媚び諂って相手を持ち上げることが取り柄の小国の外交官が国王にキレられて追放された後のお話
小国・マチカルス・ドットレルス
人口は全部で5万人、国土はそここそ広いが不毛の大地とまではいかないが荒れており。これと言って鉱山資源や特産物になりえる物はないちっぱけな国だった。
一応申し訳程度に国には兵士がいるが。なにせ人口が5万しかいないのだ、そんなにたくさん用意できるわけもなくたったの500人。それも特に練度が高いとか優れているとかいうわけでもない。
そんな小国・マチカルス・ドットレルスは一度も戦争を起こしたことがない。どころか他国とは対等とは言えないものの上手に渡り合い良好な関係を築いていた。
その理由は一人の外交官のおかげであった。
その外交官の名前はラットルス・ライラ。容姿は普通で髪は珍しいが一定数存在する黒髪で中肉中背、特にこれといった特徴のない男である。
そんな彼には一つ特技というか取り柄があった。
それは、相手に媚び諂って持ち上げることだ。
これが本当に上手であった。彼はプライドも恥も捨て時には相手に土下座をし時には靴すら舐めてまで相手のご機嫌を取り、自国が出来る限り有利になるように、不利にならぬように他国と交渉をするのが本当に上手かった。
この小国・マチカルス・ドットレルスが他国から一度も戦争をしたことがないのは。戦争をしてもそこまで旨味がないというのも大きな理由ではあるが彼の存在が戦争を起こさせないようにしていたことが大きい。
その事実に対して彼は気が付いていた。自分がこうして他国、特に帝国や連合国軍、正教国といった大国の外交官や主要人物に媚び諂い持ち上げて、自分達の国と戦争を起こされないように出来る限り下に見せて、相手の国がいかに巨大か褒めたたえて自分の国がいかに小さく、戦争をするに足らない存在だと認識させて、戦争を起こさせないように努力をしていると。自分がどれだけ凄いことをしているのか誇りを持っていた。
自分がこの国を他国から守っているんだと確かな自負と自信を持ち常に行動をしていた。
そんな彼であったが。追放された。
いきなりこの国の国王に呼びだされて怒鳴られたのだ。
「我が国をこんなに馬鹿にするとは何事だ。お前はそれでも外交官であるか。今までの働きを考慮し処刑はしないが我が国からは追放じゃ。即刻立ち去れ」
と。
まあ、それはその通りであった。
彼は今まで他国との外交で相手を立てる為におだてるために、この国をかなり馬鹿にしていた。
戦事が大好きで、強い相手と戦うのが生きがいのような国の外交官に対しては、自分達の国は戦争を一度もしたことのない腰抜けだ。兵の練度も低いクソみたいな国だと罵り。逆に相手を持ち上げて戦う価値のない国だと認識させて戦争を回避させた。
とある商業国と戦争になりかけた時は、いかにこの国の土地の価値がないかを教え語り、我が国を襲うぐらいならば、まだ開拓されていな森の開拓をした方が100倍豊かになれると語り、戦争を回避させた。
また、とある宗教国家が自分達の神を教えると戦争をしかけかけた時は、我が国民は神の教えを理解できるほど教育が出来ていないと語り、逆に相手の国の神を褒めたたえ、崇め奉り、我が国では貴方様の神の教えを理解するのは恐れ多いと、教育すらまともに出来ていないこの国には勿体ないと言い放ち戦争を回避させた。
そうして彼は今まで幾度となく戦争を回避させたが、その分この国の事を罵ってきていた。
それが不幸なことに国王の耳に入ったのだ。自分の国の外交官が自分の国を他国の外交官相手にクソだと罵っていたのだ。まあ許せるはずもなく、即刻追放した。
もちろんその追放は間違いで合った。
彼ことラットルス・ライラは言い訳する機会すら与えられずに追放された。
その後、彼は伝手というか何度か外交官として会ったことのある、とある大国の外交官に頼み込みその国の外交官となった。
そんな彼はそこでいくつも功績を上げていった。自分を下に見せつつも、決して今いる大国は舐められないように上手く立ち回り、相手をひたすらおだててもてなし上機嫌にさせて自国に有利な契約をガンガン取っていった。
そうして僅か1年でかなり出世をして大国の外交官トップの補佐を務めるまで成長した。
そこまで成長を果たすと、自分を追放した小国・マチカルス・ドットレルス程度であれば潰せるほどの権力は手に入れていた。
しかし彼はそうしなかった。何故ならばマチカルス・ドットレルスはすでに内乱によって滅んでいたからだ。
何故かの国が滅んだか説明をしよう。というわけで時はまず彼ことラットルス・ライラが追放された所から始まる。
外交官であるラットルス・ライラが追放された時に小国・マチカルス・ドットレルスに残った外交官は二人だけとなった。
しかし。その二人共は貴族の血筋でありコネで外交官になったものであった。また、非常にプライドが高く仕事は当たり前だがしていないクソ無能でもあった。
しかし、小国ということもあり、外交官としての仕事がそう高頻度で回っては来ず、暫くは二人が何もしなくても回っていた。
しかし問題が起こった。
その問題というのは取引している国との契約内容の変更についてだ。
小国・マチカルス・ドットレルスは良い大地とは言えないものの、それなりに広大な土地を生かして大量に生産されるイモや麦などの穀物類を他国に売っていた。
しかしそれは外交官であるラットルス・ライラがいたからこそ成り立っていた物だった。
小国・マチカルス・ドットレルスで売っている作物は普通に買うよりも安い。だがしかし。メチャクチャ安いという訳ではない。両国に取って利益の出る良い塩梅で値段が決められていたのだ。
ただぶっちゃけよう。他の国でもっと安く作物を売っている場所はかなり存在する。何故ならば脅されていたからだ。ようは武力を背景にして無理やり安くさせていたのだ。
もちろんこの行為は小国であるマチカルス・ドットレルスに対しても出来た。しかし外交官であった、ラットルス・ライラの必死にお願いもとい、自分達が困窮して無理ですと泣き脅し、相手をひたすらに褒めたたえ土下座をして。その上で互いに利益の出る範囲での値段を提示して今の価格で取引が成立していたのだ。
ただ、ここで彼は大きなミスをしていた。いや正確に言えば自分がずっとこの国にいるということを前提に毎年話し合いで取引内容を決めるという契約をしていたのだ。
何故なら、取引に使っているのは農作物だ。その年によって豊作・不作は出る。それなのに常に一定金額で販売というのは無理があったからだ。
そうして、ラットルス・ライラがいない中、ほとんど仕事をしたことの無い外交官二人が契約変更に向かった。
まあ、結果はお察しの通りだ。
物凄い買いたたかれた。恐ろしい程の安値を付けられた。
当たり前だ。相手は百戦錬磨の外交官だ。プライドが高いだけの無能二人が敵う相手ではない。
話し合いが始まってそうそう、恐ろしい安値を言われて。断ろうとしたら戦争だと脅された。凄まれた。
たったそれだけで無能外交官の二人は委縮して頷くしか出来なかった。もしもこれがラットルス・ライラであったならば、冗談は止してくださいと言い放ち。再度互いに利益の出る数字を見せてから、納得するまでの泣き落としや。貴方様の国力であればこの程度痛手にはならないでしょう。どうかここはこの私に免じてと泣きながら土下座をしたりと。あの手この手で相手が折れるまで交渉を続けていただろう。
しかしそれは叶わなかった。
そっから小国・マチカルス・ドットレルスは崩れていく。
一応この事態を聞いた国王が激怒したが、一度結んだ契約は国際条令により破棄できない為、無理やり我慢するしかなく。代わりに無能外交官を処罰し新しい外交官を置いた。
しかし、そうやって置かれた新しい外交官も無能であった。というかほとんど外交の経験のない者であった。そっからその人も失敗してまた他国と不平等な契約を結んでしまった。
そうして国王は外交官が失敗するたびに首にして新しい外交官を置きまた失敗して首にしてを繰り返した。
ようはまあ同じことの繰り返しだ。
もちろん何の解決にもならない。むしろ事態は悪化していく。そうやってそうこうしていると、国民が反乱を起こし始めた。
理由は超絶簡単だ。
不平等契約によるダメージは一番国民に来たからだ。
毎年作物を売ればそれなりに貰えていたのに。いきなりほとんど貰えなくなり。
今までは自分達の食べる分を確保した上で農作物は売りに出されていたのに。自分達の食べる分すらも売れと上から命令される。
そのせいで国全体が慢性的な食糧不足に陥り、兵士達の食糧が減らされ不満が貯まった。
それなのに上は税収が減ったので兵士含め国で働く者の給料を大幅に下げた。
そんなことをしたのだ、まあ反乱するのは当たり前というものだ。
そうして大規模な反乱が起きた。
でまあ、結果は反乱軍の勝利だ。
当たり前だ。兵士のほとんどが反乱軍側に着いたからだ。
そっからまあ反乱軍が国をまとめられるかというとそんなことはなかった。
何故ならば国を運営するノウハウを持つ人間が一人もいなかったからだ。反乱軍はようは国というか自分達に命令をしている国王や貴族に怨みを持つ者の集まりだ。
もちろん国王も貴族も皆殺しになった。
そうなったら。誰が国を支配する。誰も出来ない。だって誰も国を統治するなんてしたこともないし教えられていなからだ。ましてや他国から不平等条約を山の様に抱えて、内乱のせいで街はボロボロ、民は飢えに苦しみ、ろくにお金もない、それでいて少し頭の回る人はすぐにこの国に見限りを付けて逃げ出しているので良い人材もいない。どうあがいても滅ぶ以外の道はなかった。
そうして小国・マチカルス・ドットレルスは一度も戦争をせずに内乱で滅んだのだった。
これが媚び諂って土下座をするしか能のないと罵られていた外交官を追放した国末路であった。
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「ライラ様。そういえば聞きましたか。ライラ様を追放した国が内乱で滅んだ話」
とある交渉の場で小国の外交官がラットルス・ライラにそう言った。ほんの軽い挨拶のような感じで向こうは言ったつもりだった。もちろん彼はそれを理解していたし、別に自分を追放した国だ。滅ぼうが発展しようがどうでも良かった。しかしここは交渉の場だ。その場でこの発言は失敗であった。
「おい、お前、ふざけているのか。俺が生まれ生きて尽くした国だぞ。その国が滅んだという事実をわざわざ俺の前で言って楽しいか?」
そう、怒鳴るわけではなく。低い声で脅した。
「いえいえ、そういうわけではなく」
それに完璧に委縮してしまった外交官。そっからはまあ彼が主導権を握り交渉を優位に進め、最後は敢えて慈悲の心を持ったという印象をもたせるように。相手側にもギリギリ利益が出るラインで交渉を終わらせた。こうすることにより。自分の今の国のイメージが良くなるからだ。
それを全て計算して彼は交渉を終わらせたのだ。
元々は小国の外交官として色んな人に媚を売って土下座をして自分を下にして相手を上にする。そんな交渉をしてきた彼は今、その経験を活かしつつ更に交渉術に磨きをかけて自分の国が有利になるように立ちまわっていた。
その功績は誰もが認め。今の主である国王から表彰もされた。
そっから美人の奥さんを貰い子宝にも恵まれ彼、ラットルス・ライラは幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
何となくで書いた。
多分書くのに2時間かかってないっす。
後私結構色んな作品を書いているのでよろしければそちらも読んでみてください。