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消えた幼馴染みを探しに異世界転移します  作者: dome
十三章(西の塔から研究所へ)
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13-12、研究所2


 信と幸が学院に戻ると、駐車場から見ても分かるほどの異様な光景が広がっていた。

 学院の旧礼拝堂を、緑の光で編まれたドーム状の魔方陣が覆っている。それは地下にも続いているようで、全貌は球体の魔方陣のようだ。


 その魔方陣は球の中側に行くほど数値と元素が細かく描写され、建物を突き抜け空間に張り巡らされていた。


『なんでこんな事が……誰がやったの?』

『ユウしか残ってないのだからユウだろ』

『ユウの魔法、緑なのね』


 とにかく先を急ごうと、二人は扉を解錠しながら光っている魔方陣をくぐって地下に下りる。

 途中すれ違う研究員に変化はなかった。どうやら魔方陣が見えていないらしい。


「女史」


 俺は先程いた、サーの部屋の隣のモニター室に入りアリスに声をかけた。


「なんか、エディの部屋を中心に巨大な魔方陣が描かれているのですが、何かかありましたか?」

「……へっ?」


 金髪白衣の女史は間抜けな声を出した。


「この部屋誰も来ていないし、エディも起きているけど何も動きはないわ。魔方陣って、何?」


 俺は首を傾げるアリスを放置してサーの部屋を覗く。部屋の中は、至るところに緑の文字が細かく一面にかかれていて、蜘蛛の糸を張ったように見えにくかった。

 俺が覗いていると、ユウが近寄ってくる。

 ユウはその手に束ねた光の糸を持っていた。


『君が描いたの? すごいね』

『うん!』


 ユウは誉められて跳ねて喜んだ。


『レーン、こっちに来て。私に憑依して』


 幸がそう言うと、俺の体から何かが抜けた感覚があった。そして魔方陣とユウが視界から消える。

 幸は部屋の片隅でしばらく目を閉じていた。


 幸が再び目を開けたとき、その顔からは迷いも躊躇いも抜け落ちて、凛とした女性に変わっていた。


「フレイ」


 俺がそう言うと、アリスが振り向いて俺に近寄ってきた。

 アリスはタッチペンで俺のこめかみをつつく。


「アンタが名前間違えてどーする?」


 フレイは二人を放置して、真っ直ぐに扉に向かう。するとサーの部屋のドアが内側からガシャリと開いた。


「……えっ」


 パスワードは? 認証は? と、呆然とするアリスをよそ目に、フレイはサーの部屋に入り、サーに対峙した。

 俺があわててサーの部屋に入ろうとしたら、扉は中からロックされていて開かなかった。


「ちょっ……外部の人に入られたら困るんだけどっ!」


 アリスが解錠パネルを触って解錠を試みるが、エラーの音がするだけで、扉が開く気配は無かった。



◇◇


 まるでエメラルドグリーンの海を泳いでいるように、空気が重い。そして、編まれた魔方陣の光が美しい。

 扉の中は創始の時代のように、濃厚な魔力で満ちていた。

 水の中を歩いているような錯覚を覚えながら、フレイは部屋の中央に歩いていく。


『フレイ、よく来たね』


 久々に聞くサーの話を聞いて、私の心は懐かしさで一杯になった。


『お久しぶりです、こうして貴方に会えるなんて思っていませんでした』


 ふわりと空気が揺れて、計器の光が瞬いた。

 これは世界樹のドームでよく聞いた、サーの微笑みのように思えた。


『ずっと、ここで一人、私は君になって、君の夢を見ていたよ。君の視点で見るあの世界は本当に綺麗だった。私は泣いたり、笑ったりする君になって、あの世界を見ていた。この時間がいつまでも終わらなければ良かったと思っていた……』


『でも、時は非情に流れて、私も君も限界に達してしまったね。でも私はあの世界を消したくは無かった、だって、フレイと私の子どものようなものだからね、皆、心安く暮らして欲しいよ。だから私は、あの世界を次の世代に託すよ。その為に現世に被害を及ぼしてしまったことを、とても悔やんでいた。でも、それも今解決する』


 サーはそこまで語ると、少し間を開けてレーンを探した。


『レーン、黒髪の少女を起こしてくれてありがとう、これでもう未練はないよ』


 私の中にいるレーンが照れて笑う。

 私も心のなかでレーンに感謝した。


『レーンがしっかりした大人になって、彼女を起こしてくれたのです』

『レーンの事はずっと見ていたよ、頼もしくなったね、ありがとう』


 サーがレーンを誉めると、私の中でレーンが照れるような感じがしてくすぐったかった。



 サーの部屋の外では、緊急時のサイレンが鳴っていたが、サーの部屋は音が遮断されていて聞こえなかった。

 音を聞いた研究員が何事かと集まってくるが、誰も扉を開けられなかった。


「……くっそ、何でパスワードはじかれるの? 誰がこれ書き換えた?」


 上司で、研究所のチームリーダーであるアリスが、モニターを触って騒いでいた。研究員は皆心当たり無しと首を振り、緊迫して部屋の中見る。



『さあフレイ、世界を書き換える前にやるべきことをやろう』

『はい』


 私はそう言って涙を流しながら目を閉じ、レーンに変わった。


 レーンは目を拭い、足元にいるユウを確認して頷く。そして深呼吸をして、ユウの描いた巨大な魔方陣を起動させた。



◇◇


「……幸!」


 俺でも分かる程、異様な魔力放出がなされ、磁場が歪んで目眩がする。

 サーのいた部屋は太陽の光のように輝いて、すべての計器が誤作動を起こし、エラー音が部屋に鳴り響いた。

 俺は眩しくて手で光を遮っていたが、光が弱まると同時に部屋が静かになったので、また部屋を見た。

 すると、フレイが手に大きな赤い結晶を持って立っていた。


「フレイだ」「彼女がここにいる」


 周りにいた研究員も彼女に気が付きザワザワと騒ぐ。


 フレイは俺のほうを向いて、膝を折って礼をした。

 サーの部屋のスピーカーが鳴る。

 フレイは英語で言った。


「皆様、長い間エディを保護してくれてありがとうございました。今この時を機に私たちの世界は、この世界からも、エディからも切り離され自立するでしょう。ここまで世界を見守ってくださって、有難うございました。」


 そこまで言うと、フレイは少し屈んで何かを抱き上げるような仕草をした。そして、俺に笑い掛けて軽く手を振る。


「See you again(またね)


 フレイは笑ってエディの部屋からかき消えた。

 糸が巻かれるように、広がっていたものが外周から消えていくような感覚があった。

 俺は立ち尽くし、幸が消えた場所を呆然と見ていた。



 アリスがいち早く書き換えられたパスワードをハッキングしてエディの部屋の扉を開いた。

 しかし部屋には誰もおらず、エディが長年寝ていたポットも培養液のみしか入っていなかった。

 アリスはしばらく計器とパットを触っていたが、肩を落として研究員に告げた。


「本日二二五六、エディは永眠しました」


 研究員達がざわめく中、俺は彼女が消えたところに佇んで、自分の肩を抱いていた。

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