせてくれ」


それが初めて聞いたハインの弱音だった。

ただその言葉が俺の冷えた脳に染み渡る。


支えられるようになりたい。

支えられるくらい強くなりたい。

頷くことしかできない俺を奮い立たせるように、そう決心した。


どうやらガイルがほとんどの報告を終えたようだ


「ガイル。後ろの三人は?」

「これは新しい構成員です。里で志願してきました」

「そうか。君たち、前に来たまえ。」


俺たちはクラウディスの前に立った。

男は穏やかな顔をしていたが目にはとてつもない力が感じられた。

クラウスは俺たちを見定めるように見る。


「勇敢なる諸君。君達のルーテ解放戦線への加入を歓迎する。」

俺は戦線に加入し、ひとまず銃殺される危険が遠退いたことにホッと胸をなで下ろした。


「だが」

(だが...?!)

「まずは君達がどれだけ使えそうなのか見させてもらう。三人でそこの男と戦うんだ」


クラウディスが指した先にいたのは、闘気ムンムンのガイルだった。

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