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04 「犬、吐露する」



『君、大丈夫? 足怪我してるの?』

『――』


『あ、じゃあ私が治したげる! 私ね、魔法使いなんだっ!』

『――っ』


『痛い? ごめんね、治癒の魔法ってまだあんまり習ってないから……』

『――』


『怖がらないで。君、どこの子? 名前は? ……ないの?』

『――』


『ふふ、いい子。ね、君うち来なよ。大丈夫、家の人達にはこのこと内緒にするから。君見たことない子だし、その方がいいよね』

『……』


『でも名前がないのも不便だよね。うーん、そうだなあ……じゃあ君は――』

『――!』





「――レイド、レイド大丈夫ですか?」

「う……」


 ぼんやりと懐かしい声色から、現実味のある声色へ。

 呻きながら目を開ければ、そこには白い天井と二人の人物がこちらを覗き込んでいるのが見えた。


「……タタミのいい匂いがする」

「それ誉め言葉ちゃうからな。つか、ようタタミなん知っとったな」


 率直な感想だったんだが、外したらしい。


「ここは……」

「医務室です。適正を告げられた瞬間、あなたが倒れて……」

「まあ隣り合った者の縁や、少しオレらで様子を見とった。医務室の先生は、目が覚めたら帰っていい言うとったで」

「そっか。ありがとうな……」


 まだ会って間もないのに、看病まで。

 俺はのそのそと起き上がり、優しい双子に頭を下げる。そうすれば、二人は気にするなとでも言うように肩を竦めた。


「それにしてもレイド、どうして倒れたりなんか……」


 ベッド脇にある椅子に腰掛けながら、ユエは不思議そうに首を傾ける。その動きに合わせ、艶のある長い黒髪がサラサラと流れた。

 窓の外を見れば、昼食をとる時間はもう過ぎてしまっている。随分、眠ってしまっていたようだ。


「ああ、そうだな――」


 ……こんなに長い時間看病もしてくれたし、話してもいいか。いや、彼らには知っておいてもらいたい。


 でなければ、先程見た夢に押し潰されそうだった。


「嫌いなんだ。自分の魔法適正が」

「……珍しいもんやな。そこまで言う魔法使いは」

「魔法適正は生まれ持ったものではありますが、これまで育まれた精神性にある程度沿って発現するはず。それを……」

「嫌いだ」


 こんな魔法、人に向けて使いたくなどない。


「……事情を、聞いても?」


 控え目に、こちらを窺いながら聞くユエ。

 俺は込み上げる吐き気を堪えながら、ポツポツと言葉を漏らした。


「昔、傷付けてしまった女の子がいたんだ……」


 俺はとある事情から、幼少から自分の魔法適正は熟知していた。


「それを見たがった子がいて……軽い気持ちだったんだ。浮かれてたんだ。初めて魔道具を出せてさ。それで、その子に……俺は……」

「……もうええ。よう分かった」

「レイド……」


 子どもの魔法使いにはよくある話だ。

 軽い気持ちで魔法を使い、痛い目を見る。だからこそ魔法の才能がある子には、魔法学院に入学させるまで魔力の封印を施す家庭も多い。むしろそれが当たり前だ。

 だが、ある程度早く魔法に触れさせる……魔法使いの多い家系では、封印を施さない家庭もあるのだった。


「その傷付けた子というのが生徒会長……シンシア・ジェイルニールということなのですね」

「!」


 ユエが核心を突く。

 俺はその名を聞き、胸がズキリと痛んだ。


「……あの子には恩がある。あの子が俺を拾ってくれなければ、俺は野垂れ死んでいた」

「レイドは、孤児なのですか?」

「似たようなものだ」


 そして同時に、俺を助けなければ彼女が傷付くこともなかった。


「感謝と同時に、大きな罪の意識もある。だから――」

「会長の犬になるっちゅうわけか、なるほど」


 ジュウベエが言葉を引き継ぎ、うんうんと唸る。

 ……何か、彼には通じるものがあったのかもしれない。


「分かってくれるか。そう、毎日踏まれて蹴られて彼女のストレス発散の助けになりたいんだ!」

「そこまでは言うとらんし、お前の趣味も多分に入っとるやろ」


 当たり前だろうが俺は誇り高いマゾだぞ!

 俺の言葉にジュウベエは「はいはい」と、暗い雰囲気を洗い流すように軽くあしらう。今は、その飄々とした態度がありがたい。

 しかし……


「……なるほど」


 ジュウベエに対しマゾとして憤っていると、ユエがぽつりとそう呟く。


「ねえ、レイド?」


 ゾクリと。

 その甘ったるい声と共に、まるで舌で舐め上げたかのように背筋が震える。なかなかのサド力であった。


「あなた……私の犬になりませんか?」

「なんっ、お嬢!?」

「……ほう」


 ジュウベエを手で制し、ユエはそのオッドアイを嗜虐的な色に染めてこちらを射抜く。


 ――金色の瞳が、三日月のように細められていた。獲物をいたぶって遊ぶ、イタズラな猫のように。


「……なぜ、いきなり?」

「くす、あの騒動で有耶無耶になってしまいましたが……適正だけでなくあなたの魔力、とんでもないみたいですね。計測不能だとか」

「ああ、使いどころはそうないけどな」

「なら、私が使ってあげます。その力、手放すには惜しい」

「……随分と、買ってくれるじゃないか」

「ええ、単純に興味があるんです、あなたに」

「俺はしがない犬だ」

「しかし"ただの犬"では、ないでしょう?」


 ユエは教室で見せたカードを再び取り出し、クスクスと笑いながらこちらにその絵柄を見せた。


「私の魔法適正は占いの魔法なんです。もちろん、実家のほうで既にある程度の手解きは受けていますので信憑性はありますよ」

「……ほう」


 その絵柄は――


「……ねえ、あなた。いったい何者なのですか?」


 古の……今ではおとぎ話に語られるのみの、巨大な竜の絵柄が顕現していた。


 かつて存在していた伝説の生物達。

 自然を壊し、人を屠り、神すら食い千切る暴虐の獣。


 ――人、それらをして“幻獣”という。


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