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消えた幼馴染みを探しに異世界転移します  作者: dome
十四章(最終章)
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14-8、パーティー


 パーティーは隼人の開催の挨拶で始まった。

 ビッフェ形式の簡単な軽食と飲み物が給仕され、集まった客が各々談笑をしていた。


 隼人が来客を一回りした頃に、会場のライトが暗くなり、雛壇に映像が投影され、クラシックのピアノ曲と共に、風景の映像が流された。

 しばらくすると会場の隅から、赤いドレスを着た眼鏡の金髪女性が現れて、映像の説明を始めた。


「今回説明にあたります、研究チームリーダーのアリスと申します。皆様がご覧になっている映像は、全身付随の男性が見ていた夢の中の映像です」


 アリスの言葉に会場がざわめく。

 私もこういった風景の画像をジーンの家で見たことがあるが、それはもっと荒くて小さな画像だった。


「一歩も動くことが出来ない彼の夢は多彩で、ファンタジー映画の世界のように、夢が溢れていました。私達研究スタッフは、彼の夢を鮮明にするのに何十年もかかって、ようやくこの画像レベルに達しました」


 そこには空飛ぶ竜や、魔法を使う人々の映像が流れた。不思議なことに私は、それらすべての風景や人を知っている気がした。

 映像が終わり、会場のライトがつけられ人々は感嘆の溜め息をついた。

 壇上のアリスが締めの挨拶をする。


「まあ、これはファンタジーなのでCGかと思われるでしょう。しかしこの技術を応用すれば、植物状態の方や、目を覚まさない患者さん達と意思の疎通が出来る可能性があります。私達は長年このような研究をしてきました」

「昨年残念ながらこの被験者は老衰でおなくなりになりましたが、私は引き続きこの研究を進めたいと思います。もしお知り合いで協力してくださる方がおりましたらご紹介ください」


 アリスは優雅に挨拶をして、一歩後ろに引いた。隼人が壇上に立ち「お力添えをお願いします」と補足をする。

 会場はしばらくの間アリスとの質疑応答が続き、興味のある人は個別にパットで映像を見ていた。

 来客者が隼人に質問する。


「どうして、夢の映像に貴方の娘さんが映っているのですか?」


 来客者が一斉に私を見るので、私は緊張してミレイにしがみついた。

 隼人は映像の撮影日を指す。


「これは十四年前の映像ですね。その頃娘は赤子だったのでこんなに大きくはありません。これは別人です」

「どう言うことですか?」

「多分、娘の祖母が出てくる夢を被験者が見ていたのでしょう。娘は祖母に似ています。といっても、やっと外見の年齢が追い付いたという段階なので娘が撮影に参加するのは不可能です」


 説明をする隼人をよそに、私はアリスに近寄った。

 私が手を伸ばすと、アリスがパットを渡してくれた。


「ウサギさんは、いつの夢を見たいの?」

「大きな樹が見たいの」


 アリスがサムネイルからドームの画像を選んで、夢を再生してくれる。今見た映像とは違い、かなり不鮮明でブロックノイズが出ていた。


 そこには天井が見えない程広いドームに、枝を広げた巨大な樹が浮かびあった。日時が古いのか、画像は小さく不鮮明だった。

 アリスは私にイヤホンをつける。すると画像から声が流れた。


『貴方の髪を触ってみたいわ。柔らかそう』


 映像には女性と子供が人が映っているが、その姿は透けていた。


『フレイはいっつも無理なことを言う。こうして会話できるだけでも奇跡なのにさ』

『私達はいつまでも見ているだけしか出来ないわね』


 私が顔を上げるとアリスと目があった。


「彼らの言葉がわかる? 何で言ってた?」

「会話できる事が奇跡だと言っていました」


 私は映像の日付を見る。私が生まれるより前のもののようだった。


「じゃあ最近のを」


 アリスがパットを操作して、同じ世界樹の部屋を映す。先程の荒い画像とは違って、世界樹の虹色の葉のひとつひとつもよく見えた。


「キレイ……」


 私は見知らぬその風景を、どこか懐かしく思った。

 人口太陽の木漏れ日と、スクロールが起こす風で木々が揺れる様をつぶさに感じた。


 ……私、ここに行ったことがある。


 そこには赤髪の小さな子どもと信が、大きな赤い石を持って座っていた。


「アリスさん、これお借りしていいですか?」


 私はアリスに断ってジーンの所に行く。私はジーンにパットを見せて、イヤホンを片方ジーンの耳に挿した。

 映像の中で、中学生時代の信そっくりの少年が言う。


『何でNo.7.8を合体させないといけないんだ?』


 それに、赤髪の子どもが作業しながら答える。


『フレイの作りたいレーンの体が、竜一体の結晶では足りなかったらしいな』

『面倒くせぇ』


 信そっくりの男子は、嫌そうに顔を歪めた。

 私は映像を見ながらジーンに聞く。


『これは貴方なの? ずいぶん口調が荒いけど。君ってこんな顔しないわよね?』

『体をレーンに貸していた事があります。これを言っているのはレーンですね。幸の言う、猫神様』

『猫神様に俺のことを思い出せと言われていたの。この外見ではないのね。猫様は竜だもんね』


 ジーンはどこかにレーンはいないかとパットを操作する。


『サーの夢は断片的だけど長いからなぁ。しかも異界は写せないし。赤毛のレーンの映像を探すのは難しいかも』


 私はパットに並ぶ大量のサムネイルを見てため息をついた。


『これが、失われた私の二年間で、貴方達が隠していた事なの?』


 ジーンはゆっくり頷いた。


『こっちではたった二年の話だけど、向こうでは果てなく長いよ。そして、君の子どもとも呼べる知り合いが沢山登場する。サーの夢はとても長いんだ。千年分ある』

『千年……』


 私はそのあまりの長さに溜め息をついた。


『幸が十四才まで殆ど寝ていたのは、このサーの夢を追体験していたからだと思う。記憶が膨大すぎて、子どもの脳には負荷がかかりすぎていたんだね』

『そうだったのか、なまけ病とか言われてたのにな』

『実際寝いてただけだしね。この世界でもよく寝ていたよ。白竜に着せ替えられて遊ばれていた』

『思い出したんだ?』

『ほんの少しだけね。白竜って、なんか怖いイメージなの。とても哀しい。隼人みたいに怖い……』


 ジーンははっとして、映像を止める。


『泣くなよ? 化粧が流れてパンダになるよ』

『パンダはかわいい』

『もふもふならな。幸の顔がパンダになったらホラーだ』

『酷い』


 私は頬をふくらます。


『せっかく美人にしてもらだたんだからキープしなさい』


 私は目をキッとこらして、涙を我慢する。


『ダメだ。涙こらえたら鼻が出てきた。お手洗い行ってくる……』


 私が回れ右をして出口に向かうので、ジーンが追い掛けると、ミレイが付いてきてくれた。


「どこいく気だ?」

「鼻をかみに」

「僕がついてく」


◇◇


 幸とミレイが退出する後ろ姿をジーンは見ていた。

 横では隼人さんが来客者と話をしている。

 自分で社交の手本と言っていたくらい、隼人さんの話術と人あたりの良さは堂に入っていた。

 今まで経験してきた事が多いのか、会話の引き出しが多く、そして相手を熟知している。


「美しい娘さんですね、おいくつですか?」

「やっと十六です。まだ子どもですよ」

「うちにも大学に通っている息子がいて……」


 幸の縁談らしき話題に驚いて、ジーンは来客に紛れてコッソリ話を聞いていた。


「娘はまだ学生ですからね、結婚なんてまだ先の話ですよ」


 隼人さんが笑顔で言うのを聞いて、ジーンはホッとした。


 ……幸が外に出るとこういった話が舞い込むのか。パッと見、目が大きくて人形みたいな顔をしているし、本人はぽやーっとして従順だもんな。


 ファリナで幸は子ども扱いだったので、こんな不安は無かったけど、それを今頃くらって、ジーンは溜め息をついた。

 どうせならアリス女史に誰か紹介してやればいいのに。と、余計な事を思っていたら女史に捕まる。


「……ちょっと、作業手伝いなさい。私だけじゃさばけない。誰か連れてくればよかった。」

「はいはい」


 ジーンは苦笑して、かつての上司の命令に淡々と従った。

 ジーンが来客に色々説明をしていたら、幸とミレイが戻ってきた。


「ジーン、聞いて!」


 ミレイが駆け寄ってくる。幸は靴が痛いらしく、ゆっくり歩いている。


「幸が浮気してた!」


 幸が走ってきてミレイを背中から捕まえた。


「してない。何か聞かれただけ」

『何を聞かれたの?』


 なんとなく隼人さんに聞かれたくなくて、言語を変えた。幸も戸惑うことなく異世界の言葉で答える。


『どこの学校か? とか、電話番号とか』

『普通にナンパだ。まさか真面目に答えた?』

『ううん、ミレイに引っ張られたから逃げてきたよ』

『……ハハ』


 ジーンは苦笑した。

 こんなとき黒竜がいたらよかったのに。ミレイじゃ花を添えているだけだ。


『……足痛い』


 幸はさっき走った時に豆がつぶれて、足を少し引きずっていた。


『ここ医療関係者多いから言えば手当てしてくれるかもよ』

『イヤだよ、もう帰りたい……』


 幸はジーンに半べそをかいて言うが、隼人さんはまだ会話中、さらにサボるなとアリスに目で怒られる。幸と一緒にいたミレイもアリスにつかまった。


『コウはとりあえず壁際に座っていなよ、手伝いが終わればすぐに迎えに行くから』


 ミレイはそう言って、幸を壁際に誘導した。

 ジーンは早く用事を済ませようと、目の前の仕事に向き合った。



◇◇


 慣れないパーティーの喧騒から離れたいが、ひとりになるのは怖い。私は言われた通りにジーンやミレイが見える部屋の隅に移動する。

 椅子を移動し、壁際のカーテンに身を隠し、バッグからスマホを出して画面を指でつついた。


『猫様起きて、私とお話しして』

『……どうした?』


 画面の外からシッポだけを出した猫が答える。左右にパタパタと揺れる黒いしっぽを見ただけで、疲れて凝り固まった心がほどけていく気がした。


『顔見せて……なんか疲れたの、猫様が見たいの』


 猫様は面倒くさそうにあくびをしながら画面に現れた。私はその姿を見てほーっと喜んだ。


『ん……? フレイみたいな格好をしているな……』

『なんか、仮装させられた』

『どこにいる? なんかうるさい』

『親の会社のパーティー。大人ばかりいてとても怖い。足も痛い』

『怪我をしたのか?』

『怪我ともいえない。ちょっと靴擦れが出来ただけ』


 猫はニャンと鳴いてもどかしそうにこっちを見ている。私は夢中でスマホを見ていた。


「猫ですね」

「キャッ!」


 後ろから話しかけられて私はとても驚いた。

 振り向くと、温厚そうな三十代くらいの、体型のふっくらした男性がいた。


「すみません、とても楽しそうに画面を見ているので覗いてしまいました。」

「……わわわ」


 私は慌ててスマホをバッグにしまう。男性は笑顔のままもう一度聞いた。


「猫はお好きですか?」

「はい、猫は好きです。見ていて可愛いです。今もとても疲れていたので猫を見て心を落ち着けていました」


 男性は恐縮して言う。


「落ち着いていたのに、逆に驚かせてすみません」

「大丈夫です。少し驚いただけですから」


 男性は自分のスマホを操作して画面を見せる。


「猫画像なら沢山ありますよ。近所の猫とかリスとか」


 私が覗き込むと、近距離でくつろいでいる猫の写真が沢山並んでいた。


「わぁ……」

「動画も」


 男性はスマホを操作して日向で猫会議している猫動画を再生する。


「かわいいです。こんなに沢山の猫さん見たことない」

「うちの近所猫が多いし慣れてるから、カメラ向けても逃げませんね」

「素敵な街があるのですねー」


 私は画像をみて微笑んだ。


「足、どうかしましたか? 片足歩きしてましたね」

「多分靴擦れだと思います。こんな背の高い靴を履いたことが無かったので」

「足先ですか? 踵ですか?」


 私は足を見て言う。


「踵ですね」

「では……」


 男性はバッグから肌色のテープとガーゼを取り出してハサミで適当な大きさに切ってくれる。


「どうぞ使ってください」

「ありがとうございます」


 私は恐縮して受け取った。

 私は男性の持っていたバッグを覗く。


「診察バッグです? お医者さんですか?」

「まあそうなんですけどね。単に付き合いで呼ばれただけで分野が違うのでもう帰ろうかと思ってました」

「分野?」

「ああ、外科医なんで」

「そうですか……」


 私はそもそも今日が何の集まりなのか分からなかったので生返事を返した。


「では、ミスシノザキ、お大事に」


 そう言って男性は退出した。

 私がカットテープを手にしてボーッとしていたら、ミレイに声をかけられた。


「オッサンにナンパされてたか?」

「違うよ、あの人お医者さんみたいなの。絆創膏くれたの」

「……貼ってやるから靴を脱げ」

「ありがとう」


 私がミレイに絆創膏を貼って貰っているとジーンもやって来た。


「もう帰っていいって、ミレイも送るよ」

「やったぁ……」


 私がへにゃーっと喜ぶと、ジーンが苦笑する。


「もう喜ぶ元気もないのか」

「無いよー。もう限界。ここはイヤだ。この格好もイヤだ」

「社長の車から着替え取ってきてやるよ、着替えてとっとと帰ろう」


 ミレイは立ちあがり提案するが、ミレイもドレスだったのでジーンが車から私の服と靴を持ってきてくれた。

 ミレイはクロークに預けていたとかで、二人して普段着になる。私はキツかったウエストも、高すぎたヒールからも解放されて、はしゃいで笑う。


「何か食べて帰ろう。腹減った」

「ミレイ、一応軽食もあったのに」

「あんなちまちましたものを食っても庶民の腹は膨れないぜ」


 ミレイと手を繋いで駐車場まで歩いていたら、さっきのお医者さんがいたのでバイバイと大きく手を振った。お医者さんは笑っていた。


 そして、ミレイの母が働いているというパン屋さんに飛び込んで、残り物をジーンに買わせて食べながら帰った。パンは沢山あったのでジーンに冷凍しなさいと押し付けた。

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