第2話 主人公は財閥令嬢に告白される
詩織との仲が終わったなんて認めたくない。
だけど心の中でこれは現実なんだと訴えている自分がいて、認めたくない僕の目からはどうしようもなく涙が溢れ出した。
「ううっ……えくっ……なんで……」
地べたに膝をつき止めどなく流れ出る涙をぬぐう。
ジャリ。
えっ!
誰か僕の前にいるの!?
涙を拭っていた左手の下から女性徒の上履きが見えた。
「詩織! えっ……」
顔を上げた先に、期待した女性はいなかった。
代わりに立っていたのは長い髪とその大きな胸が特徴的な学校一の美少女、清秀院結愛だ。
彼女は桐生の幼馴染で、その関係で桐生の友達だった陰キャな僕にもよく話しかけてくれてた優しい女の子だ。
「藤田君ごめなさい……」
「……」
え、何を清秀院さんは謝ってるの?
なんでここにいるの?
「実は藤田君を追いかけて来たのですが、それで平岩さんとの会話を全て聞いてしまいました」
「……そうなんだ」
「桐生君はわたくしの幼馴染なのでこの度の事はわたくしが責任を取りたいと思います、いえ取らさせて下さい!」
はい!?
清秀院さんは僕と目線の高さに合わせるため地面に膝をつくと僕の手を取り、やわらかなその両手で包み込んだ。
冗談だよね? 目が本気っぽいんだけど。
桐生の幼馴染だからって清秀院さんは関係ないよね?
「えっと……、桐生の幼馴染だからって清秀院さんが責任を感じる必要なんてないと思うよ」
「いえわたくしの責任です。わたくしがこの学校に来なければ桐生君もこの学校には入学しませんでしたから……」
そうだ、清秀院さんが来なければ確かに桐生君は僕たちと出会わなかったかも知れない。
清秀院さんのお父さんは日本有数の財閥、清秀院グルーブの社長で彼女は1人娘だ。そして桐生のお父さんはその系列会社の社長をやってて、桐生君は清秀院さんの付き人のような立ち位置だと自分で言ってた。その語り具合からてっきり桐生君は清秀院さんの事が好きで狙ってると思ってたんだけど。
「……そう言えば、そうなのかな?」
「ですから今回の責任をわたくしに取らせてください。今からわたくしが平岩さんに代わって藤田君、いえ優斗様の恋人になります!」
は!? 何になるって?
真剣な顔で僕を見る清秀院さんに首をかしげて聞き直す。
「あれ? なんか詩織に振られたショックで耳がおかしくなったみたいです。なんか清秀院さんが僕の恋人になるって聞こえたんですけど?」
「はい、わたくしを優斗様の恋人にしてください。……ダメ…ですか?」
上目づかいで僕を見る清秀院さんはとてもあざ可愛い。
そして何よりその大きな胸につい目がいってしまう。
あっ、これ見ちゃだめだよね。
僕は目を閉じて顔をそむける。
「これは僕と詩織の問題ですから! 清秀院さんが気にする必要なんてないです! だから恋人はちゃんと好きな人となってください!」
「まあ、やっぱり気づいておられなかったのですね。わたくし優斗様を一目見た時からお慕いしてたんですよ」
えええええ!?
「じょ、冗談ですよね!?」
陰キャな僕に一目惚れなんて、いつも詩織はダサいって言ってたのに。
「本当です。それにわたくし優斗様を知れば知るほど好きになりました。ですから平岩さんがいつも優斗様に大切にされているのを見てとても羨ましかったんです。なのに平岩さんたら優斗様に大切にされて当然って態度で、優斗様への扱いも酷かったので少し怒ってたんですよ」
「まあ…」
やっぱり周りから見てもそうだったのかな。
詩織は美少女だったから陰キャな僕が尽くして当然だと思ってたけど、詩織は僕をパシリや下僕だと思ってるのかなと感じる事がよくあったんだ。
あれ? でも小さい時はそんな事なかったよな、むしろ詩織の方がいろいろ気遣ってくれてたような。
「だから優斗様を捨てて他の殿方に走った平岩さんの事は忘れて、どうかわたくしの恋人になってください」
「……でも……」
そんなうるうるした目で言われても困る。
僕は詩織の事が好きなんだ。
詩織と一緒に遊ぶとすごく楽しいし、許容範囲ギリギリの要求をしてくるところなんてまた無茶言ってるなって笑えるし、可愛かった。
なにより詩織の容姿が好きだ。
小顔の整った顔に、さわりたくなる柔らかそうなほっぺ、目算でEカップある魅力的なおっぱい、細く綺麗な足に美しいくびれ。みんな好きだ。
「……ごめん、………僕はまだ詩織の事が」
「優斗様、恋の傷は恋で癒すと言います。試しに1ヵ月だけわたくしと付き合ってくれませんか?」
「あっ……」
清秀院さんは僕の手を包んでいる両手をギュッと自分の胸元に引き寄せた。
当然その結果、僕の手まで彼女の胸元に引き寄せられ、大きな胸に当たる。
す、すごい! なにコレ! 柔らかくて気持ちいい!!
布腰でも分かるよ、これは最高のおっぱいです。
「わ、わ、わかったから手を放して!」
「? ……きゃっ。」
清秀院さんは僕の手をあわてて放すと、赤くなった顔で「はしたない真似をしてごめんなさい!」と何度も頭を下げた。
「だ、大丈夫だからそんなに謝らないで」
「ありがとうございます。では優斗様、ふつつか者ですが新しい恋人として末長くよろしくお願いします」
「え……あっ!」
分かったって言っちゃたよ。
清秀院さんは困惑する僕の顔を見て怪しい笑みを浮かべた。
僕、清秀院さんに嵌められた?
「優斗様、大好きです」
清秀院さんが正面から僕に抱き付いて来た。
す、すごい……凄すぎる!
僕の目算では清秀院さんはGカップ、詩織のDカップなんて目じゃない。
その巨乳が僕の胸下に当たってる。
僕はあまりの気持ちよさに何も言えなくなり、それからしばらくただじっとその感触を楽しんだ。
この日、学校一の美女が僕の新しい恋人になった。