第17話 財閥令嬢の恋
本日1話目です
トン。
スマホの通話終了を押し優斗様との電話を終えた。
(よかった、優斗様にはまだわたくしが平岩さんを罠にかけた事が伝わっておりません)
わたくしが優斗様に電話をかけたのは桐生君からの報告が受けたからです。
今日、弓道場の建物に隠れて会話を盗み聞きしていたのは平岩さんでした。
私は桐生君に平岩さんを抱いて欲しいと言っただけなのに、そこから平岩に全てが知られるなんて思ってもいませんでした。なのでわたくしはもしかしたら桐生君が裏切ってしまったのではないかと疑いました。ですがよく考えると、わたくしと桐生君の関係を知っていれば平岩さんが気づくのは当然です。
今までが巧く行き過ぎていたのです。
――平岩さんは見事に私たちの罠に引っ掛かってくれました。
優斗様と私がショピングモールで逢引しているように見せかけて、平岩さんに浮気の疑いを持たせる計画は大成功でした。
当初はクラスメイトを捨駒にして、平岩さんを疑心暗鬼にさせられたらいいなと思っただけの計画でした。ですが信じられない事に平岩さんは優斗様ではなくクラスメイトの話しを信じ、優斗様とクラスメイトが言っている内容の食い違いを優斗様に確認しませんでした。
確かに大勢の人間が嘘をつくなんて考えられないかも知れませんが、それでも優斗様を信じなかった平岩さんは優斗様に相応しくありません。平岩さんが優斗様の幼馴染として生まれ落ちたこと事態が過ちだったのです。
このような愚かな女は一刻も早く優斗様から引き離さなければならない、使命感にも似た感情をわたくしは抱きました。
平岩さんを優斗様と別れさせる機会はすぐに訪れました。
桐生君が平岩さんとのデートを取り付けたのです。私はその日に桐生君の偽物を用意すれば面白い事になると閃きました。その結果、平岩さんは優斗様と別れました。事前に別れ話しをする事を桐生君から報告されていた私は、優斗様をお慰めするためその現場へと赴き――優斗様の恋人になりました。
私は幸せです。
この幸せが平岩さんから奪い取ったものだとしても決して返すつもりはありません。平岩さんは優斗様の恋人として10年間もおそばに居たのだからもう十分です。
平岩さんが優斗様の恋人として過ごした10年間は私に取っては地獄でした。わたくしはただ優斗様をお慕いするだけで会う事すら叶わなかった時間なのですから。
優斗様との出会いは、まだわたくしが5歳の頃。わたくしがお部屋で寝ていた時のこと……。
ーーー
(? ……お歌が聞こえる)
お昼寝をしていたら、どこからか歌声が聞こえて来ました。
(とても素敵な歌声ぇ)
わたくしはその歌声に心惹かれ、ベッドから降りてお部屋を出ました。
歌の聞こえる方へと歩いて行くと、やがて大きなお部屋に辿り着きました。
「お父様、お母様何をなされてますの?」
「まあ優愛さん起きてしまわれたのですね。お父様とお母様は大好きな歌手、尾崎晃司さんと言う方のお歌を聞いているのですよ」
「おざきこうじぃ?」
「そうです、優愛さんは尾崎さんのお歌は好きかしら?」
「はいお母様、優愛はもっとおざきさんのお歌が聞きたいです」
「分かったわ。ではお母様たちと一緒に尾崎さんのお歌を鑑賞しましょうね」
お母様は私を抱き上げるとソファーに連れて行き、お父様とお母様の間に座らせました。
「そうだ優愛、尾崎さんの写真を見せてあげよう。
これが尾崎さんだよ、どうだいお父さんと同じくらいカッコイイだろ?」
「っ!?」
こ、これがおざきしゃん!
「まあ優愛ったら目を丸くして、もう尾崎さんの良さが分かるお年になったのね」
「はい、お母様! 優愛はおざきさんと結婚したいです!!」
「おいおい、優愛はこの前お父さんと結婚してくれるって言ってたじゃないか?」
「お父様はお母様がいるからダメだとおっしゃいましたわ!」
「はっはっは、そうだったな」
「優愛さん、残念だけど尾崎さんは既にお亡くなりになられているのよ」
「え、おざきさん、死んじゃたんですか……」
ーーー
わたくしは大変ガッカリしました。
せっかくお父様より素敵な方にお会い出来たのにもう亡くなられていたのですもの。
その日から私は晃司様の歌を聞くようになりました。歌を聞いているとそばに晃司様が居て、わたくしを包み込んでくれてるような幸せな気分になれるからです。
そして中学生になった頃には、わたしくしはすっかり晃司様の虜になってしまい、写真を見るだけで胸がときめきました。つまりーー私は晃司様に恋をしていたのです。
既に亡くなられている方に恋をしているなど人には言えません、これはわたしくしだけの秘密でした。
そしてわたくしはネットで晃司様の生前の交友関係を調べるようになっていました。
特に晃司様と男女の関係にあったと噂された女性を徹底的に調べました。晃司様に近づいた女性で悪い女がいたら、いつか報いを受けさせようと思ったからです。
ですがネットの情報を1人で調べるには限りがありました。そこでわたくしは中学の3年生の時、お小遣いで探偵さんを雇って調査をしてもらいました。
すると探偵さんは晃司様の亡くなった後に、ご家族にインタビューした出版社からとんでも無い情報を仕入れてきたのです。
――晃司様にはなんと結婚を考えていた恋人がいたのです。
情報の出どころは晃司様の弟です。
彼の証言では亡くなった年のお盆に晃司様が実家に帰省された際、晃司様のお父様に「晃司はいつになったら結婚するのか」と聞かれ晃司様は「ここだけの話しにして欲しいんだけど、実は結婚を前提に付き合ってる女性がいるんだ」と答えたそうです。
わたくしをはあまりのショックで目眩がしました。
この事がスクープされなかったのは、晃司様の評判と相手の女性の事を考えた当時の編集長が秘密にすると決めたからだそうです。そしてインタビューをした録音テープやメモなどは人知れず保管室にしまわれました。
その資料を探偵さんが見つけ出したのです。
わたくしは探偵さんに「お金に糸目は付けません、何としても相手の女性を探し出して下さい」と頼みました。
――晃司様を不幸にしたその女性を私は絶対に許さないと心に誓ったのてす。
探偵さんに晃司様と親密だった女性の調査をに頼んでから1月後、ようやく探偵さんから連絡がありました。
わたくしはあの日の事を忘れる事はありません。
ーー
「相手の女性の名は藤田詩織さん。尾崎さんは亡くなられる3ヶ月前に、都心の分譲マンションを彼女にプレゼントしています」
何て女なの、晃司様にマンションを貢がせる何て!!
「藤田詩織さんは尾崎さんの死後、直ぐにマンションを売却して○○県の分譲住宅を購入しています」
「晃司様に買って頂いたもの売ったのですか!」
なんと言う酷い女なのでしょう。
「恐らく子供を育てるためにお金が必要だったのでしょう」
「え? ……それはどう言う意味でしょうか?」
晃司様の他に男がいて身籠ったの? それともまさか晃司様の子供を……。
「彼女は尾崎さんの子供を産みました、名前は優斗君。尾崎晃司さんの兄弟や優斗君から採取した髪の毛などからDNA鑑定も済ませてあります。こちらが優斗君の写真です」
わたくしは恐る恐る写真を受け取りました。
「……あの、前髪が長すぎて顔がよく分からないですね」
ダサいです、とても晃司様の子供とは思えません。やはり晃司様は愛する女性を間違われたのです。
「そう思って念のため合成写真もご用意しました。こちらが優斗君の素顔です」
「嘘っ!!」
そこには私の愛する、まだ年若い晃司様がいました。
わたくしはそれを見て直ぐに確信しました。
――晃司様は私のために転生されたのです!
優しそうな目などは以前より私の好みになってます!
古来より転生と言えば自分の子孫ですからね、これは間違いありません!!
……あれ? でもそれだと時系列が……。
分かりましたわ。
わたくし何かで聞いた事があります。
偉大な人が転生する場合、魂が大き過ぎて分裂して複数の人に転生してしまう場合があると。だから分裂があるなら当然融合もあるはずです。
きっと藤田詩織さんのお腹に宿った子供の魂だけでは偉大な身体を補うだけの魂がなかった筈です。そこで愛する子供が流産してしまわないよう晃司様は子供の魂と融合して転生を果たしたのです!
「それと、あとこちらは優斗君の恋人の平岩詩織さんの写真です」
「は、はい?」
「なんでも優斗君と彼女は保育園の時からの恋人だそうですよ。まったくイケメンは羨ましいですな」
な、な、なんなのですかこの女は!?
晃司様! わたくしと言う者がありながら、もう浮気をしているのですか?
わかりました、こんな泥棒猫わたくしが追い出して差し上げます!
ーー
わたくしはお母様に協力をあおぐため優斗様の存在と彼と結ばれたいと言う話しました。
晃司様の大ファンだったお母様は賛同してくださいました。こうしてお母様の支持を取り付けた私は優斗様の進学先を調べ、平凡な高校に入学したのです。
 




