表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/9

第二話 逃避

また俺は家族を殺した。

一度ならず二度までも。


リーンハルトは手錠を持って俺の方に迫ってきた。

「殺しはしない。貴様は我々の奪取目標だ」


おそらく俺は歯向かわなければ殺されない。

でも、俺はバカなことに台所の野菜の皮が付いたままの包丁を取っていた。

リーンハルトの双眸が少し伏せられたかと思うと、彼の右手は手錠ではなく父さんを撃った拳銃を握っていた。

「武器を置け、打つぞ」


俺は戦う。

母さんと父さんを殺したのは俺の罪だ。

俺の存在が異能に飲み込まれない為に、俺の魂が、俺の罪を償う!


「うああああああぁぁぁ!!」

包丁を中腰に放たれた全力の突撃は、けれど届きはしなかった。


リーンハルトの翡翠の双眸が見開かれ、空間が押し出された。

後方に紙っぺらのように吹き飛ばされた俺の体は、リビングの壁に激突した。


「ぐッ...いてぇ」

今のが魔力か...!

(はッ!)


目の前に銃口があった。

普通に考えて、包丁一本で武装した魔術師に何ができたのだろう。


リーンハルトは無言で引き金を引こうとする。


「ひぃ!」


情けない声をあげて俺の体は硬直した。


なんで立たない?

なんで戦わない?

なんで償わない?


俺は怖じけずいたのか?


「ノア!危ない!」


次の瞬間、何かが俺のもたれかかる壁をぶち破った。


「は?」


ハインの屋敷の執事が頭からツノを生やし、肩から伸びた触手がリーンハルトの脇腹を擦り取っていた。

「ハイン!友人殿を連れてお逃げください!早く!」

「ノア!早く逃げるよ!」

ハインが俺の腕を掴んで立たせようとする。

混乱した頭の中で、けれど誤魔化しきれない絶望が鎮座していた。


父さんはもういない。



********************************


「クソが...」


「怖じけずいたんだ...逃げたんだ...」


証明できなかった。

俺の振り絞った勇気は、魔力の前ではちょっとした血圧の高ぶりでしかなかった。

ランツェに焼き払われた故郷を囲う、蕭条たる森の中。

俺ただ俯いたままどこにも行けなかった。




「ノア...」

ハインが俺の背中をさすっている。

俺は見てしまった。

学校で一緒に通った友達が、いつも俺たちが庭の野菜をくすねていたおばさんが、みんなが

公安に蹴られ、殴られ、撃ち殺されるところを。


「ノア!ハイン!」

森の中にアレリアが叫びながら走ってくるのが見える。


「ノア?ゲルト先生は...」

「死んだよ。」

「っ!ーごめん」


「みんな、みんな俺の所為で...。俺が公安に狙われてるから...」


また殺してしまった。


「ノア、ここは危ないから早く逃げよう、遠くに」

アレリアがいった。

なんでそんなこと言うんだ。

俺の所為でせっかく手に入れた平穏をアレリアは失った。

俺がいたから、

「アレリアは俺の所為でまた住む場所を失ったんだ、ハインも執事を俺の所為で置いていった...なのになんで俺を置いて行かないんだ...」


「友達だから」

アレリアが口を開く

「友達が死なずに私を置いて行かなかったから、私もその友達を置いて行かない。」


俺は、そうアレリアに言われた時、きっと安心したのだと思う。

俺を俺のまま思ってくれる人がいたって、とてつもなく安心したのだと思う。


だからか、暖かい涙が頬を伝って、森の土に染みた。








「おい、そこで何してる」

大人の声がした。

俺たちは一斉に振り向く。


「誰ですか?」

「不審者じゃない。そう睨むな」

男はぶっきらぼうだが落ち着いた声で言った。


「俺はガイル。ルーテ解放戦線の構成員だ」

どうやら不審者ではないようだが反乱分子ではあったようだ。


「解放戦線の人でしたか。僕たちはさっき襲撃された里から逃げてきました。助けてもらえませんか」

「......俺は里の様子を報告するよう言われている。本部に戻らなくてはいけないからお前達を保護している時間はない。本部で匿うために構成員になるという手もあるが」

ガイルと名乗った男はあくまで無表情に言ったが、その目には呵責に満ちているように見えた。


だが、もはや俺たちに残された道は多くない。

それに、それは俺たちが望むものでもあった。



「俺は入るよ」

「は?」

ガイルが突然のことに戸惑った。


「僕も」

「私も入る」


俺は大きく息を吸い、

「解放戦線に入るってんだよ」

そう放った。


「....そうか、いいだろう、付いて来い」


解放戦線に入って、俺が父さんと母さんの子供で、ちゃんと俺として生きていいことを証明する。


『目』を開いて遥か遠くにいる母さんを見つめて俺は静かに決意した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ