第8話 幼馴染が主人公を捨てるまで 後編(詩織視点)
月曜日、優斗がいつものように私を迎えに来て登校する。
「おはよう、詩織」
「おはよう、優斗。今日もいい天気ね」
部屋で優斗が来るのを待ってる間わたしはずっと憂鬱だった。
朝起きて歯を磨き、朝食を食べて学校に行く準備をし優斗を待つ間、思い浮かぶのは昨日の事だ。
私は恋人の優斗に内緒で桐生君とデートしてしまった。
どんな顔をして優斗に会えばいいか分からなかった。何より1番の問題は、わたしの気持ちが優斗から離れて桐生君に向いている事。
私はまだ結論を出せていない。
頭は桐生君を選ぶべきだと言っているのに、心の一部がまだそれを拒んでいる。
早くこの良心の呵責から解放されたい……。
優斗と朝の挨拶を交わし学校に向かい歩き始めてすぐに、私は昨日の事を尋ねてみようと思った。
「ねえ優斗、そう言えば昨日のクラスメイトとのカラオケはどうだったの?」
「うん、楽しかったよ。クラスメイトの伊藤君って子と、特に仲良くなれて連絡先の交換もしたんだ」
「そう、よかったわね」
優斗の声はとても嬉しそうで嘘をついてる感じはしない。
「き……昨日は桐生君とは会ったの?」
「うん、桐生君はちょっと遅れて店に来たんだけど、僕が初めてのカラオケで何を歌おうか迷ってたら「お前このアニメ好きだろ一緒に歌おうぜ」って言ってくれて一緒に歌ってくれたんだ。すごく嬉しかったよ」
「そう……。それでカラオケには何時から行ってたの?」
「ん~、昼の1時頃だったかな。2時間コースてやつをやって、その後ボーリングに行ったんだ。そこでね伊藤君と同じレーンになって漫画やゲームの話しで盛り上がったんだよ」
優斗、嘘つかないでよ……。
桐生君はその時間はわたしといたんだよ。
何で平気でわたしに嘘をつけるの。
わたしの大好きだった誠実な優斗はどこに行ったの?
許すのは1度だけなんだよ……。
―わたしの心は決まった。
ーー
午後の授業が終わるとわたしは優斗を校舎裏に呼び出し、長かった優斗との恋人関係を解消した。
その足でわたしは桐生君の待つカフェに向かった。
あらかじめ桐生君には昼休みに優斗と別れる事を伝え、その後にカフェで会いたい言っておいた。
「平岩さんこっちだよ」
カフェに着くと桐生君が出入口にいた私を見つけて手を振った。
「桐生君、遅くなってごめんなさい」
「全然平気、まずは座って」
席に着くと店員さんが来てくれたのでオレンジジュースを注文した。
桐生君は店員さんが去るのを見送ると私を見た。
「それで優斗とはどうなった?」
「うん、別れて来たよ……」
桐生君が急に真剣な顔になった。
「平岩さん、もう一度言う(待って)」
「今度はわたしから言わせて。わたしまだ桐生君の事が本当に好きかどうか分からない、でも桐生君に惹かれてます。こんな私でよかったら付き合ってもらえませんか?」
「もちろんだよ。絶対に平岩さんを後悔させない、必ず俺を好きにさせてみせるから。そうだ今週の日曜日は空いてる?」
「うん空いてるよ」
「よかった、じゃあ恋人として初デートしようよ。ちょうどMDランドのチケットもあるからさ、日曜日に運転手と車で迎えに行くよ」
「うん。……日曜日楽しみにしてるね」
笑って返事を返した。
でも心が少し痛む。MDランドは優斗との思いでがたくさんある場所だから。
ーー
ー
夜、ベッドに潜り込んでもなかなか寝付けなかった。
今日、優斗と別れて良心の呵責はなくなった。
でもわたしは自分の過ちに気付いてしまった。
思えばわたしは優斗の愛を信じきり、彼にしてもらうだけで彼に何もしてあげなかった。陰キャな彼が可愛い私に尽くして当然だと思ってた。こんなんじゃ浮気もされるよね、ごめんね優斗。でも浮気したあなたを私は絶対許さないから……。延々と布団の中でそんな事を考えてたら朝になってた。
そしてわたしは登校中に見てしまった。
わたしが満足に眠れなかったと言うのに。
わたしと別れたばかりだと言うのに。
優斗はわたしの事など忘れ、清秀院さんと仲良く腕を組んで歩いていた。
やはり優斗は清秀院さんと浮気していたのだ。
なぜ清秀院さんが優斗なんかを相手にするのか理解できない。
ただ自分の魅力のなさに愕然とする。
優斗は1度もわたしと腕を組んで歩きたいなんて言わなかったのに……。
わたしのプライドはズタズタになった。
今思えばきっと寝不足で思考力が低下していたんだと思う。
その日プライドを傷つけられた私は、優斗に仕返しするために小休憩の度に優斗のクラスに行き、桐生君との仲をわざと見せつけた。そしたら優斗はチラチラわたしを見て来た。
清秀院さんがいる癖に。
―優斗はやっぱり浮気者だ。