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2-13、山の病院へ

 

 後日山の病院に行く事をミレイに告げると、ミレイもついてくることになった。


 土曜日の昼食後、ミレイと私は制服の上にスプリングコートを着て駐車場に行った。そこには白いミニバンが止めてあり、ブルーのシャツを着て髪を後ろでひとつに縛ったジーンがいた。


「中身こんなんなのに、シスターケープを被るとシスターに見えるんだから詐欺だよなぁ」

「ふたりは知り合いなの?」

「ボクを拾ったのこいつだもん。ママの病院見つかんなくて探しまくっていたら病院で声を掛けられた」

「それは何時の話?」

「三年前かなー? ナンパかヤバイ売人かと警戒したら本当に病院の関係者だったとか笑える」


 ……ナンパって、当時九才のミレイは何を考えているのか。


「笑える要素は一個もないよ」


 私はミレイの言いように苦笑いをした。


 ホント、何なんだろうと私はジーンを見る。

 身長は隼人より大きく百七十センチ中間くらい。前は茶髪だったのに、いつの間にか黒くなっている。瞳の色は黒、肌はアジア系の色。たまに目が青いのは多分変装をしている。


 いつも後ろでひとくくりにしてるから不明だけど、髪は私より長いかもしれない。

 アジア人特有の凹凸の少ないスッキリした顔で、目が大きくくりっとしている。これで眉さえ太ければ本当に信だ。


 私がじーっと彼を見ていたら、彼は後部座席のドアを開けて、どうぞと招く。


「私の顔に何かついてますか?」


 私は首を横に振って、彼が鍵を開けた車に乗り込んだ。ミレイも続けて乗ってくる。


「あえていえば、パーツが足りないのよ、違和感があってそれが気になる……」

「隼人と比べんなよ、あれが規格外なんだから」


 呆れ顔でミレイが私をつつく。車はゆっくりと動き出した。バックミラーを見ると、ジーンと目が合ったので、私は思わず目をそらす。

 運転席にいるジーンが私に聞いた。

 

「ちなみに、足りないパーツとは?」

「眉毛」


 私が外の景色を見て答えると、ミレイが座席にひっくり返って笑った。


「今度ボクが書き足してやるよ、眉毛……」

「やめてくださいね?」


 笑い転げるミレイをよそに、車は発進し郊外を抜けて山のほうに行く。車中から景色を見て私は思った。


 ……もし菊子さんがここにいるとしたら、サーは私を学院の書庫に飛ばしたように、菊子さんをこっちに連れてきたのかしら。でも、何のために?

 日本には行方不明の菊子さんの帰りを待つご家族や友人がいるのに。はやく帰してあげたらいいのに。


 車はゆるい坂を登り、山の中の病院についた。

 辺りにはここしか建物がなく、人気もあまりない。ここは病院というよりもホテルのようだった。こんな山奥に風邪薬を貰いに来る人はいない。多分ここは長期入院を目的として建てられた療養所なのだろう。


 三人は受付を済ませ、手足の消毒をしてキャップとマスクを貰う。それをつけて院内に入った。

 ジーンは毎日ここに来ているので慣れている。私は彼の真似をして、後をついていった。


 静かな廊下を歩き、私たち三人は奥に進む。病棟の最奥、彼が開けた扉の先に、日本で見たクラスメイトが寝かせられていた。


「菊子さん……」


 ……ずっと、ここにいたんだ。全然気が付かなかった。


 私は涙を流してその頬を触った。


「あたたかい……」


 長い真っ直ぐな黒髪は、前に見たときと同じく眉辺りで直線に切り揃えられている。長い黒髪は緩く三編みされて、胸元に垂らされていた。

 菊子さんは寝たきりなので頬に色はないが、ただ寝ているように見えた。


「……お知り合いですか?」

「私が探している男の子と一緒に消えた女の子です。彼女は信が好きなの。私が事件に巻き込んでしまったの……」


 頭にあの夜の光景が浮かぶ。菊子さんは部室で見たのが最後で、それ以降は警察の話を聞いただけだ。校庭に落ちていた血の量から、警察は菊子さんを死んだものとして見ているようだ、でも、生きている。怪我もない。


「サーもそれで彼女を気にしているようです。あの事件の被害者、行方不明者ふたりの帰還をサーは望んでいます」


 私はコクンと頷いた。

 

「サーは菊子さんを治せないのかな? どうしてこんなところでねかせられているの?」

「それはこっちが知りたいですよ。でもまあ体に傷や異常は無いようです。問題は意識が戻らない点ですね」

「心の問題なのね……」


 私はベッド脇に座って、菊子さんの手を握りしめて、その手を自分の頭に押し当てた。

 そのまま、すう。と息を吸って心を研ぎ澄ませる。

 目を閉じて、頭に光を浮かべる。それを血管からゆっくり流れていくイメージで意識を下に、下にと沈めていく。私の中の、私じゃない光。そのわずかな光を手繰り寄せて意識を繋いだ。


 ……サー、そこにおりますか、サー。


 いるよ。と、光がまたたいた。

『ずいぶん近くにいるね』と、光が笑う。


 ……サー、今私の目の前にレアナに心を奪われた少女がいます。彼女には帰るべき家も家族も友人もいます。彼女の意識を戻すことは出来ないでしょうか?


 私が聞くと、光はしばらく周囲を回っていた。


『彼女自身が目覚めたくないと言っている。人をあやめた記憶が、彼女自身をさいなんでいるようだよ』


 ……彼女は誰も殺していないわ、私が彼女を巻き込んでしまったの。彼女はちっとも悪くないの。全部私のせい。


 私が泣いていると、頭に大きな手が触れた気がした。肩にも、別の人の手のあたたかさを感じる。


 ……菊子さんを助ける方法は無いですか?


 私が聞くと、サーは言った。


『こちらに時間を巻き戻せる魔法使いがいる。彼に頼めばなんとかなるかもしれない』


 ……その人を探してここに連れてくればいいですか?


 私が聞くと、光がまたたいた。


 底に沈んでいた心が、重しを外したように、ふわりと底から離れて行く。私は肩と頭に乗せられた手のあたたかさを頼りに意識を外に戻した。



 私が目を開けると、ジーンとミレイが側にいて、私の頭を撫でていた。私はふたりを見回して力なく笑う。


「おかえり、サーは捕まえられた?」

「菊子さんはあの日の記憶が枷となって目を覚まさないみたい。向こうに時間を操作できる魔法使いがいるから、その人を連れてこいって……」


 私は涙で濡れた顔をハンカチでふいていると、ミレイがバッグからティッシュを出して渡してくれた。


「その人有名かな? 人に聞けば探せるかな?」


 と言って、私ははっと青くなった。

 

「名前聞いてないや、性別さえもわからない……」

「レーン」


 ジーンが呟くのを私は復唱した。

 

「レーン? それがその人の名前?」

「探さなくても、あっちに行けば向こうから寄ってくるよ。彼はフレイを探しているからね」

「フレイの知り合いなのね。ってことは長寿だ。きっとご老人……」


 ……ご老人と言えばセダンの守護竜、長く白いお髭に白のローブを着ている。多分あんな感じだろう。


 ジーンは何かを考えながら、私の頭をぐしゃぐしゃとかきまわすので、キャップがとれた。私はジーンの手からキャップと頭を守った。


「レーンって月という意味なの。夜の灯火」

「まあ、また血を溜めておきますよ」

「……そうだ」


 血と聞いて、私はジーンの左手を取ってその手のひらをじっと見た。


「なにやってるんだこいつ」

「さあ?」


 私の行動に首を傾げるふたりをよそに、私はジーンの手のひらを触る。


「手のひらにうっすら傷が残っているわ。あの日、貴方は日本で、あの沼で、双竜を通す扉を開けたのね?」

「解錠をしたのは日本人の少年だ。私は糧として血を流しただけ」


 私は当時を思い出して必死に考える。


「もしかして、あの日の校庭にあった血溜まりは、貴方の血ですか? 信の血じゃ無くて」


 ジーンは黙って頷いた。


「あなたがフレイの協力者なのね? あのサイトを作ったのもあなたなのね……?」


 私が目に涙を溜めて言うのを、ジーンは黙って見ていた。私はジーンの手を両手で握って、顔の近くに寄せる。


「日本のヤードは、あそこには信と菊子さんの血しか落ちてなくて、私の家からも信の家からもアリスさん以外の他の人の指紋が出ていないって言っていたの。信のパパが言ったことだから本当の事だよ? でも、あなたは家に来たでしょう? 信の家にも入ったわね?」


 私は顔を上げてジーンを見た。


「あなたは誰?」

「ジーン・ターナーですよ、ロードに拾われた養い子で、サーの代行をしている」

「代行?」

「動けない彼の代わりに、彼の望みを叶えていますね」

「あなたは彼とお話できるの?」

「モニター越しになら、言語はあちらの言葉になりますが」

「そう……」


 ジーンは私の手から自分の手を抜いて腕を組んだ。


「サーの望みはフレイの悲願の達成です。わたしはその為に生じたこちら側の被害者の救済をしています」

「どうしてそんなに大人なの? ミレイは三年前に会ったと言っていたわ。ニコラス叔父さんとはいつ会ったの?」

「養子になったのは五年前ですね……」


 指紋も血の検査もこの人が信だと示しているのに、時間だけがどうしてもそれを否定する。


「こいつどうした? 泣きすぎて頭がおかしくなったか?」


 ミレイが私の肩を揺するので、私はひとつ思い出した。


「肩……」


 私はジーンの左手をつかんで引き、じっとジーンの顔を覗いた。


「左の肩を見せてください、何もなければ私の勘違いだと謝ります」


 ジーンはしばらく黙っていたが、頷いて席を立った。


「車に行きましょう、ここではかなり問題がある」


 ジーンが素早く病院を出るので、私は慌ててついていった。私がバッグもコートも置いていくのでミレイがそれを回収する。


 三人は車に乗ると、ジーンはシャツを脱いだ。でもまだ中に一枚Tシャツを着ている。


「なんか知らんが私はジーンを脱がせたいんだな? よし!」


 そういって、ミレイがジーンのシャツをめくるので私は止めた。


「肩だけでいいからっ!」


 慌てる私を見てジーンは笑う。そして、左肩を袖から抜いて、肩をさらけ出した。

 そこには数十針の縫い痕が残る傷痕があった。傷はとっくに治っているようで、色も殆ど肌色に近く、縫い目が痛々しく残っていた。


「気がすみました? もう服を着ますね」


 ジーンがそう言って、衣服を直す。私は黙ったまま顔を両手で覆い、しばらく静止していた。


「……何才なの?」

「二十一になりますね」

「どうして……」


 ジーンは大人になった信だと思う。もうそう思ったら全てがそう思えてくる。人見知りのママが家に隼人の会社の人を入れた事、来客はふたりいたのに、他人の指紋はアリスのものしか家に無かった事、校庭に落ちていた大量の信の血、事件の後で書かれた信のパソコンのテキスト……十四才の信と二十才の信……あの日、あの場所に信はふたりいたんだ。


「出発します」


 ジーンはゆっくりと車を走らせた。

 私が顔を覆ったまま膝に伏せているのを、ミレイは心配して背中をさすってくれる。


 ……常識で考えたらダメだった


 思えば、私のお婆さんにあたるフレイが死後に私に干渉してきたり、夢の世界の住人が実在したりした。さらに時間を操る魔法使いさえもいるらしい。

 この状況で考えられるのは、信がその魔法使いに五年時間を進められたか、もうひとつは五年前に飛ばされたかだ。


 隼人はママがあの日に死ぬのを知っていたという。それは、この人があの日にあった事を隼人に告げていたからではないだろうか……。


 ……この人があの日、日本にいたのは、おそらくママと菊子さんを助けるためだ。実際菊子さんは生きていた。ママは隼人も振られたと言っていた。


 私は後ろから運転席にしがみついて、ジーンに聞く。


「ジーンさん、よ、吉田くんは今どうしているの? 信が消えて落ち込んでない?」


 私は信が調べそうなことを聞いた。信ならきっと、身近な人の安否確認をするはずだ。


「吉田は、部活で実験動画を作っているらしい、ネットにあがっているから見られるよ」

「菊子さんのご両親は?」

「未だに娘を探しているね。アリスが殺害現場を録画していたから、彼女は加害者ではなく被害者として捜索されている。できるかぎり早く親御さんの元に帰したい……」


 私は頷いた。


「時間を操る魔法使いね、どこの国にいるの?」

「アスラだけど、彼は恐ろしいから後回しでいい。ほっといても寄ってくる。どこにでも現れる……」

「そんな、恩人になる人をゴキブリみたいに…」

「黒い虫のほうがかわいげがある」


 ……いったいどんな人なんだ、その魔法使いは。


 ふたりのやり取りをミレイが見て言う。


「よくわからんけど、ふたりは知り合いだったんだな? ジーンも報われてよかったなぁ…」

「やめて……」


 しみじみと感心しているミレイを私はひじでつついた。


「あれ……」


 ちょっと待って。この人が大人の信だとして、事件の被害者を減らすためにサーに協力していた。ここまではいい。

 そうしたら、ジーンさんが待っている、異世界に行ってしまった、髪の長い私より年上の彼女は誰? 目を覚ました菊子さんのこと? 菊子さんの意識があの世界に行っているから、ジーンはデーターから菊子さんの意識を探して、毎日病院に通っているの?


 私はまた前の座席を覗いてジーンに話し掛けた。


「あなたは、菊子さんが目を覚ますのを待っているの? あなたのいう彼女って、菊子さん?」


 ジーンは押し黙ったまま何も答えなかった。私は困ってミレイを見たら、ミレイはどーしようもねーなーと、頭を抱えて首を振っていた。



 車は学院に着き、三人は車を降りた。

 一人先に研究所に帰るジーンの背中を、ミレイがいたわるように叩いていた。私も気になってついていこうとするか、ミレイに追い払われた。


「お前一人で部屋に帰れ、ボクはこいつと話があるから」

「ミレイも帰っていいですよ? この扱いには慣れているんで」

「……?」


 私が分けが分からず戸惑っていると、ミレイが私の手を引いて学院に向かって歩き出した。

 私はミレイに連れられるまま足を進めるが、ジーンがどうしても気になって、ミレイの手を払って走った。


 私が、ジーンの上着を引っ張って足を止めさせると、ジーンは私を見た。

 その顔に何の感情も見られなかったので、私は臆して言葉が出なかった。それでも私はジーンから手を離さなかったので、ジーンは少し屈んで私の顔を見た。


「用件は?」

「あ、あなたの待っている人って、もしかして私なの……?」

「……はあ」


 ジーンがあからさまにため息をつくので、私は冷や汗をかいて答えを待った。ギュッと目を閉じて震える私の頭にジーンは手を乗せる。


「こんな小さな人じゃ無いよ」

「じゃあ、やっぱり菊子さん?」


 ジーンは私のおでこを指で弾いた。


「……っあ!」

「残念だけど生まれてからこのかた浮気したことは無いよ、ずっと彼女に片想いをしている」

「片想いなの?」


 そう聞いて思い浮かぶのはママだ。だとしたら一生浮かばれないだろう。


 ジーンは地面にしゃがんで、大きくため息をついた。

 私は目の前に頭があったので、その髪をそっと触ってみた。長くひとつに縛ってっているから跳ねてはないけれど、硬いしなやかな髪はやはり信だと思う。


「触らないでくださいね?」

「いつも私を撫でてるのに、逆は駄目なの?」


 ジーンは答えずにスッと立ち上がった。そのまま手を振って礼拝堂行った。その後を追おうとする私を、ミレイが止めた。


「お前こいつのこと何とも思ってないんだろ? なら追うなよ。可哀想だ」

「今そんな話をしてる?」

「してるしてる。いいからもう部屋に戻ろう。作戦会議だ」


 私はミレイに引っ張られるまま学院の寄宿に戻った。私は引っ張られながら、一人帰るジーンの後ろ姿を見ていた。





 ミレイは寄宿のベッドの上に、帰りに買って来た市販のお菓子をぶちまけた。それと食堂から氷を貰って来て、買って来た炭酸飲料をグビッと飲む。


「……んまーい」


 ビールを飲む信のパパみたいなミレイを見て、私は苦笑した。ミレイはここに来てからずっと、炭酸とチップスという好物を食べられなかったというから仕方がない。

 私もオレンジジュースを手に、自分のベッドに座った。


 部屋では作戦会議と称した、ミレイがここに来た顛末を聞いた。

 ミレイは、地元の病院でミレイを探していたジーンに声を掛けられ、隼人の紹介でママの手術と入院の手助けをして貰った。

 その代償として、一年弱隼人の娘の世話を約束したと言う。


 ジーンは初対面のミレイの名前と顔と境遇を知っていた。その情報はどこから得たのか。どうしてミレイなのか? という彼の行動に、ミレイが立てた仮説はこうだ。


 異世界に転移したジーンがいたと仮定して、後から追いかけてきたコウからミレイや研究所の話を聞いた。向こうからこっちの過去に転移したジーンは、過去をやり直している。


 思えば、ジーンと私の出会い頭の口移し(というかキス)も、たいした理由は無かった。

 ジーンはあれを「卵が先か、鶏が先か」と言っていた。あれは、私が口移しの件を向こうの信に話したからだと思う。


 彼は彼の辿ってきた過去を、今ここで再現したいんだ。それは多分、彼の辿ってきた道の終点がハッピーエンドだったからかな?


「ならどうしてその私は戻ってきて無いんだろうね?」

「まだそこまで時間が追い付いて無いんだろ? あいつが時間旅行者だったら、という話だけどね」

「時間旅行者……」


 私は泣いてばかりでなんにも出来ていないのに、その間に信は人を集め、環境を調え、あの隼人さえも協力させている。

 私はベッドの上で枕を抱いてうーっと呻いた。


「どれだけ苦労性なの……?」

「有能と言ってやれよ、可哀想だろう……」


 私はがばっと起き上がった。


「可哀想って? 彼は誰に片想いをしているのか分かる?」


 ミレイは虫けらを見るような目をして私を見た。


「お前しかいないだろ」

「そんなんつりあわないし」

「ヒデェ……」

「だって、信って学校でとても人気があったのよ? 私、彼と一緒に歩いていただけで怒られた、私じゃまわりが納得しない」

「その環境は消えただろ? ここではお前のほうが高値の花だよ。あいつからアプローチをかけたらハヤトに殺されるわ。年齢的にも犯罪臭いがな。お前から言ってやれよ」

「言うって、何を……?」

「好きだ、愛していると」

「……ひぇ」


 それを聞いて、私は真っ赤になった。


「それは無理!」

「だんだん蹴りたくなってきたなコイツ」


 ミレイは機嫌悪そうに私の抱いている枕を奪い取った。


「だって、私が好きな人ってあっちの世界にいるんだもん。こっちのジーンさんにそんなことを言うのは浮気だよ……」

「同一人物って話をしていただろ?」

「無理よ、大きすぎるもの。信にしていたように彼には出来ないわ」

「ちなみにその彼氏とはどう接していたと?」

「ミレイとかわりないわ。一緒にご飯を食べて勉強して、同じベッドで寝ていた」


 ミレイは顔を赤くして、少しあせる。


「おい、お前いくつだ?」

「当時は十四だったよ?」

「うわあ……」


 ミレイはベッドカバーをかぶって隠れてしまった。


「ミレイ?」


 私が心配して覗くと、ミレイが小声で聞く。


「そーゆー関係なのに、気がつかなかったと?」

「そーゆー関係とは?」


 首を傾げる私を、ミレイはベッドに引き寄せてカバーをかけた。カバーの中でふたり小声で話す。


「体の関係。十四だろ? ただ寝てたわけじゃないだろ?」

「寝る以外にベッドで何をするの?」


 ミレイは目を丸くして驚いた。そして私のおでこにキスをした。


「そりゃーキスしたりとかさ……」

「お休みのキスね、それで?」

「……聖職者かよ」


 ミレイは呆れ顔で、私をベッドから蹴り出した。ミレイは立ち上がり、私を指差して言う。


「お前さ、ちょっと図書室に行って、子どもの作り方でも調べてこいよ! 王子様とお姫様が結婚して、子どもが生まれるまでの間の過程だ。お前にはその知識が完全に欠けている!」

「な、なんとなくは知っているよ? でもそれって、結婚してからでしょう? 恋愛の過程に出てくるものなの?」

「知るかボケェ! こっちはお前より年下だというのに!」


 ミレイは私を罵倒すると、怒って部屋を出ていった。


 ……子どもの作り方? めしべとかおしべとか、卵子とか卵巣とかそーゆーのだよね? それと私と信に何の関係があるの? そしてその方法を、修道院のようなこの学院で調べろってこと?


 私は人目を忍んで図書室に行くが、この学院ではそういった情報は得られなかった。


 ……アリスさんに聞くとか? いや、それは絶対にからかわれるな。他に知ってそうな人は隼人やジーンだけど。


「無理、絶対に聞けない」


 私はこの問題を自分には関係のない優先度の低いものとして、記憶の棚に納めた。



 今日得た情報で優先度が高いのは、菊子さんの覚醒だ。たとえジーンが未来の信だとしても、今現在信があの世界をさ迷っている事には変わりがない。

 私のすることは、信をこちらに戻すこと。

 そしてレーンという時間を操る魔法使いを探して連れてくること。

 この二つをこなさないと、ジーンがここでしてきたことが無駄になる。


「恋とか愛とかはその後、信と菊子さんを助けてから考える」


 私は分からない問題を未来に投げ捨てた。

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