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第16話 主人公は過ちを犯す 後編

「交渉成立ね。じゃあさっそく1個使うわね。優斗わたしとキスして」


「は?」

 俺は詩織の目をじっと見る、だがそれを見返す詩織の目は本気だった。


「イヤイヤ無理だから、キスなんて浮気だろ」


「何言ってるのよ、私も優斗の恋人なんだから浮気じゃないでしょ。それに言っとくけどこんなお願いボーナスと同じなんだからね、キスなんて外国じゃ挨拶でしょ」


「いやでも……」

 確かに挨拶だと考えると、ここで1つ願いを聞いといた方が得だと思う。だが俺は詩織とのキスを挨拶だなんて思え無い、目の前のその唇は俺が長年欲して来たものだ。


「大丈夫、気持ちが入ってないなら浮気じゃないわ」


 気持ちが入らない訳ないだろ。

 それにそう言ってる詩織の顔だって少し赤くなってる。これはどう考えてもダメだ。


「私からしてあげるからじっとしててね……」

 赤らみを帯びた詩織の顔が次第に近づいて来る、だが俺は詩織を止められなかった。


 詩織は学校でも指折りの美少女だ。

 あの神足を含めると俺の総合評価は清秀院さんに負けずとも劣らない。その詩織の色香の前に俺の理性は完全に沈黙し、欲望が動くなと命じている。


 詩織が俺の顔に手を伸ばし、長い前髪を指でそっとかき分ける。


「っ!?」

 詩織は俺の顔を見るとなぜか目を見開いて固まってしまった。


「……詩織?」

 動きを完全に止めた詩織を怪訝に思い声を掛けてみる。


「……あっゴメン。優斗、今日はメガネしてないんだ……」


 詩織は頬を赤くし、俺の顔をまじまじと見た。

 まずい、詩織と見つめ合ってたら変な気分になって来たぞ。


「ああ、まあ家の中だからな」


「優斗の素顔初めて……」


「そうだっけ?」


「うん、超イケメンだよ……」

 詩織はうっとりとした顔で俺を見ながらそう言った。


 俺がイケメン? そんな事初めて言われたぞ。もしかして詩織が独特な感性をしてるだけかも知れないが、イケメンと言われたのは嬉しい。


 詩織は俺の頬に手を当てると、優しく撫で始めた。

 目をトロンとさせ俺の頬を愛おしそうに撫でる。それはまるで本当に俺を好きで好きでたまらないかのように。


 詩織に愛を囁やかれているような錯覚に陥り、俺の鼓動が早くなった。

 完全に詩織の色香に心を惹かれてしまい拙いと思った俺は、とっさにこの尻軽め! そう心で罵って詩織を拒絶した。

 だが俺の中で強引に眠らせていた感情が目を覚ました―やっぱり俺は詩織が好きだ。


 清秀院さんごめん。

 俺は心で詫びた。

 清秀院さんは非の打ち所がない彼女だ、何の落ち度もない。


 ――それなのに俺は清秀院さんと詩織の2人を同時に好きになってしまった。


 不倫をする男の気持ちなど全く理解出来なかったけど、今なら少し分かる。

 人は2人を同時に好きになってしまう事もある。




「優斗……」

 詩織が甘い声で俺の名を呼んだ。


 俺の視線は詩織の目から声を発した唇へと移る。

 詩織のぷるんと潤った艷やかな唇、このエロい唇が俺を誘惑しキスしたい欲望を掻き立てる。

 だが同時に昨日の詩織と桐生とのキスの光景を思い出させた。


 メラメラと耐えがたい嫉妬の炎が湧いてくる。

 俺が長年求めて来た、この唇はもう桐生の毒牙にかかったんだ!

 嫉妬心に突き動かされた俺は。


「詩織っ」「っ!?」

 欲望に任せその唇を奪った。


 …んんっ……チュ…ハぁ…チュ……ぁ


 詩織をメチャクチャにしてやりたい。桐生にされた事なんて全部俺が上書きしてやる! 

 その一心で俺は詩織とキスをし、やがて詩織の口に舌を入れゆっくりと動かす。


 ドサッ。


 俺はたまらず詩織をベットに押し倒した。


「……優斗ならいいよ」


「桐生とはもうヤッたのかよ?」


「バカ……するわけないでしょ」


「詩織」

 なら今度こそ俺が桐生より先に頂く。


 ん……チュ…

 俺はもう一度、詩織とキスを交わし胸に手を伸ばした。


 ティロリロリン。ティロリロリン。


 机の上のスマホから清秀院さんからの着信音が流れた。

 その瞬間に俺の野獣タイムは瞬く間に終了し、賢者タイムのように冷静さを取り戻した。



「せ、清秀院さん……」


 俺は何をやってるんだ!

 家には母さんだっているんだぞ。それに清秀院さんと言う立派な彼女がいるの詩織とヤろうとするなんて………。


 俺は電話に出るため急いでベッドを降りようとする。


「優斗出ないで」


 こんな事をしてしまって詩織には申し訳ないが、俺は清秀院さんと絶対に別れたくない。


「ごめん、詩織の事は好きだけど清秀院さんの事はもっと好きなんだ。キスもするつもりはなかったんだ、俺がどうかしてたゴメン」


 そう言って俺はベットから降り、机の上のスマホを取った。


「もしもし結愛」


「優斗様、急に電話をかけてしまい申し訳ありません。今大丈夫でしょうか?」


「うん、大丈夫だよ」


「実は電話では少し話しづらい用件が出来てしまいまして、もし優斗様がよければ明日早く迎えに参りますので、その時に話しを聞いて頂けませんか?」


「分かった、実は俺も優愛に話さなければいけない事が出来たんだ」


「……あの、もしかしてそれは別れ話しとかではないですよね?」


「っ、絶対違うから! 俺が優愛と別れたいなんて言う訳ないから!」


「よかったです安心しました。では明日は30分ほど早く迎えに参りますね」


「分かった」

 それから俺は清秀院さんに別れを告げ電話を切った。



「悪いが詩織もう帰ってくれ」


 俺は詩織の顔をまともに見る事が出来ない、だからどんな顔をしているかは分からない。


「優斗……分かったわ。でも私も恋人になったんだから2日に1回は私とも一緒に登校して貰うからね」


 は?

「そんな事……。そういう事は明日、俺が清秀院さんと話してからにしてくれ」


「いいわ、今日は大人しく帰ってあげる」


 詩織はそう言ってドアに歩いて行き扉を開けた。


「そうだ、優斗忘れものがあるの。ちょっとここに来てくれる」


「何だよ、権利を使ってもお別れのキスはしないからな」

 そう言いながら俺は詩織のところに行く。


 詩織は俺にほほ笑む。

「私のファーストキスの相手は優斗だからね」


「は? また何か企んでるのか?」


「酷い、これママが持ってた証拠写真。もちろん写ってるの私と優斗だよ」


 詩織に手渡されたのは見覚えのある子供2人がキスしているドアップ写真。


 え、何これ?


 チュ。


「じゃあね優斗」

 詩織は俺が硬直している間に、頬にキスをすると部屋を出て行った。


 詩織に弄ばれ俺はますます混乱する。


 どうなってんだ?

 俺のファーストキスは詩織?

 じゃあ清秀院さんとのキスはファーストキスじゃなかったって事?


 ……や、ヤバい、これも清秀院さんにバレたら殺されるやつだ。


 なんでこう次々と悩みが出来るんだよ。

 くそっ、詩織が来る10分ぐらい前まで何の問題も無かったのに。


 ――何でこうなった!!



※感想、誤字報告ありがとうございます。

次回は6/20を予定してます。

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