第7話 幼馴染が主人公を捨てるまで 中編(詩織視点)
優斗、また清秀院さんと会うつもり……。
わたしはすぐに桐生君にラインを送った。
『今週の日曜日、優斗やクラスメイトたちと遊ぶ予定はありますか?』
しばらくして返事が来た。
『今からこの前に2人で行ったカフェで会おう。平岩さんに話したい事がある』
わたしは声を失った。
優斗はきっとまた私に嘘をついているんだ。
ーー
わたしはカフェに行き飲み物を注文して座席にすわり、暗い気持ちで桐生君を待った。
「ごめん、待たせた?」
「大丈夫です」
桐生君が席に座ると私は早速話しを切り出した。
「それより話したい事ってなんですか?」
聞きたくない。でも聞かない訳にはいかない。
「平岩さん、俺たちは日曜日に優斗と遊びに行く予定はないよ。優斗が俺たちと遊びに行くって言ったの?」
「そうです、誘われたから遊びに行ってもいいかって……」
やっぱり優斗はまたわたしに嘘ついたんだ……。
「もし平岩さんが望むなら、俺も今から優斗の所に一緒に行ってどういう事か白黒ハッキリさせてもいいよ。平岩さんはどうしたい?」
桐生君の声は荒く、明らかに優斗に対して怒ってるようだ。
「あの、桐生君は優斗の友達なのに、なんで私の味方をしてくれるんですか?」
「彼女に嘘をつくなんて男として間違ってる、いや……ゴメン違う。俺、平岩さんに惹かれてるんだ、優斗の彼女じゃなかったらとっくに告ってた。俺、平岩さんが好きだ」
「っ……」
胸が高鳴った。
桐生君みたいな素敵な人に、正面からまっすぐな目で見つめられて告白されたのだから当然かもしれない。
自分の頬が熱くなるのが分かる。
「ご、ゴメンなさい、私には……」
私には……何?
優斗かいる?
本当に優斗はいるの?
「俺は本気だ、俺は優斗と違って浮気なんかしない。これからもずっと平岩さんだけを見てる、だから俺と付き合って欲しい」
桐生君の想いが私の心にささった。
そして彼の言葉でわたしは思い出した。
桐生君は女の子に恐ろしくモテる。
1年生なのにバスケ部のエースで成績も1番、その上イケメン。モテない訳がない。
なのに桐生君は入学以来、女子からの告白を「俺には好きな子がいるから」と全て断っていると陽菜乃たちが言っていた。
「もしかして桐生君がずっと告白を断っていたのは……」
「平岩さんをずっと好きだったからだ。入学式で初めて君を見て可愛い子だなって思ったよ。でも君の傍には冴えない奴がいた、何でこんな奴が恋人なんだよって俺は優斗に近づいた。でも話してみたら優斗は意外といい奴だった、だから顔じゃなく性格で選んだ平岩さんをもっと好きになって……。だから優斗と別れて俺と付き合ってくれ!!」
「……!」
女の子の憧れの桐生君がテーブルに両手をつき、わたしに頭を下げた。
桐生君は誠実だと思ってた優斗よりもよっぽど誠実な人だな。
こんな人を振るなんてバカだよね……。
「ごめんなさい……。わたしはあなたの気持ちにお応え出来ません」
桐生君は悄然とした表情で顔を上げわたしを見た。
「平岩さん、俺は(その代わり)」
「その代わり今度の日曜日、わたしと友達としてデートしてくれませんか?」
優斗はわたしに内緒で清秀院さんと会っていた。
だからわたしだって桐生君と会ってもいいよね……。
ーー
ー
日曜日、わたしは桐生君と動物園へ行った。
初めての優斗以外の男の子とのデートはとても緊張した。
でもわたしの好きなコアラやレッサーパンダを見て話しているうちに少しづつ緊張もほぐれ、会話も弾むようになった。
お昼はレジャーシートの上でわたしが作ったお弁当を一緒に食べた。
桐生君は「すんげぇ美味しい、平岩さんは料理が上手いね」って褒めてくれて嬉しかった。
桐生君とのデートはとても楽しかったけど、その分だけ後ろめたさを感じていた。
別れ際に桐生君は「やっぱり平岩さんが好きだ、優斗と別れて俺と付き合って欲しい」と言った。
だからわたしは答えた。
「考えさせて」と。
わたしの気持ちが優斗から桐生君へと変わりつつあるのが自分でもわかった……。




