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35、協力者

(ここまでのあらすじ)

主人公(男)はシロに絡まれています

主人公(女)は体を乗っ取られました

 

 ――長い長い夢を見ていた。


 二度目の世界で壊してしまった沢山のもの……私はその世界をもう一度立て直す機会を貰った。私は藁のような希望にすがりついて、再び体を得た。


 この体を借りて、協力者を得て、私はまた彼に会いに行く。今度は間違わない。彼を泣かさない。彼に幸福な世界を渡すために、私はもう一度あの世界にいく……。


 自分を見送ってくれたセシルや、かわいかったあの子を思い出して、フレイは目を覚ました。




 重いまぶたを開くと、目の前に長髪の青年がいた。彼は地面の上に寝ている私の上半身を抱え、心配そうに私の顔を見ていた。


 ……誰かは分からないけれど、優しそうな人だわ。


 視線を青年からずらし、私は周りを見た。

 ここには四角い簡素な造りの建物があり、その先には広い運動場が見える。敷地はフェンスで囲われていて、奥には三階建ての大きな建物が建っている。

 石造りとも、木造とも違う、装飾の少ない建物は見たことの無いものだった。


『……ここは?』


 呟いて気が付く。異世界の言葉はこの青年に通じるのだろうか?

 そんな心配は無用だったようで、彼は言葉を理解し、説明をしてくれた。


『ここはセカンダリースクールです。奥の建物で学問を学び、この広い場所では運動をします。このプレハブは物置小屋です』

『……あ、ありがとうございます』


 私は学校に行った事が無かったので、興味深く周りを見た。


『この運動場ではどんなことをするのですか? ダンスとか、ポロとか?』


 と、口に出して、私は今自分がしなくてはならないことを思い出した。私を迎えに来てくれたアレクセイと協力者を連れて、あの世界に帰らないといけなかった。


『ごめんなさい、今の質問は忘れてください、現状を確認したいのですが、あなたは協力者ですか? サーラジーンという方はご存じ?』

『はい、私はサーラジーンの使いの者です。あなたを見送りに参りました』

『見送り? ということは、共に渡る方は別にいるのね』

『はい』


 しばらく話をしていると、体が馴染んできた。私は恐る恐る起き上がり、手を閉じたり開いたりしてみる。

 私は青年の手を借りて立ち上がった。


『大丈夫ですか?』


 心配そうに私を見る彼に、私は大丈夫と笑顔で返す。口では大丈夫と言ったが、この体の着ていた衣服の丈があまりにも短いので驚いた。


『……あの、この服はこういったものなのでしょうか? 足が、膝が見えていますが、下穿きを忘れたということは?』

『いえ、それが標準服です。この学校の女子生徒は皆その服を着ていますね』

『殆ど胴体部分しか隠れておりません、皆さんこれを着ているのですか、それは見たかったわ』


 短い靴下と、むき出しの足が心ともないので、ギューッとスカートの裾を引っ張っていると、青年は横を向いてクスリと笑った。


 ……笑われてしまいました、もう衣服について考えるのはやめにしましょう。


 私は反省をして、もう一度現状を確認する。

 季節は夏、時刻は夜のようで、けだるいじっとりとした暑さが肌にはりつくようにまとわりついた。

 体は傷だらけで、膝や肘など、打ち身や切り傷でボロボロだった。


『もう一度座っていただけますか?』


 彼が言うので言う通りにすると、彼は持っていた水で私の膝を洗い、シールのようなものを貼った。


『ありがとうございます、思えば怪我をするのも、治療を受けるのも久しぶりです。ヒトの体ってこんなに重かったのね』

『竜の体とはだいぶ勝手が違いますね、魔法も使えないし、樹木に触れないので本当に不便ですよ』


 青年は何事もないように、竜の体とヒトの体の比較を述べた。どこか遠くを見るようなその横顔を、私は不思議に思って見つめた。


『えっと……貴方は、もしかしたら新しい守護竜なのかしら? ずいぶんとサーの世界に詳しいわ』

『いえ、人間です、名前はジーン・ターナーと申します。貴方を、フレイレリーンをサーの世界に送る為にここに立っています』

『ターナー?』


 ターナーという名前がとても懐かしくて、私は期待を込めて彼に聞く。


『では貴方は、ターナー家の跡取りなのかしら? ニコラス様のご子息様ですか?』

『ターナー伯は私の育ての親ですが、血は繋がっておりませんし、跡取りでもありません』

『そうですの……では、ニコラス様はお元気でしょうか? あの湖の館は……』


 そこまで聞いて、私はパチンと自分の頬を叩いた。


 ……いけない、また脱線をするところでした。今は思い出話をしている時ではありません。


『ごめんなさい、今の質問も忘れてください。私はサーの世界に行くために、情報がほしいと思います』

『はい、説明をいたします』


 彼は小さな四角い板のようなものを光らせて、それを見ながら話をした。


『今は扉の開く十七分前です。扉を開く糧は既にポイントに置いてあります。扉の出現地点はここからすぐ近くにあります』

『そう……あまり時間は無いようね、扉のポイントに向かいましょう』

『はい』

 

 青年は頷いて、私に手を差し伸べた。私はその手に自分の手を重ねた。

 今までの人生、自分はかなり人見知りをしていた記憶がある、なのにこの青年には警戒をする気が起きない。


 ……コウちゃんのお知り合いなのかしら。もしかして、コウちゃんの思い人かもしれません。


 色の濃いブラウンの髪、見たことのない顔立ちは故郷とも異世界の住人とも違う。年は生前の私と変わらないくらいに見えるが、若い人の浮わついた感じはなく、かなり落ち着いている。


『あっ、エレンは? 私、エレンに協力してもらう約束だったの』


 愛娘会いたさに期待を込めて聞くと、優しげに笑っていた青年の表情が曇った。私の胸にザワリと不安がよぎる。


『エレンはどこに?』

『樹木の制御の無い白竜が暴走して、この世界の人をむさぼり、エレン様を殺害いたしました』

『え……』


 ……殺した? レアナが、エレンを?


『白竜は今、黒竜をその身に取り込み、コウの母親の心臓と、この学校の女子を食らい、もう一人の協力者を襲っています。白竜は一体どういった指令で動いているのですか?』

『待って、待って、いやよ、そんな……サー、何処にいますか? サー……?』


 私は驚き戸惑い、空を見上げてサーラジーンを探した。サーは起きているようで、すぐに返事をしてくれた。

 サーが言うには、この青年の言った事は真実で、レアナとは現在交信出来ないらしい。


『ではアレクは、アレクセイレーンはどこに?』


 アレクは、レアナと戦い敗れ、とりこまれたと、サー言う。同じ結晶を分けたふたりが争うのが想像出来ず、私は呆然とした。


『サーラジーンはなんと言いましたか?』

『白竜は……サーの命令で動いているわけではないみたい……。声が届かないらしいわ。私は被害者を助けたい、何か私に出来ることはあるかしら?』

『エレン様と女子学生一名以外は既に病院で治療を受けております、貴方は早く解錠を』

『その前に双竜を連れてこないと……ここに置いていくわけには行かないわ』


 青年は私の腕をつかんで引き止めた。


『白竜は協力者を捕獲次第、自ら扉に来るでしょう』

『でも……』

『先に解錠を、サーが起きている時間は短いんだ、下手をすると間に合わない』


 青年が深刻な顔をして言うので、私は頷いて校庭の中央に行った。そこには血が撒かれていて、辺りは血の臭いが充満していた。

 青年は背負っていたリュックから、銀色のケースを出す。中からパックに入った液体を取り出し、さらにその上に撒いた。


『そんなに血を流した人は大丈夫なのかしら?』

『大丈夫ですよ。今日流したわけじゃないし』

『そう……』


 青年はなんということもないというように、平然と言う。私はとまどいながら彼を見た。


『貴方は見送りと言われましたね、では他に来てくださる方がいるのかしら? 他に人は見えませんが』

『じきにここに来ます、先に解錠を』


 前にサーラジーンと再構築の話しをした時は、この体だけではあの世界は救えないと聞いた。それに対してサーは過去と未来から様々な可能性を見せてくれた。その時に選んだのは協力者と共に構築する案だった。


 ……そうだ、私はコウちゃんにその相手を選ばせた。そして、その人はどこに?


 背後にある大きな建物のほうから、空を響く程の大きな音が何回か聞こえた。

 青年は建物を見た後に、私の手を引いた。


『白竜と協力者がこちらに来ます、先に解錠を』


 私は頷いて、血の上に手をつき祈った。


『……フレイレリーンの名に於いて命ずる。かの地とこの地を分ける膜に穴を。あちらの穴は聖地に、道程と計算をサーラジーンに一任する』


 祈る私の足下から、緑の光が浮かび、血は青い花のような結晶に変化していく。校庭中央には大きな魔方陣が現れた。陣は緑だが、その文字は青で描かれていた。


 魔方陣の中央が隆起し、内側から黒い闇が湧いて波打つ。波は外に外にと少しずつ広がった。私は穴に落ちないように後退する。そしてその闇から懐かしい人の声を聞いた。


 ――オカエリ


 私は涙を流しながら、『ただいま』と呟いた。

ニコラス・ターナー:フレイの義理の息子、エレンの実の兄

ジーン・ターナー:池からアレクを呼んだ長髪の男

誰?って感じですがエレン側の裏があります、ここではスルーしてください

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