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ルビー宮へようこそ

作者: 姫

―シュリンドラ王国のルビー宮。1000年前から誰も立ち入ったことは無く、今後も何人たりとも立ち入ってはならない。貴方も呪われてしまうから―


これは、この国に伝わる有名な昔話。1000年前に悪い魔女が美しい姫に呪いをかけてルビー宮に閉じ込めた。もちろんフィクションだと思われているが、この話は真実だ。

…何故わかるかって?それはね…

「誰と話しているんだい、ローズ?」

黒いマーメイドドレスに時代遅れのとんがり帽、右手に黒水晶の付いた杖を持ち、足元に黒猫を連れている。この女こそ、この昔話の悪い魔女―私を閉じ込めた張本人だ。

「誰とでもないわ、ロジエ」

「そうかい、別にアンタが誰と話していたって構いやしないけどね。なんてったってここには誰も来ないもんだから、ついに頭がイカれちまったのかと思ってね」

「そうね。私と、ロジエと、クロだけだわ。あーあ、誰でも良いから来てくれないかしら」

そうボヤきながらクロと呼んだ黒猫の頭を撫でてみる。我ながら安直な名前だと思う。

「それは無理な話だろうよ。なにせこんな噂が出回っているんだからね」

ロジエは先程まで私が手にしていた絵本を取り上げ、呆れた顔をしながら高々と掲げる。

「昔の話よ、若気の至り。この“呪い”だって、どんな呪いかについては書かれてないわ」

「しっ!それ以上は誰かに聞かれたら困る」

「あら、可笑しなことを言うのねロジエ。誰も来ないって言ったのは貴女じゃないの」

あからさまに嫌そうな顔をしたロジエを暫く笑いながら見つめていると、不意に扉の開く音が聞こえた。

 ギィッ

「あら?誰か来たのかしら」

「100年越しのお客さんか、肝試しの迷惑な連中か、野生の動物の三択だね。アタシは野良に賭けるよ」

「私はお客さん!」

「ローズ、毎回その選択をして負けているじゃあないか。アンタには勝つ気ってのが無いのかい?」

「だってワクワクするじゃない!どんなお客さんかしら。男の子?女の子?それともご老人?…どんな方だって良いわ、最っ高のおもてなしをしてあげる!」

「まだ客だと決まったわけじゃないだろうに…。まぁ良いよ、アタシが勝ったら今日の明日のおやつはガトーショコラ」

「私が勝ったらショートケーキ!さ、答え合わせに行きましょう!」

やれやれといった顔のロジエの手を引っ張って扉に向かう。132年ぶりに開いた扉の前には、10歳前後の男の子がいた。

「いらっしゃい、ルビー宮へ!貴方のお名前は?」

「嘘だろう…?」

ロジエが隣で顔に手を当てて絶望している。明日のおやつはショートケーキで決定だ。

「ボ、ボク…み、道に迷っちゃったみたいなんだ…。お姉さん、助けてくれる…?」

私とロジエは顔を見合わせる。

「ごめんね~!お姉さんたち、このお城から出られないの。どうしようかしら」

「そうだねえ…。坊や、一晩だけここに泊まって行きな。その間に、あんたの母親を探しといてあげるよ」

「い、良いの…?!あ、ありがとう!」

「良いのよ、私はローズって言うの。それで、このとんがり帽のお姉さんがロジエ。よろしくね!」

「う、うん…よろしく。ボ、ボクはロバートだよ」

「そう、ロバートね。素敵な名前だわ!…ねぇロバート、ここはルビー宮よ。怖くは無いの?」

するとロバートは目を見開き、暫くしてから顔を少し赤らめて話し始めた。

「こ、怖くないよ…。あの昔話を聞いたとき、むしろ少し会いたかったんだ。お、思わずさらわれてしまう程美しかったお姫様に。お、思った通り、いや、それ以上に綺麗だったから…だから、全然怖くないよ。…ボクとは大違いだ…」

「あら、ありがとうっ!でも、ロバートもすっごく可愛らしくてチャーミングよ!それにとってもハンサムだわ!」

「嘘だっっっ!!」

それまでどもりながら話していたロバートが、突然大声を出した。

「ボ、ボクがハンサムなわけがないんだっ…!ローズ、なんで嘘をつくの?そうやって表だけ偽って同情されるのが、一番傷つくんだよ…」

「嘘なんてついていないわ。何故貴方が私の言葉を嘘だと判断するの?」

「だ、だって、ボクは話すのが下手だからいっつもクラスの子達に馬鹿にされるんだ…それに、顔だってソバカスだらけだ。このブロンドの髪だって、綺麗な金髪なんかじゃない。…ローズみたいな綺麗な人にはわからないよ…」

「私は貴方と話していて不便だと感じたことは無いわ。それに、そのソバカスだって素敵よ。ブロンドの髪ももちろん素敵!“綺麗な金髪”なんて、だれが決めたの?光沢があったって眩しいだけよ、話してたら目が焼けちゃうわ。ふふっ!私は貴方の髪色が大好きよ、少しブラウンに近いからとってもクールでお洒落なんだもの。自信を持ちなさいな、胸を張れば誰にも笑われないわ!」

「で、でも…」

「“でも”じゃないよ、坊や。アタシだってこの黒髪や恰好で昔は沢山笑われたさ。でもね、今だって胸を張って町を歩けるよ。“でも”なんて言葉を使うのは自分が笑われた時だけにしな。わざわざ自分を蔑むことは無いんだ、笑ってくる奴らは放っておきなよ。どうせアンタの短い人生の中でソイツ達が有益になることなんて無いんだから」

「そうよ!自分のことなんだから、基準は自分だわ。他人と比べるのは、遺伝子を全てお揃いにしてからにしなさいな」

「…ローズも、ロジエも素敵だね。ボクも、胸を張って生きてみたいな…」

「ん、その調子だよ。ほら、おまじないをかけてあげよう。手を出してごらん?」

ロバートがロジエに手を差し出すと、ロジエはロバートの手を優しく包み込み、“おまじない”をかける。

「アンタは素敵だ、誰もそれを否定する権利なんて持って無いよ。強く生きな」

「ありがとう、ローズ、ロジエ!」

そう言うと、ロバートの姿は泡となって消えていった。

彼の手には、タンザナイトの原石が強く握られていた。


ここはルビー宮。昔話に出てくる御伽の城。住んでいるのは2人の女性と1匹の黒猫だけ。

このお城が登場する昔話はこんな言葉が最後に綴られています。

 ―手には石を、心には花を―

貴方の生きる意味こそが、貴女にかけられた真の呪いです。

呪いをかけてほしい方は、いつでも『ルビー宮へようこそ』。

ここまで読んでくださってありがとうございました。初投稿でしたので右も左もわかりませんでしたが、こうして誰か一人でも最後まで読んでくださったことに感謝しかありません。続きは書く予定です。

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