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第3話 主人公は幼馴染を忘れる決意をする

 清秀院さんとはあの後すぐに別れた。


 僕はそのまま家にまっすぐ帰るとベッドの上に寝転んだ。

 清秀院さんが恋人になったっていう実感はまったくわかない。

 それも当然と言えば当然、いまだに詩織と別れた事すら信じられていない。


 僕、詩織に振られたんだよね。


 詩織は僕より男らしい桐生君が好きだって言ってた。僕がこんな性格になったのは女王様な詩織にも責任があると思うんだ。もし僕が男らしくなれば詩織は戻って来てくれるかな。あっ、でも僕にはもう清秀院さんがいるのか。でも1ヵ月だけなんだよね……。


 清秀院さんは学校一の美少女で財閥令嬢、とても僕とは釣り合わない。


 ……違う。こんな考えは捨てよう。

 詩織は男らしい人が好きって言ってた。だから僕、いや今日からは俺だね。俺は男らしくなって詩織を見返してやるんだ。


 本当なら俺は詩織と別れて絶望のどん底にあるはずだった。

 でも清秀院さんが好きって言ってくれたおかげで耐えられてる。だから俺は清秀院さんにふさわしい男になってこの恩を返そう、これからは明るく男らしくなるんだ。でも母さんとの約束があるから髪型と黒縁メガネを変えられないのは仕方ないよね。


 でも清秀院さんは本当に俺の恋人になったのかな……。。


 俺は確証が欲しくてラインで「1ヵ月は清秀院さんは俺の恋人なんだよね」と入れてみた。

するとすぐに返事が来て「はい、でも優斗様がわたくしを好きになってくださって、ずっとそばにいさせてくれたら嬉しいです」と言ってくれた。


 うわあ、やっぱり夢じゃない、よかったぁ。

 あの清秀院さんが僕の恋人なんだ。


 それからラインで少し話をして、優斗様と言うのはやめて欲しいと言ったけどダメですと言われた。そして明日は清秀院さんが俺の弁当を作ってくれると言う事になった。なんでも清秀院さんが初めて作る手料理をぜひ俺に食べてもらいたいそうだ。


 男子生徒の噂で聞いた事があるんだけど清秀院さんは昼食の時、重箱の弁当を友達と分け合って食べてるらしい。なんでもその中身は伊勢海老とか高給食材がたんまり入っているとか。多分家にはシェフがいると思う。だからきっと清秀院さんはこれまで自分で料理する機会がなかったんだろうな。


 そう言えば詩織にはいろいろ気を使ったけど、詩織が何かを俺にしてくれた記憶はほとんどない。

 恋人に何かをしてもらうってこういう感じなんだ。

 清秀院さんが僕の事を本当に好きなんだって感じられて嬉しい。

 あの清秀院さんが初めての手料理を俺のために作る、なんせ詩織の初めての弁当は桐生に……。


 なんか詩織の事を思い出したら急に気分が萎えた。


 あいつは俺を手酷く捨てたんだ。もし清秀院さんが告白してくれなかったら今頃きっと地獄だった。

 もう詩織の事は忘れよう、俺を捨てた幼馴染なんかよりも清秀院さんを大事にしてあげなきゃ。


 ーー詩織を忘れる決意をし、俺は眠りに就いた。


 ーーー

 ーー



「母さんおはよ~」

「優ちゃんおはよ……」


 あれ、なんか母さんの顔色が悪い?


「どうしたの母さん調子悪いの?」

「大した事ないから大丈夫よ………」

「本当に? 体調が悪いなら言ってよ何でもするから」

「ありがとう優ちゃん、でも本当に大丈夫だから気にしないで」


 うちは母と俺の二人しかいない母子家庭だ。


 小さい時に父さんの事を聞いたら「二十歳になったら会わせるから」と泣かれてから父の事は聞いた事はない。

 父親がいなくても母さんに愛され、一戸建ての家に住み何不自由無い暮らしをしているのだから不満は無い。


「いただきます」


 俺は椅子に座り母さんが作ってくれたパンや目玉焼き、サラダなんかに手を付けながら朝のニュースを見る。


『それでは次のニュースです。昨日は17年前に全米ツアー中に若くして飛行機事故で亡くなった歌手の尾崎晃司さんの命日で事故現場には多くの日本人観光客が訪れ花束をー(プチッ)』


 母さんがテレビを切った。

 彼のファンだったから見たくないんだろう。


 尾崎晃司は世界ナンバーワンの伝説のシンガーソングライターだ。

 同じクラスの男子はよく彼の曲を歌ってる。

 なんせ彼が出しているアルバム3枚は世界の歴代売り上げランキング1位から3位を独占している。高校の歴史の教科書にも載ってる偉人だ。


 そして驚く事に母さんは彼の会社で受付嬢をしていたそうで、彼と話した事もあると嬉しそうに言っていた。

 母さんはほんわりとした性格の美人だが、流石に世界一のイケメンと言われる彼と比べると見劣りしてしまう。もう少し母さんが美人で積極的な性格だったらワンチャンあったかも知れない。そうしたら変な男に捕まって俺を産む事もなかっただろう。


 朝食を食べ終わったので、昨日準備した学校で使う教科書などが入ったカバンを部屋から取り玄関に向かった。


「じゃあ、母さん行ってくるよ」

「あ、あのね優ちゃん、もしね、知らない人にお父さんの事を聞かれたら10年前に癌で(分かってるから)」

「じゃあ行ってくる」

「行ってらっしゃい、気を付けてね…」


 なぜか母さんの声はすごく不安そうだ。

 父親にはまだ会った事はないけどきっと犯罪者か危ない人だと思う。


 母さんは俺の顔を人に見られるのを極端に嫌がる。

 だから小さい時から黒縁の伊達メガネを付けさせられ、長い前髪で顔を見えなくしている。

 大体父親が10年前に癌で死亡した松下智弘って絶対嘘だよね?

 それ実在した人なの? まあ、それはそれでイヤなんだけど。


 ガチャリとドアを開ける。


「あっ……」


 門の外に黒色のすごい高級車が止まっているのが見えた。

 車の中から清秀院さんが顔を出すと、嬉しそうに手を振り始めた。

 早朝の彼女の笑顔が太陽で輝きまぶしい。


 「……まぶ可愛い」


 僕の彼女の朝の笑顔は最高です。

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