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第9話 主人公は財閥令嬢とデートする 前編


 清秀院さんとの初デートの日がやって来た。


 白のワンピースを来た彼女が運転手付きの車で俺の家まで迎えに来てくれ、産まれて初めて高級車に乗った。車内は凄く広々としていて座席の座り心地も抜群、おかげで遊園地のMDランドまで清秀院さんと楽しく過ごせた。


 男の俺が清秀院さんにデートで送り迎えしてもらうのは引っ掛かるものがあったが、MDランドまでは県をまたいでいるし、清秀院さんが移動時間もずっと俺の傍にいたいと聞かなかった。


 MDランドに着いた俺と清秀院さんは、学校で彼女が昼食の時に話していたアトラクションに乗ったり漕いだりして楽しんだ。そして日が沈んだ今、俺たちはある建物の前にいる……。


「結愛、ホントにここに入るの?」


「も、も、もちろんです。カップルのデートと言えばここれす。わたくし覚悟は出来てましゅから!」


「いや、結愛めっちゃ震えてるよ。また次の機会に挑戦してもいいんだよ」


「大丈夫でしゅ。ゆきましょう」


 清秀院さんは俺の手を取って建物の中へと入ってゆく。


 建物の中に入るとすぐに受付が見えた。受付ではオバサンがいくつかの写真を差し出す。その写真にはデザインの違う部屋が写っており、オバサンは好きな部屋を選ぶように言った。


「優斗様、この部屋のベットは回転するみたいですよ。あっ、こっちの部屋とっても可愛いいです♡ こう言うホテルは初めてなので迷ってしまいます」


 清秀院さんは建物に入ってすぐに元気を取り戻した。

 入口で震えていたのがまるで嘘のようだ。

 案ずるより産むがやすしってこの事だな。


「結愛、後ろの人たちが待ってるからそろそろ決めようか。どうせやる事は同じだし」


『ちょっとお兄ちゃん、女の子に取って初体験はとっても大切なものなんだよ。だから優しくしとかないと後で恨まれるよ、それでもいいのかい? ヒヒヒッ』

 オバサンは下品に笑う。


 ちょっとこのオバさん何言ってんの!

 いくらホテル設定のお化け屋敷だからって、なりきりすぎだろ。


「そうですよ優斗様。わたくしの初体験、優しく受け取ってくださいね」

「っ!」

 清秀院さんの魔性のほほ笑みにドキリと胸が高鳴る。


 あまり高校生男子の性欲を煽らないで欲しい。

 そんな事言ってるとホントに襲ってしまうよ。


「うふふ、冗談ですよ。顔を赤くした優斗様もすごく可愛いです」


 ですよね。冗談って分かってますよ。

 でも清秀院さんなら頼めば本当にヤらしてくれるんじゃないかって最近思ってる。まあ、付き合ったばかりでそんな事はあり得ないって分かっているけど、彼女といるとその色かに惑わされて正しい判断が出来なくなってしまう。気を付けないといけない。


 ーー


 清秀院さんと俺は案内人に連れられてお化けの出る部屋に移動する。

 移動の途中、このお化け屋敷についての簡単な説明を受けた。


 部屋に入ると鍵がかかって出られなくなってしまう。そこで鍵を開けて外に出るためには幽霊の頼みを3つ叶えて除霊する事が必要になる。つまり除霊ミッションのお化け屋敷だ。


 俺たちは案内人の指示に従って部屋に入ると、2人で仲良くベットに仰向けに横たわった。

 天井にはなにやら天使らしき絵が描かれているのが見える。


「なんかあの絵、すごく怪しくない?」


「はい、絶対あそこから幽霊が出てくると思います」


 パチッ。


「きゃっ」


 部屋の明かりが消え暗くなった。

 それと同時に清秀院さんが俺の手を握ってくる。


 ガクッン ウィーン……。


 ベットがゆっくりと回転しながら上昇を始め、ライトアップされた天使の絵がだんだんと近づいて来た。


 うん、これ絶対あの絵から幽霊が出てくるパターンだな。


「優斗様……」


 清秀院さんは俺の手を握る力を強めた。


「大丈夫、俺がいるから……」

「はい♡」


 ガチャン。


 機械が停止し上昇が終わる。

 天使の絵までおそらく2メートルくらいの距離。

 けっこう近い。


 さあ、来るならこい!

 1秒、2秒、……。


 ガチャン、ウィーン。


 今度はベットが回転なしに下降を始めた。


 あれ何もないの? まさかのフェイント。

 分かった下に戻ったら幽霊がいるパターンね。


「……出ませんでしたね」

「そうだね(バタン)『イぃーヒヒヒヒッ!』」


 うおおっ!!


 油断したその時、天井の一部が開いて髪の長いオバケが頭から落ちて来た!

 お腹に向かって落ちて来る幽霊はとても怖い!


「きゃあああああああ「うわあああっ」」

 僕たちの絶叫が部屋中に木霊した……。




 ーー


 その後、俺たちは落ちて来た幽霊を無事成仏させてあげた。

 女の幽霊の髪を櫛でとかしてあげ、血みどろの洗面所から指輪を探して指にはめてあげた。

 最後にクローゼットにある服の中から幽霊の服を探し出し、渡してあげて終わり。最後だから清秀院さんは油断したんだろう、クローゼットの中の服を探している時に奥から別の幽霊の手が伸びて来て、彼女の腕を掴んだので絶叫していた。


「結愛、大丈夫? 最後の悲鳴はかなり大きかったけど」


「大丈夫じゃないですよ、すごくビックリしました。でも凄く楽しかったです。あっ、でも優斗様に抱きつく機会が無かったのが残念です」


「結愛はほんと冗談が好きだよね」

「うふふ」

 いたずらな顔で笑う清秀院さんもまた可愛い。


「そうだ、最後に夜景を見に行ってもいいですか。ここの夜景は行きと帰りでルートが違うので違う景色が楽しめるってメイドのお姉さんが言ってました。しかも8時になると花火が上がるですよ」


「そうなんだ、じゃあ行こうか」


「はい! では参りましょう!」

 清秀院さんはそう言うと俺の指に自分の指を絡ませて来る。

 俺たちは恋人つなぎをしながら仲良く歩き始めた。





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