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第12話 幼馴染は見た 中編

 少し落ち着きを取り戻した私は、トイレから出ると急いで担任の先生の所に行き早退の許可をもらった。

 先生は前回の早退から日が経っていないからか私を心配した。先生は私がイジメに遭っていないかとか、ずっと体調が悪いなら1度保健室の先生に相談してみてはと言った。

 

 学校を出て徒歩で家に帰る途中、私はふと足を止めた。

 早退は失敗だったかも知れない。もしかしたら清秀院さんたちに覗いていたのが自分だというヒントを与えてしまったのではという考えが脳裏を過った。でももう後戻りはできない。それよりも今は一刻も早く家に帰りたい、その思いが私の足を再び動かせ歩き始めた。



 ーー


 家に帰って自分の部屋に入ると私は勉強机の椅子に座り、シャーペンを持ちノートに清秀院さんたちの会話で覚えている内容を忘れないうちに全て書き出した。

 そしてそれらを箇条書きにし、文の意味を一つずつ考えてみる。


『優斗様はまだ平岩さんの事が好きなの、だからあなたに彼女を抱いて欲しいの。これは約束でしょ』


 ……。

 これは優斗がまだ私の事を好きだから、その未練を断ち切るために桐生君に私を抱けって事で……。そして前々からそう言う約束がされていた……?


 いったいあの人たちは人の事を何だと思ってるの!


 私はこの一文だけでパニックになりそうだった。

 優斗がまだ私を好きだと言うちょっとした嬉しさと、とんでもない事に巻き込まれてしまったと言う怖さ、そして自分の事しか考えない身勝手な清秀院さんたちに対する怒りがわいてくる。


 私はさらに次の一文に目を通した。


『お前、昨日俺が平岩にキスした事をなんとも思わなかったのかよ』


『言ったはずよ、わたくしが愛してるのは優斗様だけ、あなたじゃないわ。それにあなたが抱いた女の数は1人や2人じゃないでしょ。それに平岩さんを加えてと言ってるだけよ』


 これは清秀院さんが優斗を好きなのは嘘じゃないと言う事で……、そして桐生君は女性経験が豊富で本当に好きな相手は――清秀院さんだ!


 脳裏に昨日の桐生君とのキスが蘇り自分のした事に愕然としてしまう。私は自分を好きでもない男にファーストキスを捧げてしまったのだ。


 ――絶対に許さない!


 もう桐生君に対する好意は完全に無くなってしまった。

 桐生君が私を好きだと言っていたのは真っ赤な嘘だったし、しかも彼の正体はたくさんの女の子と関係を持つチャラ男だった。

 長い時間を共に過ごした優斗と違い、後に残るものなんて何も無い。

 怒り以外。


 なんで清秀院さんが好きなのに私とキスするのよ!


 …………?

 待って、清秀院さんは優斗が好き、だから清秀院さんの命令で優斗の恋人だった私を口説いた?

 ……

 ……私を優斗と別れさせるため……近づいて……。

 ……

 私が優斗と別れたのは優斗が浮気したから。

 ……でもそれは桐生君とその友達の証言があったからで……。


 ――まさかあの時の証言は全部嘘なの!?


 シャーペンがポトリと手から落ちた。


 ――わたし嵌められた?


 血の気が引き絶望感が襲ってくる。

 頭は真っ白になり思考が働かない。


 ……

 ……

 駄目、もう何も考えられない。


 これ以上考えるのは今は無理……少し休憩しよう。

 私は椅子から立ち上がるとベットに行き、バフッと頭から倒れ込んだ。


 しばらく目を瞑っていたら疲れが溜まっていたのか、眠気に襲われた。


 あっ、わたし…まだ……制服着たままだ……。

 シワに……なっちゃ……もう………や。




 ーー

 ー


 目が覚め時計を見ると午後の四時をまわっていた。


 ベットから降りて再び椅子に座る。


 優斗は浮気をしていない。

 きっと私が清秀院さんや桐生君たちに騙されて優斗が浮気したと勘違いさせられたんだ。

 そう思いながら桐生君たちとの出来事や相関関係図をノートに書き込んでみた。


 それを見ながら優斗が浮気していると思った原因である、優斗の1回目と2回目の嘘についていくつか仮説を立ててみた。

 そして私はある恐ろしい可能性に辿りついた。


 優斗が言った事を全て真実として考えた。

 その場合、桐生君とそのクラスメイトの証言は全て嘘。彼らはグルと言う事になる。そして信じたくはないけど私の友達の陽菜乃やあかりまで清秀院さんに協力している可能性があった。


 1回目の優斗の嘘。

 ショピングモールで優斗と清秀院さんを目撃したあの日。優斗と私はショピングモールに誘導された可能性が高い。優斗を誘導したのはクラスメイト、そして私を誘導したのは友達の誰かだ。


 2回目の優斗の嘘。

 優斗がカラオケ店で桐生君と一緒に歌っていたと言った時間、私も桐生君と一緒だった。これが優斗と別れる決め手になった。よりにもよって私が優斗を裏切ってあの男とデートしていたあの時間……。


 ここが問題で、私も優斗も嘘をついてないなら桐生君は2人いた事になる。

 私と会った桐生君と、優斗が会った桐生君のどちらかは桐生隼人の偽物。可能性としては桐生君の双子や兄弟、そっくりさんだ。でも双子とかだったとしても優斗が本当にその時間に一緒にいたか分からないし――ううん、分かるわ!


 なんで優斗と別れる前に考えなかったんだろう、私はバカだ!


 私は急いでパソコンの起動ボタンを押す。優斗の写真が必要だけどスマホにあった優斗の写真は既に削除してある、でもパソコンにはまだ優斗の写真があった。


 パソコンに保存してある写真の中から優斗が写っている写真を選び、データをスマホに転送させると私はすぐに家を出た。

 向かう先は優斗がクラスメイトと行ったと言うあのカラオケ店。あそこには私も行った事があるから知ってるけど室内には監視カメラがあった。優斗が先週の日曜日にクラスメイトと行ったかどうか、これで確認できるかも知れない。


 自転車を漕いでで30分ほど、私はようやく目的のカラオケ店に到着した。

 急いで自転車を降りると受付のある建物に駆け込む。


 カランカラン


「いらっしゃいませ」

 テレビを見てるおばさんが私に気づき挨拶する。


「すいませんちょっとお聞きしたいんですが」

 私はスマホを取り出して、優斗の写真をおばさんに見せる。


「この男の子が1週間前の日曜日のお昼過ぎに、クラスメイトとこのお店に来たらしいんですが分かりませんか?」


「あ~ごめんね、おばさん常連のお客さんじゃないと覚えてなくて……あっ、でもこの子なら覚えてるわ。すごく歌の上手なハンサムな子と一緒に歌ってた地味な子よね」


 やっぱり優斗は来てたんだ。


「本当ですかありがとうございます。あのそれで、もしかしてそのハンサムな子と言うのは……。この子でしょうか?」

 私は写真を桐生君に切り替えておばさんに見せる。


「そうそうこの子だわ。尾崎晃司に似た歌声が聞こえて来たから、おばさん思わず部屋を覗いちゃったのよ。そしたらこのハンサムな子がさっきの子と一緒に歌ってたの。このハンサムな子の歌声におばさん痺れちゃったからよく覚えてるわ~」


「あのすいません、もし監視カメラにその時の映像が映ってたら見せて貰えませんか」


「そう言うのは店長にダメって言われてるんだけど、この子たちの知り合いみたいだからいいわ。おばさんが見せた事は内緒よ」


「はいもちろんです。ありがとうございます!」



 ーー


「どうもありがとうございました」

 おばさんにお礼を言って店を出る。


 おばさんが見せてくれた映像には確かに優斗と桐生君らしき人物が映っていた。だけど画像の質と暗さから、本物とも偽物とも判別できなかった。


 もっと明るかったら桐生君の偽物かどうか分かったのにな。


 トボトボと自転車を押しながら考えていると、ふと閃いた。


 そうか、桐生君たちはこれを利用したんだわ!


 優斗は桐生君が遅れて店に来たって言っていた。

 きっと店内を暗くすれば偽物だって分からないと思ったのよ。

 暗い室内に桐生君にそっくりな容姿と声の人が遅れてやって来て。みんなが「桐生遅かったな」って言ってたら優斗だって桐生君が来たと思うはずよ。それに優斗は髪が目元まであるからなおさら桐生君の顔なんて分からない。

 それで桐生君の偽物が優斗の横に座って、いつも話してる内容を喋ったら優斗は桐生君だと思い込む。それからボーリング場ではわざと伊藤君に優斗とずっと話しをさせて、優斗を桐生君の偽物に近づけさせないようにしたんだわ。


 ――優斗は浮気してなかった。


 わたしの心は優斗が浮気していなかったと言う喜びに溢れた。


 よし、今からこの事を優斗に打ち明けて真実を明らかにして……っ。


 ――今の優斗は私より清秀院さんの言う事を信じるかもしれない。


 大丈夫、わたしには証拠が………っ。

 わたしに証拠なんてあるの?

 

 私は優斗の2回の嘘について証拠があるか思い返してみる。


 1回目の優斗の嘘。

 桐生君のクラスメイトが私に嘘をつき、優斗とはカラオケに行かなかったし会ってもいないと証言した――これについての証拠はない。それに今ならきっと桐生君のクラスメイトは証言を変え、そんな事は言っていないと私を悪者にするはずだ。


 2回目の優斗の嘘。

 カラオケ店で優斗が桐生君と会ってた時間、わたしも桐生君と会っていた。

 カラオケ店で確認した人物が桐生君の偽物だと言う証拠はないし、それにその時間に私が桐生君と会ってたと言う証拠もない。


 ――私は優斗に桐生君たちに騙されたと何も証明できない。


 わたしは希望を失った。


 優斗ごめんね。

 わたしにはもう無理だよ……。


 わたしにはもう出来る事は何もない。

 優斗への気持ちよりも、こんな事をした清秀院さんたちの方が怖い。もしかしたら両親まで巻き込んでしまうかもしれない。そう思うとすごく怖い、わたしはこれ以上頑張れない。


 ただ優斗を信じてあげられず、自分の過ちで優斗を失った悲しみが襲って来た。


 気づけば私の頬を涙が伝っていた。


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