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消えた幼馴染みを探しに異世界転移します  作者: dome
十三章(西の塔から研究所へ)
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13-13、再構成1


 真っ暗な闇の中にフレイは浮かんでいた。

 上下左右、完全な闇で、周りに何の気配もない。その世界にはなにもなく、無だけがまわりに広がっていた。


「遡源の光を、光帝、一の王召喚」


 私が祈ると、何もない世界に赤い魔方陣が描かれる。魔方陣はサーの力で赤く輝き光が生じた。


「光を受けとる大地を、一の守護竜、地竜召喚」


 私がそう告げると、世界が横に二つに割れて大地が生じた。天空の光が大地を優しく照らす。大地を大気が取り囲んだ。

 すると、何も無かった世界に人が現れた。頭に太陽を乗せた王様と、それを守る岩のような竜だ。私は二人に近付き、話しかけた。


「お久しぶりです。地竜、天土」


 アマツチと呼ばれた男性はゆっくりと目を開く。

 頭に陽の光を載せた青年は、青空を写し取ったようなその瞳で、真っ直ぐに私を見ていた。


「コウ? それとも、フレイ?」

「フレイです……一の王、久しいですね」


 その名を聞いて、アマツチは力なく笑った。

 私はそんな彼を覗いて首を傾げる。


「笑顔に曇りが見られますね、思い出してしまいましたか? また記憶を封じます?」

「いや、いいよ。俺は俺の過去をもう失いたくないし、二度と後悔しないよう生きるよ」


 そんな彼を見て、私は逞しく感じた。


「はい、応援します、一の王」


 アマツチはフッと笑って、キョロキョロと辺りを見回した。


「俺ら王達は現状維持って思っていたんだけど、もう再構成はじめてない? それって大丈夫なの?」


 アマツチに聞かれて、私はキョトンとし、数回まばたきをした。


「現状維持って何ですか? 私の計画は、コウちゃんにどーゆー風に伝わっていたのかしら?」

「まっさらだったよ。コウはなーんも知らなかった。だから二の王が世界のエネルギーの話だと推測を立てて対策をしていたんだけどね」


 私はチラリと地竜を見る。


「コウの記憶が無いのはしょうがないとして、貴女方守護竜にはちゃんと伝えましたよね? サーの跡継ぎを誰にするか決めるという事を」


 岩のような竜は顔を背けた。


『ワシはお前さんとは接触が薄かったから、きいとらんわ。肝心のNo.4は籠ってたし』

「樹木には記載されていたのですが……長兄がこれなら、他の守護竜も怪しいところね」


 私はふぅと息を吐いて、首を左右に振る。気を取り直そうと、背筋を伸ばして二人を見た。


「神の引き継ぎはもうされています。今は世界が消えたように見えますが、世界樹の葉である生き物はサーの御元で眠っているだけ。世界が出来次第起こします。あとは舞台を整えますよ」


 私は地面に手を当てた。

 そこから小さな芽が息吹き、真っ直ぐに空に向かって枝を伸ばしていく。

 私はその枝を一本折って杖にした。


「さあお二人共、セダンを再構築しますよ、あなた方の国です。一緒にお願いします」


 私は世界樹の木の杖をアマツチと一緒に持つ。


「陽の始まり、世界の源に一の国セダンを置く。ここには大地を統べる竜と、天を司る王が統治する」


 大地が隆起し、森が生じ、割れ目に水が流れた。


「魔女の森は残します? 都市は旧都と新都とどちらがいいのかしら?」


 岩のような地竜が体を軋ませて語る。


『新都が良い、森も正常化したので残存で。セダンは王以外に不平はないぞ』

「俺には不平があんのかよ」


 そう言って、アマツチは笑う。

 私は遡源の光から王冠を作り、アマツチの頭にのせた。


「今度は槍ではなく王冠です。すべからく天地を統括しますように」

「さりげなく無茶ぶりしてくるな、セダンだけで手一杯だよ」

「ちゃんと三の姫をつかまえなきゃ」


 アマツチは私の頭をコツンとはたいた。


「無茶いうな」


 私は触れられた頭を押さえた。


「三の姫の性格を穏やかなものに変えます?」

「そんなこと出来るの?」

「今私、全能ですからね。力は借り物ですが!」


 威張っていう私に、アマツチは微笑む。


「いつものミクさんがいいよ」

「三の姫にその声ごとお伝えしますね!」

「……やめい、恥ずかしい」


 アマツチは照れて横を向いた。


『性格が変わるなら、こいつの浮気性とサボり癖を修正してくれ』


 私は杖を持って地竜のほうに行き、竜の頭のそばにしゃがんでボソボソと話す。


「勤勉な王が良いですか? それだと耐久値が減り早死にしますよ」

『今の倍は働かんと王としては使えん』

「まあ……ならばこの程度で寿命が……」


 アマツチは困ってふたりを引き離す。


「やめて、二人して人の寿命を削るのやめてね? そ、そうだ、人間のセダン王に最低二十年は国政を任せると約束していたのだった」

「あら、それは聞いていませんでした、コウちゃんの記憶にはありませんが」

「エレノア妃との約束事だと聞いたよ、多分セダン王の老化を止めて置きたいんだと」

「……ああ、成る程、No.8の後任の転生はすぐに手配致しましょう」


 私は足下に銀の盆を出して、手を突っ込んだ。

 そこから前任の葉を取り出し、新たに誕生する命の先頭に置いた。


「……今世は人で良いのかしら? 前は竜だったのよね?」

「エレノア妃はセダン王と共に歩みたいッポイから人間でいいと思うよ」


 一の王の口調は軽く聞こえる。人の一生を左右するというのに。

 私は決断に困って地竜を見ると、地竜もそれでよしと頷いた。


「エレを育てたのはNo.5とワシじゃ、それでよかろう」

「オージンのお墨付きなら心強いわ、後任も育ててくださいね」

「不本意だが、やむを得んな、まあ王に押し付けるわ」

「……俺の扱い酷くない?」


 ふて腐れる一の王を放置して、私は地竜をじっと見た。


「オージン、一の王はどうしますか? 風来坊の王様は勇者に格下げで、セダンは議会制にしちゃいましょうか? 法律も罪も全て民の相談で決まりますよ」

「……ファリナの王の胎生を見ても、根本に変更を入れると歪みや亀裂が怖いな、やはり今のままギルド一家に国政を託して、一の王は野に放つのが良いかと」

「野に放つって、何? 俺、爺さんに捨てられた?」


 首を傾げるアマツチを放置して、私と地竜は現状のままでよしと結論を出した。

 私はこほんと咳払いをする。


「では、二の国に移りましょう。増員増員」

「……ちょま、まだ別れの言」


 世界樹の杖でこつんと地面を叩くと、足元のセダンは消え去り誰もいなくなった。

 一の王との接触は、サーもレーンも嫌がるから、これで良し。

 私は気を取り直して、じっと足下を見つめた。



「世界に優しい風を、二の竜召喚。並びに太古の知を有した賢帝召喚」


 そこまでは一の国と同じ流れだったが、呼び出した二の王が赤ちゃんを連れていた。


「かわいいです……産まれていたのですね、四の王……」


 たまらず赤ちゃんに手を伸ばすと、カウズは首を固定するように言って抱っこさせれくれる。

 産まれて間もない赤ん坊は、とても頼りなくて、とてもかわいい。

 私はキョロキョロと大きな目を動かす白髪の赤子を、そっと抱きしめた。


「わあ……あたたかいです。私娘いたのですが、抱き上げる間もなくお別れしてしまったので、赤子を抱くのは初めてです」

「私にそんな情報漏らすと忘れませんよ?」

「私の寿命ここまでなんで、覚えておられても何の問題もありません」


 心配ご無用と微笑んだが、二の王はスッと目を細めた。彼を安心させるには情報が足りないようだ。


「女神のその体はコウさんのものでしょう、やはりその体を使わないといけませんか?」

「あなたが心配しなくても大丈夫です。三百年もずっと考えていたことですからね、なんとかなります」


 カウズは大きな目を半分閉じ、不審の目で私を見る。

 サーと決めた世界のからくりを住人に開示する気は更々無いが、頭の良いカウズと話をしていると、うっかりばらしてしまいそうだ。

 私はそれ以上は何も語らず、ニッコリと微笑んで誤魔化した。


「具体性に欠けた返答は評価しませんよ?」

「物語の最後はみんなしあわせになりましたです。でないと娘が悲しみますから」


 私は触れる事さえ出来なかった娘を思い、耳の石を触った。

 私はコホンと咳払いをして、世界樹の杖を二の王に渡した。


「二の王のお人柄を評価して西の再構築の全てをおまかせします。私らくちん」

「コウみたいな事を……」


 二の王が西の国を構築している間、私ははその場に座ってメグミクをあやしていた。

 二の王は真顔に戻り創世の杖を振るう。すると、いつも通りの西の学舎が出現した。


「小石一個も変化なく、今まで通りなのですね」

「千年かけて作った普段通りです。普通がいちばん」


 私と二の王は目を合わせて笑う。


「三は飛ばして四からしたいのですが、賢帝はお付きあいくださいますか?」


 カウズは頷く。

 自分の息子、しかも乳児が四の王だからだ。


「北に資源を、四の竜、水竜召喚」


 遠くで大きく水が跳ねる音がして、七色の透明な鱗を持つヘビのような竜が現れた。

 水竜はチラリと私を見て、フンと横を向く。


『ボケたばーさんのほうか、ボケたこどもは最近見てないが元気なのか?』

「アレクセイもセレムも私を老人扱いするのね、私は二十才より年を重ねたことかないのよ?」

『千年のさばっていたら魂だって老化するわい。それより再構築をとっととやろう』

「まー、口が悪い。セシルは自分とは正反対の後継者を選んだのね」


 ……でも、ツンツンしている水竜もとてもかわいらしいですが。


 私がにやついていると、水竜はふん、と頭のヒレを動かした。


『あの老いた王とフラグを立てない為だろ。似てると面倒だからな』

「セシルは焼きもち焼きやさんなのね」

『老人よりもオレはメグミク贔屓だし』


 水竜は私が抱いている赤子を愛おしそうに見つめる。

 赤子は大きな竜に怯えず、逆に上機嫌な笑顔を見せる。

 私は立ち上がり、赤子を水竜に向けた。赤子は目を輝かせて、巨大な竜の鼻の横をペチリと叩いた。


『何年立てば王としてファリナに就任してくれるのかね、こいつは……』


 それは分からないので、私は二の王に助けを求めた。


「……えっと、この子の時を進められますが、行います?」

「スミマセン、まだ妻が子離れしてないので、妻が決意するまでこのままで」

「いちばん可愛い時期ですからね、よく分かります。なら、セレムには待っていただきましょう……大丈夫です、セシルの恋人はとても優秀なお方のようなので」

『……あの老いぼれに全幅の信頼を寄せるとか、前任に洗脳されすぎだろ』


 今の水竜は人間の王をあまり好きではないようだ。

 私はアイロス王の人となりを知らないので、何とも言えない。


「私が信頼しているのはセレムですよ。セレムが王と選んだ方ですのもの、ファリナは安泰です」

『……イヤイヤイヤ、王よりもあのゴッツイ寒波なんとかしろよ、ゴッカンを超えてゴッサムだからな』

「そこは、なんとかしろ、ではなくて、名案を募ります、はい、ここ相談タイム」


 私は相談をカウズにまかせて、メグミクをあやしていた。


『……働け、女神』


 水竜がひげでつついてくる。

 私は杖を渡して貰って、もう一人召喚した。


「冥王、サー・ラ・レーン」


 闇から、茶髪の細身の青年が出てきた。


「性格に難がありますが、実務的でとても有能な神です。私亡き後、彼に後任を任せますね」


 二の王はレーンを見て握手を求める。


「今後も宜しくお願いします」

「こちらこそ」


 二人は固い握手を交わした。


 私に呼び出された面々は、足元の凍てついた大地を覗く。俯瞰風景が面白いようで、レーンは目を輝かせて北の山を見ていた。


「ファリナは寒すぎなんだよな……、魔昌石と氷の産出地以外はもう少し大地を露出させないと、農産物が育たない」

「少し都を南に下げますか、うちの北側を提供いたしますよ」

「さすが二の王、気前良い」


 より実務的なメンバーで、面白いように問題点が解決していく。


「では新生ファリナ構築ー!」


 私はしゃがんだまま、膝にメグミクを乗せて杖を握らせ、その杖でコツンと地面をつついた。

 すると、白い山河が果てなく続く北の都が出現した。


「あ、話し合い意味無かった。メグくんの思想でやはりファリナは白くなった」


 背後からヒヤリと不穏な空気が漂う。

 私は恐る恐る振り向くと、三人がフレイを睨んでいた。


「……いくら四の王だからって」

『赤子にやらせるとは』

「「やり直しなさい」」


 私は杖を取り上げられ、カウズとレーンで緑多いファリナを再構築した。


 ……最後の最後で怒られてしまいました。赤子の魅力、恐るべし。


 私は怒られて反省したが、次はアスラだと、目を閉じて身の内に幸を召喚した。


「……ん? えっ?」


 突然入れ替わりを強要され、私はあわてた。

 しかし膝の上に赤子がいたので、落とさないようにしっかり抱えてカウズに返した。

 カウズはメグミクを受け取って、不思議そうな顔をしている。


「何故にコウさんが呼び出されたのですか?」

「なんかフレイは、アマミクと話す勇気無いみたい」

「成る程……三の姫は女神嫌いですからね」


 ……大事な場面に、そんな理由で呼び出されても困るよー、フレイ!


 私がまごついている間に、二の王は息子と風竜と共にかき消えた。

 私は消える前にと、セレムの大きな頭をワシャワシャと撫でる。セレムは目を細めて私の顔を鼻で押した。


『……ちびコウ、達者でな』

「セレムも、アイロス王を支えてね、アーヴィン殿下もいるから、メグミク君を支える土台を作ってね」

『言われなくともやるさ、何せ俺は超優秀な守護竜なので!』

「フフッ、頼りにしてる」


 私がセレムにキスをると、セレムの大きな体はキラキラと光って消えた。


 私は鼻をすすって振り返る。

 私の背後にはレーンが杖を手に立っていた。

 レーンは何も言わず、私に杖を差し出した。


「……えっと、どうしたらいいのかな? 現状全然わかんないんだけど」


 レーンは笑いながら、私と一緒に杖を持ってくれて、三の姫を召喚した。


「世界のかがりび、焔妃アマミク召喚」


 すると、闇の中小さな篝火が灯し、アマミクが現れた。

 アマミクはわっと駆け寄って、私に抱き付いて来た。

 すごい勢いだったので、身を引いて逃げようとすると、顔を捕まれてキスをする。


「んー!」


 ただただ意味が分からず、執拗にアマミクに絡まれる。

 私は驚いて抵抗するが、アマミクの力に抗える筈もなく延々と絡まれた。口が離れた瞬間、私は素早くその拘束を逃れて、亀のように床に伏せる。そのまま地面に手をつけて、プルプルと震えていた。


「何でこんな所でこんなことするかなミクは」


 背後でワハハと豪快な笑い声が聞こえる。この声はレーンだ。


「何がおかしいのよ」


 レーンは目に涙を溜めて言う。


「前に、シンが言ってたじゃないか、竜の体でコウとキスをしてみろと、あれを直でくらって、面食らって笑っている」

「ギャーッ!」


 私はレーンに駆け寄り、グーでその頭をポカスカ叩いた。


「忘れて、忘れなさいそんなの!」


 自分としては叩いているつもりなのだが、レーンの頭には届いてない。攻撃は全てレーンに防がれ、私の手はレーンにがっちりとつかまれた。


「しまった」

「……え?」

「どうせなら信のほうじゃなくて、コウに憑依してればよかった。そのほうが面白かった」


 ……なんで? どーゆー意味?


「冬越しの祭りの日の話」

「……?」


 冬越しの祭といえば、信と二人で過ごしたあの夜だ。


「もしかしてレーン、あの日起きてた? 信はレーンが寝ていると言っていたけど」


 レーンの口元がニヤリと上がった。


「起きていた」

「……ひっ」


 ゾゾーッと背中に悪寒が走り、思わずレーンの頭に頭突きをかました。

 レーンが怯んだ隙に杖を奪い、杖でレーンを叩いた。今度はちゃんと肩に当たった。


「やめろ、それ神具……!」

「レーンのバカ!」


 杖はあっさり手から奪われたが、まだ気がすまなくて、しばらくレーンをペチペチと叩いていた。

 すると、アマミクが私を抱き上げてレーンから引き剥がした。


「もういい、もう二人で話して、決まったら教えて」


 私はふて腐れて、隅で膝を抱えた。

 レーンは私を横目で見て笑いながら、アマミクに近寄る。


「三の姫、お久しぶりです。直接お会いしたのはセダンの夜ですが、アスラで放浪していたので意識的にはずっと見てました」


 ミクはニヤリと笑って髪をかきあげた。

 ミクの赤髪が炎のように広がって、火の粉がチラチラと舞い散る。レーンはしばらくその姿に見とれていた。


「やはり三の姫が世界で一番美しいな……」

「なにそれ、女神みたいな事言ってる」

「他意は無いよ、単なる本心」


 ミクはレーンの肩を叩いて言う。


「私は素直な子は好きだよ、レーンね、仲良くしよう」


 ミクの率直な物言いに、レーンは素直に笑顔を見せる。

 レーンはフレイから借りた世界樹の杖で火竜を呼ぶと、火竜はミクの髪の中から現れた。

 本体でなく、小さな子どもの姿なので、そのままミクの背中にまたがって肩車をしてもらう。


「アスラはどうしようかな。ぶっちゃけてもう都はいらないと思うのよねー。火竜は人間嫌いだし」

「砂漠は減らしたけど、魔物は多いままだしな。ここに人の都を作っても、常に魔物に襲われる」

「魔物を消すことは出来ないの? 異世界には魔物はいないんでしょ?」


 ミクの率直な意見に、レーンはまた頭を悩ませた。


「魔物は単に魔力を操る動物だからな、世界に魔法が存在する以上は魔物は消えないよ、衣食住にも有用だしな」


 ミクの頭の上から、火竜が口を挟む。


『アスラに人の都を置かないなら、神官を代わってくれる、知識ある獣は有用だぞ?』


 ミクは足元に見える今までのアスラを見て、フムと頷く。


「知識ある者は必要なのね。私あんま人って好きじゃないの。壊れやすいから扱うの難しいし、細かいこと言うから面倒くさいし」


 うーん、と頭を抱えて動かない三人に、私はボソッと言う。


「まもののくに」


 私の言葉に三人が振り向いた。

 その中でもとりわけアマミクの目がキラキラと輝いている。


「異界でレーンが魔物の国を作っていたの、砂漠を消すためだったけどね。魔物はみんな素直で可愛かった。超つよいしね」


 私は杖を床について、足元に異界の情景を映し出した。そこには様々な種族の魔物がイキイキと生活していた。

 ミクはその映像を面白そうに見ている。


「コウはこんな所で生活してたのね。歩く餌なのに」

「魔物は彼女に触れる事を禁じられていたから、その辺は問題なかったよ」

「最初はたいへんだったよートイレトレーニングとかねー」


 トイレと言いつつ、思い出すのは鬼の子どもたちの顔だ。

 私の目に涙がにじんだのを見て、アマミクは私の肩を引き寄せた。

 またキスされるのは勘弁して! と、私は自分の口を手で塞いだ。


「キスしたらダメだからね、今度したら怒るよ」

「ゴメンね、なんか感極まってついやらかした」


 ミクの、裏表の無い率直で明快な言葉は憎めない。というか、ミクさん大好き。ミクは良く魔物を統べると思う。


 ……アマツチとは別の道になっちゃうけどね。


 アマミクはふむ。と頷いて、背負っていた火竜を地面に下ろす。


「……火竜、どう? 魔物の国」

『ワシは表に出る気はないぞ? 溶岩地帯に引きこもってるぞ?』

「いつも通りじゃない。火竜はかわいいわね」


 火竜はミクの足にしがみついた。


「ではそーゆーことで」


 私は杖をアマミクに差し出した。

 二人で杖を持ち、眼下に草原を広げた。

 北に山河を、中央には草原。そして西に密林を形成していく。密林の中心に石造りの都を置き、多種多様な魔物を配置した。


「だいたいこんなもんね、暇になったらアマツチをいじめに行こう」

「魔物をけしかけてセダンを襲うのはダメだよ」


 私がたしなめると、ミクはよそを向いて歌を歌っていた。

 ミクは杖から手を離して、杖ごと私を抱きしめる。


「ねぇ、これでお別れなんでしょう?」


 私はミクのあたたかさを感じて頷いた。

 アマミクは私を潰さないようにそっと抱いて、その髪を撫でる。


「私ね、ミクがいなかったら砂漠で魚に食べられて終わってたよ。皆とも会えなかったし、ここまで来られなかった。私が今ここにいるのは、アマミクの強さと優しさのおかげだよ」


 ミクは何も言わず私を撫でていた。


「ミクさん、そろそろ離してくれないと女神が来るよ」


 それを聞いたアマミクは青ざめ、ぱっと手を離した。


「……どんだけフレイ苦手なの、アマミクは」

「あの女だけなの、勝てないなーと思うのは。劣等感感じるから嫌い!」


 仁王立ちで言うミクに、レーンが笑う。


「フレイはお前らの産みの親だからな、子としてはうるさい母親は苦手だろう」

「フレイはミクさんのこと大好きだよー」


 私が眉を下げて笑うので、ミクも苦笑した。


「……皆、元気でね」


 そう言うと、私は杖で地面をつついた。

 アマミクと火竜の姿が消え、足元には異界が浮かび上がった。



 東西南北四つの国は終わった。あとは中央だ。

 私は深呼吸をして、気を落ち着けた。


「救世主召喚……」


 視界の隅から信が現れた。ユウも一緒だ。

 ユウは私に駆け寄って来るが、信はふて腐れた顔のまま、腕を組んで立っている。


「信、機嫌わるいの? 怒っているの?」


 私が杖を手に持って近寄ると、信は私の頭を抱えて引き寄せた。


「塔で消えるし、あっちに帰ったと二の王が言うしでもう二度と会えないのかと思っていた」

「ゴメンね、サーに呼び出されたの。菊子さん起こして来たよ! 記憶も消したからもう日本に返していいって」

「……そうか」


 信はそれ以上何も言わずに、ギュッと、私を抱きしめた。

 そのまま離れる気はないようで、私の背中に信が貼り付いている。


 ……ああ、これ、研究所でやられたやつだ。私は捕獲されている。


 私が顔を上げると、ユウと目が合って、私は恥ずかしくなった。


「信、お話しなきゃだし、ちょっと離れようか」

「話なんてこのままできる、過去それで何回苦汁を飲まされたか」


 私は困って信を見る。信は真剣な顔で私を見ていた。

 レーンがユウの隣に立って、笑って言った。


「そのままでいいから続けようか」


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