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消えた幼馴染みを探しに異世界転移します  作者: dome
十四章(最終章)
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14-9、安息日


 パーティー後の日曜日。教会帰りにおじさんと昼食を買って帰ると、家に隼人の車が停まっていた。車を覗くと隼人とジーンが乗っていた。

 叔父は隼人を家に招き入れる。


「待たせてすまないね、ジーンと一緒だと聞いたから、中で待っていると思っていたよ」

「あ、コイツ鍵持ってるのか。何故言わない?」


 隼人がジーンをにらむので、間に私か入った。


「信は気をつかうのよ、うちにだって誰もいなければ入らない人だし!」

「……うちって、日本の?」


 どの家なのかを確認する隼人に、私はうんうんと頷く。

 ジーンは私を隼人の前からどかした。


「鍵を持っていても、人様のお宅の鍵を開けるのは緊急時のみにしています」

「お前はここの養子だろうに……」


 いつもニヤケている隼人の顔が、いつになく真剣だ。気をつかいすぎるのは良くないと思うけど、それで怒られるのはちょっとかわいそう。

 ふたりの顔を交互に見ながら、何と言おうか悩んでいたら、叔父さんが会話に入った。


「ハヤト、ジーンは礼儀正しいんだ。ボクの事も、エレンの事も、親としては見ていないよ。彼は僕らに仕えてくれているんだ。寂しいけどそれはハヤトも同じだよ」


 隼人はしばらくジーンの顔を見たあと、ジーンの額にデコピンをしてリビングに入った。

 額を押さえてうつ向くジーンの背中を、私はよしよしとさする。


「いつか、君がただいまと言えるおうちに住もうねぇ」


 ジーンは黙って頷いた。


 

 家に入ると私はキッチンからリビングを覗く。隼人は叔父のコートをハンガーにかけていた。

 叔父の言う、隼人もジーン同様仕えているとは、こういった事なのだろう。


「一体どうしたの? 突然来てもご飯無いよ?」

「飯はどっかで食べるから気にするな。それよりも幸はコーヒーをいれてこい」

「やだ」


 反抗的な返事を返しつつ、私はキッチンに行く。自分も喉が乾いたし、隼人の言うことは聞きたく無いけど、叔父さんとジーンにお茶を出したいしね!


 コーヒーと紅茶をそれぞれポットにいれて、好みを聞いてカップに注ぐ。コーヒーは隼人だけだった。少な目にいれて正解だ。

 私が紅茶を配り終えると、テーブルの上には写真と書類が並べられていた。隼人がニヤニヤしながら話す。


「この前の集まり、結構売れた」


 何だ、仕事の話かと、私は紅茶にミルクを入れる。


「やっぱりハイハイ言う自己主張の無さそうな女って結婚相手としては売れるのかね」

「……ん?」


 ……今結婚って言った? アリスさん売られてた?


 私は書類を覗いた。

 そこには、二十代くらいの男性の履歴書やスナップ写真があった。


 ……アリスの相手には若いような。


 私はうーんと考えて、ニヤツク親の顔を横目で見て思う。これは、もしかして?


「隼人は私を売りにつれていったの?」

「そんな金にならんことはしないよ。それにこんな面倒くせぇ女売れないって」

「面倒くさいとはどーゆー意味なのか」


 私は文句を言うが、隼人は私を無視して叔父に向かって話を続けた。


「だってこいつ、何重もの虫除けがついてるから。一つは母親が強盗に殺されていること。二つ目は二年間消えていたこと。まあ、二つ目は学園にいたということになってるから言い逃れは出来るけどな。エレンの死は新聞にも載ったから伏せようがない」


 私とジーンは重苦しい溜め息をついた。

 やはり何年経過しても、十四才の時の事件は忘れられない重石になっている。それを軽々しく語る隼人には殺意を覚えるほどにいまいましい。


「……私部屋にいる。隼人が帰ったら教えて」


 私が席を立つと、隼人が手を引いて止めた。それだけで腕に鳥肌が立つ。


「話は最後まで聞け。その、母の死因を聞いても引かなかった奴がいるんだ」

「誰がなんと言っても関係ない。私にはジーンさんがいる」

「まあ見て見ろよ、昔からやってる病院の医者だぜ? この苦学生とは違う」


 私はとっさにジーンを見た。ジーンはよそを向いていた。


「ねえ隼人。このひとおじさんだよ? 三十代だよ」

「爺より半分も若い。少なくとも俺よりも若いよ」

「バカ隼人。私の倍近い年じゃにゃいのか」

「……噛んだ」


 親子して年齢当てクイズみたいな会話をしていたら、ジーンがその写真を手に取る。私もそのスナップ写真を見ると、そこには絆創膏をくれた人の顔があった。


「あ、猫おじさんだ」

「パーティーで会話したと言ってたぞ?」

「なんか、猫の写真みせてくれた。いい人よ」


 ……いい人だけどね。年齢高過ぎだ。結婚とかないない。


「私フレイじゃないからおじさんに興味ないよ?」

「フレイって、オッサン好きなのか?」


 私は首を傾げた。


 ……はて、何でそんなこと思ったのか。


「まあ断るけどさ、覚えておけよコウ、お前は別にこいつじゃなくてもいいってことを」

「良くないよ、何言ってるの? 隼人は」


 困惑する私を放置して、隼人は姿勢を変正し、ジーンを真っ直ぐに見た。


「クソ坊主、お前はもうフレイの呪いから解放されている、ここに縛られる事はない、お前は完全に自由なんだ」

「……それは、出ていけと言うことですか?」

「違う、お前はコウに縛られず、好きなことをして良いと言うことだ。その為の援助は惜しまない。お前は日本に戻ってもいいってことだ」

「……えっ」


 ……ジーンが日本に帰っちゃう? それって私も付いて行ける? いや、隼人は私から解放されてと言った。それは、ジーンと別れるってこと?


 確かに信のパパは息子の帰還を待っている。信を日本に帰すべきだとは思うが、置いていかれるのはつらい。


「戻りません、ここで地盤形成をしているので、日本に未練はありません」


 ジーンが戻らないと言ってくれて、私はホッとした。

 安心すると、なんだか涙が出てくる。


 ……ああもう、隼人と話しているといっつも怒ったり哀しい気持ちになる。やっぱりこの人嫌いだ。


 私が泣きそうな顔をして怒りを堪えていたら、ジーンが席を立った。


「隼人さんが俺を至らないと思っていることも、自分自身の無力さも知っていますが、娘を泣かせるまでからかうのはどうかと思います」


 そう言って、ジーンは私を連れて私の部屋に行く。私は部屋に入ったとたんにベッドに顔を臥せてわぁと泣いた。


「……泣くと思った」

「隼人嫌い」

「心中ご察しします。俺も堪えた」


 ジーンは膝をついて私の顔を覗き込むので、私はジーンに抱きついた。


「うう、あんな親でごめんね……」

「いや、幸のせいではないよ」


 私はジーンの胸に顔を押しつけて、スゥと息を吸った。


「毎日君にくっつけたらいいのに。むしろ君の心臓になりたいよ。そしたら一緒にいられる」

「内臓になられたら、俺は幸の存在に気がつかないよ」

「私は知っているからいいのだ。そして毎日血液を体に送ってあげよう」

「何言ってんのかわからんがえらそうだな」


 ジーンは私の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。


「進学先が女子校で助かった。もうパーティーみたいな思いをしたくはない」

「そんなこと心配しなくても、私はどこにも行く気はないよ? 私の目的は君とくっついていることだし」


 そう言って私はジーンの背中に手を回し、心ゆくまでくっついていた。

 ジーンは私の頭をよしよしと撫でる。


「幸さんは俺の何に執着してるんだろうねぇ?」

「……全部」

「容赦ない宣言をありがとう」


 私はジーンの胸に顔をくっつけて、すぅと匂いを嗅ぐ。


「君の匂い好きなの。ちょい前はタバコ臭くて君の匂いが薄れてた。あとやっぱり心臓の音を聞いているのが好き、眠くなる」


 私は顔を上げて言う。


「中学の時にパンダ公園で、信になりたい、だから信の真似をしていると言ったでしょう?」

「……言っていたね」


 少し困ったように笑うジーンの頬を私は両手で挟んだ。


「あれ、間違ってた。うん、そうじゃなかったの」

「……まあ、正直真似をされても困る」

「そう、真似じゃ駄目だったのよ……私の目的は君とくっついていたい事なのだから。そして今日からは次の目標を目指します」

「次の目標?」


 私は顔を上げてじっとジーンを見つめた。


「今日から、君のおうちを作ることを目標にする、そう決めた」

「……おうち? 家って事?」

「そう、君が安心して羽を広げられる場所ね!」

「……コウ、俺は既に一人で暮らしているんだけど?」

「ても、満ち足りてはいないでしょう?」


 とても真面目に聞いたのに、ジーンは苦笑した。私は返事を期待して、ジーンを見ていた。


「……幸が義務教育中だからだね」

「ん?」


 ……これ、話繋がってる? 私が義務教育中だと、ジーンに不利益があるの?


「えーっと、義務教育と言うことは、年齢の問題? でも私、本当は十八才だから、あまり関係ないわよね?」

「関係あるよ、少なくとも、まだ法的には結婚出来ない」

「この国なら両親の同意があれば十六才でも結婚出きるよ、昨日スマホで調べたもの。隼人に頼んでみようかしら?」


 立ち上がろうとする私を、ジーンは待てと押さえた。


「コウ、籍を入れるのが俺の目的では無いよ」

「……あ、そうなの」


 勢い付いていた私は、止められて、ションボリしながら床に正座する。私は、ハッとして顔を上げた。


「体目的……きっとそれね!」


 前に誰かが言っていた事をそのまま口に出すと、ジーンは驚いて私の口を手で塞いだ。


「……またしょーもない事を思い出したな」

「これを言ったのは……中学生時代の信だと思う。頭に浮かぶ顔が幼いから」

「イヤイヤイヤ、それはレーンだから、猫様の嘘だから、その話は忘れなさい」

「えっ、嘘なの?」

「……うっ」


 手をつかんで顔を覗くと、ジーンの顔がだんだん赤く染まって行く。私はジーンの腕に巻き付いた。


「君の夢が叶う環境を作りましょう……そうしよう」

「それで大変な思いをするのは幸だからね、それよりも試験勉強をしなさい、目の前のすべき事を一つ一つこなすことから」

「今日は日曜日、安息日だから勉強もお休みです」

「じゃあくっつくのもお休みにしようか」


 そう言って、ジーンが立ち上がるので、私は、名残惜しそうにジーンを見た。


「幸はお昼食べてないだろう? 食べておいでよ」

「そうね、叔父さんにも食べさせなくては」


 私はすっくと立ち上がり部屋を出ていった。


「俺もデータ室の整理をしてくるか」


 ジーンは私の部屋を出て、地下に行った。


◇◇


 私は隼人と話をしている叔父のところに行き、昼食の準備が出来たことを告げる。

 チラリとテーブルを見ると、先程広げていた男性の写真等は片付けられていて、地図や数字の入った表などが広げられていた。


 私はキッチンで一人、買ってきたキッシュとスープとサラダを食べていた。

 おじさんと楽しくランチする予定だったのに一人飯は寂しい。

 私は話し相手にスマホをつけて、コップに寄りかからせた。そこには呼んでもいないのに猫様が座っていた。


『こんにちは。それともこんばんは?』

『こんばんはだな。夜も未明だ』

『……時間の流れが全然違うのね』

『異世界だからな』


 猫はじっと私を見る。


『また寂しい病が発生しているのか?』

『それもあるけど違うの。あのね、さっき信と話していたことを考えていたの』

『何て?』

『信は今ひとりで暮らしているの、でも寂しそうなのよ、何故だと思う?』

『その家にお前がいないからでは?』


 明快な返答を見て私は画面を凝視した。猫様は信のことをよく知っているように思える。


『それね、今の私だとダメみたいなの、何故だと思う?』

『もう少しヒントをくれ』

『私が義務教育……小さい子どもが行く学校に行っているのが原因みたい』


 猫は画面の中で後ろ足で頭を掻いていた。そしてペロリと手を嘗めて毛繕いをする。そのまま返事が無いので、私は返答を促した。


『猫様、どう思う? 何が問題?』

『……犬も食わない類いのヤツだろう』

『なにそれ? ちゃんと説明して?』

『性的欲求が満たされていないと言うことだ』


 ……はい?


『それは、君が言ったらしい、体目的ということなの?』

『簡潔に言えば』


 ジーン本人は否定したことを、猫様は是とする。これは本人の言葉を信じるべき? いや、完全には捨てずに置いておこう。叔父や隼人から怒られずにギューできる環境は私も欲しい。そのためにはまず……。


「……試験だ!」


 拳を握って顔を上げると叔父と目が合った。叔父はいつの間にかリビングからキッチンに移動していたらしい。私は真っ赤になってスマホをテーブルに置いた。


「スミマセン、いまお皿を並べますね」


 私は席を立ち、スープとキッシュをあたためなおして叔父の前に並べる。叔父は私のスマホをじっと見ていた。


「食べながら勉強をしていたのかい? ジーンもよくそれをするけど、食事中は良くないよ」


 いえ、勉強ではなくて、猫とお話しするアプリですとは言えなかった。


「ごめんなさい、一人だと寂しくてついスマホを……」


 叔父のお祈りに合わせて、私も黙祷する。そのまま二人して黙々と昼食を食べた。


「コウはいつも誰かが側にいたんだね」

「はい、食事はたいてい誰かと食べていました」


 おじさんが寂しそうに笑うので、私は気になった。


「おじさんはずっと一人でご飯を食べていたのですか?」

「そういった家風だったんだよ、エレンは別邸にいたし、私のまわりにはお手伝いさんしかいなかったしね」

「別邸?」

「聞いてないかい? エレンと私は別々に育てられたんだ。父はエレンを憎んでいたからね」


 私は首を傾げた。あのいつも笑っていたママを、その父親が憎んでいたというのが理解できない。


「食事が終わったら、父の倉庫を見てみようか」


 叔父さんがそう言うので、私は頷いて、黙ってご飯を食べた。


 食後に案内された倉庫を見て私は戦慄した。

かなり広めの部屋の壁一面に、私とそっくりの女性の写真が飾られていた。

 それだけでない。その人の着ていた服や、ウエディングドレスや靴まで部屋に並べられていた。


「怖いでしょうこれ、気が狂っているよね」

「はい……」


 私はおそるおそる写真を見て回る。

 小さいフレイはどれも笑っているのに、大きくなるに連れてその顔から笑顔が消えていく。


「父は全力で一人の少女を愛したんだ。自分の妻と息子を捨ててまでね」

「……え」


 私は叔父を見る。叔父はいつも優しく、朗らかに笑う人なので、そういった家庭の事情があるとは思った事が無かった。


「父は多くの人を不幸にした。私の母と、私。そしてフレイ自身さえもね。さらにフレイがエレンを産んだときに死んでしまったから、フレイの娘のエレンさえも憎み別邸に追いやった」


 エレンママが、父親に愛されていなかった。それだけではなく、憎まれていた?


「あの……ママはいつも笑っていましたよ? 誰か別の人の話ではないですか?」

「エレンはね、本当にかわいそうな子どもだった。誰も自分を愛してくれない環境で育てられていたためか、いつも人形のように無表情だったよ。学校にも行けなかったしね。家から外に出られなかったんだ」

「でも、ママは頭よかったですよ。勉強教えてくれたし……」

「エレンの勉強は、僕とハヤトが教えたからね。君が今度受ける受けるGCSEはクリアしているし」


 私は、叔父の妹とママが結びつかなくて混乱した。


「確かにママは綺麗な人でしたけど、やっぱり同じ人だとは思えません。ママはとても表情豊かで歌が大好きな人でした。教会でいつも歌っていましたよ!」


 そう言って私は、ママの好きなミュージカルの主題歌を歌う。


「コウ、その歌は辛いときに歌う歌だよ」


 私はハッとした。ママは日本でも辛かったんだろうか?


「ママは世界一綺麗でした。いつも笑っていて、教会でも大人気で、クリスマスにはいつもマリア様の役で、そしてソロで歌っていました」


 悲しそうな顔をするおじさんに、私は続けて言う。


「日本文化も好きで、よくサムライのドラマを見てましたし、浅草とか、東京のお寺にも行きました。スモウレスラーも好きでしたよ。夕方よくレスラーの応援をしてました」


 私は、叔父の言う可愛そうなママを打ち消すように、思い出の中のママを話した。


「そうか、君はママといて楽しかったかい?」

「はい、私も信もママが大好きです。大好きなママといて楽しくない筈はありません」


 キッパリと言い張る私を見て、叔父は笑った。


「よかった。君とエレンがしあわせでいてくれて」

「おじさん……」

「君にとっての魔法使いはエディかもしれないけど、僕にとっての魔法使いはハヤトだよ」


 私は心底わからないと、首を傾げた。叔父はそんな私に笑って言う。


「彼がエレンを好きになってくれてよかった。彼が外から家はおかしい、誰も幸せになっていないと言い続けてくれたから、今こうして皆笑っているんだよ」

「隼人は他人の間違いを指摘するのが得意なのよ」


 叔父は笑う。


「そんな事の為に、人生すべてを労してうちの家族を救ったのはおかしくないかい? 彼はエレンを家から救い出す為に、身を粉にして父を説得してくれたんだよ」


 私は膨れる。やはり隼人がすごいとは思えない。納得しない様子を見て、おじさんは私の肩に手を置く。


「コウちゃんがハヤトを嫌っているきっかけは何だい?」

「えっと……私が小さい頃なのですが、ハヤトが私にキスをしたんです。口に。そしたらママがとても怒って、三日間口を聞いてくれませんでした。それからですね。隼人に近寄ってはいけないと思ったのは」


 おじさんは笑った。


「エレンの焼きもちの為か」

「だって、ママがご機嫌でいることがとても大事だったからしょうがないんです。隼人は滅多に家にいないから、ママ優先です」

「それで嫌われるのはかわいそうだなぁ」

「いいんですよ、隼人は頭がいいから。それを逆手に取って私で遊んでいるわけですし。トントンです」

「君たちは、変な父娘関係だなぁ」

「ライバルですからね隼人は。ママ争奪戦の。負けませんよ」


 おじさんは顔を横に向けて、フフッと笑った。


「……まあ、思ったよりずっと平和な理由でよかった」


 叔父は壁を見渡して言う。


「これはもう仕舞ってもいいかもしれないね」

「焼却レベルで廃棄したいですね。この部屋の中身は狂気をかんじます……怖い……」

「写真と同じ顔の人に言われると説得力あるなぁ」


 叔父は困った顔をして笑った。


「何か欲しいものが有れば持っていってもいいよ、宝石でもドレスでも、全部コウにあげるよ」

「フレイのものはロザリオだけで十分です」


 ミサのために首に掛けていたフレイのロザリオを見て、叔父は優しく微笑んでいた。


「あ、そうだ。おじさんは私がピアスをしていた理由を知りませんか?」

「ピアス?」

「先日お店の人にピアスの穴を開けたあとがあると言われたのです」


 私は髪を耳にかけて、叔父に耳を見せる。


「本当だ。両方ともあとがついてるね」


 叔父は部屋から出てリビングに行く。リビングでは隼人がまだ書類を広げていた。


「ちょっと待っていてくれるかい? 調べてくるよ」


 叔父は私をリビングに置いて、地下に降りていった。

 私は地下室なんてあるのかと、廊下を覗いて、またリビングに戻った。隼人は書類から目を離さずに言う。


「お前、フレイの部屋を見たか?」

「見たけど、何?」

「じーさんが生きてたら、お前もあそこに飾られてたな」

「ひっ」


 ゾッとした。そういえば前に隼人は、じーさんが生きていたら私はじーさんの嫁にされてたと言っていた。あれはこーゆー意味だったのか。


「溺愛していた妻が死んで、消沈していたら、業務報告の中にエディの夢の件があったらしい。それを見てからまたあのおっさんはおかしくなったとか……」

「夢に、奥様がうつっていたのね?」


 隼人は頷いた。


「まあ、気の触れた老人の戯言だから全てをうのみには出来ないし、エディと呼ばれた子どもの遺体が夢を見ていたのも信じたくはない」

「サーは神様だもん、それくらいできそう」

「神とか、世の中で一番信用ならんものだ。まだ怨霊怪異のほうが理解しやすい」


 根っからの無神論者の隼人を、私はじっと見た。本人が強すぎると、何かにすがることは全く必要が無いのかもしれない。


「この前のパーティーで見たような映像って、この家にもあるの?」

「あるよ、面白いからお前も地下に行ってこいよ。幽霊の映像を見られるぞ」

「行ってみる」


 私は隼人の指差す方に向かった。

 私が暗い階段を下りると、そこには重い扉がついていた。学院の地下で見覚えのある厳重なロックがかかっている。


「……この扉、たしか目やカードで開けるやつよね。なら開かないじゃん、隼人め騙したな」


 私が親を恨んで引き返そうとしたら、中から扉が開いた。


「わっ」


 迫ってくる扉を避けようとして、私は体勢を崩すと、転ぶ前に抱えられた。


「……何でこんなところに幸がいるんだ?」

「隼人に地下に行けと言われたの」


 私は体勢を直して、ジーンに抱きつく。ジーンは困って私の手をほどこうとした。


「幸、離れて」

「いいの。久しぶりだもの」


 私がジーンにじゃれついていると、後ろからクスリと笑う声が聞こえた。扉からおじさんが出てくる。


「……ほら見られた」

「いいもん別に」


 私はジーンのお腹にしがみつく。

 ジーンは手に持っていたパットを出して私の顔の前に出す。そこには私の顔が写っていて、その耳にはピアスがついていた。


「これ私なの? こんな石をつけていたのね」

「右側が世界樹の結晶で、幸の能力を押さえていたが異世界に置いてきている。レーンが持っているよ。左側のは俺が持っている……続きは上で話すよ」


 叔父のあとを追うように、ジーンは私を置いて階段を上がるので、私は慌ててジーンを追い掛けた。


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