硝子細工の夜
惨めだ、全くもって
私は、全部に裏切られた
もう、何も残っちゃいない
雨が降りしきっているのは、せめてもの救いなのか
傘も持たずに、夜道を歩いていた
ここから飛び降りて、死のう
それで、楽になれる
「こんばんは、お姉さん」
いきなり声を掛けられ、驚いて振り返った
こんな雨の日に、こんな夜更けに
街灯に照らされたそこには、まだ、私より若い女の子が居た
「傘、要りますか?」
変な子だ
それに
「傘は、持ってるやつしかない様だけど」
「良いんですよ、これをあげるんですから」
物怖じせずに、その子は言った
ペースが狂う、これから死のうっていうのに
「なんで、私に話しかけたの?」
そういったら、その子はすぐに
「死にに行くんでしょう?お姉さん」
そして、少し間を置いてから
「一目惚れしたんです、その・・・一緒に、帰りませんか?」
「私に、もう家なんてないけど」
私は、嫌われるようにわざとぶっきらぼうに言った
でも
「だったら、私の家にきませんか?」
「好きな人に・・・死んで欲しくないんです」
変な人だ
「・・・わがままだね」
「私は、わがままですから」
なんだか、バカバカしくなってしまった
だから私は
「わかった死なないよ。さっ、どっか行きな」
そう言って、追い払おうとした
その時
その子は、抱き着いてきた
その拍子に、傘も落ちて
「お姉さん、私は」
2人とも雨に濡れている
「私は、そんな泣きそうな顔の、好きな人を放っておけません」
「それに・・・大好き、なんです。ずっと前から」
私は思い出した
この子とどこで会ったか
「ごめん、ね。忘れてて」
まだ、愛されていたいんだな
死ぬ気も、無くなってきた
涙が零れ落ちてくる
「お姉さん、行きましょ」
「こんな所じゃ、風邪ひいちゃいますよ」
はにかみながら、彼女は言った
手を繋いだ
あの時とは違う
私が、彼女を頼って
「ありがとう」
そう、彼女に向かって言った
しばらくは生きていよう
彼女に愛されてる間
この子を、悲しませないように
私たちは、夜道を歩いていった