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消えた幼馴染みを探しに異世界転移します  作者: dome
十四章(最終章)
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14-13、ユウを思う


 俺と幸はミレイを家まで送ってから、叔父宅に帰った。


「……疲れた」


 そう言ってソファに倒れる俺に、幸はタオルを濡らして、レンジで温めて持って来た。

 幸は俺の顔や手を拭く。


「ごめんね、私の看病していて倒れたんだよね」

「幸はいきなり元気になったな」

「中学の時と同じだからね、夢をみていただけだよ」


 俺は寝転がったまま、幸の頭を引き寄せる。


「……ホントだよ、中学の時みたいによく寝ているな。と思っていたら、髪まで当時を再現してきたから驚いた。過去に戻ったかと焦った」


 幸は寝ている俺をじっと覗き込んでいた。その顔があまりにも儚げなので、俺は不安になった。

 幸の存在を確かめるように、俺は幸の頭を撫でる。


「どうした? 嫌な夢でも見たのか?」

「悪夢じゃないよ、単に色々思い出しただけだよ……」


 口ではそう言うが、無理して笑っているようで痛々しい。


「……ユウの事が悲しいの?」

「うん、どうしてもユウ君の事を考えちゃう。私、あっちにいたときは知らなかったからね。ユウ君が私の子どもだったなんて、失ってからはじめて気がついたよ……」

「俺も、ユウが幸の子どもだったと知ったのは再構成の日だった。最後の最後に知らされた」


 幸は俺をじっと見る。


「君は知らなかったんだ……」

「竜の体にいたときに、そういった計画があることは知らされていたよ。でも、産まれてないのに幽体で出てくるとか想像さえしなかった。だいたい、幸が妊娠していたことを、誰も俺に教えてくれなかったし」


 俺はそこまで言って、ゆっくりと起き上がり、頭を下げた。


「本当にすまない、謝っても許されることじゃない」

「信だけの責任じゃないよ。私も同罪。私ね、あの時はあれがどんな意味を持つのかちゃんと知っていたの。でも、どうせすぐに死ぬならいいかな、とか、深く考えてなかったもんね……」


 幸はそう言って、自分のお腹を触る。


「ここにいたんだねー。ユウくん。ゼンゼン気がつかなかった。君に警告されていたのにね」

「警告?」

「レーンに好き勝手させるな、逃げろ、妊娠したらどうするんだって」


 俺は苦笑した。


「……そんな事もあったな。ずいぶん前の話だ」

「私にはそんな前じゃないよ、つい最近の話だよ」


 俺は泣いている幸の肩を抱いて、幸の頭を自分の肩にもたれさせる。


「多分、再生に幸の子どもを使う事になったのは俺のせいだ」

「どういうこと?」


 幸は鼻をすんと鳴らして俺の顔を見る。


「フレイは再生に幸の体を使うつもりだった。レーンを至高神にして、幸を土台にする形であの世界を再生しようとしていた。でも俺がそれを止めたから、ユウを使う案を考えたのだと思う……」

「それはいつの話なの? 信はフレイに会ったことがあるの?」


 俺は頷く。


「ママが死んだ夏の一月前くらいに、大人の俺がフレイに未来の記憶を渡した。その時までは、フレイは幸の体を世界の苗床に使おうとしていたよ」

「信がフレイに未来を教えたんだ……」


 そう、俺は夏休み前からあの町をうろついていた。幸の中からフレイが出てくるのを、俺はずっと待っていた。


「その時に、幸の体をあの地に埋めるつもりなら協力しないとフレイを脅した。そこで、フレイは俺の記憶を辿ることを始めたのだと思う」

「……フレイを脅すのってすごいね。きっと、君がはじめてかもしれない」


 苦笑する幸の頭を俺はグシャグシャとかき混ぜる。


「必死だったからね。一月後にあの惨劇がもう一度起こるのかと思うと、夜眠れなかったし」

「……二度もあんな思いを……君は本当に苦労性だ」


 幸は力なく笑った。


「No.7だった時も、はじめから俺は幸を犠牲にするつもりは無かった。審判の時はNo.7の結晶を使って幸を帰そうと計画していた。三人の王もそれを受け入れてくれていて、一の王は自分の体の結晶を世界の延命に使えばいいと申し出てくれていた。あの場の全員が幸を帰す事を考えていたよ。もちろん隼人さんもね」


「それでもユウ君が、私の身代わりになるのは間違っているよ……」

「うん、ユウが俺や幸のような凡人だったらそうだね、でも、幸の中にいたのはサーと同じ能力を持つ魔法使いだった」

「………」

「幸のお腹にいたのが普通の子どもで、ちゃんと生まれてくるのなら、皆別の方法を考えたよ。でもそこにいたのは、レーンのように生まれてくる力の無い命だったとフレイが言っていた。そして、何よりもユウ自身があの世界を愛して、黒竜と世界を守る事を望んでいた」


 すべてを説明しても、まだ幸は納得出来ないようで、俺の肩に頭を押し付けて泣いていた。


「幸、もし君があの場であの世界の結晶になれば、ユウも道連れになる。また、臨月まで待ったとしても、ユウは生まれて来られずに死んでいたという。どっちにしろ、ユウが生きて行ける世界はあそこしかなかった。ユウとレーンは同じ存在だよ。それでもまだ、納得できない?」


 幸は頷いて、静かに泣いていた。俺は幸の頭をそっと撫でる。


「幸が再生の方法について何も知らされていなかったのも、そのせいだと思う。幸は自分よりもユウを守ると分かっていたから、フレイも竜達も、幸には何も話さなかった」

「……皆して私を騙していたのかぁ」

「そうだね。言い方を変えると幸を守っていたのだけど。フレイもエディも、子どもたちに責任を被せないようにしていたのだと思うよ? あと、ユウは死んではいないからね。レーンに言えば話を伝えてくれるかも」


 幸はふくれたまま、しばらく俺の腕にしがみついていた。


「どうして信が向こうに渡らないと行けなかったのかずっと不思議だったの。信は、ユウを産み出すために必要だったのね」

「……そうだね。あとはレーンの教育と二つだ」

「最初からフレイだけで行けば良かったのに……そしたらママも死ななくて、信も菊子さんも巻き込まれなかった」

「幸一人で、荒れていた時代のサーラレーンを止められたか? 幸が殺されて、世界が消滅して終わって無かったか?」

「あっ……」


 セダンで幸と出会ったレーンは、酷く残虐非道で、社会性の欠けた人間だった。俺と混じらなければ、レーンの性格は変わらなかったと思う。


「俺は駒として必要だったんだよ。俺が幸とママに愛された記憶がレーンを変え、そして幸が自らそれをレーンに刻み付けた」

「私なんかしたっけ?」

「生まれてきてくれてありがとう、君がここにいてとてもうれしいと、幸がレーンに言ったのだと思うよ。記憶に深く残っている」

「……それはお誕生日に言う言葉だよね、私もママに言われたし、信にも言うよね」


 そう、エレンママが言う魔法の言葉だ。レーンにとっては、はじめて他人から存在を肯定された、特別な贈り物として記憶した。


「俺は自分で望んで絡んだからいいんだけど、ママと委員長は巻き込まないように、俺はあの夏に裏で動いていたんだ。でも、ママには帰国を断られ、白竜が委員長に接触する現場は押さえられなかった。五年前からやり直したのに、ほぼ同じ結果になったよ」

「私も、いつレアナが菊子さんに出会ったのか、知らないわ」


 レアナが沼から出てきた所は見たと幸は言うが、俺にも幸にも、レアナの行動はちゃんとつかめていない。

 おそらく、レアナは日本で俺に会わないようにエディに指示されていた。


「二度と同じ時を繰り返して思った。どう足掻いても変えられない事柄があると。何度も絶望して、何度も自分を恨んだ。でも、どうしようも出来なかった……エレンママとユウを殺したのは俺だよ、幸やフレイのせいじゃない」


 正直、エレンママの死は思い出すだけで息が苦しくなる。個人的にあれから十六年は経過しているのだが、目の前で起きた凄惨な光景は忘れられる気がしない。


 俺の様子の変化に気が付いた幸は、震える俺の腕を擦って、そっと抱きしめた。


「ユウがああなったのは、裁定者と呼ばれていた俺のせいだ。俺が幸の生存を選んだ。幸は被害者だ、本当にすまない」

「ううん、信を巻き込んだのは私だよ、あの庭で、君を捕まえたのだから全部私のせい……」


 はじまりはキスをした裏庭だが、そこで幸に出会わなかったら、俺はどうなっていただろうか?


「……もし母の葬式に幸が現れ無かったら、俺は保護施設に預けられていたって親父が言っていた」

「……?」

「親父には俺の面倒を見る時間が無かったからね。母の親戚はいないし、父の親は老人施設にいるから、俺を引き取るのは無理だったらしい」

「そんなこと無いよ、信のパパはちゃんと信の事みてくれるよ、きっと信を育てるためにお仕事変えてくれてた」


 幸は無いと言ってくれるが、俺の引き取り手が無いのは事実だ。それに俺のせいで親父が警察を辞めるとか考えたくない。警察は親父に似合ってたから。


「あの庭で、幸に出会えて良かった。エレンママがいてくれて本当に良かった。あの幸福な日々が無かったら、俺は最初の頃のレーンみたいになっていたと思うよ」

「セダン襲撃の時の?」

「うん。やはりレーンと俺は似ている。レーンは誰からも愛されなかった俺で、羽間信は幸に出会った俺。俺たちの違いはそれだけだよ」


 幸は俺の背中に手を回して胸に耳を付けた。


「信の事が好きよ。本当に、側にいないと悲しいくらい好き。大好き」

「俺も幸がいなかったら今生きてない」


 そう言って、俺は幸の額に口を付けた。幸は顔を上げて、俺に口を重ねた。



 二人はソファーに並んで腰かけた。


「幸、ユウは生きているよ。サーと違って幽体があるから、レーンならユウに体を作れるかもしれない。俺たちがこの世界で役目を終えたら、何とかして向こうに渡って、ユウに俺たちの結晶を渡せる可能性もある」


 そう聞いて、幸の目が輝いた。


「またユウくんに会えるの? お話出来る?」

「レーンと話せるのに、ユウと話せないわけないよ」

「じゃあ、ユウくんが神様やるのいやになったら交代できるかしら……」


 俺は幸のこめかみに拳をあててグリグリと押した。


「いたたた……な、なんで?」


 幸は目を閉じて痛みに耐えた。


「一人でこっそりやりそうだから。そんな機会あってもまず相談すること」

「一緒に行ってくれるの?」

「嫌だと言ってもついていくから。幸が消えたら俺も死ぬ。ユウの問題は俺の問題でもあるから、一人でかかえないように」


 幸はペタリと俺に抱きついて目を閉じた。


「また皆に会いたいねぇ」

「サー同様の能力者がいないと無理だね。俺としてはいないほうがありがたいけど」

「信は皆に会いたくないの?」


 頬を膨らませる幸に、俺は笑う。


「最初に渡った時に死にかけたから、もう死にたくは無いな」

「あっ、そうだった……ならダメじゃん」


 幸は座っている俺に寄りかかって、また涙を流していた。俺は幸の肩に手を置いて、その頭を引き寄せる。

 俺は袖で涙を拭きながら幸の額にキスをした。


「フレイが幸の記憶を消してくれて助かった。戻ってきたばかりの時だったら、幸は泡になって溶けていたかもしれない」


 それを聞いて幸はふふっと笑う。


「人魚じゃないのよ? 泣き虫だけどね……」


 幸はハラハラと涙をこぼした。


「ああ本当に、向こうでは楽しかったな……。毎日大変だったけどね。君も皆もいたしね。今よりずっと生きてるって、思えたよ」

「ファンタジーの世界は狭いからね、こっちの世界ほどシステマチックでないぶん、自給自足感というか、生死に直結する選択が多かったね。毎日が綱渡りだったよ」


 幸は俺の胸をポンポンと叩く。


「君は全員から苦労性認定されていたね。私もそう思うけどお疲れさまだよ……」

「幸だって毎日大変だったけどね」

「……私はねー。物事を考えないから苦労したと思ったことはあんまりないよ。ちょっとは考える努力をしておけばよかった……」

「苦労した記憶があるんだ?」


 幸はフゥとため息をつく。


「異界の魔物のトイレトレーニングには苦労したよ」

「……っ!」

「最初はすごく汚かったからね。いきなり動物園を任された感じだったよ。あれはまいった」

「異界ではレーンといちゃついてたのかと思っていたけど大変だったんだね」

「異界は魔物の国だったからねー。小鬼と暮らすの楽しかったけど、すぐに死んじゃうし、結局アレクと散歩ばかりしてたなー」


 俺はまた幸の顔を拭く。


「アレクというと幸は泣くね」

「一番懐いてくれていたからね。思い出すと悲しいよ」

「……また彼に会いたい?」


 幸は泣きながら首を振る。


「私では彼の主にはもの足りないから無理だよ。主従関係逆だったもん。私はアレクにいつも守られていたよ……情けないよね」

「そんな事は無いよ、アレクは幸といてしあわせだったと思うよ」


 幸は膝をかかえてため息をついた。


「しあわせだったら良かったんだけどね。最後の方は泣かせてばかりいたしなあ……」

「……幸さん、最後のほうは俺さえも泣いていたからね? そりゃ主が死にそうだったら泣くわ。泣かないでいられるか」


 俺は幸に手を伸ばして、その体を引き寄せた。


「皆、今どうしているかな。毎日笑えているかな?」

「暇をしているレーン以外は幸せだろう」

「レーンにはちゃんとした仕事を与えないとダメだね。あんなに魔法作るの上手なのに勿体無い……」


 ここ最近の夢のぶり返しで、幸は殆どの記憶を取り戻したようだ。その記憶には、俺の知らない異界でのレーンとの生活が混じっている。

 レーンと俺が同化してたのはかなり前の話で、気分的には別人だ。幸が向こうの俺に気を向けられるのは困る。


 レーンの事を考えている幸の頭髪を、両手でぐしゃぐしゃとかき混ぜた。


「君は何で私の頭をこねくりまわすのか」


 髪をぐしゃぐしゃにされた幸がジト目で俺を見る。


「かわいいから」

「さっきこけしみたいって言っていたのに!」

「家に母親の大事にしていたこけしがあって、可愛くて好きだった。誉めたつもりだった」

「……そんなのわかるかい、バカにされたのかと思ったよ」

「昼間の状況でそんな余裕は無かったな。幸はずっと寝ていたから心配していた」


 幸は自分の顔を両手で覆って泣いた。


「いつもいつも、ごめんなさい……」

「幸が元気ならそれでいい」


 俺は袖で幸の涙を拭いてじっと幸を見た。


「何で君は袖で拭くかなー……」

「親父の袖ほど不衛生じゃないよ、多分」


 泣きながら頬を膨らませる幸の涙を舌で拭った。

 驚いて目をまん丸にする幸が愛しくて、頬から首へとキスをする。


「……っ、ま、まって」

「大丈夫、別に何もしない……」

「してる、してるよ! それ、すごくドキドキするから止めて」


 幸は俺の頭にしがみついて、首から引き離した。俺は幸に頭をかかえられて、幸の胸に顔を押し付けられている。


「ホントだ、すごい動機……」


 俺は目を閉じて幸の心音を聞いていた。


「胸は平気なのに首はダメとか、幸は首弱いよね」

「知らないよ、君しか触ってこないし!」


 俺は幸にしがみつかれたまま、幸のうなじを触った。


「……ひゃっ!」

「幸は首を出さないほうがいいと思う」


 幸は俺から手を離して、自分の首を隠した。


「そんなの切った後に言われても困るよ、君が触らなければいいだけだし!」

「幸が嫌がるならしないよ、まあ頑張って首を隠して」


 そう言って俺は部屋を出ていく。

 幸は真っ赤になって、しばらく顔を覆っていた。


◇◇


 寝込んでいた私を看病するために、最近ジーンはおじさんの家で暮らしていたらしい。

 朝に私がスープをあたためていたら、ジーンが起きてきてコーヒーを持っていった。


「君が朝から起きているなんて珍しい」

「昨日は早く寝たからね」


 スレ違いざまにジーンは私のうなじにキスをした。


「……ひっ!」


 私の手からお玉が床に落ちる。ジーンは落ちたお玉を拾って流しに置いた。

 ジーンは固まった姿勢で動かない私の顔を覗き込む。

 私は赤く染まった顔を見られるのが恥ずかしくて、ジーンの顔を手で押して遠ざけた。


「びっくりするから、ホントやめて……」

「露出しているとつい、ね……」

「……伸ばす……私、髪の毛伸ばすよ! あれ大事だった、思い知った」


 私の決意を聞いて、ジーンは笑っていた。

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