第18話 財閥令嬢と幼馴染
本日2話目です
わたくしは朝少し早く起きて優斗様を迎えに行くと、登校中にある小さな公園に立ち寄りました。
「それで優愛、昨日言ってた話したい事って何?」
ベンチに座ると優斗様が緊張ぎみに話しかけて来られました。
「実は昨日、桐生君が平岩さんに振られたと電話をしてきました。それで桐生君が言うには、平岩さんは別れ際に優斗様とよりを戻すと言っていたそうなんです」
「っ、優愛ごめん!!」
突然、優斗様が立ち上がると、腰を45度に曲げて頭を下げました。
わたくしも思わず立ち上がります。
「優斗様いかがされたのですか!!」
とてもイヤな予感がします。
「どうか俺を見捨てないで欲しい!」
「仰ってる意味がわかりません。どうかお顔を上げてください、私が優斗様を見捨てる事など絶対に無いですから!」
どうなっているの!?
優斗様が平岩さんの言葉を信じ、わたくしを振る可能性は考えてましたが、これは想定外です。
「本当に? じゃあ今から俺が何を言っても、俺を見捨て無いって約束してくれる?」
優斗様は私の言葉を聞いて頭を上げると、まるで希望見出したかのような表情をしました。
「約束します。その代わり優斗様も、わたくしを何があっても捨てないって約束して頂けますか?」
「もちろん約束するよ、俺は何があっても優愛を捨てない!」
思わず笑みが零れました。
「ありがとうございます。それでいったい何があったのですか?」
「俺と優愛は一応あと3週間は仮の恋人だよね?」
優斗様は何を言ってるのでしょう?
わたくしは少し目を細めて優斗様を見ました。
「も、もちろんその後は正式に告白して優愛と本物の恋人になりたい」
要するに今は本物でないと言いたいのですね。
わたくしはさらに目を細め、優斗様に不快感をアピールします。
「そ、それで実は昨日の夜に詩織の奴が家に来て恋人に戻りたいってバカな事を言うから、からかってやろうと思って優愛とはあと3週間は仮の恋人だから、その間だけでいいなら詩織も仮の恋人に加えてやっても良いぞって、冗談で言ったらなるって言われましたゴメンなさい!」
優斗様は再び深く頭を下げました。
何ですかそれは? バカですか、バカなのですね!?
「では冗談だったと断って下さい!」
「それが断れない事情が出来て……どうか3週間だけ我慢して下さい!」
優斗様はわたくしの怒りを恐れて顔を上げようともしません。心配しなくても死んでも優斗様を手放したりしないのに。
お母様がよく「殿方は信じられないバカをする事がある」と言っていたのは本当だったのですね。
「分かりました、全てはわたくしにお任せ下さい。平岩さんと話をつけて、その話は無かった事にさせて頂きます。優斗様はそれでよろしいですね!」
「はい。全て優愛さんにお任せします!」
ーー
ー
放課後、わたくしは学校の屋上に平岩さんを呼び出しました。
平岩さんは学校の屋上は開放されてないと言っていましたが心配はいりません。校長先生にお願いしたら2つ返事で屋上の鍵を貸して頂けました。まあ、この学校は清秀院家から多額の寄付を貰っているので断れるはずがありませんが。
ガチャリ
屋上のドアが開いて平岩さんが現れました。
わたくしに近づいてくる彼女の表情は既に敵意がむき出しにされています。
「平岩さんお待ちしていましたわ」
「そうなの、もっと遅れて来た方がよかったみたいね」
この泥棒猫はホントに躾がなっていませんね。
「平岩さんは礼儀と言うものをご存知ではないのかしら?」
「あら、貴方は自分が礼儀に値する人間だと思っているんですか?」
まあ彼女を罠にかけた訳ですから彼女がそう言うのも当然ですね。
「分かりました、それでは要件を伝えます。優斗様は全てをわたくしに任せると仰っいました。そして私はあなたが優斗様の恋人になる事を決して認めません。ですのであなたと優斗様が恋人になる話は無かった事にさせて頂きます。それでは御機嫌よう」
わたくしは平岩さんの返答を待たずドアの方に歩き出します。
「待ちなさい! 優斗にあなた達のした事をバラすわよ!」
彼女がそう出る事は予想していました。
私は足を止め振り返りました。
「どうぞご自由に、優斗様は平岩さんでは無くわたくしの言葉を信じるでしょう。それに優斗様は何があってもわたくしと別れないと約束して下さいました」
「それは優斗がまだ真実を知らないからよ!」
「平岩さんあなたは時期を逸しました。今日あなたがわたくしと会う事は優斗様もご存知です。そこでわたくしと対立したと思われる貴方の言葉を優斗様が信じるとでもお思いですか? つまり今更あなたが何を言っても無駄なのです」
わたくしは平岩さんに勝者の笑みを見せてあげました。
「っ、今は信じないかも知れないわ。でも優斗がなんで私が恋人に戻る事を承諾したと思う?」
「………」
それは聞いていませんわね。
「ふふっ、やっぱり優斗はあなたに話してないみたいね」
平岩さんは不敵な笑みを浮かべました。
「ではその理由をおっしゃて下さい」
これは恐らく罠でしょう、ですが気になります。
「教えてあげる訳ないでしょ、私と優斗の2人だけのヒミツなんだから」
っ、この泥棒ネコ!
「そうですか、ではもうあなたに要はありません失礼します」
「だから待ちなさいって! 優斗のママは私の味方よ!」
私は踏み出した足を再び止めたました。
「安心して貴方たちが私にした事はまだ優斗のママには話してないわ」
「そうですか……。ですが平岩さんが優斗様のお母様にわたくしたちの事を話しても無駄です。きっと優斗様はお母様に嘘を言って巻き込んだとお怒りになられるでしょう」
「そうかもね、でも優斗のママは私の話が本当だと分かるでしょうし、私の事が大好きなの。だからこんな事をしたあなたを許さないし絶対に認めないわよ」
「そんな脅しは無駄てす。わたくしは優斗様さえいれば満足ですから」
「分かってないわね。優斗がどれだけおばさんを大切に思ってるか知ってる? そのおばさんが毎日あなたを責めれば、いつかは優斗も真実に気づくわ」
「優斗様に知られる事は覚悟の上です。……ですが一応あなたの望みを聞いてあげましょう」
「私も優斗の仮の恋人だと認める事よ。もし3週間後に優斗があなたを選んでも、あなた達が私にした事は生涯誰にも言わないと誓ってあげるわ」
悪くは無い、いえ、かなり魅力的な提案です。
「分かりました、その勝負受けてあげてもいいです。但し優斗様との最初のデートはわたくしからです。それと貴方が約束を破った場合は、清秀院家の名にかけてご家族を破滅させますが、それでもよろしくて?」
「いいわ。でも貴方や貴方の仲間が原因で優斗が真実に気づいても私の責任じゃないからね」
わたくしは平岩さんに手を差し出しました。
「では契約成立です」
「成立よ」
わたくし達は笑顔で握手を交わします。
(平岩さん残念ながらあなたのターンはやって来ませんわ。なぜなら次のデートでわたくしと優斗様は結ばれるのですから)
ウフフ。
 




