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4-3、セダン城

 

 アマミク、アマツチ、そして私は大型翼竜に乗って飛び立った。

 上空から見るセダンの国は、とても緑が多い。昨日までいたアスラとは大違いだ。

 広い魔女の森のはるかかなたには山や草原が見える。平野部には農村があり、穀物畑や牧場など、のどかな田園風景が眼下に広がっていた。


 翼竜は人が乗るように鞍がついていて、落ちないように腰はベルトで固定されている。

 翼竜が翼を動かすたびにぐわーっと風がおきて、間近で見ていると大迫力だ。


 ……うわー、竜ってすごーい。濃い緑の鱗はピカピカだし、顔とかトゲトゲしていてとても強そう。カッコいい。


 初めて見る本物の竜に、私はうっとりと見とれていたが、風に煽られたマントに引っ張られ、落ちそうになった。


「……ひゃあ!」


 気がついたアマツチが私の肩をぐっと押さえた。

 

「慌てないで、ベルトで固定されているから回転しても落ちないよ。怖いのなら紐に捕まっていて」


 私はアマツチに教わって、紐のようなものに捕まり、マントが飛ばないように体に縛り付けた。

 振り返りアマミクを見ると、慣れているのか両手を頭の後ろに組んで、ふんぞり返っている。


「鞍を腿ではさみこむようにて、足をぎゅっと閉めるんだ。手は添えるだけの感じだよ」

「こ、こうね」

「そうそう、うまいうまい」


 アマツチは太陽のように朗らかに笑う。フレイの夢での一の王はいつも笑顔だった。笑うし泣くし、よく怒る。顔を見れば何を考えているのか一目で分かる、裏表が全く無い人だ。


「あの、さっきはふたりの喧嘩にびっくりしていえなかったけど、助けてくれて、ありがとう……」


 風に流されないように、アマツチの耳の側で言うと、アマツチはミクに聞こえるように、大きな声で返事をした。


「これでしょこれ! 感謝の気持ち! どっかの女はいきなり蹴ってくるとかまじ猛……」

「話しかけたらダメ! 挑発はもっとダメ!」


 こんな高いところから落ちたり、燃えたりするのはイヤだ。

 私は慌ててアマツチの口を手で押さえた。

 アマツチは口を押さえられてビックリしていたが、何かを考えて黙った。

 騒ぐとグラリと翼竜が揺れたので、バランスを崩した私はアマツチにしがみつく。


「ご、ごめんなさい……」

「そのままつかまっていていいよ」


 アマツチが笑っていうので、私は遠慮なく捕まらせて貰った。

 一行は大きな森を縦断して、何回かの休憩を挟んで王都に向かう。日が傾く頃には眼下に大きな都がみえて、アマツチは「下りるよー」といい、急降下をはじめた。


「きゃああああ」


 私は怖くてアマツチに抱きついた。



 地面に降り立った私は、ヨロヨロと地面にしゃがみこんだ。まだ空を飛んでいた感覚が消えていない。

 アマツチは翼竜から私の荷物を下ろしてくれた。それを背負おうと背中に回すが、重さに負けて尻餅をつく。そのまま起き上がれずにじたばたしていると、アマツチが荷物を持ってくれた。


「送ってくれてありがとう、あと荷物もスミマセン」

「気にしないでいいよ!」


 アマツチは上機嫌で笑った。そんなふたりの背後から、ミクが怪訝な顔でじーっとこっちを見ている。遅れているミクに気がついた私は、ミクに駆け寄ってその手を取った。


「本当にしゃべらなかったね、ミクも一緒にセダンに来てくれて、本当にありがとう!」


 ミクに精一杯の感謝を伝えると、ミクは私をぎゅーっと抱きしめて、アマツチに向かって舌を出した。


「コウ、ダメだよ、あれにさわったらダメ!」

「何で?」

「こんなやーかいのに触られたら、あいつはコウをたべちゃうから! 目を合わせてもだめだからね!」

 

 私は豊満なミクさんの胸から顔をずらして、プハッと息を吐いた。


「セダンでは人間たべるの!?」

「アハハ! 食べないよー!」


 ミクは弾けるように笑い、私に頬を寄せて頭をぐりぐりとをなで回した。



 翼竜が降りた場所には、ほかの翼竜や、移動用の馬などが繋がれていた。竜は借り物だったらしく、アマツチは竜を返却していた。


「……すごいなー、翼竜、かっこいいなぁ」

 

 荷物はアマツチに持って貰い、私は夢の中で見た街を興味深く見学した。フードを被った私が広場を回って繋がれた竜を珍しげに見ていると、ミクが笑う。


「そんなのよくいるタイプじゃない、砂漠でも飛んでいたわよ」

「そうなの? 教えて欲しかったな、ゼンゼン気がつかなかった!」

「火竜だっていたじゃない」

「火竜は幼児だったし! 鱗とかしっぽとかついてなかった」

「コウも地下に来たら良かったのに」

「溶岩は無理だよ、溶けちゃう」

 

 案内のアマツチが先頭を歩き、その後ろを女ふたりがついて行く。セダンは地震が多いようで、建物は低く柔らかい木でできていて、屋根には瓦が乗っている。セダン城下町は古い日本の港町に似ていた。


 道に沿って立ち並ぶお店には、食べ物や衣類がみっしりと並べられている。温暖な気候のせいか、建物は開放的で、店の奥に住居スペースが見える店まである。開放感のある町並みと穏やかな人々の様子を見ると、かなり治安は良いようだ。


 道行く人の服装も、着物のような前合わせの上着をカラフルな帯でとめている。その服装は和風というよりも大陸寄りな感じがした。


 活気ある城下町と、たくさんの人にミクは驚いて私の腕にしがみついた。


「なんか、道行く人がこっちみてる……」

「ミクさん、大丈夫だよ。ミクさんは綺麗だし、この人は一の王だからね。注目されて当然だよ!」


 私は怯えるミクをなだめるが、アマツチは肩をすくめてニヤリと笑う。


「赤い珍獣が捕獲されたみたいだな。そのまま市場で売り飛ばそうか?」

「挑発ダメだし!」


 私が言うと、アマツチは笑って振り向いた。アマツチはミクがつかんでないほうの私の腕を引っ張った。

 ミクもアマツチもとても背が高く、私と三十センチ以上の差がある。

 私は両手をふたりに捕まれて、そのまま腕をぶらぶら揺すった。


「あれ? なんだろう、この感じ?」


 私は今の状況を考えてみた。

 白いてるてる坊主のようなフード付きマントを着た子どもを、両脇からふたりが捕獲している。

 両手に花じゃないし、仲良し家族とかでもない。私はうーんと考えて思い至った。


「宇宙人捕獲される!」


 私が宇宙人か! いや、異世界人だよ!

 私は自分で言っておかしくなって、アハハと笑った。



 城につくと、アマミクと私は年配の女性たちに囲まれた。砂漠の旅でふたりとも汚れていたらしく、汚れた衣服を剥ぎ取られ、ふたりはお風呂に突っ込まれた。

 セダンは水が豊かな土地だと言う。案内されたお風呂は、浴槽が木でできた露天風呂だった。


「おおお、温泉だぁ……」


 火竜の温泉は完成しなかったので、アスラでは体を拭くだけだった。なのに目の前には広い浴場とたっぷりのお湯がある。


 私がはじめての共同浴場にとまどっていると、城勤めの女性が入り方を教えてくれた。


 教わった通りに体と髪を綺麗にして、おそるおそる湯船に入る。ちょっと熱めの白っぽいお湯が疲れた体に染み入るようで気持ちいい。初めての温泉、しかも露天風呂は極楽だった。

 私は目を閉じて、はーっと息を吐いた。


「なーにたそがれてんの?」


 背後からミクが抱き付いてきた。ミク本体は汚れがつかないので、ミクは体にお湯をかけただけで、ザブザブと湯船に入ってきた。


 ……なんか、背中にすごいものが当たってるんですけど……もしかしてこれは……ミクさんのお胸?


 私はおそるおそる振り返りミクを見る。ミクは恥じらうことなく豊かなそれを晒していた。


 ……ギャーッ!


 私は心のなかで声にならない悲鳴をあげた。


 ……はじめて見た。人様の裸、はじめて見た!


 私がミクの胸を見てあわあわしていると、ミクはニヤリと笑って私に寄りかかってくる。


「コウは何才なの? 十才くらい? 大丈夫だよ、すぐに大きくなるよ!」


 ……十五才です! と、言える雰囲気では無かった。



 砂漠仕様のフード付きの生成の服は、洗うからと城の女性に取り上げられてしまった。代わりにと、私は緑の袴に白い着物のようなものを着せられ、さらに薄い布地の短い羽織りをかけられる。


 町の人は男女共に、裾の短い着物に、ズボンをはいた人が多かった。それに比べると今私が着ている服は動きにくい。これでかけっこするとか無理。

 ミクはいつものように肩剥き出しのチャイナドレスなのに、何で私だけ重い衣装なのか?


「ミクの服は洗わないの?」

「何? 服とか洗ったことないよ?」

「えっ?」


 私は驚いて、ミクに近寄り匂いを嗅いでみるが、汚れも無いし、砂漠でなんども嗅いだ、いつものミクさんの匂いがする。


 ……赤いチャイナドレス、これはミク本体に付属しているのかもしれない。アレクが服を自分から作り出すように。そうじゃないと燃えるたびに服が焦げ落ちるからね。しかし……


「ミクさん、ズボンはいてないよ? 私、アスラで作ったのに……」

「焦げたから捨てたわ」


 平然と言う。

 ミクの服はロングスカートなんだけど、結構上の方までスリットが入っていて、歩くと太股がチラチラ見えた。


 ……わぁお。ミクさん、セクシー。


 私は風呂で見た裸を思い出して赤面した。


 ……三の姫は美人だと聞いていたけど、プロポーションまで抜群でビックリです。


 正直ウラヤマシイと思うその体型を見て、私はため息をついた。

 そんなミクは、湯上がり私を上から下まで見て言った。


「コウって、思ってたよりもずっとガリガリでちびだったわ。砂漠では着ぶくれしてたのねぇ」

「ミクさんはいつも変わりなく綺麗だねー。いいなぁ……」

「人はすぐに大きくなるわよ、そのかわりすぐ死んじゃうけどね」


 長寿のミクは今まで沢山の人の死を見送って来たのだろう。私はミクの笑顔がどこか寂しげに見えたので、ミクの腕にしがみついた。



 綺麗になったふたりは女性達に連れられて広い部屋に案内された。

 広さは体育館並で、その部屋は木の柱がずらりと並んでいた。

 奥に進むと中央が一段高くなり、王座が据えられていている。王座の後ろにはオリエンタルな雰囲気の、幾何学模様の大きな布がかけられていて、部屋を華やかに彩っていた。


「おや、見違えたね」


 その部屋の中にいたアマツチに声をかけられる。一の王定番のニコニコ笑顔に、私はつられて笑ってしまう。この人に人見知りする人はあんまりいないだろう。


「ふーん、中身そんなだったんだー。爺さんみたいなフード被ってたから、中身は爺さんを想像してた。しかし……なんだろ、なーんか見たことあるんだよな」


 アマツチは顔を私に寄せて匂いをかいだ。


「さっきと全然違う匂いする……」


 ……近い! この人距離感近すぎ!


 私は背の高い青年に頭の匂いを嗅がれて硬直した。その瞬間、私の背後から長い足が飛び出て、アマツチの顔の横をヒラリと舞った。


「……ぅおっと」


 蹴りかかったミクさんは、攻撃を避けられたものの、フラミンゴのように片足を上げて、いつでも蹴るよ! と、臨戦態勢に入っている。


「……触らないでください、ねー」


 ミクは笑顔なのに声は低く、あきらかに威嚇している。


「ふたりともやめよう、ここ壊れちゃう。あとミクさんはそんな格好で足をあげたらいけないよ……」


 私はミクの浮いた足をよいしょと地面につける。蹴ると下着みえちゃうからね! おとなしくしててねっ!

 ミクは私を抱き上げて、アマツチを睨み付けながら距離を取った。



「お揃いだな」


 声と共に、部屋にご年配の男性達と、女官らしき女性達がゾロゾロと入ってくる。それぞれ定位置があるようで、おのおのは会議室のような長机に座った。

 彼らに向かってアマツチが手を合わせ頭を垂れたので、私も真似をした。ミクさんはいつもの通り仁王立ちだった。


 屈強な男性達に囲まれて、卓の中心にいたのは細身の短髪、黒髪の王様だ。少し濃いめの肌で、顔には絶えず微笑みを浮かべている。


「コウ、こちらはセダン王。あと王より偉いおっさんと、お付きの有能なばーさんたち」

「……王さまより偉いおばーさん?」


 私は、アマツチのざっくりしすぎた紹介に呆れる。


「私、あなたが王様かと思ってたわ……」


 私がアマツチにそう言うと、セダン王が吹き出した。アマツチは腕を組んで考える。


「……俺は……俺はなんなんだろーね?」

「アマツチは単なる遊び人だな」

「……だよねぇ」


 セダン王が笑いながら言う。アマツチはグーとパーを胸の前でパシッと合わせて、私に向かって軽く頭を下げた。


「遊び人のアマツチです」

「私はコウです、シノザキコウ……あっちはアスラの姫、三の姫アマミクです」


 アマミクの名前を言うと、部屋にいた人たちの間でどよめきが起こった。世界に四人しかいない伝説の王だからかもしれない。


「よろしくね!」


 アマツチが笑顔で手を差し出してくるので、私は握手した。


「……よろしくお願いします……あれ?」


 アマツチは笑顔を貼りつかせたまま、私の手をきゅーっと握っていた。さっきのグーとパーみたいなセダン流の挨拶の一環なのかな? と、私は困ってされるがままにしていた。


「コラ、アマツチ。子どもが珍しいのはわかるが離れろ」


 セダン王の隣のいかついおじさんがアマツチを嗜めるので、アマツチはしぶしぶ離れた。


 部屋にいたご婦人の案内で、私とアマミクは席についた。すると、アマツチは私の隣に座った。どうみてもゲスト席なのに、アマツチの席はここでいいのだろうか?


 全員が着席すると、セダン王は場を見渡してセダン流の挨拶をした。


「会議の前に客人の話を聞きますね、お嬢さん方セダン城にようこそ。用件をどうぞ」

「……ひぇ」


 ……冒頭にいきなり話をふられた! まだ何の準備もしてないし、こんな大勢の前で言うのは想定していなかった!


 皆がこちらを見ているので、私は緊張して声が上ずった。助けを求めようかとミクの手を握る。すると、ミクも人の多さに萎縮して、青ざめて固くなっていた。

 ミク動かなくなってしまったので、私は自分がやらねば! と、奮起する。


「スミマセン、ざっと説明させてください」


 私はセダンに来たいきさつをおおまかに説明した。


 私は異世界から来たこと。

 ミクは三の姫で、サーラジーンの命令で、火竜が再生したこと。

 アスラには人がおらず、火竜が地中に閉じ込められていること。

 私は人を探していることと。

 人探しに聖地に行きたいこと。


 経緯と目的を話すと、王が返答した。


「火竜や四王を封じる蓋というのが分からない。そんなのもが存在するんですか?」

「それは紫色の障気で、サーの力を眠らせるようです。実際三の姫は眠りました」

「……成る程ね」


 王はアマツチを見る。

 

「アマツチ、オージンを地下から連れて来てください。嫌がっても抱えて連れてきなさい」

「はいよー」


 アマツチは走って部屋を出た。アマツチの帰りを待つ合間に、セダン王は色々説明をしてくれた。

 

「人探しについては、ここから行きやすいのは西の学舎です。西とここは扉が繋がっていますから。セダンから聖地に入るには、魔女の森を通過しないといけないせいでとても大変です。西からは比較的行きやすいよ」

「……あの、聖地の扉はどうなってるんですか? アスラから聖地への扉は閉鎖されていると火竜が言っていました」


 聖地は全ての国に繋がっていた筈だ。そう水竜が言っていたし、実際に彼女は毎日使っていた。


「聖地の扉は三百年前に封鎖されているよ。ファリナだけは繋がっていたようだが、うちには確認をとるすべがないんだ」


 そこまで聞くと、部屋の入り口から文句を言う声が聞こえてきた。見ると、アマツチがお米袋くらいの白いものをかかえていた。

 白いものはもぞもぞうごいて、アマツチの手から飛び下りた。そのまま小走りで私とミクのそばに来て止まる。白いものは、フードを被った老人だった。


「……ふむ。三の姫はおかわりないな。そしてこっちはまあ……」


 老人は片目を手で隠し、じっと私を見た。

 

「ちんまいがよく似ているな。ワシを覚えておるか?」

「……少しだけなら」


 ……地竜。フレイがつけた名前はオージン。


 私はこの老人を見たことがあった。それは、牢屋に入れられたフレイにセシルを会わせてくれた地竜だ。この人は太古からここにいるセダンの守護竜。


 ……こんなに小さな姿をしていたんだ。

 

 夢で見た地竜は私くらいには身長があった。なのに今現在の地竜は、身長百五十センチ台の私よりも小さい。その大きさは幼児サイズの火竜くらいだ。地竜は白いフード付のマントを着ていて、長い髭だけがふわふわと外にはみ出ている。


 ……このお髭は、三つ編みしたくなる。かわいい。

 

 地竜を見てると、地竜はニヤリと笑った。そして私から離れてセダン王の横に行った。


「コウは誰に似てるの?」


 アマツチが私と地竜の間に割り込んだ。


「俺も、なんか見たことある気がしてモヤモヤするんだよねー。じっちゃん、誰に似てるかおしえて?」


 オージンは王をチラリと見た。


「似ているというなら……これかな?」


 王が室内に飾ってある肖像画を指差す。そこには歴代のセダン王や王妃の絵が並んでいる。そのなかの一枚、黒髪の女性の絵の前で王は立ち止まった。


 年齢は私よりも上で、ミクくらいに見える。

 ストレートの黒髪をレアナのように顎あたりで切り揃え、後ろ髪は長く背中にたらした美女の肖像だ。

 きりっとした目元と、スラッと伸びた手足。絵なのにカリスマオーラの漂う美しい女性だった。この人に比べられるのは恐れ多い。

 

「髪と目の色しか共通点がないきがする……」


 美貌、お胸、カリスマオーラとどれをとっても敵わない。私が肩を落としていると、セダン王が私の頭をポンと叩き、励ました。

 

「妹も子どもの頃は小さかったよ」

「妹姫なのですね、これ、何才のときの絵ですか?」

「十五の時だな」

「えっ!」


 私が驚いたので、セダン王は私をじっと見た。


「私も十五才です……」

「ええっ?」


 アマツチをはじめ、部屋にいた人が一斉に私を見た。私は恥ずかしくなってミクの背中に隠れた。

 セダン王は絵に向き合っていて顔が見えないが、肩を震わせているので笑っているようだ。ミクがうつむく私の顔をクイとつかむ。


「ふーん、私とたいして違わなかったのね。異世界の人間ってみんなそんななの?」


 私はふるふると首を横に振った。日本の中学でも小さめだった私は、イギリスの学校では十二才のミレイに色々抜かされていた。


「私が小さいだけです。ごめんなさい……」


 アマミクはにっこり笑って、恥じ入る私の額にキスをした。


「ご飯食べれば大きくなるよ。人間なんてすぐに老いて死んじゃうからね。あせって大きくならなくてもいいのよ」


 ……不老不死の方から、ありがたいお言葉をいただきました。何のフォローにもなってないやい!


 私は頬を膨らませていたが、ミクは構わずに頭をなで回し、頬をくっつけていた。

 そのやり取りを見ていた一同はほほえましく笑う。私はミクにされるがまま、無抵抗で落ち込んでいた。


 セダン王は席に戻って、地竜と話していた。


「エレノア姫は、元から魔女の生まれ変わりと言われていたからな、似ているのは当然と言えば当然じゃろうな」

「エレノアは無駄に偉そうだったから、その点は正反対に見えますね」


 小さな老人は王座のひじ掛けにまたがっている。ここの守護竜も王さまと仲が良さそうだと見ていたら、地竜と目が合った。


「エレノア姫は十六才でファリナに嫁いだので、ファリナ妃とも呼ばれていたのじゃ。まあ、魔女が消えてからの話だから、お主は知らんだろうな」

「そのエレノア姫は、ファリナに行けばお会い出来ますか?」

「無理じゃ、姫は嫁いで五年で亡くなった」

「……えっ」


 私は思わず王の顔を見た。


「守護竜は嘘をつかないよ、妹はもういないらしい」

「ファリナ王は、三百年前からずっと変わってませんよね?」

「うむ」

「ファリナ王は水竜がいたから、ずっと結婚されなかったんじゃないんですか?」


 水竜のセシルは王様と相思相愛だった。なのでよく女性の姿に変身していたし、のろけ話しも耳がタコになるほど聞かされた。あの話を聞く限り、セシルが生きているのに王がお嫁さんを娶るとは思えない。


「君は、ファリナ王と水竜を知っているのですか?」

「あ、いえ、夢で見ただけですが……」


 夢だけではない、ファリナ王については水竜の話で聞いただけにすぎない。


「夢というのは、異世界で見ていましたか?」

「はい、そうです。夢の中の私は常に聖地にいました。少しだけセダンに来て、ここで死ぬまでを所々に夢で見ました」

「……ここで?」

「あ、ここじゃないです、昔のセダン城です」


 地竜が私の言葉の補足をした。


「王は彼女がメグミクだと思っとるじゃろ? そうじゃないぞ。あれは正に緑の魔女の生まれかわりだ。なので古のセダンで死んでおるのだ」


 緑の魔女という言葉に、そこにいた人がざわめいた。


「緑の魔女って大丈夫なのか?」

「アスラのように破壊されたり、森に覆われたりするのか?」


 部屋にいる人の目から隠すように、アマミクが私を抱きしめた。


「無害よこの子、魔法は使えないし、力も体力も小鬼の赤子にも劣る、人としても弱い部類でしょ、こんな子どもに怯えることない」


 私が砂漠に落ちて火竜の巣を出るまで二週間以上一緒にいたアマミクの言葉は説得力があった。王は会場を見回して、一度頷いた。


「……緑の魔女……では、妹と同じように森で生まれたのですか?」

「私は伝説の王でも、守護竜でもない普通の人間です。なので両親もおりましたし、普通に母親から生まれています!」

「……ん?」


 王は理解出来ずに地竜を見る。

 地竜は平然と言う。


「何の疑問も無いじゃろう。緑の魔女は予言通りに異世界でサーが再生されたのじゃ。それに合わせて四人の王たちも再生している」


 ……えっ? サーが再生させたって何? 私はエレンママから産まれたんじゃないの? 家には産まれた時の病院で撮った写真とかあるし、帝王切開だったとかでママにお腹見せて貰ったことあるよ?


「……サーラジーンは、緑の魔女との約束を果たし、神の世界からこの子どもを呼んだのだろう」


 その場にいた全員が驚いて私を見た。


「コウは、サーの世界からここに来たの? はじめて聞いたわ」

「そうだけど、私はフレイじゃないよ?」


 サーの世界と聞いて、その場にいた全員がざわついた。私は意味が分からなくてアマミクにしがみつく。


「何の話しか知らないけど、コウは人を探しに来ているの。サーの約束とか聞いてない」


 ミクは人目から私を隠すように抱きしめて守る。私はその隙間から地竜に聞いた。


「確かにサーラジーンが私をここに送りました。サーは私の世界にいます。サーは話すことや動くことが出来ないと聞きました。私は、ここですることがありますか?」


 地竜はポカンと口を開けた。


「……緑の魔女は? 当人からは何も聞いておらんのか?」

「はい、聞いていません。確かに私は長い間フレイの夢を見ていました。でもそれはフレイが死んだ所までです。フレイはサーとどんな約束をしたのですか? 私はセシルとの約束しか知りません。」

「……知らんのか」


 地竜は目を閉じてうーんと悩み始めた。私は不安になって地竜の答えを待つ。地竜が答えるより早く、王が手を叩いて注目を集めた。


「言い伝えのことは北の王が再生されてからの話ですね。ならまず、彼女の人探しの話を聞きましょうか」

「……えっと、私がここに来たのは一月くらい前なのですが、それより前にこの世界に私と同じ世界から男の子が来ている筈なのです。私はその子どもを探しています」

「成る程。年齢は?」

「当時十四才だったので、今は十五才です。黒い髪で身の丈は私より少し大きいです」


 王は地竜を見た。すると地竜は目を閉じて動かなくなった。


「地竜に十五才の少年を探してもらっている間に、質問をしてもいいかな?」

「は、はい……」


 私は緊張して質問を待った。


「君が知っているのは、森の魔女の記憶だけかい? 妹の事は知りませんか?」

「フレイの事は分かりますが、妹さんの夢は見たことがありません」

「そうか……なら、森の魔女はセダンを嫌っていたのかい?」


 私はブンブンと首を横に振った。


「セダンはこの世界にとってとても大切な国だし、フレイはこの世界全てを愛していました、嫌うはずがありません」

「ならどうして魔女はセダンを森に変えたのだろう?」

「スミマセン、末期の記憶はあまり覚えて無いのです。でもフレイはセダンにいたとき既に私の世界に帰ることが決まっていました。魔女として民に恨まれたフレイは、ここで体を消すことを受け入れていました。なのに、どうしてこんなことになったのか私には分かりません……」


 当時の夢を思い出すと、いまだに手が震える。呼吸が浅くなり冷や汗が出る。人々の罵声や殺せと言う声が頭の中をグルグルと回る。

 私の様子がおかしいので、アマミクは私を抱き上げた。私の顔は真っ白で、貧血をおこしていた。


「オージン!」


 私の不調に同調して地竜が椅子から転げ落ちた。アマツチが走り、地竜を抱えあげる。私は貧血で失われていた視界と意識が戻って、もうろうとしながら倒れた地竜を見た。


「スミマセン、私……守護竜に感覚を色々伝えてしまうみたいで……」

「コウ、しゃべらなくていいから、寝てな」


 ミクはセダン王に、私の五感は守護竜がその身をもって受けとる場合があるらしいと説明した。王が席を立ち、アマツチに告げる。


「アマツチ、オージンを地下へ!」

「あいよー」


 アマツチは白い老人を大切に抱えて部屋を出ていった。王は深いため息をついて、女性たちに言う。


「ヨシナ、客人の部屋をエレノアの部屋に移せ」

「えっ、姫のお部屋ですか?」

「あそこか竜の巣しか感応能力から隔離するすべはないよ。客人が旅立つまでの短い間だ、妹も文句言わないだろう。それに、オージンを病にしてしまったら妹に怒られるからな」

「成る程ねぇ。まあ守護竜は大事だね」


 ヨシナと呼ばれた女性が、重そうな腰を上げてミクに手招きした。ミクは私を抱えて女性についていった。


「……守護竜が倒れるのははじめて見たな」


 部屋に残された者がざわめいて王を見る。王は何事もないと微笑んだ。


「兄上達、特に心配は無いですよ、私の体調には全く影響しておりません、彼女と切り離せばすぐに治るでしょう」


 王に兄と呼ばれた男性たちは、お互いの顔を見合わせた。


「ああそうか、お前は契約で地竜と繋がっているのか……」

「そうですよ。私としてはとても不本意なのですがね、ゆめゆめ忘れないで頂きたい」

 

 王はニッコリと笑って、三人の兄をひとりひとり見ていった。王は手を差しのべて、兄達を会議室に促した。


「地竜は寝てますが、国政の続きを致しましょう。サーの伝説についても兄上たちの考察をお聞きしたいところですし」


 口ひげを生やした大きな男が王に聞く。


「三の姫はどうするつもりだ?」

「アスラに人はいませんからね、難民ということで保護しても差し支えありませんよ。昔もここにおられたようですしね」


 広間にいた男性たちは、会議室に消えていった。


今のセダン王家は家族運営です。

四人の兄弟が軍や政治などの中枢を治め、セダン王は地竜係として契約させられてます

四兄弟で独身なのはシスコンのセダン王だけ

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