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消えた幼馴染みを探しに異世界転移します  作者: dome
十三章(西の塔から研究所へ)
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13-14、再構成2


 異界を眼下に映した空間に、私は信に背中から抱えられて座っていた。

 私の手には世界樹の杖があり、杖の先には花が咲いて桃色の花弁を揺らしている。


「し、信……」


 さっきアマミクにキスされたせいか、こんな接触でも動悸がヤバい。しかも恐ろしいことに、私の今の気持ちはレーンに筒抜けだ。


「離れてくれないと話とか出来ない」


 信は構わず私の髪に顔を埋めていた。


「なんか懐かしいにおいがするし。なにこれ香水?」

「君がタバコ臭かったから、髪に臭いがついたんだよ」

「は? 俺タバコなんて吸ってないし」

「……あっ、ヤバッ」


 ……信の未来に触れることを余り言わない方が良いのかもしれない!


 そんな私の心情をお構いなしに、レーンは話す。


「先程訪れた世界に、お前がいたんだ。そいつの臭いだよ」

「……はぁ?」

「そいつとコウが面妖な乗り物に乗り、私室で飯を食べただけだ。寝所だったがな。何もなかったよ。しかも相手はお前だし問題無いだろう」

「レーンのバカ! 言わなくていいのに! ぐぇ!」


 怒ったのか、私を捕まえる信の手に力がこもって苦しい。


「車で男の部屋に行って、ベッドで飯を食べた……?」

「信、苦しいから、首しまるから、落ち着いて……」


 私は首がしまらないように体勢をかえて、信の顔を見た。


「アリスさんに血とかとられただけだよ? 本当に何もなかったよ」

「血の一滴もやらない約束してた」

「血を採ったのは君だよ!?」

「それは俺じゃない」


 何を言っても怒るのをやめてくれなそうなので、私は諦めて信の好きなようにさせた。思えば小さな信に触れる時間は貴重かもしれない。今もハグされているだけだし、私が平常心を保てばいいだけ。


 ……平常心、平常心。


 そう唱えて心を落ち着けていたら、私の中からフレイの思いが伝わって来た。

 フレイは表に出たいらしい。

 私は喜んで、フレイに意識を差し出した。


「……では、お話しを続けましょうね」


 私の顔を見てレーンは大袈裟にのけぞった。


「フレイ、よくこの状況で出てきたな」


 座って信に抱えられている状況に、私はフフフと笑う。


「必要にかられて……ね、シンくんは別にそのままでいいわよ」

「あ、許可するんだそれ。いいなぁ」


 レーンの冷やかしに信はため息をつくが、それでも幸の手は離さなかった。


「すみません、捕まえています」

「お好きなだけ、どうぞ」


 私こはコホン。と咳払いをして、再構成を再開する。

 地面に世界樹の杖を付き、中央の竜を召喚した。


「相対する性質を持つ双子の竜、白竜、黒竜召喚」


 現れた双子の竜は、ふたりとも細身の青年で、髪型と色以外はそっくりだった。

 思えば、生まれたばかりのふたりはこんな姿だった。

 レーンが不定形という特性をつけた為に、双子の容姿は状況に応じて絶えず変わっていったのだ。

 白と黒の双子は私を見て目を瞬いていた。


「あんたら何やってんの? こんな所で」


 女性みが抜けた中性的な白竜が呆れた様子で聞く。

 私は杖を手にして苦笑した。


「これは仕方がないのですよレアナ・マクリーン、私はコウちゃんの体をお借りしているのですから」


 私を背後から抱き留めている信は、黙ってそっぽを向いていた。


「では、聖地と異界の再構成をしましょう」


 私が座っていたので、皆も私を囲んで座る。

 私は、地面に創世記の聖地を映した。


「聖地はサーと私の実験場でした。聖地にはさまざまな生き物や有用な植物を聖地で作成して、各地におろして行きましたが、あらかた生物が揃ったのでずっと不要のまま眠っていました」

「それでも銀の盆だけは使われていたな」


 私はレーンに頷いた。


「浄化した命の振り分けですね。でもそれもあなた達が新しくしたので不要になりました」


 私は背筋を伸ばして、レーンに向き合った。


「私は世界樹を残して、聖地を閉鎖しようと思いますが、レーンはどうしますか?」

「確かに、フレイが不在の聖地を残す意味は無いな。樹は表に出せばいいのだし」

「そんなのヤダ」


 一同でその発言の出所を見る。

 そこには、緑の目をして、柔らかそうな黒髪を短く切った幼児が座っていた。

 ユウの要望で一時的に肉体を与えたので、どこも透けていない。服はシンの幼稚園時代の制服にした。


「ユウ、なんで嫌なの? ユウは聖地をどうしたいの?」

「だってあそこは各国と扉で繋がっているから、皆寂しくなったとき、何時でも会える大切な場所だよ。だから消さないで」


 私がユウに手を伸ばすと、信は幸から手を離して一歩下がった。ユウは駆け寄り私の膝に乗る。

 私は目を細めて、膝の上のユウを抱きしめ、頭を撫でた。


「ねー、フレイ。エディがね、言うことやってくれたら黒竜くれるって言った。僕ちゃんと出来たでしょう? だから黒竜頂戴」


 それを聞いてレーンは笑った。


「言うことってあれか、異世界で魔法を使うために、ここと空間を繋げる大魔方陣を作成してたやつ」

「本当にユウはすごいね、あんな短期間に……あれは君にしか出来ないわ。おかげでエディを連れ出せた」


 私は身の内から赤い大きな結晶を出した。それをユウに預けて立ち上がる。私が杖を掲げると、結晶は光り、変化した。


「創始の力、世界の根源、創造主召喚」


 現れたのは六才の金髪のエディではなく、四十代くらいの、金髪巻き毛の、白人の中年だった。

 エディはグリーンのスラックスに、アーガイルのベストを着て紺のネクタイをしめている。

 エドワードは目を開けた。


「ようやく御会いできました、我が主」


 エディは自分の体を見て苦笑する。


「肉体は六才で途切れていたから、まさかこんな壮年で呼ばれるとは思わなかったよ」

「それくらいが私はよいのです。貴方のお陰で、私は今無敵なので何でも出来ますよ」


 ユウがエディのズボンを引いた。


「ねー約束守って」


 エディは笑って黒竜を呼んだ。

 黒竜はエディの側にくると、膝を折って下を向く。

 エディも黒竜と目線を合わせようと、しゃがみこんだ。


「黒竜の契約に介入するのは二度目だね、よくコウを守ってくれた、礼を言う」


 黒竜は下を向いたまま、何も言わなかったので、サーはその顔を覗く。


「今度はユウを守ってくれるのかい? 次の契約は永いよ、簡単におりられないからね」


 黒竜は微かに頷く。

 黒竜の同意を得たサーは、黒竜の額に手を置いて、幸との契約を白紙にした。


「わーい」


 ユウが喜んで黒竜の所に行く。そして座っている黒竜の額にキスをして、自分の名前を刻み込んだ。

 ユウの足下に、緑の魔方陣が展開するのを見て、サーは頷いた。


「私とユウが実体を得ているのはこの空間だけの話で、ここから外に出たとたん、私とユウは体を失う」

「…………」

「黒竜の主は実体のないものになるが、大丈夫か?」

「今までもずっと、そうだった」

「ありがとう。黒竜は一番の忠義ものだ」


 淡々と言葉を話す黒竜に、エディは優しく笑いかけた。

 私は杖を宙に掲げる。


「では、聖地をユウとアレクセイ・レーンに任せましょう。世界の言葉に応じて臨機応変に対応しなさい。困った時は二の王を頼ること。以上」

「フレイそれやらせて」


 ユウが杖に手を伸ばすので、私は杖をユウに任せた。杖はユウには長過ぎたので、黒竜が持ち、ユウは手を添える。


「世界の表、世界の中心に聖なる樹木を置く。ここには困った人に手をさしのべ、さ迷える魂を掬い上げて送る。黒竜はその手伝いをする」


 黒竜が頷くと、杖から力が溢れて世界樹の周りに透明なドーム状の囲いが出来た。

 樹木は今度は地下ではなく表に露出していて、七色に輝く葉を風に揺らしていた。

 世界樹の周りには教会と深い森が形成され、南には行き場のない人が集まる場所を設ける。


「国を追放されたり、行き場ないひともここにくればなんとかなる。魔物も異世界人もオーケー」


 ユウはそう言うと、私に杖を返した。私は杖ごとユウを抱きしめて泣いた。


「ありがとう、ユウ……。ごめんね……」

「謝らなくていいよ、ボクが望んだ事だし」


 エディも膝を付き、ユウとフレイを抱きしめる。

 その家族団らんのような光景を遠巻きに見て、レーンは呟いた。


「俺と白竜だけ残ったか……」


 エディは立ち上がり、レーンの前まで進むと、両手でレーンの髪をぐしゃぐしゃと撫でた。


「なんでサーまで俺の髪を撫でる」

「悲願だったのだから、赦しなさい」


 父親のような風貌のサーを見て、レーンはコホンと咳払いをしながら照れる。


「……まあ、いいんだけどさ」


 エディはレーンの肩を引き寄せると、足元に広がる異界を指した。


「異界か、面白いものを作ったな。私にはその発想は無かったよ」

「世界を憂慮せず時間や空間を操作できるので、便利だったよ」


 エディはレーンを見て聞く。


「君はどうしたい? 君が望むなら、元の世界の主のもとに還すことも出来るよ?」

「元の世界は見たけど愛着は持てないな。帰ると言われてもピンと来ない」

「君は魔法に長けているからね、科学を持ち出されても困るだろうね」

「ここでレーンに帰られたら私暇だわ」


 白竜の呟きに、レーンは吹き出した。


「お前の暇潰しで俺の進退が決まるのか、見上げた奴だよ、お前は」

「私はサーとレーン両方の命令を律儀に聞いてきたんだから、サーの命令しか聞かなかった黒竜だけ誉められるのおかしいわ。ちゃんと、労いなさいよ」

「……はいはい、お前はよくやったよ、殆ど遊んでいたがな」


 ふくれる白竜を、レーンはなげやりに労う。

 エディは白竜に近寄った。


「白竜には憎まれ役を買って貰って悪かったね、白竜が私達の世界に介入したのは本当に驚いた。君たちは私達の世界では存在出来ないと予測していたんだ」

「……フフッ」

「それなのに、現地で工夫をして任務をやりとげた。それは君にしか出来ない偉業だったよ」


 エディは白竜の頭を撫でた。

 それを見て、私はふてくされる。


「事後処理がすんごーく大変だったけどね。っていうか、これからそれをやらなきゃいけない人もいますからねー」

「フレイが娘を連れて来いというからいけない。実際記憶と体の一部は連れてきたもの。目的は果たせたデショウ? フレイは見てるだけなんだから、文句言わないで!」

「殺すのは連れてきたことにはなりませんよ?」


 むむうとにらみ合う、私と白竜の間に入り、エディは私を抱きしめた。


「エレンを連れて来いと言ったのは私だ。まさかエレンが世界を越えられないとは思っていなかった。白竜を責めるのはお門違いだよ」


 私はエディの胸に耳をつけて、ふぅと息を吐いた。


「まあエレンもそれを望んだらしいし、いーんですけどねー」

「ギューされてほだされた」

「もー、作った時は揶揄するような子じゃなかったのにぃ……」


 白竜はとても人間味のある発言や仕草をする。

 それは娘のエレンや、幸のクラスメイトに影響されたのだろう。だとしたら、エレンは白竜の中にも残っているのだ。


「エレンはどこまでも不敏な子だったわね……」


 一同から少し離れて見ていた信は私に聞いた。


「エレンママの事ですか?」

「私がエレンを生んだとき、私は死んでしまったのよ。そのせいで父親に嫌われて、エレンは離れで一人隔離されたみたいなの。私の夫は少し頭がおかしかったわ。私に関する執着が常軌を逸していた。だから大枚かけてエディの夢を保護したのだけど、エレンは結婚するまで地獄だったと思うわ……」

「俺の知っているエレンママは何時も笑ってましたよ。常に歌っているし、教会のサークルにも沢山顔を出して人生を満喫してました。だから、不幸だと言われてもピンときません」


 それを聞いて、私は信に近寄る。


「サークル?」

「あ、コーラスとダンスです。色々やっていたみたいです。バザーも頑張っていたし、クリスマスにはソロで歌ってたし、美人だったのでご町内でも人気ありましたよ。日本語へたでしたけどね」

「エレンはコウとは幸せに暮らしていたようです。コウ自身に問題はありましたが、シンがいましたから大分助けられています」


 エレンの記憶を見たことのある白竜が、信の発言を後押しをする。

 私はしあわせに暮らしていた娘を想い、涙ぐんだ。


「しあわせに暮らしていたのなら、巻き込むのでは無かったわ、私がエレン会いたさに、エレンをここに呼んでしまった」

「えっ、でもエレンママはこの世界に来られなかったんですよね」


 私は耳の緑のピアスを触った。


「それでもあの子はコウを守っていたわ。コウの魔力放出で体が削れないように、エレンの魔力で補っていた」

「その石が、ママの心臓がそれだったのですね」


 私は泣きながら頷いた。その私を真っ白い眼で見下ろして、白竜は語る。


「コウの母親の最大の願いは、夫であるハヤトと、その血を引く子どもを守ることでした。母であるフレイをお産で死なせてしまったこともずっと気に病んでいた。フレイとハヤトの役に立つこと、それは、´私´にとっては自分の命よりも大事だったのよ」


 白竜にエレンの姿が重なって見える。

 幸の記憶に残るエレンは、信の言う通りに笑っていた。


「主の御元に行ってしまったら、この世界でも再構成できないわ……エレン……」


 一人で静かに泣く私をエディが抱きしめ、慰めるように背中をさすった。エディはレーンを見る。


「レーン、異界をどうするか決めなさい。レーンがここで暮らすならば、自分の身の振り方も決めるんだよ」


 エディは泣いている私から杖を取り、レーンに渡した。レーンは杖を取り白竜に助けを求める。


「白竜は俺に付いてくる気はあるか?」

「何百年付き添ってると思うの? 聞くまでもない」


 レーンは白竜に杖を半分持たせて目を閉じる。


「俺は世界の裏側から世界の調整をする。ユウと黒竜では処理しきれない闇を、俺が抱えて昇華する。異界はそのままで、表に棲めないものを呼び込もう。それは悪鬼でも、悪霊でもなんでもいい。俺は邪神として、世界を裏から支える」


 レーンが杖をかかげると、異界が広がり城しかなかった場所に山河が出来た。

 その空は闇に包まれていたが、レーンはそれで満足そうに頷いた。


 エディがためらいがちに聞く。


「神にはなってはくれないんだね」

「がらでもない、やめてくれ。フレイだって冥王っていっていたからはじめからそのつもりだったんだろ?」


 それを聞いて私も笑った。

 エディと私は端で座って見ていた信に近寄り、膝をついた。エディは信の手を取って言う。


「シン、君には本当に迷惑をかけている」

「私達がこの終局を迎えられたのは、全部シン君のお陰よ、ありがとう……もう、言葉では言い尽くせないほど感謝しているわ……」


 私も信に寄りかかって、その頬にキスをした。


「シンがコウを愛していてくれたから、私達はコウをもとの世界に返せるの」

「どういう事ですか? 世界の再構成に幸の体を使うのではなかったのですか?」


 エディは頷く。


「この世界を運用するには、核となる犠牲を伴うのは君が知っている通りだ。今までは私の体を使っていたが、次からはユウがその礎となるだろう」

「……ユウが? どうして? ユウは体が無いのに」


 私は信の肩を抱いた。


「ユウの体は、今ここにあるの……」

「えっ」


 私は自分の腹部を触った。


「この世界に魂が迷って来るとき、たいてい元の体に不具合が生じているの。それはエディのように事故で体を失ったり、レーンやユウのように、生まれる力が足りなかったり……」

「ユウは、生まれることの出来ない幸の子どもなのですか?」

「そう、でも生まれてこられない理由は分からないわ。母体や貴方が未成熟だからかもしれないけど、あの世界ではよくあることよ、たいていは途中で流産してしまうのだけど……」


 私はユウを手招きして、膝に乗せる。


「でもこの世界なら生まれる力の無いこの子も生きていけるでしょう。エディには出来なかったけど、レーンならこの子に体を作ってくれるかもしれないわ」


 私に抱きしめられてユウは笑う。


「体なんていらないよ、知らないの? 肉体は枷なんだよ、それは檻に入っていると同じだよ。今は我慢してあげてるけどね、無いほうがいい」

「フレイに抱きついて言っても説得力無いぞ、ユウ」


 レーンが歯を見せて笑う。

 私はユウを膝からおろして、耳につけていたピアスを両方とも外した。


「世界樹の石はレーンにあげるわ。特に用途は無いけれど」


 私はレーンの頬にキスをして、手に地竜の石を握らせた。そして、信に向き合い手を差し出す。


「この、エレンの石は信君に……」

「これは幸にあげてくださいよ、まだ帰らないといけないし」


 私は首を横に振った。


「私達はここで終わるけど、君の旅はまだ先があるの。エレンも君を助けたいと言ってる。だからシンが受け取って」


 信はエレンママの石を固く握りしめた。


「俺はこれから何をしたらいいんですか?」


 エディは私の隣に立って、優しく笑った。


「君が、今までしてきたことをやるだけだよ」



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