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第13話 幼馴染は見た 後編

 カラオケ店からの帰り道、私は家の近くの小さな公園により少し気持ちを落ち着かせた。泣き顔を親には見せられない。


「もう帰ろう……」

 気持ちが落ち着いたので自転車に乗り家に帰る事にする。

 腕時計を見ると時間は午後六時を回っていた。


 公園からは5分ほどで家に辿り着いた。


 ガキャリ

 私は家の玄関のドアを開ける。


「ただいま~」


 玄関で靴を脱いでからリビングルームに行きドアを開けた。

 うちのリビングの真ん中には低いテーブルが置いてある。そのテーブルの横にママが座っているのが見える。


「ママただいま~」


「詩織ちゃんお帰りなさい、待ってたわ。ねえ、こっちに来てこれを見て!」


 ママが私を手招きする。そばに行ってみるとテーブルの上にはアルバムが置いてあった。


「……わたしの小さい頃の写真?」


「そうなの詩織ちゃんに見せてあげようと思って取り出して来たのよ。ねえ、この子見てどう思う?」


 ママはアルバムのページにある幾つもの写真の中の1つを指差した。


「……っ!」

 そこには4歳くらいの水着姿の私と小さな男の子が仲良く写っていた。


 私はその男の子を見て胸がキュンとなった。


「誰この男の子、可愛い! 可愛いすぎるよ!」


「ふふ〜ん、それは髪を伸ばす前の優くんよ。どう詩織ちゃん優くんに惚れ直した? よりを戻す気になった?」


 無邪気に言うママは何も知らない。

 優斗と別れたのは桐生君と言う間男に私が誑かされからだと思っている。

 今となってはその通りなんだけど………。


 私のママと優斗のママ、つまり香織おばさんは高校時代からの親友で情報が筒抜けになっている。

 どうやら優斗は香織おばさんに「私が他の男を好きになったから振られたと」言ったらしく、ママはそれを香織おばさんから聞いたのだ。

 優斗に浮気されたなんて私のプライドが許さなかったから、訂正せずに私が桐生君に乗り換えた事にした。


「……ママ、またその話しなの?」


「当たり前でしょ。ママ、優くんが息子になってくれる日を指折り数えて待ってたんだから。こうなったらママの宝ものも見せてあげちゃうわ」


 そう言ってママは私から見えない場所に置いてあった別の小さなアルバムをテーブルに置いた。


「これは詩織ちゃんが優くんにメロメロだった証拠よ」


 アルバムを開きママが見せた写真はさっきの写真と同じ場所で撮られたものだった。

 ただ――写真の中の私は嬉しそうに優斗のほっぺにチューをしていた。


「ちょ、ちょっとママ。なんでママが私の持ってない写真を持ってるのよ!」


「おホホ、それは写真を撮ったママの特権よ! どう優くんの元に戻る気になった?」


「も、戻りたくても、もう遅いから……」


「よかったぁ、詩織ちゃん優くんの元に戻りたくなったのね! 大丈夫、桐生なんて子は捨ててしまえばいいのよ。それとも詩織ちゃん、優くんに付きまとってる清秀院とか言うメス犬に怖気づいてるの? いいわ、だったらママがとっておきの勇気をあげるわ。詩織ちゃんこれを見て!」


 ママはそう言って次のページをめくった。


「ジャジャーン、詩織ちゃんと優くんのファーストキスの写真だよ!!」


「ふぇっ!?」


 それは幼かった私達が口付けしている。

 キスシーンのどアップ写真。


「わ、わ、わ、わたしのファーストキスの相手って優斗だったの!?」


「そうよ。ママが優くんと詩織ちゃんに、愛し合う2人は唇にキスするんだよって、教えてあげたらしちゃったのよ。ホント可愛かったなぁ」


 ママ、子供に何を教えてるんですか。


「でも……子供の時のキスだし……」


「ちょっとあなた小さかったから無効だとでも言いたいの? ティーチャーストップのかかったその唇が、まったく穢れていないとでも?」


「ごめんママ何言ってるのかちょっと分かんない」


「むかし優くんはね保育園の全ての女の子のハートを射止めていたの。こんなにカッコ可愛いんだから当然よね。詩織ちゃんはそのライバルたちを蹴落として毎日優くんとキスしてたの、だから女の子たちはそれを見てみんな号泣してたわ。それで保育園の先生にお願いですからもう止めさせて下さいって頼まれ、もとい怒られたのよ」


「……ママ冗談だよね?」


「この優くんのカッコ可愛い写真を見ても冗談だと思うの? 生の優くんはもっと凄かったんだから。それで仕方なくママと香織ちゃんが協力してあなたたちを言い含めたの」


「何て言ったの?」


「優くんには女の子はお姫様みたいに扱わないとダメよ。だからこれからはお姫様に仕える騎士のように詩織と接して大人になるまでキスしちゃダメ、でないと詩織に嫌われちゃうよって。それで詩織ちゃんには毎日キスする節操の無い女の子は優くんにいずれ捨てられちゃうから大人になるまで我慢しなきゃダメだよってね」


 ……そんなんでわたし騙されたんだ。


「それでママね、詩織ちゃんがキスしない間に優くんが他の女の子に取られるのが心配で香織ちゃんに言ったのよ。優くんは成長するに連れて尾崎晃司みたいなイケメンになってるでしょ。だから目立たないように髪を伸ばして伊達メガネを付けさせてみたらどうかってね」


 ――優斗がダサいのはママのせいだった!


「香織ちゃん元々優くんが目立つの嫌がってたから直ぐにママの提案を受け入れてくれたわ。もし今、優くんがイケメンだって周りの女の子が知ってたら凄い事になってるでしょうね、どうママ偉いでしょ」


「えっ? 優斗ってイケメンなの?」


「詩織ちゃんホントにママの娘? あのあごのラインを見たら分かるでしょ」


「そんなの分かんないよ! それに私は優斗の性格が好きで付き合ってたんだから……」


「あ、あなたやるわね……。顔も知らないで恋愛出来るなんて。まるで顔も知らないのに手紙だけで恋愛出来た昔の人みたいだわ」


 私はいつの時代の人間よ。


 パンッ

 「分かったわ!」

 ママが突然両手を叩いた。


「そうか詩織ちゃん、あなた優くんがイケメンって知らなかったから桐生とか言う子に惑わされちゃたのね。だったら今から香織ちゃんに頼んで優くんの顔を見に行こう、そしたらあなただって(ママもういいから!)」


「……わたし優斗とよりを戻せるよう頑張ってみる。清秀院さんにも負けないよ。だってママがこんなに応援してくれてるんだもん」


「詩織ちゃん分かってくれたのね! ママ嬉しいわ!」

 ママを両手を広げて私を抱き締めた。






 ーー



 今わたしは部屋で可愛い服を着ておめかしをしている。

 と言っても優斗が好きな比較的清楚でおしとやかな服をチョイスした。

 でもスカートの丈は短い――優斗はわたしの足が好きだから。


 こんな事をしているのはママに優斗と寄りを戻すと言った直後に私が言った一言が原因。

 私は優斗を手酷く振ってしまったから、優斗は話しを聞いてくれないかも知れない、と言ったらママは「部屋に押しかければいいのよ」とその場で香織オバさんに電話した。

 それで2時間後の午後8時に優斗の家に行き、香織オバさんに優斗の部屋まで案内して貰う手筈なってしまった。


 でも優斗に会う前に私にはやっておかなければいけない事がある――私を罠に嵌めた桐生君と別れる事。

 スマホを手に取り電話をかける。



「もしもし平岩さん、電話をくれて嬉しいよ。ちょうど平岩さんの声が聞きたいと思ってたんだ」


「もうお芝居は止めて、私あなたとは別れる事にしたから。今日あなたが清秀院さんと2人で会ってるところを見たの」


「平岩さん聞いてくれ、清秀院さんと2人で会ってたのは呼ばれたからだ。俺の親が清秀院グループに務めてるの知ってるだろ? 俺と清秀院さんはただの幼馴染だから勘違いしないで欲しい」


「もう嘘はいいわ。あなたが私じゃなく本当は清秀院さんが好きな事、クラスメイトと組んで私を騙して優斗と別れさせた事、全部知ってるから」


「ふっ、そうか。今日俺たちの会話を聞いてたのは平岩さんだったか、それじゃあ仕方ないな」

 急に桐生君の話す雰囲気が変わった。こっちが本性なのね。


「桐生君、清秀院さんに言っといて。私は優斗を絶対に取り戻して見せる。あなたたちには負けないからって」


「分かった伝えておくよ、じゃあな(頑張れよ)(プッ)」


 えっ。今、桐生君小声で頑張れよって言った?

 どう言う意味、無駄な努力って事、それとも私に勝って欲しいの?


「詩織そろそろ時間よ~、準備は出来た〜?」


 ママが1階の階段から2階にある私の部屋に声をかけて来た。


「は~い分かった~、今行く〜」


 優斗、わたしあなたを必ず取り戻して見せる。

 今から行くから、待っててね!



※感想、誤字報告ありがとうございます。

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