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消えた幼馴染みを探しに異世界転移します  作者: dome
十三章(西の塔から研究所へ)
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13-8、帰還


 元の世界を幽霊の姿でさ迷うことは、もう何日目なのだろうか?

 私にはこれが一晩で見ている夢なのか、それとも本当にあった事なのかが分からなかった。


 ただ、見ているだけのフレイの夢とは違ってエディは私と会話が出来る。

 これにフレイの思いが重なる事はなく、常に私、篠崎幸の意思で話し、エディと会っている。


 自分としては、イギリスにいるジーンや日本にいる信のパパに会いたいが、私はエディの側でしか意識を保てないようだ。


 不思議な事に、目を覚ます度に私の服は変わった。

 スカートと裸足いうのはいつも同じだが、お姫様の着るような寝巻きだったり、カナダの児童文学のようなワンピースだったり、浴衣だったり、服装に応じて髪型も日々違っていた。


 今日はおさげの三編みと、四つ葉のクローバーの刺繍がかわいい、緑色のワンピースを着ている。

 刺繍がママが得意な模様で、見ていると涙腺が緩む。


 ……ママは、私の服を一杯作ってたな。殆ど着なかったけどね。私は信の真似ばっかしていたからね。


 私がこの世界で目を覚ますと、必ず側にエディがいた。

 エドワードという名前のその子どもは、六才で、榛色の目とお日様のような髪の色をしてよく笑った。数学と言語学が得意なようで、会うたびに何時も難しそうな本を読んでいた。


「やあ、竜の世界のお姫様。今日はどこの国の話をするの?」


 エディは私に会うたびに異世界の話を求めた。


『最近までしらなかったんだけどね、この世界って沢山の魔方陣を組み合わせて出来てるんだって』

「魔方陣って何?」


 私は床に指で丸を書いた。


『こうゆう円の中に、元素のルーンと構成数値を書き込むと魔法が発動するの。十二で一周するように組み合わせるのよ。すると、ずっと発動させることも、タイマーでつけたり消したりすることも出来るの』

「十二で一周し、さらにこの向かい合う数値の和が全部一致してるの?」

『うん、そうみたい。数値間違えるとダメなの』

「へぇー」


 エディは魔法に興味を持ち、オリジナルでいくつか作成していた。まあ、この世界では発動しないみたいだけど、スゴイ。


 ……天才だ! 目の前に天才がいる!


 サラサラと、難解な魔方陣を構築するその姿は、レーンやユウくんを思い出す。


 ……私はいつになったらみんなのところに戻れるんだろう? もしかして私は既にあの世界で死んじゃって、もう戻れないのかな?


 自分が死ななきゃいけないことは覚悟をしていたけど、信にお別れくらい言いたかった。


「……まーた泣いてる。君は本当に泣き虫だね」

『えっ、ホントだ、涙こぼれてる』


 涙を指摘されても私は私の体に触れることはできない。

 ブンブンと頭を振って、気を持ち直した。


「よっぽど自分の死が受け入れがたいんだね。なんかおもいだすことはないの? 楽園に行く手伝いくらいしてもいいけど」


 ……口調はつんけんしているけど、エディは優しくて、いつも私の事を考えてくれる。


 エディのしゃべりかたや間の取り方を聞くと、サーを思い出す。もしかしてこの子がおじーさんになるころにサーになるのでは?

 大きくなって、あの研究所で働くのかもしれない。もしかして隼人を顎でこきつかっちゃうかも?


 エディの成長した姿を想像して、私はフフッと笑った。




 エディが私の事を「お姫様」と言うので、なんとなくコウとは名乗りにくく、フレイの方の名前を伝えた。


「フレイ見て、新しいシステムを考えたよ、これは太陽の光を使って魂を浄化するシステムで……」


 うんうんすごいねと頷くが、エディの言うことは難しくて少ししか分からなかった。


「フレイはおバカさんの?」


 ……子どもにまで言われたー!


『あは、うん。よく言われるよ』


 自虐的に笑う私に、エディは得意気に胸を反らした。


「僕が考えるから、君はそのままでいいよ。むしろ、荒唐無稽な発想力こそ宝だよ」


 ……慰めてくれているのか微妙なラインだ。


「僕が色々作るから、君はそこで遊ぶといい。沢山の竜にかこまれて暮らせるようにしてあげる」


 六才児の高みからの発言に私は笑った。


『……なんかそれ、プロポーズみたいだね』


 私が言うと、エディは顔を真っ赤にする。


「ばっかじゃないの? 君はもう、ホントに……」


 そういって、エディはひたすら魔方陣を書いていた。


 エディの両親の喧嘩は日々熱を増していった。エディが起きている間は平穏だが、エディが寝ると毎晩遅くまで口論していた。


 内容は、勤めていた大学をやめさせられそうになった父親が、息子を研究させることで復職の機会を得るという話だった。母親は息子の研究をよしとせず、やめてもらように言い、毎回泣いていた。


 それでも毎日エディは大学に通った。

 ある日、母親はそれを止めようとして、エディを車に乗せて家を出た。母親は実家のあるロンドン郊外に向かう。実家に着くと、夫が先回りしていたので、母はエディを抱いてビルの外階段を登った。

 父親も二人の後を追いかけた。


「エディを返せ」「返さない」と激しく口論をしている親を置いて、エディはひとり階段を上る。

 私は空からエディを追いかけて、エディに聞いた。


『何処に行くの? 上は工事してて危ないよ』


 エディは構わず足を進めた。


「もう飽きた。あいつらは毎日喧嘩して僕を取り合ってる。二人が笑わなくなったのは僕のせいなんだから、もういいんだ。あの二人は別れるべきだよ」


 私は浮遊してエディを追う。


『エディが危険なのはダメだよ、帰ろう。二人とも心配する』

「パパが心配してるのは、自分の職と権威だ」


 私はそんなことはないと言いたかったが、喧嘩をしているエディの両親を見ると、とてもエディの心配をしているようには見えなかった。


 エディは親から逃げるように、外階段を上っていくが、六才の体力ではすぐに息が切れて、大人に追い付かれてしまう。

 父親にかかえられたエディは私に手を伸ばした。


「やだ、助けて、フレイ、助けて!」


 エディは空中に手を伸ばし暴れた。するとエディの体はするりと父親の手から抜けて、外階段の手摺を越え、あえなく地面に落ちた。


「エディ!」


 両親が絶叫してエディを見る。

 高い所からアスファルトに落ちたエディが再び目を開けることは無かった。



 そこで世界は暗転する。

 破片の光に見守られながら、目を開けた時、周囲にエディの姿は見えなかった。

 エディは声だけの存在になり、心に直接語りかける。


『お帰り、フレイ。君はやっと小さな僕に会ったね……』


 真っ暗の闇の中、私はエディを探すがその姿はどこにも見えなかった。

 直接心に響く、光が瞬くようなその声は、エディというよりもサーが話しているように聞こえた。


「サーですか? エディは、サーなのですか?」


 私が闇に向かって話し掛けると、闇がそっと頷いた気がした。


『……フレイ、私は君に会った後、体を全て失った。』


 私の頭にエディの過去の映像が流れ込んだ。

 それは、病院のような施設で、エディの脳が沢山のチューブに繋がれ、培養液の中に浮かんでいた。


『僕の体と脳は分けられ、父の大学に保管されたんだ。そこで僕は、毎日夢を見られるようになった……闇のなかで過去を夢見ていた時に、僕に語りかける人がいたんだ』

「……それは、フレイですか? ママを生んで亡くなった、おばあさまですか?」


 私の胸がほんのりとあたたかくなる。私の中で、誰かが笑った気がした。


『僕はずっと同じ人だと思っていたんだけどね。今思うと、世界を共に作った君と、夢を見るきっかけを与えた君は違うようだ』

「貴方と長い夢を見ていたのは、フレイ・ターナーです。ママのママ……」

『そうだね……そして今も彼女は君の中にいる』


 私はこくりと頷いた。フレイはいつだって、私と一緒にいてくれた。


『僕は君にまた出会って、世界を作る機会を与えられたよ。小さな僕が夢に見た、竜の世界を君に見せたくて、一緒にいろんなものを作って、ずっと見守ってきたんだ……』

「……はい」


 私は涙を流して頷いた。


『かわいそうな僕に、神様はこの世界を与えてくれた。僕の体を土台にしてね。ここでは毎日がとても楽しく過ぎていったよ、だって君とまた会えたからね』

「……私も、とても楽しかった」


 私の瞳から涙が落ちる。


『でももうその夢も終わるよ。僕の脳は夢を見ることも難しいほど老いてしまった。だから僕は君にあの世界を預けたいんだ』

「はい、どうすればいいのですか?」

『僕に会いに来て。過去でも夢の世界でもない、本当の僕に……そうしたら僕を君に渡せる』

「あの、でも私は今、自分が何処にいるのか分からなくて……」


 サーは頷くと、暗闇に光を灯した。


『光に向かって歩いて。そして、僕を迎えに来て……』


 私は光がまぶしくて、目を細めて歩いた。


「はい、約束します、必ずエディの所に行きますから待っていてくださいね」


 闇の中に、サーとフレイが立っている気がした。ふたりは私の手を取って導いてくれる。

 私は涙を拭って、光の射すほうに歩いていった。


◇◇


 私が再び目を醒ましたとき、目の前に信がいた。

 寝起きでぼーっとしている私を、信が泣きながら抱き寄せる。


「私……一体……」


 私は辺りを見回すと、そこは異界の樹木の部屋のようで、双竜とミクが遠巻きに私を見ていた。

 信があまりにも泣き止まないので、私は信の髪を撫でて、背中をさする。


「私、寝てた?」


 私が聞くと、アマミクが答える。


「二週間くらいねっぱなしだったよ」

「えー……」


 なにそれ。と思うが、泣いていた信がとたんに重くなり、体勢を崩すので、あわてて支えた。


「信? どうしたの?」

「単に寝てるダケ」


 アマミクの隣に立つレアナが呆れて言う。

 私に覆い被さって、すやすやと寝ている信の頭を私は撫でた。するとアレクが信を抱き上げて、私の隣に寝かせた。


「彼は限界だ。昼は聖地、夜はここでコウを見ているという生活をしていた」

「……信は夢中になると寝ないからね」


 ……人間の体でそんなことをしたら死ぬわ。


 私は寝ている信の頭を気が済むまで撫でていた。



 私は信を撫でるのを止めて、座り直して周囲を見た。ベッドの周りにはアマミクと白竜、黒竜が立っている。


「ゴメンね、なんだかとても心配かけたみたい」


 私がそう言うと、アマミクが私を優しく抱きしめた。


「ホントだよもう、コウはさらわれたり倒れたり心配事が多すぎるよ!」

「ゴメンね、あと、ありがと」


 ミクにお礼を言って気が付く。むき出しの背中のミクに触る私の腕も布地がない。背中もすーすーする。

 はっと気が付き自分の姿を見ると、肩と腕がむき出しの、白いお姫様的な寝巻きを着ていた。


「なにこれ」


 そういえば夢のなかで毎日違う服を着ていた。それは、現実で着ている服だったのか……。

 ミクとレアナは楽しそうに笑う。


「暇だったから服作った」「着せかえしてた」

「……君たち、気が合うのね」

「うん!」


 ミクとレアナが顔を見合って笑った。


「ねえ、ユウはどこ?」

「レーンに付きまとっている」

「ママが起きないから、取り付く相手を変えたのね」

「……ママって」


 アマミクの言いように、私は苦笑した。


 ……信はここにいるのに、レーンは別とか、レーンは信の体から離れたんだな。


「もしかして、レーンはNo.7で活動しているの?」

「No.7はチビだけどね。レーンは気に入っているみたいよ」


 レーンを主人にしていたレアナが答えた。


「なら、信はレーンがいなくても怪我が再現しないようになったの?」

「さあ?」


 大事な事なのにさあって?

 私はベッドで寝ている信を撫でた。本人に聞きたくても寝てたらしょうがないね。


「あれ……」


 よく見たら、ベッドの上には私が生理の度に貯めていた結晶の花が散らばっていた。私はそれをつまんで擬似太陽の光りにかざす。


「どうしてこれがここに? これ、信を返すのに使おうと思っていたのだけど」

「レーンがここに置けと言ったわ。実際何度か弾けとんだから、コウが使っていたんじゃない?」

「……夢の中で見たキラキラはこれだったか」


 私は残っている花を集めるが、三本しか見つからなかった。

 次に来るのはいつかな? と指を折って数えていて、ふと気が付く。次の予定日はとっくに過ぎている。


「二週間ってことは、もしかして血も拭いてくれてた?」


 私が真っ赤になって聞くと、レアナは首を横に振った。


 ……寝てたから栄養足りなくて生理来なかった?


 私は首を傾げるが、答えは出なかった。

 花を集めている私にアマミクが聞く。


「レーンは塔にいるよ? 行く?」

「ううん、信が起きるまでここにいる。起きたとき誰もいないと寂しいし」

「じゃあ連れてきてあげるわ。白竜来て」


 ミクが颯爽と出かける。あの二人仲良くなったのね。


「ミクさん、作業してたらいいからね、別に明日とかでもいいし」

「はいはーい」


 ふたりは仲良く出ていった。



 信は寝てるから、アレクと二人になった。アレクは寡黙だから気まずい。ヒト型アレクの威圧感ものすごい。

 私は寝ている信の枕元に座って、そっと髪を撫でていた。アレクは少し離れて腕を組んで立っている。


「……フレイはまだいるのか?」

「ずっと話して無いけどいると思うよ、会いたい?」


 アレクは首を横に振った。なんなのか……。


「世界が新しくなったら、アレクはどうするの? 何か銀の盆の振り分け自動化されるから、アレクは仕事がなくなるみたいね」

「黒竜としての仕事など、ここ三百年したことがないが」

「そっか、異空間に捕らわれていたんだっけ……」


 アレクは素直に頷いて、私の隣に腰をかけた。


「サーが居なくなったら役目は終わりだ」

「そうしたらどうするの?」


 アレクは何も言わず、じっと私を見ていた。

 至近距離で見つめられると冷や汗が出る。フレイがデザインしたんだけど、アレクのイケメン度が高すぎて向き合うと緊張しかない。


「コウはどうしてほしい?」

「はい?」


 緊張で声が裏返る。


「No.5はレーンに付き添うというので、残留は確定した。しかしすることはないな」

「暇になるのね」


 私は苦笑した。


「新しい主人を見つけるしかないね」


 アレクは何も反応せずに、じっと私を見ている。


「主人見つかったら教えてね、すぐに主従関係解くから。私いなくなったら自動で切れる? 今切る?」


 まばたきをしたアレクの目からポタリと水滴が落ちた。


「わーっ! 何で泣くのーっ! 竜でしょキミは……」


 私はあわてて立ちあがり、その辺に落ちてたタオルでアレクの顔を拭う。しかし涙はベッドに落ちる前に霧になった。


「此処は樹木の強制力が無い」

「……異界だからかー、んもう……びっくりする。サーの守りは大事だなぁ」

「コウも泣いている。泣くことを教えたのはコウ」

「もー……うつったんだよ、皆して泣くから」


 私はポロポロとこぼれる自分の涙を手でぬぐおうとすると、アレクがその手を取った。

 そのままアレクは無言で私の頬に口付ける。


「キミはどうして私の涙をなめるのかね?」


 アレクは無表情のまま言う。


「理由は無い」

「無意識なのね……猫の名残なのね……」


 私は動悸を押さえるように、自分の胸に手を置いた。

 アレクは少し考えて言う。


「……あるな。うん」

「ん、何? なんでなの?」

「コウの心情の変化が愉快だから戯れている」

「真顔でなんてことを言うんだ」


 ……遊ばれていたのか、知らなかった……というか、最近アレクは私とフレイを完全に見分けるようになったな……これが成長というものなのか。


 寝ている信の側でボソボソ話していたら、信に「うるさい」と怒られる。


「君が起きたのなら私動くよ? ご飯たべるのとお風呂入りたいし。信はまだ寝てる?」

「幸と風呂に入る」

「そんな選択肢はありません!」


 私が赤くなって慌てると、アレクが口を隠して笑っていた。


 ……こいつら、人の反応を見て遊んでるんだな。


 私は樹木の部屋を出て所用をすませた。

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