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消えた幼馴染みを探しに異世界転移します  作者: dome
十四章(最終章)
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14-11、季節の変わり目


 私の中等教育終了試験も無事に終わり、取り合えずイギリスの義務教育は終了した。

 私は大学に進学する気はなかったので、次はどうするか悩んだが、まだジーンが学校に通っているので、家政の専門学校に通うことにした。


 学校の課題を終えた後、「毎日二時間だけ」という叔父との約束で、私は地下室に篭ってサーの夢を見ていた。

 映像は「フレイ視点ではなく、幸の事を見た方がいい」とジーンが言う。なので私はアスラから始まってようやくセダンまでたどり着いた。


 どうせ見るならと、音声の抜き出しをやって、抜き出したテキストをコピーして、簡単に英語に翻訳していく。

 最初は人差し指でキーボードの文字を探しながら入力してたが、慣れると手元を見ないでも文字が打てるようになった。


 音声を自動にテキストに起こしてくれるのは会話部分だけなので、所々に私が状況説明を入れたら物語っぽくなった。


「おお、分かりやすい」


 私は自分の入力したものを読んで自画自賛する。

 しかし何度見ても、自分がそこにいた実感がもてなかった。なので、猫様以外はお話の中の住人だと割り切って見ていた。


「猫様なかなか出てこないのね。レアキャラなのか」


 こっちでは二年弱しか経過していなかったが、あちらでは四年近いデータがあるので、私の視聴は遅々として進まなかった。



『……で、どこまで見たんだ?』

『聖地の自治区から西に戻って、二の王の家に来たとこ』


 私は自室で課題を片付けながら、猫様と会話をする。


『自治区で信が出てきたけど、見た目が違うから別人に見えるの。サーはどうしてあなたや信を追いかけていなかったのかしらね。貴方達が何をしていたかの方が知りたいわ』

『俺は信の体に入ってふらふらしてただけだからつまらんよ。信は信でお前に会うまで感情が欠如していたから、見ても面白いものではあるまいに』


 私は課題から離れてスマホに詰め寄る。


『感情の欠如って、竜の体に入っていたからなのね? なら今貴方も感情が無いの?』

『この体に制御は殆ど入れてないよ。人間の体とほぼかわらん。制限は世界に対する破壊行動だけだ。そもそも異界には樹木の制御は届かんしな』


 世界の破壊行動。というワードが引っ掛かったが、ひとまず脇に置くことにした。


『じゃあ、竜の体で苦労したのは信だけなんだね』

『あいつは大変だっただろうな。そもそもあいつが呼ばれた理由の一つが、俺に体に入る方法を教える事だったのだから、とことん苦労性な奴だよな』


 私はそれを聞いてふぅとため息をつく。


『信には本当に迷惑をかけたし、今もかけっぱなしだな……』

『あいつがやりたくてやってるんだ、お前が気にやむ事ではない』


 私は指で猫をつつく。


『気になるよ。私は信に何もあげられてないし、恩を返せる気がしないもの』

『そんなに気にするならちゃんとあいつが何をしてきたのか見てやれよ。と言ってもこっちの世界だけでは半分だけになるがな。こっちで八年。そっちで八年の十六年分だろ? その途方もない年月お前を救う為だけに生きてきたんだから、理解してやれ』


 私はそれを聞くと、胸が重苦しくなって涙が出てきた。


『なぜ泣く?』

『十六年とか、そんな重いものは返せない』

『返す必要は無いさ。お前はただ笑っていればいい』

『無理だよ、泣ける』


 猫は三日月のような目でじっと私を見ていた。


『じゃあさ? お前がこの世界にしてきたことに置き換えようか』

『……?』

『お前は塔で黒竜を復活させただろう? あのときのようにお前は始終血を流して王達や世界を守っていた。そして結論として、この世界そのものを再生させた』


 ……そんなの、何も覚えてない。


 返事をしない私に、猫が真顔で言う。


『俺は、お前にこの恩義をどうやって返せばいい?』

『別に何もいらない。猫様が、その世界の皆が楽しく生きていればいいと思う』

『ニャア』


 猫様が鳴く。いつの間にか文字だけでなく、猫の鳴き声も鳴るようになっていた。


『シンもそう思ってるんじゃないのか? お前が健やかに楽しく生きることを、ヤツは望んでないか?』


 ……信の中に入ったことのあるレーンが言うのだからそうなのかもしれない。


 私は赤くなって、机に顔を伏せた。


『でもやっぱり私は、彼になにかをしてあげたいとおもうの。笑顔でいて欲しいの』

『……本当にな』


 猫はどこか遠くを見て言った。


『俺ならなぁ……お前が飯を作って、横で機嫌よく食べているのが良かったな。頼み事をされるのも快かったし。願いを叶えてやるのが好きだったよ』

「わぁ……」


 ……レーンの言葉は直球すぎてびっくりする。


 パッと見、信と正反対の事を言っているように思うが、信の言葉のオブラートを外すとレーンの言葉になる気がする。


『レーンは、信の本心みたいに思える。やっていることは正反対なのに、やっぱり似ている』

『お前とフレイもそうだったよ。老獪か純粋かの違いしか無かった。そーゆーものだろう』


 ……老獪って、おばあちゃんのフレイって怖い感じなのね。


『じゃあ、もう一人の信に聞くよ? 君だったら私にどうしほしい?』


 猫は暫く黙っていたが、『自分で考えろ』といって出ていった。


『意地悪』


 私は猫が消えた画面にそう入力して、スマホの電源を消した。



◇◇


 専門学校で調理を習ったり、友達を作ったりしている合間に、私は毎日黙々と異世界の映像を見進めていた。


 ジーンはレーンが出てくる映像を隠したがっていたが、唯一おしゃべり出来る異世界人、猫様のことは思い出したかった。

 何よりも、猫様自身が思い出して欲しい様子だった。


 見るなというジーンと、見て欲しげな猫様、ふたりが言う私の記憶ってどんなかな? と、期待半分、不安半分で映像を追っていた。


 そして私はようやく、信の姿をした、口調の怖い少年を見つけた。


 ……ジーンは猫神様とはっきり言っていた。きっと、これがレーンだ。


 期待に高鳴る胸を抑えて、映像を見たがすぐに後悔をした。


 映像に現れたレーンは、白竜と多くの魔物を率いてセダンを襲い、逃げる私を追い掛けて、黒い背の高い人に暴力を振るっていた。

 それだけでもとんでもないのに、レーンは、初対面の私を壁に押し付けてキスをした。


「ひゃああ……」


 私は赤面して声をあげる。

 当初の、信とまだ混ざっていない頃のレーンの残虐さや、人の心の無いことに驚く。そして混ざったらそれはそれで私に手を出してくる。


 この部屋の鍵をくれたときにジーンが言っていた。


「レーンは俺の姿だからたちが悪い」と。

 まさにそれだ。信の姿で、信の声で迫られたらドキドキする。


「……だめだこれは、見るの無理」


 私は赤面した顔を覆って再生を止めた。


「……猫様! 君は、なんてことを!」


 私はもうスマホで猫様を呼ぶのは止めようと決心した。



 レーンが出てくると途端に物語は進行する。

 私が来た意味や、信の来た意味が私の知らないところで竜達の口から語られていた。


 ……彼らはフレイの意図を知っていたんだ。


 サーラジーンの視点からだと、自分からでは見えなかった事が沢山見えてくる。


「何も知らなかったのは私だけだった……」


 しかも、レーンが出てくる度に信は私を助けてくれる。

 何度も、何度も。

 仕事の合間にも頻繁に目を向けてくれる。

 自分なんて寝ているだけだ。なんて至らないんだろう。何で私は何も見えてなかったんだろう。


 信を、ジーンを思うと涙が出る。

 これがもう恋なのか愛なのか、それとも執着なのか分からない。

 迷惑を掛けると知っていて、それでもやはり会いたいと思う自分の傲慢さに吐きけがする。


 一日二時間と言われていたのに、長期休暇や、睡眠時間を削って、おじさんが寝たあとに地下に潜って続きを見ていた。



 月日は飛ぶように早く過ぎ去り、また秋が来る。

 祝賀会から異界まで見ていた日は、季節が巡り寒くなっていたのに、そのまま地下で寝てしまった。



「暗い……」


 私は手探りで辺りを触る。

 地下で寝ていたのに、どうやら自室のベットに戻ってきているようだ。


 ……体が重い。動けない。


「どうして部屋に」


 起き上がろうとするが、目眩がしてベットに沈む。自分の息がすごく熱い。なのに体がとても寒い。


 ……またやってしまった。


 季節の変わり目にはすぐに風邪を引くのだから、室温に注意すべきだった。なにもかけずに地下で寝ていたんだ。

 ドアが空いて、誰かが部屋に入ってきた。


「ごめんなさいおじさん、私……」


 声を掛けると電気がついた。ドアから入ってきたのはジーンだった。


「……レーンが、幸が倒れていると」


 そう言って、ジーンは私のおでこを触る。そのまま脇に体温計をさして、その温度をみて眉をしかめる。


「ロードは喉に来る風邪だろうと言っていたよ。手が冷たいからまだ熱が上がりそうなんだけど、暑い? 寒い?」

「寒い」


 私の体はカタカタと震えた。


「カイロか電気毛布か持ってくる」


 そう言って手を離すので、私はその手を掴んだ。


「……何? どうした?」


 私の顔を覗くジーンを見て、私の目から涙があふれる。


「ごめんね、信……ごめんね……」

「熱で弱ってるのか? 何で謝る?」


 そう言って、ジーンは袖で私の涙を拭った。


「きみに、迷惑をかけてばかりだ……」

「慣れてる」


 私は情けなくなってまた涙がこぼれる。


「……そんなことに慣れないで欲しいよ……」

「熱が辛くて眠れないなら解熱剤あるから言って、今、毛布と水差し持ってくるよ」


 ジーンはそう言って部屋を出ていく。

 その後ろ姿を見て思う。


 ……いかないで。ここにいて。


 身を乗り出し手を伸ばしたらベットから落ちた。


「何やってんだバカ……」


 毛布を手に戻ってきたジーンは、床に伏せている私を放置した。ジーンはベットに電気毛布を敷いて、スイッチをいれる。


「頭を打ってないか? 大丈夫?」


 そう言って起こそうとするので、私はジーンの足にしがみついた。


「何やってる? そんな元気あるならベッドに戻る。はやく」


 私はもそもそと布団に潜った。そのまま沢山布団をかけられる。

 私はポロポロと涙を流した。


「ほっといていい、なんか悲しいだけだ……」

「なんで悲しいんだ? 映像にユウ出てきた?」

「ううん、君を見てた」

「なんか泣かせるような事をしたかな……」


 ベッドの脇に座り、私の頭を撫でながらジーンは考える。


「君が向こうで何をしてきたのか聞いた」


 ジーンは不可解な顔をする。


「別に泣く理由にはならないだろうそれ」

「あるもん……」

「向こうではファリナ王と一緒にいただけで、たいして苦労していない。隼人さんやアリスに比べたらファリナ王は名君だし」


 ……私はすぐに三の姫に拾われたけど、信はひとりだった筈、苦労性のひとの苦労してないは信用ならない。


「王に拾われるまでは一人だったのでしょう?」

「人間の体で一人ぽっちだったら大変だけど、竜だったからね。不老不死だし物食わない。さらに樹木の下で感情制御されてたから苦労なんて感じている暇はなかったよ」

「……感情制御?」

「苦痛も悲しみも無いんだ。ただ樹木の命じるままに体を動かしていただけだ」


 それを聞いて、私はまたポロポロ泣く。

 ジーンは困り果てて、汗拭き用のタオルで私の顔を雑に拭いた。


「……何でだ? なんで泣く?」

「だってそんなの、私だったら絶対悲しいもの」

「竜の体では竜に不利益な情報が入ってこないって言っているのに……勝手に想像して泣くな。こっちが辛い」


 ジーンはタオルを私に渡して、フゥとため息をつく。


「あっちではむしろ、幸に苦労させられた。いきなり五感をぶんどるし、各地で自傷しまくるし、あれくそ痛かった」


 私は顔に被せられたタオルのすき間からジーンを見る。


「竜の体って、シンクロしたときの感覚が倍増するの?」

「多分、あれは幸の普通なのだと思うよ。比べようはないけどね」

「別に、そんなに痛がりじゃない……」

「生まれつきそうだから、自分ではそれが当たり前になってるんだと思うよ」

「私は普通」

「……普通じゃないよ」


 ジーンは熱で上気した私の額から耳元に手をあてると、私がピクッと身をすくめたので手を引いた。

 ジーンはため息をついて、私の頭を撫でる。


「……寝るまでここいてやるから、とっとと寝なさい」

「お話しして」


 ジーンは私のおでこに手を置く。


「……赤ちゃんにもどってる? 昔話でもする?」

「違う。向こうで貴方のしてきたことを全部教えて欲しいの。映像じゃ、よくわからない……」

「長いから、すぐには無理だよ。おいおいね」

「……今聞きたい」


 ジーンは困って頭をかく。


「なんか今日の幸は様子が変だ。なにかあった? 映像、どこまでみた?」

「私がアスラのレーンの所に行くまで」

「じゃあ、レーンが出てきたんだな? 結晶を回収したり、双竜に二の王を誘拐させたり……」


 私は鼻をすすりながら頷いた。


「レーンの事をちょっと思い出したの。あの子泣き虫ね。あんなに怖いことするのにすぐ泣くからかわいそうだとおもっちゃう。フレイに置いていかれたのがトラウマになってるみたいなの」

「……まあ、そうだろうね。前世のフレイの死は本当に悲劇的だったからね」


 私はちらりとジーンを見る。


「君は滅多に泣かないね……最初見たときしか記憶にない」

「異界では泣いていたけどね。記録には残っていないね」

「どうして泣いたの? 何があったの?」


 私が身を起こそうとするので、ジーンは私を布団のなかに押し戻した。


「幸が二週間も目を覚まさなかったから、死んだのかと思って泣いていたよ」


 興味深々だった私の顔が曇る。


「ごめん、私が原因なのね」

「ちなみに初対面の日は母親の葬式」


 私は、はーっと、大きくため息わをつく。


「人が死なないと泣かないのか。君は本当に我慢強いね」

「レーンは何で泣いてた?」

「置いていかれたとか、一人が寂しいとかフレイの死に関することね。あと……魔物が死んだときも泣いていたみたい。初めて人の為に泣いたと言っていた」


「……異界の話だ。初めて聞いたよ」

「レーンは沢山魔物を産み出したけど、全員アスラ復元の為に密林にしてしまったの。それで泣いていた」


 私は手で顔を隠して言う。


「貴方とレーンの違いがわかった。信は我慢強いのよ。やりたいことはやらずにしまっちゃうの。レーンは好き勝手やるわね。この違いは多分、レーンは自分の作った環境に住んでいるけど、信は他人の家に間借りしているからじゃないかしら? 前はママの家で、次はファリナ王の家。今はおじさんと隼人の家」

「……なるほど、まあそうだね」


 ジーンが真顔で肯定するのを見て私はため息をついた。

 私は手を伸ばすと、ジーンはその手を取ってくれる。私はその手を顔に近付けて涙を流した。


「そんなことで泣くなよ……」


 私は頭を横に振る。


「私は君に会いたいよ。人のうちで常識にとらわれて躊躇ってばかりいる君じゃなくて、好きなことが好きと言える本当の君だよ」


 ……そうだ、思い出した。

 私は、お庭で泣いている男の子の寂しさを埋めたかった。そこがスタートだ。


 私はゆっくりと体を起こして、私の顔を覗いている男の子の額にキスをした。そして、その背中に腕を回して、胸に頬を寄せる。


「もう絶対に君を泣かせない」

「何?」

「私がね、君の心臓になりたいな。と思ったのは多分ね、君の心に空いた穴を埋めたかったの……」

「えっ?」

「それが私が君に執着する理由なの。だからこうしていたいの。今思い出した」

「……コウ」

「私も信と同じだ。あの日庭で君を見たときからどうしようもないほど君に惹かれていた。だから君とずっと一緒にいたくて毎晩泣いたのよ。フレイとか関係なかったね。私が君を好きなんだ……」


 ……熱にうかされているのかな。今分かった事は明日には忘れているかもしれない。でも、君を好きなことだけは絶対忘れない。


 私の頬にあたたかいものが落ちたので、私は目を空けてジーンを見る。するとジーンは静かに泣いていた。


「……泣いたらダメだよ」


 私はジーンの頬に手をあててもう一度キスをする。ジーンは頷いて、二人で深いキスをした。



 そのまま私は目を回して寝てしまい、翌朝にはさらに熱が上がり叔父を驚かせた。

 叔父が薬を出してくれたがすぐには治らず、そのまま一週間近く寝込むことになった。

 ふらりと現れた隼人に「ひ弱」とバカにされるが気にしないことにした。


 毎日学校に通い単位を取り、学校を卒業して、胸を張って彼を支えられるような人になるのが今の目的。そしてゆくゆくは信の巣を作る。


「がんばろう」


 ひとまず私は目の前の課題から片付ける事にした。

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