第6話 幼馴染が主人公を捨てるまで 前編(詩織視点)
私は信じていた幼馴染の恋人に裏切られた。
彼の名は藤田優斗、隣の家に住む10年来の恋人。
夏休みが終わってから間もなくの土曜日、その日は優斗とデートする約束だった。でも優斗に友達の桐生君とクラスメイトの男子数人から、カラオケに誘われたからそっちに行ってもいいかなと聞かれた。
少し寂しい。
でも優斗は高校に入ってからまだ桐生君しか友達が出来ていないと言っていたから「この機会にクラスメイトが友達になってくれたらいいね」って私は快く送り出してあげた。
その日の予定がなくなった私は優斗とのデートのために断っていた、友達たちとの買い物に混ぜてもらう事にした。友達とショッピングモールに行って何軒かのお店をまわっていたら、わたしはカラオケに行っているはずの優斗を見つけた。
優斗は清秀院さんと二人で楽しそうに服を見てた。
それを見てわたしは少しの間、頭が真っ白になってしまった。でも優斗を信じていたから、すぐに何か理由があるはずだと考えた、例えばわたしにサプライズプレゼントをするために清秀院さんにアドバイスして貰ってるとか……。
それで優斗たちのところに行って声をかけようと思っ時、友達の陽菜乃に「詩織どこいくの? みんなアイス食べに行くって向こうにいっちゃたよ、早くいこ」と声をかけられたので結局二人と話す事が出来なかった。
陽菜乃たちとアイスクリームを食べている間、私はずっと優斗と清秀院さんの事が気になっていた。
清秀院さんは桐生君の幼馴染だからその関係で優斗とたまに3人で話してるし、私も含めて4人で話した事もある。だから3人が一緒にいてもおかしくはない。ううん、違う。わたしは桐生君を見ていない、やっぱり帰ったら優斗に会いに行こう。そう私は心に決めた。
友達たちと別れた後すぐに優斗の家に向かい、どうしてショピングモールで清秀院さんといたのか聞いてみた。
するとショッピングモールにいたのは、桐生君が急な用事で来れなくなってクラスメイトの伊藤君が「今日は桐生がいなから、いつものカラオケ店は割引が効かないだろ、だからカラオケは止めてショピングモールに行こうぜ」と言い出し、ほかのクラスメイトも賛同したからだと言う。
それでショピングモールに行ったらクラスメイトと逸れてしまい、探していたら清秀院さんに偶然会って服の相談をされたそうだ。
わたしは「ふ~ん、そうなの」と優斗の話しを一応信じてあげた。
でも清秀院さんが1人で買い物なんてするかしら。
これは確認が必要だなと思った。
月曜日の昼休み、優斗に「今日は体育でお腹が空いたから購買で人気のパンも食べたいから買って来てよ」と頼み。その間にわたしは優斗のクラスに行き桐生君と会った。
桐生君は確かに急な用事で遊びに行っていなかった。
でも桐生君が一緒にカラオケに行く予定だったと言うクラスメイトたちを呼んでくれて、土曜日の事を尋ねたら。クラスメイトの人たちは桐生君が行けなくなった金曜日の夜の時点で遊ぶのは取りやめ、優斗にも遊ぶのは中止と伝えて土曜日は会ってすらいないと言った。
とてもショックだった。
あの優斗がわたしに嘘をつき隠し事をしたのだ。
もう優斗が清秀院さんと2人でショピングモールで会っていたのは偶然なんかじゃない。
わたしの目から涙が零れた。
「ごめんなさい」とわたしは桐生君に謝ってその場から逃げ出した。
きっと清秀院さんは優斗をからかってるだけだと思う、リムジンで学校に通学するようなご令嬢が優斗なんかを相手にするハズがない。
ううん、もしかしたら優斗が一方的に清秀院さんを好きになってストーカーをしたのかも知れない。
もう可能性を上げたら切りがない………。でも間違いないのは優斗が清秀院さんに好意があってわたしに嘘をついたと言う事。
優斗はいつからわたしを裏切っていたの。
あんなに、あんなにわたしの事を想っているふりをして……酷いよ。
わたしは校舎の外に出て、学校の塀に沿って植えられている木の1つに辿り着くと、しゃがみ込んで泣いた。
すると桐生君が追いかけてきて「大丈夫? 優斗と何かあった? 俺でよかったら力になるよ」とハンカチを差し出してくれた。わたしもハンカチは持っていたけど「ありがとう」と受け取った。
それからわたしは桐生君に全てを話した。
彼は清秀院さんに優斗と偶然あったのか、それとも約束してあったのか聞いてみようか?と尋ねた。わたしは真実を知るため「お願いします」と答えた。
ーー
それからわたしは優斗と会わず、体調が悪いと担任の先生に言って家に帰った。
優斗から心配するラインが送られて来たので、大丈夫と返した。
わたしは優斗に問い詰める事が出来なかった。
「優斗のクラスメイトが一緒にショピングモールに行っていないって言ってるけど、どういう事!!」そう言ってやりたかった。
でもそんな事をすれば絶対に取返しのつかない事になる。優斗と別れるのはイヤ。
相手はあの清秀院さんだ、きっと優斗は魔が差しただけ。二人に何かあったとは思えないし、1度だけ、1度だけ見なかった事にしよう。2度目は無い。見逃すのは1度だけ。1度だけよ……。
その日わたしはそう言いながらずっとベッドで泣いていた。
ーー
次の日の放課後、わたしは桐生君と2人でカフェで会った。
桐生君は清秀院さんに今回の事を聞いてくれていた。
清秀院さんは優斗の言う通り、たまたまショピングモールで会ったから声をかけた、と言っていると桐生君は言った。
わたしはこの件で桐生君の言葉を信じてはいけないかもしれないと感じた。桐生君の立場を考えたら、清秀院さんを裏切る事なんて出来ない。本当は清秀院さんは優斗と口裏を合わせていて……、もう止めよう、わたしは1度だけ見なかった事にすると決めたんだ。2人が偶然会ったと言っているのだから、この件はもうお終わりにしよう……。
ーー
わたしの心は晴れないまま1週間が過ぎた。
その夜、優斗からラインが入った。
「今週の日曜日、詩織と図書館に行く約束だけど、桐生君とクラスメイトたちに前に中止になったカラオケに行かないかって誘われたんだけど行ったらダメかな?」